東京国際映画祭 コンペティション部門 『ペルシアン・バージョン』 マリアム・ケシャヴァルズ監督インタビュー (咲)

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第36回東京国際映画祭 コンペティション部門 
『ペルシアン・バージョン』 The Persian Version
監督:マリアム・ケシャヴァルズ
出演:レイラ・モハマディ、ニユシャ・ヌール、カマンド・シャフィイサベット
2023年/アメリカ/ 107分/ カラー/英語、ペルシャ語

*ストーリー*
1967年にイランからアメリカに仕事のために渡った両親のもとに生まれたレイラ。1979年、イラン革命。アメリカ大使館人質事件で、両国の関係が悪化し、一家はアメリカでの定住を決める。兄8人が徴兵を心配してイランに行けない中、レイラはアメリカの音楽を隠し持ってイランを行き来する。父が入院し、家に1人残った祖母の世話を頼まれたレイラは、祖母から母たちの過去を聞かされる・・・
祖母、母、そして娘の3世代の女性の辿った人生をユーモアを交えて描いた自伝的物語。 
★さらに詳しいストーリーは、末尾に掲載しています。

★2023年10月29日(日)10時からの上映後のQ&A @丸の内TOEI も、インタビューの後に掲載しています。
公式サイト:https://www.sonyclassics.com/film/thepersianversion/



マリアム・ケシャヴァルズ
ニューヨーク生まれのイラン系アメリカ人監督。2011年のサンダンス映画 祭で上映された“Circumstance”で監督デビューし、観客賞に輝いた。3作目となる本作は、2023年のサンダンス映画祭米国ドラマティック・コンペティション部門観客賞とウォルド・ソルト脚本賞を受賞。サンダンスでは観客賞を2度受賞している。


◎マリアム・ケシャヴァルズ監督インタビュー
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監督の胸元には、ペルシア語で 「darya(海)」という文字の金のペンダント。

監督にお会いして、まずペルシア語で 「初めてイランを訪れたのが革命の1年前の1978年で、グーグーシュの曲をよく聴いたので懐かしかったです」とお伝えしたら、「日本人はどうしてペルシア語をしゃべれる人が多いの?! あなたで10人目位」 とびっくりされました。 中には、16世紀の詩人の詩を吟じてくれた人もいたと言われたのですが、後日、大学の後輩だったとわかりました。

ここからは、英語の通訳の方を介してのインタビューとなりました。

◆イラン人の誇りを持ってアメリカで暮らしてきた
― 私が革命後にイランを訪れたのは1989年10月で、ホメイニー師が亡くなった直後です。革命前と180度変わったイランでしたが、イラン人の家に行くと、アメリカの音楽や、アメリカにいるイラン人が作った曲をかけて、踊っていました。政府が禁止しても、ちゃんと入ってくると言われました。今のようなネット社会じゃないのに、劇中のレイラさん、つまり、監督のような運び屋がたくさんいたのだと思いました。

監督:確かにそうですね。政府がすべてコントロールしようとしても、文化は管理しきれるものじゃありません。制限されても情報交換もできたし、音楽も隠し持ってイランに入ることができました。人の人生はコントロールできません。 映画の最後にシンディ・ローパーの曲をペルシア語版で歌って踊っているように、英語版で持って行ったものも自分たちのものにして、皆、楽しんでいました。

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©Yiget Eken. Courtesy of Sony Pictures Classics.©Sony Pictures Classics

― いろいろな事情で、イランを離れた人たちも、ペルシアの伝統文化に誇りを持っていると感じています。

監督:私はアメリカで生まれて、ニューヨークに住んでいたけれども、初めて耳にしたのはペルシア語ですし、家の中ではペルシア語で話し、ペルシア語の学校に行きましたので読み書きもできます。料理もイランのもので育ちました。アメリカにいながら、イラン人としての誇りを持ちながら暮らしてきました。80年代にはアメリカ大使館人質事件もあって、イラン人であることが難しい時期もありました。殴られたりするので、アメリカに適応する名前に変えたイラン人も多かったのですが、我が家では、ホセインとかモハンマドといった名前を決して変えませんでした。殴られたら、自分で自分を守るように育ちました。
イランの文化と共に育ちましたが、多くの兄弟のうち2人だけイラン人であることを拒否して、ペルシア語を学びませんでした。皮肉なことに2人はイラン人と見られたくなかったのに、イラン女性と結婚しました。ようやくイラン人であることのアイデンティティを受け入れたのですが、子どもにペルシア語を教えられないので、一緒にペルシア語を習っています。私はイラン人女性としてのアイデンティティがあるから、あえてイラン人と結婚する必要もありませんでした。


― アメリカでイランのイメージが悪くて、つらい思いもされたことがあったことも含めて、監督のイランの文化的背景がこの映画を作る原動力になったのでしょうか?

監督:もちろん自分の育った環境もあって映画を作ったということもあります。イランに誇りを持って育ってきました。厳しい時代もあって、嫌な思いもしましたが、それでも誇り高いイランの伝統と文化を背負って育ってきました。アメリカではイラン人を世の中から消してしまうかのような風潮で、戦争や爆弾テロなどメディアがその面だけを出してイランを悪役のように描きました。そこに輪をかけてトランプ政権は他国籍を受け入れませんでした。そういうアメリカでも自信をもって育ちましたし、母親もまさにイラン人としての自信を持って暮らしていました。自分のアイデンティティを持って生きることができることを描きました。


◆13歳の自分を演じた少女に会って、言葉を失った母
― 『ペルシアン・バージョン』は、ほぼ本当の話とのことですが、なにより13歳で結婚したお母様の話がすごいと思いました。アメリカに来てからも資格を取って不動産業で成功されました。長年イランと関わってきて、イランの女性は強いと感じているのですが、まさに強い女性だと思いました。
お母様は、この映画をご覧になって、どのようにおっしゃいましたか?  製作中から、お母様のご協力はあったのでしょうか?

監督:前から自分の家族の話を書きたいと思っていたのですが、母から家族の話は恥になるから書いてほしくないと、ずっと言われていました。ですが、父も祖母も亡くなって、気が付いたら一番の長が母親で、もう書いていいわよと言ってくれました。兄たちからも、母が許したならいいと言われました。ストーリーを書いていく上で、母にインタビューもしました。母役の女優ニユシャ・ヌールさんも、母にインタビューしました。それでも、インタビューで母の人生の全部がわかったわけではありませんでした。
母は、トルコにリハーサルを見に来てくれました。積極的な人で、決して静かな人ではないのに、食事をしているときに、すごくおとなしくしていました。母は、13歳の時の自分の場面のリハーサルを見て、自分が結婚した時は、こんなに若かったのだ、あの時は生き延びるのに必死だったけれど、どれだけ幼い時に大変な経験したのかということを初めて認識して、声が出なかったようです。 実は、13歳の母の役をキャスティングするときに、13歳という年齢とイラン人じゃないと母の思いは伝わらないと思っていました。母が完成した映画を観てくれた時、私はドキドキしてナーバスな気持ちになったのですが、母が認めてくれてほっとしました。



― 若い時のシーリーンを演じたカマンド・シャフィイサベットさんについて教えてください。

監督:私の祖父は、シーラーズで一番大きな書店を経営していて、カマンドさんのお父さんが、まだ学生の頃に専門書を買いによく来ていました。北のほうから来た学生で住むところがないというので、祖父が本屋の裏にあるアパートの部屋を貸してあげたのですが、その頃から知っていて、その後、結婚して娘が二人生まれたのも知っていました。 今回キャスティングしたのは、次女の方です。ご両親から時代背景も聞いて、撮影に臨んでくれました。 本屋は、今は叔父が経営しています。


◆次回作は、母を演じたニユシャ・ヌールさんの脚本で!
― 大人になった母シーリーンを演じたニユシャ・ヌールさんについて教えてください。

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©Yiget Eken. Courtesy of Sony Pictures Classics.©Sony Pictures Classics

監督:母シーリーンを演じたニユシャ・ヌールさんは、素晴らしい女優です。父親が有名な撮影監督なので、本名だとすぐに娘だとわかってしまうので、ステージネームを使っています。13歳の時にアメリカに移民してきました。映画の中のダンスは全部彼女が振り付けてくれました。劇中で歌も歌っています。楽器も3種類位演奏出来る方です。子どもを産んだことはありませんが、いかにも子どもを産んだ母親だという風に演じてくれました。 
とても有能な方で、ヌールさんは脚本も書かれます。次回作は彼女の書いた『ブルーフラワー』という脚本で撮る予定です。彼女の初恋の物語で、2つの時代のラブストーリーです。


― 次回作を拝見できる日を楽しみにしています。もっと聞きたいことがあったのですが、時間が来てしまいました。今日はどうもありがとうございました。

*******
このほか、主役レイラを演じたレイラ・モハマディさんや、イランにルーツを持つ人たちを世界各地からキャスティングされたこと、そしてトルコのマルディンを撮影地に選んだことについてもお伺いしたかったのですが、時間が来てしまい残念でした。

『ペルシアン・バージョン』は無冠に終わりましたが、TIFF Timesの星取り表では、1位でした。ぜひ公開してほしい作品です。          
取材:景山咲子



『ペルシアン・バージョン』
2023年10月29日(日)10時からの上映後のQ&A  @丸の内TOEI
ゲスト:マリアム・ケシャヴァルズ(監督/脚本/プロデューサー)
MC:プログラミング・ディレクター 市山尚三

(残念ながら、取材できませんでしたので、公式サイトのYouTubeから文字起こししました。)

監督:2時間も私の家族とともに過ごしていただいて、皆さん、大丈夫でしょうか?
この度は、お招きありがとうございます。初めての来日で素晴らしい経験をさせていただいています。

市山:今年1月のサンダンス映画祭で観て、素晴らしい作品でした。招待して東京で皆さんにお見せできるのを嬉しく思います。ご家族のお話ということで、どの程度フィクションが加えられているのか背景を教えてください。

監督:(笑) ほとんど真実ですが、残念ながら母は時間を止めることはできません。映画の中で子どもが生まれるシーンがあって父に会える形にしていますが、24歳の時に父は亡くなりましたので、実際には私の娘に父は会っていません。映画では8人の兄がいますが、ほんとうは7人です。3世代の女性を描いていて、いろいろな側面から皆さんご覧になったと思いますが。それぞれの女性の物語があって、その中での真実があって、私が映画を作る中から真実が見えてきたということもあります。

― (男性)楽しい映画をありがとうございました。イランの家族をアメリカで描くということで、アメリカで作るという点でエピソードがありましたら教えてください。

監督:アメリカで作ることができたのは、それこそ奇跡だと思っています。アメリカでイラン人はテロリストと思われているところがあって、全然真実とは程遠いと思っています。私の家族や伝統を見せることで、イラン人は決してそうではないということを皆さんにわかってもらえればと思って作ったということもあります。2つの国、2つの言語を入れて作りました。プロセス自体大変でした。前から家族の物語を書きたいと思っていたのですが、母から家の恥になるから駄目だと言われていました。父が亡くなり、祖母も亡くなり、母が長老になってようやく書いていいと許可がおりました。子ども時代と違って、シネマというものがずいぶん変わってきました。バイカルチャーのものが何本か上映されて受け入れられてきて、道を作ってくれたと思います。

― サラーム。ようこそいらっしゃいました。 (ここまでペルシア語で、この後は英語で。イランの男性の方) もう少しイランがみられると思っていたのですが、ロケーションについてお聞かせください。

監督: 私の家族はイランのシーラーズから来たのですが、ニューヨークにもシーラーズのコミュニティがあります。シーラーズ自体、近代化して、昔の雰囲気が薄れています。古い地域を再現するのが難しい。くねくねした道や、映画の中の広場も、見つけるのが難しくなっています。
60年代に家族がアメリカに移民したので、祖父が故郷を忘れないようにと8mmをたくさん送ってくれていました。小さいころに見ていましたので、同じような雰囲気のところで描きたいと思っていました。最終的に出来上がったものをみて、母もかなり驚いていました。小さいときに育った環境に似ていると。父が医師として派遣された村の場面は、トルコのクルド人の住んでいる村で撮影したのですが、両親がいた頃の当時の写真がまったくなかったので、聞いた話から想像して撮影しました。20世帯位しかいない小さな村で、小さな少年が山の上まで羊を追っていくのですが、一緒についていったらどれだけハードなのかわかりました。撮影した村まで行くのも大変だったので、大都会との違いを描けると思いました。

― (女性)イランでは女性が差別されて自由がないという立場で、過去40年の女性の権利を求めるムーブメントがありますが、女性監督としてどのようなところが大変だったか教えていただけますか?

監督:ナルゲス・モハンマディさんがノーベル平和賞を受賞したのは、ほんとに素晴らしいし尊敬しています。
ムーヴメントはすぐにできるものじゃない。何年も何年も自分の信じている道を貫いてきたのです。
私が作ってきた映画には、必ず女性が中心にいます。イランの中で、女性が自分のやりたいことをやるのが難しいことは映画でも描いてきました。私も自分の母や祖母からも話を聞いてきました。今のイスラーム主義の中で、女性が学校に行くのが難しい(★注)けれど、母もそうでしたが、学校に行きたい。自分の信じていることを貫きたい。どういう風にイランの女性のことを思っていらっしゃるかわかりませんが、イランの女性は非常に強いです。なかなか諦めないのがイランの女性だと思っています。
イランの中で自由がない中でなんとか変えていきたいという気持ちがあります。13歳の母の役を演じたイランの女の子をビザを取ってサンダンスに連れてきたのですが、「アメリカに残りたい?」と聞いたら、「イランに戻って、なんとか物事を変えていきたい」と強い意志がありました。それがイランの女性なのだなと思いました。


★注:イスラーム政権になって、農村部などでは、かつて男女共学の小学校に行かせるのが心配だったけれど、男女別学になって、安心して通わせることができるという風潮もあると聞いています。また、革命後、飛躍的に女性の大学進学率が伸びて、文科系だけでなく理科系でも女性の占める率が6~7割という状況が続いています。景山咲子)

― (英語でイラン人男性) ノスタルジックな場面がたくさんあって楽しみました。一つ、イランの詩が出てきたところに、日本人のお客様にわかるように字幕があれば、もっと素敵だと思いました。

― (英語でトルコ人男性)  私自身アメリカに移民した人間なのですが、アメリカ人とは位置付けてないのですが、センチメンタルなところを感じましたし、すごく理解できるところがありました。クレジットを見ていたら、いろいろな国の人の名前がありました。トルコの村でロケをしたということで、トルコの人の名前も多かったですが、兄たちもトルコの人たちが演じていたのかなと。

監督:キャストは、母親役はアメリカに移民してきたイラン人、レイラ役は私と同じく移民した両親のもとアメリカで生まれたイラン人女性です。母の若い時の役は、イランから連れてきました。ほかのキャストも、イラン人のエッセンスを伝えたいと思ってヨーロッパやアメリカやカナダからイラン系の人を集めました。映画をアメリカとトルコで撮影しましたので、スタッフにはトルコの人も多かったです。クルーは、今はどこの映画も同じだと思いますが、非常にインターナショナルだったと思います。

― クルド地域で撮影したことで、トルコ政府から問題になりませんでしたか?

監督:トルコのクルドの村で撮影しましたが、そうとわかるようにしませんでしたので問題はありませんでした。

市山:ほかにもたくさん手があがっていましたが、時間になりましたので、これでQ&Aを終わらせていただきます。


『ペルシアン・バージョン』 
*ストーリー*
ほとんどほんとの話

ヘジャーブ姿で濃い化粧をする女性レイラ。
なんと、下は、ピンク系の水着。サーフボードを持って出かけた先は、仮装パーティー。 

歴史に翻弄された人生。故国イラン、パフラヴィー国王から、ホメイニー師に。
兄8人に娘一人。兄たちと違って、女には兵役がないので、アメリカとイランを行き来したけど、80年代、アメリカではイラン人はテロリスト扱い、イランではムスリマたちから異端視され、どちらにいても板挟み状態。
政治と科学では垣根があるけど、芸術なら大丈夫。脚本家になる!

1985年、イランは恋人だったアメリカを封印。私は、運び屋として活躍。マイケル・ジャクソンなどのカセットテープを下着の下に隠してイランに持ち帰った。空港のチェックで危ながったことも。持ち帰ったカセットテープをかけ、皆で踊った。

2000年代、ブルックリン。
スーパーマーケットで、離婚した同性婚の相手と会ってしまう。

父マジッドが心臓移植の手術を受けることになり、ニュージャージーへ。
母から、おばあちゃんを家に一人残してきたから、面倒を見てほしいと頼まれる。
シーア派ムスリムの救世主イマームザマーンに息子の無事を祈るおばあちゃん。
信心深いおばあちゃんが奇跡を呼び寄せた。父、無事手術を終える。

おばあちゃん、脚本家の孫娘レイラに、おじいちゃんは詩人だったと話す。
両親がアメリカに来た理由を知ってる?
1967年、ベトナム戦争で医者が不足して、アメリカがイランから医者を呼んだ。
1979 年、イラン革命で帰れなくなった。
実は両親は、スキャンダルがあってイランから逃れてきたのよ。

レイラ、乳がんを疑って病院にいくと、妊娠していた!
あの仮装パーティーの夜、ドラッグクイーンと寝たのを思い出す。
レズビアンが妊娠なんて!

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の看板
ドラッグクイーンに会いに行くと、「連絡を待ってた。いつぶり?」と聞かれる。
「12週間ぶり」
「ずいぶん具体的ね」
「妊娠中期に入った」
明日のお昼、ニュージャージーで家族とランチをするというと、「ぜひ行ってみたい」とドラッグクイーン。

*****
母シーリーン、90年代、移民女性として成功を収めた。
不動産業で、移民をターゲットにして、セールストップに。
まわりは、移民に?と言っていたが、可能性を信じていた。

母、勉強ができたのに13歳の時、結婚する。夫は17歳。
2人でグーグーシュのコンサートへ。
「君はグーグーシュと同い年」と夫にいわれる。
★注:グーグーシュ:1950年生まれ。革命前、国民的歌手だったが、革命後、女性の歌手は禁止されて活動できなくなった)

卒業したてで医者になった夫。
結婚後 辺鄙な村へ赴任する。
一番近いバス停からロバで一日かかる村。
料理は絶品。ソフレ(食布)にたくさんの料理が並ぶ。

村で唯一出来た友、ロヤ。
36歳だが、30歳の時に大学に戻ったという。
「今からでも遅くない」とシーリーンに語る。

2年後、夜中に夫が患者のところにいかなければと出かけていく。
妊娠して大きなお腹をかかえたシーリーンが後をつけていくと、ロヤのところでお腹の大きな彼女を診察している夫。
一人で町に帰り、女の子を産むが死産。アレズー(希望)と名付ける。

一方、ロヤがお産で亡くなったから、代わりに母乳をあげてほしいと夫が男の赤ちゃんを連れてくる。
ヴァヒドという名前。 いつか女の子を産むと誓うシーリーン。

*****

レイラ、赤ちゃんを産む。女の子。アレズーと名付ける。
母、「なぜその名前に?」と涙。

母と祖母、そして強い女たち、イランの女性たちに

皆でモスクの中庭で踊る
♪ 女の子だって楽しみたい♪   

まとめ:景山咲子



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山田洋次&グー・シャオガン(黒澤明賞受賞)対談

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山田洋次監督と顧暁剛(グー・シャオガン)監督

第36回東京国際映画祭開催中の10月30日、「交流ラウンジ」で国際交流基金と東京国際映画祭の共催による山田洋次監督と黒澤明賞を受賞し、最新作『西湖畔に生きる』(原題:草木人間)がコンペティション部門に出品された中国の顧暁剛(グー・シャオガン)監督の対談が実現した。グー・シャオガン監督は大先輩との対談にかなり緊張して登場。二人は今年(2023)6月の上海映画祭で短い会話をしたらしい(あるいは対談?)。途中で終わってしまったので、その続きということでもあるらしい。
グー・シャオガン監督の長編初監督作『春江水暖~しゅんこうすいだん』は、2019年カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれ、第20回東京フィルメックス(2019)では審査員特別賞を受賞(その時の最優秀作品賞はペマツェテン監督の『気球』)。山田監督が選考委員を務める今年の第36回東京国際映画祭では黒澤明賞を受賞。黒澤明賞授与の理由として『春江水暖』は、「ヒューマニズムあふれる人間観察と流麗なカメラワークによって一つの大家族の姿を描き、中国映画界から新しい世代の監督たちが登場しつつあることを世界に知らしめた」と評された。この対談は山田監督が『春江水暖』を観て感動したことから実現。

山田洋次監督&顧暁剛(グー・シャオガン)監督対談

★映画スタイル

山田監督:開口一番、『春江水暖』を観て、「こんな素晴らしい映画があるのかとびっくりしました。軽やかで温かくて気持ちが良い。褒めすぎかもしれませんが、モーツァルトの音楽を聴いているかのよう。どんな監督がどのようなプロセスで作ったのか気になりましたが、こんなに若いさわやかな青年だったのでびっくりしました」と大絶賛。
そして「どのようにこれらのカットを撮ったのか不思議だったのですが、是枝(裕和監督)君がグー・シャオガン監督にお会いするというので、彼を通して、どのように撮ったか聞きました。そして、監督に会いたいと思っていたら、上海国際映画祭でお会いできた。そして、またお会いできてよかった」と再会を喜んだ。

顧暁剛(グー・シャオガン)監督:新作『西湖畔に生きる』を第36回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品しています。このような機会をいただき、東京国際映画祭、山田監督に感謝しています。今回、新作のワールドプレミアをすることと山田監督にお会いすることに大変緊張しています。2作目は1作目と全く違うタイプの作品なので評価が気になり、客席にいらした山田監督のことを見ていました。上映後のQ&Aの途中で席を離れられたので、怒ってしまったのかなとヒヤヒヤしました。

山田監督:『西湖畔に生きる』のQ&Aで席を立ったのは予定があったからです。上海国際映画祭で会話をした時、『春江水暖』の続編を作りなさいと話していたら時間が来てしまったので、今日話さなくてはと思っていました。新作は全然違ったのでびっくりしました。

顧監督:2作品の創作の動機はまったく違います。前作は映画がどういうものか自分でわかっていなくて、観客のことを考えずに撮っていました。

山田監督:それはどう受け取られるか考えないでいたということですね。

顧監督:そうです。でも今回の作品では観客に向き合うことを心掛け、詐欺をテーマに、お客さんも楽しめるような映画にしました。
山田監督は上海での『こんにちは、母さん』の質疑応答の際に「コメディを撮るのは難しい」とお話しされてましたが、だんだん理解できるようになりました。山田監督は何十年も観客のために映画を作り続けてきて、その芸術性でアート映画も作れるのに、ずっと観客向けの映画を作ってきました。社会の現実と向き合っても、軽やかで暖かな作品を作られていることに感動します。今回、私も観客に向き合い、自分の家族が観てもわかるような作品を作り、芸術性の高い『春江水暖』とは異なる大衆向けのテーマに挑戦しました。

山田監督:コメディは難しいというけど、コメディか悲劇かを決めるるものではありません。まずは人間を描くことが大事です。作り手が「ここが面白いだろう」と思って演出しても観客はそう思わず、思わぬところで笑います。面白いと思うところは観客が決めるのです。

★1作目と2作目の違い

山田監督:皆さん『春江水暖』を観ているのかわかりませんが、とにかく彼の処女作は、プロの俳優が一人しか出ていない。ほかの出演者は市民、彼の家族や親戚だということ。これはとても驚くべきことで、その人たちが皆ごく自然に自分たちの毎日の生活を表現し、それがきちんとドラマになっている実に不思議な映画でしたが、今度の映画は大スターや2枚目も出ていて、普通の映画の作り方に近くなりましたね。
それに『春江水暖』にクローズアップはなかったですよね。引いたショットや長回しで。日本でいえば溝口健二。ヨーロッパだとテオ・アンゲロプロスかな。僕は黒澤明さんと仲が良かったんだけど、彼はアンゲロプロスが好きだった。黒澤さんの映画とは全く違うけど、彼がアンゲロプロスが好きなのが面白かった。
『春江水暖』の中で、恋人のために男性が川に飛び込み泳ぐシーンがありましたが、あの長回しシーンは何分ぐらいありましたか。

顧監督:13分ぐらいだったと思います。

山田監督:フィルムだったら13分はできないですよね。せいぜい9分くらいで終わってしまうから。あのショットはすごかった。

顧監督:あの長回しは17、8回撮りました。

山田監督:ということは、彼は17回か18回も泳いだということ?

顧監督:1回でそれだけ泳いだのではなく、『春江水暖』は2年かかって作ったのでできたと思います。

山田監督:虎さんだったら、2年で5本くらい作ってる(笑)。

顧監督:もう泳がなくていいと言ったら、クランクアップだと思ったようです(笑)。彼は学生時代、水泳選手でした。そして実際に彼はヒロインの恋人だったんです。

★これからどんな作品を作っていく?

顧監督:映画ファンにはそれぞれの「キネマの神様」が存在しますが、僕にとっては山田監督がそれに近い存在です。山田監督はもう90作も撮っています。僕は『西湖畔に生きる』が2作目、まだまだ色々な可能性があると思うので努力していきたいと山田監督を見て思います。

山田監督:そんな、とんでもないことです。
『春江水暖』チームが素敵だったので、続編がいくらでもできるのでは? そんな話を上海でしました。「甥っ子が北京電影学院で勉強していて、その子が映画を作ったと大騒ぎになる。だけど甥っ子は大失敗するの。彼は傷ついて故郷に帰って来るけど、家族たちはそ知らぬふりをしなければならない」そういう話を僕なら考えちゃう(笑)。と、山田監督が考えた『春江水暖』続編案を語る。

顧監督:山田監督の『春江水暖』続編のアイデアを聞いたとき、映画の見方や考え方、ストーリー作りなど、まるでカンフーの達人から拳法を学んでいるように思え、勉強になりました。

山田監督:黒澤さんも夢中になるとそういう話をしていて、僕もいつもそういうような気持ちで彼の話を聞いていました。
映画が完成し映画館で観ると、自分が予想していなかった匂いのようなものがスクリーンから流れてくると黒澤さんは言っていた。つまり監督の人柄が出ちゃう、あるいは出るような映画でなきゃいけないということを語っていたのだと思う。

★黒澤監督はスピルバーグの作品より、君の『春江水暖』の方が好きだと思うよ

顧監督:「黒澤明賞授賞」というメールをいただいた時、「これはどういう意味だろう?」と、1ヶ月くらい考えてしまいました(笑)。東京に来て、映画祭ディレクターの市山尚三さんに直接対面で確認してようやく実感しました。このように脚光を浴びることになり、とても励みになりますし、これからの創作の力になります。本当にありがとうございました。

山田監督:君は、実際に東京に来て確認するまで、黒澤明賞受賞ということに半信半疑だったそうだが、この賞は、若い人にこそ賞を与えたかった。黒澤さんは『春江水暖』が好きだと思う。感激したと思うよ。黒澤さんはそういう人。黒澤さんはルーカスやスピルバーグに尊敬されているけれど、彼らの作品よりあなたの映画が好きだと思うよ。

山田監督の激励の言葉を聞き、顧監督は少し涙目になりながら感無量の面持ちで、山田監督に「ありがとうございます」と日本語で何度も感謝を伝えた。山田監督は顧監督の人柄と『春江水暖』をいたく気に入り、「彼が僕のスタッフだったらいいね。クリエイターとして頼りがいがある。あの名作と寅さんを一緒にできないけど、僕のほうが大分お粗末と語り、顧監督は恐縮していた。

山田監督の今後の活動を尋ねた中国メディアに「僕自身は国際的なスケールの仕事を考えてはいませんが、中国の人にも喜んでもらえる映画が作れればいいなと常々考えています。みんなが一生懸命働く中、仕事はできないけど面白いことを言って人を元気づける人、一休みの際にいい歌を歌ったりして、勇気づける虎さんのような人がいる。僕たちが映画を作るのはその延長線上にある。だから寅さんのような主人公が中国で活躍できないだろうかとよく思います。
中国には魯迅の阿Q正伝のような大先輩がいるから、中国の人も寅さんのような人を愛さないはずがない。顧監督にもそういう映画を作ってもらいたいと思っています」と語った。

顧監督は「山田監督が『春江水暖』続編の話をしたとき、寅さんの物語もこう考えたのかな、というような包容と愛を感じました。甥っ子役は私ですね。学校にいるときは宿題が嫌でしたが、こうやって皆さんの前でお話ししましたし、この宿題は完成させたいです。山田監督の新作も見たいです」と答えた。

まとめ&写真 宮崎暁美

第 36 回東京国際映画祭 クロージングセレモニー報告

東京グランプリは、ペマ・ツェテン監督の遺作『雪豹』に!
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©2023 TIFF

10 月 23 日(月)に開幕した第 36回東京国際映画祭が、11 月 1 日(水)に閉幕を迎え、TOHO シネマズ 日比谷スクリーン 12 にてクロージングセレモニーが行われました。

第 36 回東京国際映画祭
開催期間:2023 年 10 月 23 日(月)~11 月 1 日(水)

会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:https://2023.tiff-jp.net/


第 36 回東京国際映画祭 各賞受賞作品・受賞者

コンペティション部門
東京グランプリ/東京都知事賞 『雪豹』(中国)
審査員特別賞 『タタミ』(ジョージア/アメリカ)
最優秀監督賞 岸善幸(『正欲』、日本)
最優秀女優賞 ザル・アミール(『タタミ』、ジョージア/アメリカ)
最優秀男優賞 ヤスナ・ミルターマスブ(『ロクサナ』、イラン)
最優秀芸術貢献賞 『ロングショット』(中国)
観客賞 『正欲』(日本)

アジアの未来 作品賞 『マリア』(イラン)

Amazon Prime Video テイクワン賞『Gone with the wind』 ヤン・リーピン(楊 礼平)
Amazon Prime Video 審査委員特別賞 『ビー・プリペアード』 安村栄美

エシカル・フィルム賞『20000 種のハチ(仮題)』 (スペイン)

黒澤明賞  グー・シャオガン、モーリー・スリヤ

特別功労賞 チャン・イーモウ




◎クロージングセレモニー
2023年11月1日(水)17:00~
TOHO シネマズ 日比谷スクリーン 12 にて

各賞の発表順に、お届けします。

司会:仲谷亜希子さん

◎スペシャルメンション
まずは、エシカル・フィルム賞の報告。『20000 種のハチ(仮題)』(スペイン)のエスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督が自席で立たれました。
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©2023 TIFF

黒澤明賞 グー・シャオガン監督とモーリー・スリヤ監督も自席で立たれました。
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©2023 TIFF
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©2023 TIFF

◎Amazon Prime Videoテイクワン賞 
日本在住の映画作家を対象にした、15分以下の短編の新人監督賞。2021年に始まり、今年で3年目。
審査委員長の行定勲監督はご欠席。審査員の玉城ティナ(俳優)、芦澤明子(撮影監督)、森重晃(プロデューサー)、戸石紀子(Amazon スタジオプロデューサー)の4名が登壇。
審査委員特別賞に続き、テイクワン賞が発表されました。

Amazon Prime Video 審査委員特別賞
『ビー・プリペアード』監督:安村栄美
戸石紀子さんより発表。芦澤明子さんより表彰状を授与。
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安村栄美監督:ここにいる俳優の菊池明明さんが 7 月ごろに「一緒に短編映画を作ろう、女四人が出てくる映画を作ろう」と言ってくれたので、実現できたと思っています。仲間たちのおかげで映画が撮れていると思っているので、本当にありがたく思っております。

Amazon Prime Video テイクワン賞
『Gone with the wind』 監督:ヤン・リーピン(楊 礼平)
戸石紀子さんより発表。森重晃さんよりトロフィーを授与。

ヤン・リーピン監督:今回、低予算でフランスでハンディカムで撮った作品が、このような形で受賞させていただき誠に感動しました。わからなくても自由に映画が撮れる、僕にとってすごくロマンなことだと思います。東京国際映画祭の方々に感謝申し上げます。
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講評:審査委員長・行定勲監督の講評を玉城ティナさんが代読。
「私は現在、新作の撮影のため韓国にいて、授賞式に参加できないことを、まずお許し願いたいと思います。テイクワン賞の目指すところは、Amazonスタジオが支援する長編映画をプロとして企画し、監督する力を持った新人作家を、厳選されたファイナリストの中から発見することにあります。3年目の審査員長を務めるのにあたり、あらためてそのこと全員で確認し、審査しました。議論の中で、アート性と商業性を、それぞれの作品に求めていくと自ずと候補作品が絞られ、皆が認める最終結果となりました。 受賞した方も受賞しなかった方にも、私たち審査員が次回作を期待しています。映画を作り続けてください」

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フォトセッション


◎アジアの未来部門
長編3本目までのアジア(日本・中東を含む)のフレッシュな作品を世界に先駆けて上映するアジア・コンペティション部門。すべてが世界初上映。

審査委員:マーク・ノーネス、 レイモンド・レッド、武井みゆき
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武井みゆきさんより講評:
審査会議が始まり、すぐさま全員一致となりました。すべての作品が素晴らしかったということです。トーンはそれぞれ異なっていたのですが、新たな気付きを教えてくれる映画もあれば、心ゆくまで楽しめる映画もありました。10作品には不思議なことに、いくつかの要素がどこか重なり合ったような内容をもっていました。アジア世界の一断面を表装しているのだと思いました。すべての映画が魅力的だということは、残念なことに審査会議が長く続くことを意味していました。10の賞があれば、すごく楽だったのですが、一つに絞らなければいけませんでした。血まみれな映画もあったのですが、私たちは血まみれにならず平和的な話し合いの末に1本の映画に決めることができました。 7本が初長編、3本が長編2作目というフレッシュなものでした。アジアが、世界が、今、とても大きな問題を抱えています。こうした新しい映画監督たちが新しい目で映画の未来を見つめ続けてくれることを実感できて、感謝しています。

アジアの未来 作品賞 『マリア』(イラン) 
監督:メへディ・アスガリ・アズガディ

マーク・ノーネスさんより発表。
レイモンド・レッドさんよりトロフィー授与。

来日出来なかったメへディ・アスガリ・アズガディ監督のコメントを奥さまであり編集を担当したエルナズ・エバドラヒさんが暗記したものを披露しました。写真右は、主役のカミャブ・ゲランマイェーさん。
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「東京国際映画祭、審査員の方々、この映画をセレクトしてくれた方々、心よりお礼を申し上げます。この賞をいただき、私はもう一回映画で人生を歩んでいけるという力を貰いました。編集を担当した妻、主役の俳優さんはじめ映画に関わったすべての人にこの場を借りて感謝を申し上げたいと思います。また、私たちのイラン映画の巨匠であるアミール・ナデリ監督にはお礼を申し上げたいと思います。私たちはいただいたこの賞をアミール・ナデリ監督に差し上げたいと思います」


◎コンペティション部門

◆観客賞
『正欲』監督:岸善幸

プレゼンターは、フェスティバルナビゲーターの安藤桃子さん
「映画は、実は映画にないと思っています。映画は観る皆さんの中にあるものだと思います。観客賞というのは、映画祭で一人一人の観客の皆さまの心に最も沸き立った作品ではないかと思っております」とコメント。

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安藤桃子さん、岸善幸監督

岸善幸監督:
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観客の中に映画があると僕も信じています。この作品は、多様性の中“多様性”という言葉に弾かれてしまうようなマイノリティの中のマイノリティ、非常に小さな人間たちを題材にしています。言葉だけでなく、この映画を見てたくさんの人が多様性の本当の意味を感じていただければと思っています。11月10日から公開ですけれども、こんな素敵な賞をいただけて幸せです。主演の稲垣さん、新垣さん、磯村さん、みなさんに伝えたいと思います。


◆最優秀芸術貢献賞受賞
『ロングショット』監督:ガオ・ポン
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プレゼンター:チャオ・タオ(俳優・プロデューサー、中国)
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若い監督のデビュー作で、90年代、やむを得ず退職させられた人たちを描いた物語です。人間と空間がこの映画の主役で、ともに特別な雰囲気を醸し出し現場を作りあげました。特筆すべきは、この映画の素晴らしい撮影と美術です。


ガオ・ポン監督:
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この瞬間を、映画の撮影のために一緒にやってきてくださった、私の色々なスタッフや役者の皆さんに捧げたいと思います。そして、製作をしてくださった皆さんに感謝したいと思います。一番苦しかった時期をずっと支えてくださいました。新人監督としての私に素晴らしい製作の環境を提供してくださったのです。私はこの『ロングショット』を若手の監督として撮るために、数々の先輩方に学ばせていただきご支援をいただきました。中国の映画界では、若手を支えようという雰囲気がございます。この素晴らしい伝統的な雰囲気をこれからもぜひ持ち続けていけるように私たちも頑張りたいと思います。このような名誉な賞をいただいたということは、夢ではなくて現実になったのだと思います。今、世界では戦争が頻発し、そして非常に苦しい中で生きている人たちがいます。しかし映画の役割というのは人と人の心と心を繋ぎ、世界を平和に導くものだと私は信じております。


◆最優秀男優賞
ヤスナ・ミルターマスブ『ロクサナ』、イラン)
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講評と発表:チャン・ティ・ビック・ゴック(プロデューサー、ベトナム)
感情的でシンプルな役柄は、彼の真摯な演技によってイランの平凡な現代社会の豊かな生活を目の当たりにする機会を与えてくれました。

ヤスナ・ミルターマスブ:
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コンニチワ サラーム。審査員の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。このいただいた賞を監督のパルヴィズ・シャーバズィさんに伝えたいと思います。また会場にいる撮影監督のプーヤ・シャーバズィにもお礼を申し上げたいと思います。
ムスリムだろうがクリスチャンだろうがユダヤだろうが関係ないと思います。我々の人生の中で一番最悪なのは戦争で命を落とすことですし、子供が戦争のために亡くなっていくのはやはりいけないと思います。戦争を止めましょう。

◆最優秀女優賞受賞
ザル・アミール『タタミ』監督/俳優)

講評と発表:審査委員長 ヴィム・ヴェンダース
この女優さんは、共同監督も務めた方です。『タタミ』のザル・アミールさんです。

ザル・アミール (ビデオメッセージ)
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大きな驚きとともに受賞を光栄に思います。日本で皆さんと一緒にお祝いしたかったです。現在深夜2時です。撮影から帰宅して受賞の知らせを聞きました。これは私にとって特別で大きな意味をもつ受賞です。俳優という職業はアスリートに似ていると思いました。両者とも人前でチャンスやタイミングをつかむ必要があり、身体的にも精神的にも重圧がかかります。イラン人アスリートは常にスポーツと国の狭間に置かれ恐怖を乗り越え、尊厳を失わないようにしています。その立場は私も共感できることばかりでした。この作品に登場するマリアムもそうした一人です。彼女は自由を得ながらも大きな代償を払うことになります。最高のパートナーであるアリエンヌ・マンディがいなければこのような作品にはならなかったでしょう。彼女の献身的な仕事に対する私の感謝の気持ちは計り知れません。改めて最優秀女優賞を受賞できたことを光栄に思います。この賞はイランの女性たちに捧げたいと思います。畳の上、路上、そして家庭の中でひっそりと虐げられている彼女たちへ。本当にありがとうございました。

ヴィム・ヴェンダース コメント:ザル・アミールさんが柔道のコーチとして政府の決断と自由の意志との間で葛藤する姿を演じて、大変信ぴょう性がありました。


◆最優秀監督賞
岸善幸監督 『正欲』
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講評と発表:アルベルト・セラさん
複雑な難しい世界の中、個人であることの難しさを描いた岸善幸監督に捧げます。

岸善幸監督:
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4 作品目の監督作品ですけれども、名誉ある賞をいただけてこれからの映画作りの励みになります。これからも頑張っていこうと思います。この作品が描いているのは多様性ということの意味を、すべての人が自由で自分を偽らずに生きていける社会とは何かということを問いかけています。世界、日本もそうですけれども中々自分のアイデンティティを確立するのが難しい時代です。この作品を観て多様性の意味を皆さんに考えていただけたら本当に嬉しいです。これを励みにこれからもいろんな映画をいろんなテーマで作っていきたいと思います。


◆審査員特別賞
『タタミ』監督:ザル・アミール、ガイ・ナッティヴ(ジョージア/アメリカ)

講評と発表:國實瑞惠さん(プロデューサー)
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スリリングなストーリーを、女性二人の迫真の演技に手に汗を握りしめて、最後まで見入ってしまいました。鮮烈なモノクロ映像で、より緊張感を高める作品『タタミ』に審査員特別賞をお贈りします。

ザル・アミール(共同監督/俳優) ビデオメッセージ
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世界は燃えています。イランは燃えていて、そこに住む素晴らしい人々を殺害しています。パレスチナは燃えていて何千人もの市民の死を嘆いています。イスラエルは燃えていて、人々が殺されています。いたるところで無実の人々が不正により血を流し、私たちが生み出した混乱のなかで無力になっています。しかし、私たちは映画を作りました。この映画は憎しみ合うように育てられた人々の奇跡的な組み合わせにより生まれた物語です。イスラエルとイランの監督が一緒に仕事をするのはとても大変なことです。あらゆる困難を乗り越えて初めて団結し、歴史を作ることになるのです。しかし、映画が公開された時は歴史がこのように動くとは思っていませんでした。この映画にひとつの力があるとすれば、それは闇の時代に光と戯れることでしょう。日本で「柔道」という言葉は柔和な道を意味すると聞きました。それこそが私たちが進みたい道です。未来ある唯一の道です。この映画『タタミ』は日本の名前ですが、普遍的な問題を語っています。憎しみに向き合い敬意を示す勇気をどう持ちうるかです。

ガイ・ナッティヴ(共同監督)ビデオメッセージ
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このすばらしい驚きをザル・アミールと共に感謝したいと思います。私たちはちょうど東京からの長いフライトを終えロスに降り立ったところです。皆さんの反応を肌で感じ、美しい東京で過ごしたすばらしい1週間でした。『タタミ』は日本の伝統へのオマージュであり相手を敬うことでもあります。そして、イスラエル人とイラン人の初の共同作業でもありました。私たちは政府が阻止しようとしていたことを実行したのです。兄弟姉妹になるために協力し合いました。そのことを認めてくださり映画を見てくれて、感謝しています。そして困難な状況の中で生きている私たち全員にとって、それがどれほど重要なことなのかを理解してくれたことに感謝します。この映画が暗いトンネルの中の小さな光明となることを願っています。


◆東京グランプリ/東京都知事賞
『雪豹』 監督 ペマ・ツェテン監督
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東京グランプリ発表の前に、コンペティション部門審査員全員が登壇。
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講評と発表:審査委員長 ヴィム・ヴェンダース
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審査員全員が、万女一致で東京グランプリを53歳の若さで亡くなられたペマ・ツェテン監督の『雪豹』に与えることを決めました。
(出演者はじめ関係者が登壇)
残念ながら、監督は5月に亡くなられてしまいました。ほんとうに若い、まだ53歳でした。チベット語で作られた映画、ゴージャスな風景、自然の中でのユーモラスな演技、そしてその映像の一部がデジタル効果でよって夢想されたものだとしても素晴らしい動物を見せてくれたことを称賛したいと思います。

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東京都知事賞 贈呈
東京都産業労働局次長 松本明子さんが小池百合子都知事メッセージを代読
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皆さまようこそ東京国際映画祭においでくださいました。
東京グランプリを受賞されました『雪豹』の関係者の皆様にお祝いを申し上げるとともに ペマ・ツェテン監督に心から哀悼を意を表します。審査員長のヴィム・ヴェンダース監督は最新作『PERFECT DAYS』で東京を舞台に選び美しく魅力的に撮影してくださいました。感謝申し上げます。今年の カンヌ国際映画祭で役所広司さんが最優秀男優賞を受賞されたことも大変誇らしく思います。
今年のコンペティション部門には、114の国と地域から1942作品の応募がありました。
毎年、数多くの新しい才能がここ東京から世界に羽ばたいています。映画は私たちに感動や生きる喜びを与え、心に潤いをもたらし、人々の心の繋がりを深めます。今年は海外から多数のゲストをお迎えし、様々な交流が生まれています。東京から映画の魅力を発信することで、多様性あふれる素晴らしい世界に繋がっていくことを期待しています。東京国際映画祭が世界中の人々を魅了する文化の祭典として、今後ますます発展することを祈念しております。

ジョン・ハオ (エグゼクティブ・プロデューサー)
代表して感謝の言葉を述べさせていただきます。非常に残念なことに私たちのペマ・ツェテン監督はここにくることができませんでした。しかしながら、今日こうやっていただいた賞は、監督が私たちに与えてくれた賞だと思います。この映画を世に出してくださいました中国電影の関係者の方々や製作に携わってくださいました方々にも感謝申しあげます。
ペマ・ツェテン監督の息子さんには、監督の跡を継いで映画を作り続けていただきたいと願っております。
ペマ・ツェテン監督はチベット語でチベットの映画を撮る、その開拓者でありました。そして小説家でもあり、この 20 年来監督は小説を書き続けており世界的にも受け入れられておりました。ペマ・ツェテン監督は初期から晩年にいたるまで様々なスタイルを貫いてチャレンジして撮られてきた監督です。『ティメー・クンデンを探して』『オールド・ドッグ』そして『雪豹』に至るまで、各作品、皆、作風を変えてチャレンジ精神旺盛に映画を撮っていらっしゃいました。『タルロ』ではモノクロをうまく使って素晴らしい作品に仕上げています。2018年の『轢き殺された羊』は、これまでと全く違うスタイルの素晴らしい作品でした。2019年の『羊飼いと風船』に至って、今までの幻想的な作風からリアリズムに転換されました。チベットの草原に生きる普通の庶民を極めてリアルにわかりやすく描きました。そして『雪豹』はコロナの期間に準備が始められて、2023 年に完成したものです。これもまた作風が異なっています。チベットの高原地帯の様々な自然の生態系などをテーマに描きながら、非常に幻想的なところもあるという作風で描いた作品でした。簡単に功績を紹介しましたが、ペマ・ツェテン監督の精神を、意思を継いでこれからも映画を作っていきたいと思います。

ジンパ(俳優)
監督はもうここにはおられませんが、監督と一緒に映画を撮ってきた者として、皆さんに心から感謝したいと思います。(最後にチベット語でお礼の言葉)
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(マイクの位置が低いままで、背の高いジンパさん、かがんでのスピーチでした。右は、エグゼクティブ・プロデューサーのジョン・ハオさん。)

ション・ズーチー(俳優)
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この作品に出させていただいたことを嬉しく思っております。今日は感動で胸がいっぱいでございます。ペマ・ツェテン監督が私たちにこういう機会を与えてくれたんだと思います。永遠に彼に感謝したいと思います。

ツェテン・タシ(俳優)
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小さな町からやってきました。ペマ・ツェテン先生はここにはおりませんけれども、私たちといつも一緒にいる気がします。先生ありがとう。

すべての表彰が終わり、審査委員長 ヴィム・ヴェンダースより総評;
第36回東京国際映画祭の審査委員長を務められたことを光栄に思います。そして他の4人の映画関係者からなる実力派の審査員と共に世界中から集まった15本のコンペティション部門の作品を観てその中から満場一致で東京グランプリと他の5つの賞を選ぶことができました。本当に素晴らしい作品を数多く見ることができましたが、セレクション全体が、同等の水準であるかどうかというのは確信できませんでした。また、オープニング作品として『PERFECT DAYS』を紹介できたことを誇りに思うと共に、このような機会を与えてくれた映画祭に感謝申し上げます。東京国際映画祭大好きです。これからも成功を祈っております。ありがとうございました。
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©2023 TIFF

☆クロージング作品『ゴジラ-1.0』
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予告編上映の後、山崎貴監督、神木隆之介、浜辺美波が登壇。

神木隆之介
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今回、16年ぶりの東京国際映画祭、この作品がクロージング作品ということでこんなに光栄なことはないなと。そしてこの『ゴジラ-1.0』という作品で、山崎監督をはじめ信頼する人たちでこの場に立てることを光栄に思っております。

― 浜辺さんは初日にレッドカーペットを歩かれていかがでしたか?

浜辺美波
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東京国際映画祭に初めて参加させていただいて、いつも映像では観ていたのですが、こんなにも熱のあるイベントだとは思っていなくてかなり驚きました。ゴジラ、山崎監督、神木さんと共に歩くことができて楽しかったです。

山崎貴監督:『ゴジラ』が昔、東京国際映画祭のクロージングで毎年毎年上映された時代がありまして、最速で『ゴジラ』が観れる機会が東京国際映画祭だったのでいいなと思っていました。久しぶりに『ゴジラ』がクロージングを飾るということで、先輩たちにあこがれていた時代がありますので、ついに自分の『ゴジラ』が栄えある場所に来られたんだと非常に嬉しく思っております。しかも、一般の方に観ていただける初めての機会が東京国際映画祭のクロージングなので、そのことも楽しみに今日は来ました。

― 世界中に愛される『ゴジラ』に出演が決まっていかがでしたか?

神木隆之介:プレッシャーが大きかったですね。日本を代表し、そして世界でも愛されている『ゴジラ』という存在に関わるということ、そしてその作品の主役をやらせていただくというのはとても大きなものを背負わなければいけないのかというプレッシャーが大きかったです。11月3日に公開ですが、今は、そのプレッシャーというのはなくて、皆さんに愛されている『ゴジラ』という作品に関われたことを誇りに思っていますので、どう感じていただけるのかを楽しみにしています。

浜辺美波:シンゴジラという新作以降、しばらくゴジラを観れないと思っていましたので、ゴジラが帰ってくることに驚き嬉しく思いました。『ゴジラ』という作品に出演できることが念願だったので、それが叶うということで嬉しさと、台無しにしないように頑張らなきゃいけないなという気持ちになりまして、監督をはじめ皆さんと一緒に作品を作る中で、皆さんの今まで培ってきたものを全力で出せるように、胸に飛び込むような意気込みがありました。

― これからご覧になる皆さんに、監督からメッセージをお願いします。

山崎監督
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僕らは本当に、劇場にお客さんに帰って来てもらいたいという思いで、体感する映画が一つのその答えなんじゃないかなと思って、劇場で観る映画に相応しいものを作ろうと思って頑張ってきましたし、ここにいる二人をはじめ皆にゴジラと真剣に取り組んでいただいて素敵な映画ができたんじゃないかと思ってます。ぜひ、劇場で観ていただきたいですし、劇場というものはこんなに映画を観るのに素晴らしい場所なんだってことをもう一度認識していただいて、映画がすごく素晴らしい文化だということを改めて感じていただきたいなと思います。一番最初の上映が東京国際映画祭でできることをほんとうに光栄なことだと思っています。


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最後に、安藤裕康チェアマン挨拶
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いよいよ今年の映画祭、閉幕に近づいてまいりました。
初日から秋晴れの素晴らしい天気が続きまして、お陰でたくさんのたくさんのお客様に映画祭に足を運んでいただきました。
これまでの集計で、作品のチケットをご購入いただいた方が5万人超。昨年から36%の増加。そのほかの関連イベントを含めますと、7万人以上の方にご参加いただきまして、昨年比 25%増となっております。そして、海外からも2000人近い方が映画祭を訪れてくださいました。足を運んでくださったお客様の皆様のおかげだと思っております。そして、映画祭を色々な形で支えてくださった関係者の方たちのお陰だと思っております。心から御礼を申し上げたいと思います。
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事務局で働いております100人以上の職員が、昼夜を分かたず激務をこなしてくださいました。また事務局を支える裏方、そして裏方のまた裏方のボランティアやインターンの方々がさらに300人くらいいらっしゃって、いろいろな職務をこなしてださいました。今、この瞬間も職務についていらっしゃいますので、全員は無理なのですが、壇上に上がっていただけませんか。
(おそろいのグレーのパーカーを着たボランティアの方たちが登壇。安藤チェアマンも拍手を贈りました。)

ここに東京国際映画祭の閉幕を宣言いたします。

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第 36 回東京国際映画祭 動員数 <速報値・1 日は見込み動員数>
■上映動員数/上映作品本数:74,841 人/219 本 *10 日間
(第 35 回:59,541 人、125.7%増/174 本、125.9%増 *10 日間)
■上映本作品における女性監督の比率(男女共同監督作品含む):22.4%
(219 本中 38 本、同じ監督による作品は作品の本数に関わらず1人としてカウント)
■その他リアルイベント動員数:73,081 人
■ゲスト登壇イベント本数:169 件 (昨年 157 件、107.6%増)
■海外ゲスト数:約 2,000 人(昨年 104 人、1923%増)
■共催提携企画動員数:約 20,000 人

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最後に、フォトセッション

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私の位置からは『マリア』の編集エルナズ・エバドラヒさんの顔が隠れてしまいました。
トップには東京国際映画祭提供の公式写真を掲載させていただきました。
また、今回、毎年取材している宮崎暁美さんが抽選に外れてしまい、彼女の撮影による素晴らしい写真をお届けすることができませんでしたこと、申し添えておきます。

写真・報告:景山咲子





第一回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル 上映作品

タイムスケジュール
https://www.cinema-at-sea.com/img/sche_2023.pdf

公式HPより
オープニング『オキナワより愛をこめて』
監督:砂入博史 2022/101分/日本・アメリカ/日本語・英語/FHD
オープニング映画『オキナワより愛をこめて』場面写真1-2_R.jpg
© 石川真生

戦後27年間続いた米軍統治が終わり、日本に復帰したばかりの沖縄。当時20代だった写真家、石川真生は、米国黒人兵向けの娯楽施設でバーメイドとして働きながら、日記をつけるように写真を撮り続けた。「そこには愛があった」とキャッチコピーに記された写真集『赤花 アカバナー 沖縄の女』を手に、およそ半世紀前の記憶を蘇えらせる石川。映画は、ファインダーを通して語られた「愛」、そして作品の背景となった歴史、政治、人種差別、エンパワーメントを写真とともに映し出していく。

<監督プロフィール> 砂入博史
1972年広島で生まれ、ニューヨークを拠点に活動する。1990年に渡米し、ニューヨーク州立大学現代美術科卒業後、欧米、日本の美術館、ギャラリーにてパフォーマンス、写真、彫刻、インスタレーションの展示を行う。近年は、チベットや福島、広島の原爆等をテーマにした実験ドキュメンタリーを制作。2018年の袴田巌をインタビューした『48 years – 沈黙の独裁者』は同年熱海国際映画祭長編コンペで特別賞をもらう。2001年からニューヨーク大学芸術学科で教鞭も執る。

●コンペティション部門

『アバンとアディ』Abang Adik ジャパン・プレミア
監督:ジン・オング マレーシア/114分
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アバンとアディの兄弟はマレーシア生まれだが、身分証明書を持っていないために、パスポートや銀行口座さえも作れない。兄アバンは生まれつき口がきけず、一生懸命働いて安定した生活をしたいと思っているが、弟アディは手っ取り早く金儲けをしようと、偽造身分証明書の販売に手を染めている。そこにNGOから派遣された社会福祉士がやって来て、兄弟が合法的に身分証明書を取得する手助けに全力を尽くすが、ある事件が起き、アバンとアディは窮地に立たされていく。プドゥという街を舞台にした、多民族国家マレーシアの社会問題を広く人々に訴えかける力を持つ作品、クイア・シネマのテイストも滲ませている。

<監督プロフィール> ジン・オング
モア・エンターテインメント・シンガポール社の創設者であるジン・オングは、2008年から映画やテレビ制作に携わり、第1回、第2回マレーシア国際映画祭のキュレーターを務めた。自身が育ったマレーシアの状況を反映し、社会問題、人文学、道徳に焦点を当て、インディーズスタイルのリアリズムを生み出している。『アバンとアディ』の企画は、2020年にミラー・フィクション・ストーリー賞と台北金馬映画祭ピッチング会議のビジョナリー賞を受賞、数多くの映画をプロデュースしてきたオンにとって、本作が初の監督作品となる。脚本も彼自身が手がけている。

『サバイバル』 ジャパン・プレミア
監督:ロルフ・デ・ヒーア 2022/96分/オーストラリア/FHD
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砂漠の真ん中にあるトレーラーの檻の中に置き去りにされた黒人女性が檻から抜け出すところから物語は始まり、生き残ったはずの仲間を探して、砂漠から山、そして都市までを歩いていく。その途上で、“支配者たち”による迫害や暴力の手を掻い潜らねければならない、過酷なサバイバル・ロードムービー。近未来SF的かつ、斬新な視覚的アイディアの演出が見所の作品。監禁された者が過酷なサバイバルを体験するという、『悪い子バビー』(1993)で示されたロルフ・デ・ヒーア監督的モチーフは、本作でも変奏されている。

<監督プロフィール> ロルフ・デ・ヒーア
オランダ生まれのオーストラリア人映画監督。これまでに15本の長編フィクション映画を監督し、50年以上のキャリアを誇るオーストラリアの名匠。『アレキサンドラの企て』は2003年のベルリン国際映画祭で上映。本作『サバイバル』も今年のベルリン・コンペで上映されている。監督作品が数多くの賞を受賞している他に、ニューサウスウェールズ州プレミア文学賞を受賞している。奇しくも、1993年製作の『悪い子バビー』が公開から30年を経た今、日本劇場初公開を迎えた。

『オルパ パプアの少女』 ジャパン・プレミア
監督:テオ・ルマンサラ
2022/99分/インドネシア/インドネシア語・パプア語・英語/FHD
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舞台はインドネシアのパプア州ビアク島。奥深い森の山岳地帯に住む貧しい一家の少女オルパは、小学校を卒業したら進学して、将来は植物の研究をして医療に役立てたいという夢を持っていたが、父親から裕福な男の家へ嫁ぐことが決まったと一方的に言われ、家出を決行する。森の生活に慣れたオルパは、逞しくジャングルの道なき道を進んでいくが、その途中で都市のジャカルタから来て、途方に暮れている若者と出会う。二人は共に街を目指して歩み始めるが、オルパの父親が武装した村の自警団を引き連れて、若い二人を追い詰めていく。追跡劇やロードムービーといったジャンル映画的な魅力のみならず、自然から学んだ知恵を生かして夢に向かって行動する少女オルパを通じて訴求される人権への意識は、ここ日本でも大いに再認識されるべきものだ。

<監督プロフィール> テオ・ルマンサラ
インドネシアの最東端、パプア州のビアク島で生まれたテオ・ルマンサラは、ITプログラマーからラッパー・フィルムメーカーへと転身。パプアのヒップホップ・シーンのパイオニアの一人として、テオはWaena's Finestという地元のラップ・グループを共同設立し、これまでに3本のミックステープをリリース、彼の代表曲「Suara Hati Part 2」はYouTubeで100万人以上の視聴者が視聴した。

『緑の模倣者』 インターナショナル・プレミア
監督:ジョン・ユーリン 2023/83分/台湾/中国語・客家語/FHD
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カオ・イーフェン原作短編小説の映画化。人間の姿に擬態(mimicry)した緑色のコガネムシの物語。緑色の“彼”はアパートに侵入し、人間の行動を観察して模倣していく中で、コンテンポラリー・ダンスの演目で“虫”の動きを擬態する練習をしているダンサーの女性を見つけ、映画はマジカルな展開を見せる。人間と自然の境界が曖昧化する世界観を、台湾の客家語(はっかご)を用いて創り上げた、チャーミングでスタイリッシュなビジュアルセンスが光る作品。

<監督プロフィール> ジョン・ユーリン
台湾の大学(世新大学映画学科卒業)で映画を学んだ後、イギリス(ロンドン・フィルム・スクール修士課程修了)で映画を学び、初監督短編作品『The Angler』が2019年の台北映画祭で上映された。これからの活躍が期待される新人監督。

『ゴッド・イズ・ア・ウーマン』 アジア・プレミア
監督:アンドレス・ペイロ 2023/86分/パナマ共和国・フランス・スイス/スペイン語・フランス語/FHD
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1975年、フランスのアカデミー賞受賞監督ピエール=ドミニク・ゲソーは、女性が神聖な存在であるとされるクナ族のコミュニティを撮影するためにパナマを訪れ、クナ族と一緒に1年間を過ごす。最終的にプロジェクトは資金不足に陥り、フィルムは銀行により差し押さえられてしまう。その約47年後の今、クナ族の中で長老から新しい世代へと語り継がれるほど有名な伝説となっていた "自分たち"のフィルムのコピーが、パリで発見される…。パナマのクナ族が自らの“肖像”を取り戻す営みと、貴重な文化の継承を捉えた感動的なドキュメンタリー。

<監督プロフィール> アンドレス・ペイロ
アンドレス・ペイロは、パリを拠点に活動するスイス系パナマ人の映画監督。ニューヨーク大学のティッシュ芸術学校を卒業した後、ジョナサン・カウエット監督のドキュメンタリー映画『Walk Away Renee』(2011)を撮影し、2011年カンヌ国際映画祭批評家週間に選出された。フランスのテレビ向けに数多くのドキュメンタリー作品の撮影し、編集にも携わっている。初の長編ドキュメンタリー作品である今作は、2023年にヴェネチア国際映画祭のインディペンデント映画に特化したSIC部門(Settimana della Critica)とトロント国際映画祭で上映されている。

『クジラと英雄』 ジャパン・プレミア
監督:ピート・チェルコウスキー、ジム・ウィケンズ
2023/80分/アメリカ/ユピック語・英語/FHD
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アラスカのベーリング海に浮かぶ、僅か人口千数百人の島セントローレンス島では、クジラ漁は島の人々の生活の生死を分ける重要な営みだ。それ故に、島の若者クリスが史上最年少でクジラを仕留めた時、島中が“英雄”の誕生を祝福したが、このことをSNSに投稿すると世界中から非難の投稿が島の若き英雄に浴びせかけられ、クリスは心を病んでしまう。キャメラは、クリスに捕鯨を教えた父親や、女性が好きな姉といった家族の面々や島の人々の素顔を捉えていき、捕鯨という古くから伝わる島の伝統と、現代社会ならではの“問題”や“新しいリアリティ”が交錯する時空を、極寒の地のアラスカの自然と共に、雄大なスケールで描き出していく。

<監督プロフィール>ピート・チェルコウスキー、ジム・ウィケンズ
 ピート・チェルコウスキーの初長編映画は、トリニダードのカーニバルを通してヨーロッパとアフリカの衝突を描いた『Carnival Roots』(2002)。ディスカバリー・ネットワークでは『Fighting Tuna』(2012)を製作した他、移民してきたティーンエイジャー5人が高校3年間を乗り切ろうとするドキュメンタリー映画『I Learn America』(2013)を製作。数多くのメジャー系コマーシャルを演出している。
ジム・ウィケンズは、過去15年にわたり、環境紛争の最前線で活躍する一流のストーリーテラーとしての地位を確立。過激な動物愛護運動家として知られるジムは、現在、世界中の先住民や沿岸の人々と密接に協力し、環境正義のために闘っている。アムネスティ・インターナショナル賞、ワン・ワールド・メディア賞など数多くの賞を受賞している。本作は初の長編ドキュメンタリー作品。

『BEEの不思議なスペクトラムの世界』 
インターナショナル・プレミア
監督:ファビアン・ローブリー
2022/73分/ニューカレドニア/フランス語/FHD
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ここ数ヶ月、エレアはISA(ニューカレドニア自閉症専門研究所)のワークショップで出会ったヒューゴのエレクトロニック・ミュージックにソフトで儚げな歌声をのせて、音楽制作に取り組んでいる。彼女の歌詞には、生き生きとした感情が息づいていて、アスペルガー自閉症である彼女の人生の波乱に満ちた側面を明らかにしている。神経症という不透明な世界の中で、エレアは一歩一歩、自律に向けて時に困難な道を歩んでいる。話すことよりも、歌うことが得意な彼女は、一音一音、音楽的飛翔を育み、歌詞に磨きをかけ、「BEE」というステージネームで、アルバムデビューすることを考えている。

<監督プロフィール> ファビアン・ローブリー
マルセイユ出身のドキュメンタリー作家兼編集長。視覚芸術の学位を持ち、芸術、科学、技術編集(S.A.T.I.S)のエンジニアでもある。ニューカレドニアで20本以上のドキュメンタリーを編集した後、映画製作に進出。社会文化的、歴史的な問題にフォーカスし、市井の人々の物語を伝えることで、人々の心を広げ、社会的結束を育むことに貢献できると考えている。

『水いらずの星』 Intimate Spaceワールド・プレミア
監督:越川道夫 日本/164分
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© 2023松田正隆/屋号 河野知美 映画製作団体

岸田國士戯曲賞受賞経験のある劇作家・演出家、松田正隆の同名戯曲を越川道夫監督が崖っぷちのユーモアを効かせ、大胆に映画化。舞台は、香川県の坂出、寂れたアパートで女が一人暮らしをしている。女はかつて、長崎県の佐世保で夫と暮らしていたが、別の男と駆け落ちをした後、一人で坂出に流れ着き、スナックで働いて生計を立てている。そんなある日、夫が女のアパートを訪ねて来て、二人は長年の空白の時間を埋めるように、お互いのことを少しずつ語り出す。本作のプロデューサーでもある、主演女優河野知美の”顔”は、映画の主戦場と化していて、何人もの女性が憑依しているかのように幾通りにも変幻する。

<監督プロフィール> 越川道夫
1965年生まれ。演劇活動、劇場勤務を経て映画の配給宣伝をする一方、『海炭市叙景』(2010)、『かぞくのくに』(2012)等の映画制作に関わる。2015年初監督作『アレノ』で高崎映画祭ホリゾント賞、2018年『海辺の生と死』で日本批評家大賞新人監督賞を受賞している。
映画公式HP:https://mizuirazu-movie.com

『ロンリー・エイティーン』 ジャパン・プレミア
監督:トレイシー・チョイ
2023/91分/マカオ・香港/広東語・中国語/FHD
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物語は、主人公の女優エレインが、自らが育った貧しいマカオ時代のことを回想する1980年代と現代の描写、2つの時代を往来する形で進んでいく。エレインは、貧しかったが、夢を持って、香港のエンターテインメント業界に身を投じた過去を回想しながら、自らのアイデンティティと俳優としての仕事の間で揺れ動いている。1980年代を舞台にしたマカオ部分では、トレイシー・チョイ監督の前作『姉妹関係』(2017)に主演した二人の女優が出演していて、エレインとエレインの親友インの役を演じている。現代パートのエレインを演じたアイリーン・ワンは、かつて1982年に『Lonely Fifteen』という作品で主演を演じており、映画の物語には、本作の製作も務めたアイリーン・ワンの実人生の一部も反映されていて、エンタメ業界の性搾取の側面も描かれている。

<監督プロフィール> トレイシー・チョイ
マカオ生まれマカオ育ち。高校時代にビデオ制作に目覚めて以来、映画監督を志し、マカオを離れて台湾で映画製作を学ぶ。卒業後はマカオに戻り、テレビ局で働きながら短編映画やドキュメンタリーを制作。トレイシーの初長編映画『姉妹関係』(2016)は、第1回マカオ国際映画祭のコンペティション部門に選ばれ、マカオ観客賞を受賞、さらには、第36回香港電影金像奨にノミネート、複数の国際映画祭で最終選考に残り、賞を受賞している。

●Director in Focus部門 クリストファー・マコト・ヨギ特集
『誠』 アジア・プレミア
監督:クリストファー・マコト・ヨギ
2013/6分/アメリカ/英語/FHD

クリストファー・マコト・ヨギは父親の死に向き合うために故郷のハワイへと戻ってくる。対話という単純な行為を通じて安らぎを模索する短編ドキュメンタリー。

<監督プロフィール> クリストファー・マコト・ヨギ
クリストファー・マコト・ヨギはハワイ州ホノルル出身。デビュー長編映画『アキコと過ごした八月』は、2018年にロッテルダム国際映画祭でワールドプレミア上映され、評論家から絶賛された。批評家リチャード・ブロディはThe New Yorker誌で本作を「2019年のベスト映画」リストに挙げている。次の長編映画『シンプル・マン』は、2021年のサンダンス映画祭のU.S.ドラマ部門でプレミア上映された。それ以前には、サンダンス脚本家・監督ラボ、IFPフィルム・ウィーク、フィルム・インディペンデントのファスト・トラックに参加し、ジェローム財団の助成金とシネリーチの助成金を受けている。短編映画には、ドキュメンタリー『Occasionally, I Saw Glimpses of Hawai'i』(2016)、『誠』(2013)、フィクション『お化け』(2011)などがある。

『お化け』 アジア・プレミア
監督:クリストファー・マコト・ヨギ
2013/13分/アメリカ/日本語・英語/FHD
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©Christopher Makoto Yogi

ハワイのノースショアで余生を過ごす高齢の日本人男性のもとに、過去の亡霊が訪れる。ハワイという島のエッセンスが凝縮した短編フィクション。

『アキコと過ごした八月』 ジャパン・プレミア
監督:クリストファー・マコト・ヨギ
2018/75分/アメリカ/英語・ハワイ語/FHD
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©Christopher Makoto Yogi

ビーチ」「ラスト・リザード」)が、10年近く離れていたハワイ島に帰ってきた。取り憑かれたようにサックスのソロを吹き、物思いにふけりながら散歩する中、アレックスはアキコという女性が経営する仏教徒向けのベッド・アンド・ブレックファストに偶然出くわす。ハンタイのワイルドなサックスとアキコの梵鐘が、思いがけない新しい友情を取り巻く音の網のように、観客を包み込む豊かなサウンドトラックのベースを形成していく。

『シンプル・マン』 ジャパン・プレミア
監督:クリストファー・マコト・ヨギ
2021/100分/アメリカ/英語/FHD
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©Foulala Productions

ハワイのオアフ島ノースショアの田園地帯、死期の近づいた老人に過去の幽霊が訪れる。全4章で構成される本作では、家族の歴史と神話、夢のロジックとシュルレアリスムが入り混じり、父親の死に直面する分裂した家族の時間が万華鏡のように切り替わる。現代ホノルルの高層ビルから第二次世界大戦前のオアフ島の田園風景へ、そして、最終的にはあの世へと観客を導いていく。

●Pacific Islands ショーケース

『どこにもない場所の記録』 ジャパン・プレミア
監督:チェン・チュンディエン
2022/24分/台湾/中国語/FHD
戒厳令の時代、厳粛な静寂に包まれた海岸線に、時代錯誤の建築物群がどこからともなく現れた。カラフルで滑らかな楕円形のプラスチックの輪郭が特徴のUFOハウスは、地元の人々によって「精緻なスペース・ポッドハウス」と名付けられた。人工的な景観は、偉大なユートピア的ビジョンに沿った、まったく新しい価値観を現出させたのである。異形の過去の風景と既視感を呼び起こす未来の狭間を捉えたドキュメンタリー。

<監督プロフィール> チェン・チュンディエン
台南芸術大学ドキュメンタリー研究大学院で学び、 アニメーション作品『Sick Building Syndrome』(2015)は台北映画祭、高雄映画祭など国内外の映画祭で上映された。 ドキュメンタリー『中国街の思い出』(2016)は、実験的な手法を用いて都市再生の問題を探求し、山形国際ドキュメンタリー映画祭のアジア千波万波部門に選出されている。

『岸を離れた船』 ジャパン・プレミア
監督:ファン・ウェイシャン、シュウ・ホンツァイ
2022/29分/台湾/中国語・韓国語・日本語/FHD
1910年から1945年の間に、当時日本の植民地だった台湾に3,000人以上の朝鮮人が働きに来た。1945年、日本の敗戦により、台湾に住んでいた朝鮮人は送還された。しかし、送還のための資金が限られていたため、358人の朝鮮人が台湾に残った。そのほとんどが基隆の勝利巷(現在の中正路656巷)に住んでいた。70代の朝鮮人女性3人が登場し、戦争によって故郷から遠く離れ、アイデンティティの問題や戻ることのできない問題に苦しむ生活を語る。韓国と台湾の狭間に忘れ去られ、身も心も2つの国に引き裂かれた女性たちの物語。

<監督プロフィール> ファン・ウェイシャン、シュウ・ホンツァイ
ファン・ウェイシャンは台湾の新竹出身。台中の東海大学を卒業した後、トゥモロー・タイムズとネクスト・マガジンの写真家として働いた。人と土地の関係に長期的に焦点を当てた、 ドキュメンタリー『The Public Girls' Band』(2017)と『SanDaoLing Blues』(2019)は国内外の映画祭で上映されている。

『台湾のイケメン・フィリピーノ』 インターナショナル・プレミア
監督:リリー・ホアン、ジェン・ジーミン
2022/38分/台湾/英語・中国語・タガログ語/FHD
国際的なビューティー・コンテストの常連で知られるフィリピン。国内だけでなく、200万人の海外フィリピン人労働者が働くあらゆる場所で、フィリピンの若者たちはその美を競い合う。工場に勤めるロビン、ジョン・ルイ、レイモンドの3人は、台湾の新竹で開催されたイベント「Ginoong Taiwan」の候補に上がった。揺れ動く20代、30代の男心とは? 美へのこだわり、愛への欲望、仲間意識――異郷の台湾で働く男たちの思いがカメラを通して浮かび上がる。

<監督プロフィール> リリー・ホアン、ジェン・ジーミン
国立台北芸術大学で戯曲のMFAを取得しているリリー・ホアンは、 ジェン・ジーミンと共同監督した本作『台湾のイケメン・フィリピーノ』が、2022年のLabor Film Awardを受賞し、2023年の金穗獎の最終候補に残った。

『GAMA』 オキナワ・プレミア
監督:小田香 2023/53分/日本/日本語/DCP
第二次世界大戦末期に苛烈な地上戦が繰り広げられた沖縄には、自然洞窟“ガマ”が数多く存在する。沖縄戦を語り継ぐガイドであり、遺骨収集の活動をしている松永光雄は、戦火の中をガマに避難した人々について語る。あるガマでは集団自決が発生し、あるガマでは米軍兵との対話を試み、多くの命が救われた。彼らがガマで過ごした時間を、語りの合間の「暗闇体験」によって追体験する。傍には青い服をまとった「影」がたゆたう。誰にも知られず亡くなっていった人々の遺骨が、今を生きる私たちの眼前に姿を現す。悠久の時を経て形作られたガマの空間に、積層する時間と人の営みの痕跡を16ミリフィルムで捉えた。

<監督プロフィール> 小田香
1987年大阪府生まれ。フィルムメーカー/アーティスト。イメージと音を通して人間の記憶(声)―私たちはどこから来て 、どこに向かっているのか―を探究する。タル・ベーラが陣頭指揮する若手映画作家育成プログラムであるfilm.factory(映画制作博士課程)に第1期生として参加し 、2016年に同プログラムを修了。2020年、第1回大島渚賞を受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

『先祖たちの拒絶』 アジア・プレミア
監督:ショウ・ヤマグシク
2021/10分/カナダ・アメリカ/英語・沖縄語/FHD
鬱蒼とした熱帯雨林から、不思議なイメージや音が立ち現れる。ウヤファーフジ(沖縄の言葉で祖先)は、私たちの日常生活に深く入り込んでいる。彼らは私たちが忘れることを拒み、妥協することを拒み、国家の法に縛られて生きることを拒む。

<監督プロフィール> ショウ・ヤマグシク
ショウ・ヤマグシクの創作活動は沖縄人ディアスポラとしての意識に根ざしたものである。苦難に満ちた移民の歴史的体験を物語として語る場を切り拓くために彼は力を注いできた。山城姓をもつ祖母の両親は沖縄本島北部のやんばる地域にある田港の故郷を離れ、アメリカの先住民族トンヴァの言葉でトヴァーンガルと呼ばれるロサンゼルス近郊地域に渡った。一方、田中姓をもつ父方の両親は福岡県豊前松江の出身であり、アラスカ州ジュノーに移民した。ヤマグシクは現在、カナダのブリティッシュ・コロンビア州にあるレクウンゲン族とウサナック族のテリトリーで生活を営んでいる。

●VR体験上映
『メイキング』 ジャパン・プレミア
監督:ミディ・ジー
2018/9分/台湾/中国語/VR
3D VR 360°カメラを用いた「映画内映画」的なメタシネマ手法による疑似ドキュメンタリー形式で、撮影現場や舞台裏の様子が描き出される。3D VR 360°カメラを使って映画を作る場合、VRカメラの視野角は前後左右の4つのエリアに分けられる。前方の視野角は、映画内映画『スパイ・ラブ』のキャストが映画の中でそれぞれの役を演じ、「映画内映画」を表現する場所。後方のアングルは『スパイ・ラブ』の監督チームであり、左右のアングルは本作を監督するミディ・ジーの撮影スタッフである。『スパイ・ラブ』の監督は、危険な没入型手法を使って、キャストに自分の役を演じさせる。

<監督プロフィール>
ミディ・ジー
ミャンマー生まれ。16歳で台湾に留学し、デザインの学士号と修士号を取得。現在は台湾、ミャンマー、中国で映画を制作している。2011年以降、ミディは3本の長編映画を製作したが、いずれも予算は1万ドル以下、その中には、ユベール・バルス基金を受賞した『リターン・トゥ・ビルマ』(2011)、ナントの三大陸映画祭のコンペティション部門に出品された『The Poor Folk』(2012)、エジンバラ映画祭で最優秀国際長編賞を受賞し、2014年のアカデミー賞外国語映画賞に台湾代表として出品された『Ice Poison』が含まれる。2016年、ミディの最新長編『マンダレーへの道』はヴェネチア国際映画祭のヴェネチア・デイズ部門で最優秀長編映画FEDEORA賞、アミエン映画祭でグランプリを受賞した。

第一回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル開催

「環太平洋地域」から募集した約40作品を上映

11月23日より沖縄県・那覇市の会場で環太平洋地域にフォーカスした新しい国際映画祭「第一回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」が開催されます。太平洋の島々を繋ぎ、多民族の文化と触れ合うことができる沖縄ならではの映画祭。会期中はトークイベント、映画製作・企画者が製作資金を得るためのプレゼンの場であるピッチイベント、フォーラム、クリエイター向けワークショップなども行われる。

第一回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル
【開催期間】 11月23日(木・祝)〜11月29日(水)7日間
【開催会場】 那覇市ぶんかテンブス館4階テンブスホール、桜坂劇場、那覇文化芸術劇場なはーと、タイムスホール(沖縄タイムス本社 3階)
【コンペティション部門審査員長】アミール・ナデリ監督
【審査員】伊藤歩(女優)、仙頭武則(映画プロデューサー)、サブリナ・バラチェッティ(ウディネ・ファーイースト映画祭ディレクター)、ベッキー・ストチェッティ(ハワイ国際映画祭エグゼクティブ・ディレクター)
【オープニング作品】
『オキナワより愛をこめて』(日本)砂入博史監督
【クロージング作品】
『私たちはここにいる』(オーストラリア/ニュージーランド)
【コンペティション部門作品】※全9作品
『アバンとアディ』(マレーシア)、『サバイバル』(オーストラリア)、『緑の模倣者』(台湾)、『ゴッド・イズ・ア・ウーマン』(パナマ/スイス/フランス)、『オルパ パプアの少女』(インドネシア)、『クジラと英雄』(アメリカ)、『BEEの不思議なスペクトラムの世界』(フランス)、『水いらずの星』(日本)、『ロンリー・エイティーン』(マカオ/香港)
【特別企画】
特別セレクション「Director in focus」クリストファー・マコト・ヨギ監督の特集上映
Pacific Islands ショーケース
野外上映
VR体験上映
ほか
【功労賞「マブイ特別賞」受賞者】高嶺剛監督、高嶺組

琉球王国時代に中継貿易地として栄え、アジアをはじめ周辺諸国と交流していた歴史的背景と文化的多様性。そして観光地として多くの人々を魅了している沖縄。
「Cinema at Sea」をテーマに、沖縄を文化発信基地として環太平洋に開かれた沖縄から環太平洋地域の国々の優れた映画を発信し繋いで、国際的な映画マーケットへの架け橋となるというコンセプトの映画祭。映画の上映だけではなく教育や人材育成も視野に入れたプログラムも。
「環太平洋地域」から募集し、最高賞を競うコンペティション部門は日本の『水いらずの星』(越川道夫監督)ほか、台湾、マレーシア、香港、インドネシア、オーストラリアなどの計9作を上映。日本の映画祭では珍しいVR作品を8作品上映。また環太平洋地域の島々から注目の映像作家を取り上げ紹介する「Director in focus」。第一回目の今年は沖縄にルーツを持つハワイ出身の日系監督クリストファー・マコト・ヨギ監督を特集。
審査員長はイランの巨匠アミール・ナデリ監督。ほかに女優の伊藤歩さん、映画プロデューサーの仙頭武則氏、ウディネ・ファーイースト映画祭のディレクターサブリナ・バラチェッティ氏、ハワイ国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターのベッキー・ストチェッティ氏の5人でコンペティション部門の審査を行う。

公式サイト:https://www.cinema-at-sea.com/
タイムスケジュール
https://www.cinema-at-sea.com/img/sche_2023.pdf

★チケット情報
前売り1,000円、当日券1,300円
学生:1,000円(当日会場販売のみ)
*学生料金は入場時に学生証の提示が必要
野外上映・VR体験上映:500円(当日会場販売のみ)
※前売りは11月上旬より、公式サイト、ファミリーマート店内のマルチコピー機での販売
詳細は公式HPで
https://www.cinema-at-sea.com/ticket.html

★開催会場情報
・那覇市ぶんかテンブス館テンブスホール(Naha Tenbusu)
https://maps.app.goo.gl/tPo95UrWuZbJhsfK9

・桜坂劇場(Sakurazaka Theater)
https://maps.app.goo.gl/qBibS9SwpeC9Dbph8

・那覇文化芸術劇場なはーと(Naha Cultural Arts Theater NAHArt)
https://maps.app.goo.gl/oC4XBVYkvLdQRwSD9

・シネマパレット(Cinema Palette)
https://maps.app.goo.gl/3McfQybArjqUhq1K8

・沖縄タイムスホール(Okinawa Times Hall)
https://maps.app.goo.gl/hL2cddp3aWyP9AqJ7

・南城市あざまサンサンビーチ
(Nanjo City Azama Sun Sun Sun Beach)
https://maps.app.goo.gl/WZhBiFbyhQHoAkw78


【映画祭インフォメーションセンター】
ホテル コレクティブ1F映画祭センター(11/18~11/29)
https://maps.app.goo.gl/CebMf6z9jKumL4by9