『エフラートゥン』 Eflatun
監督:ジュネイト・カラクシュ
出演:イレム・ヘルヴァジュオウル、ケレム・バーシン、ナザン・ダイパー、エルマン・オカイ、メリサ・アクマン、ユルディズ・クルトゥル、セミハ・ベゼク、ローザ・チェリック
イスタンブルの時計屋で修理の仕事をしている盲目の女性エフラートゥン。父の形見の時計の修理を頼みにきた男性オフラズは、一目で彼女に惚れる。エフラートゥンもまた、彼の声に惚れる。レトロな雰囲気で描かれるロマンチックな恋の物語。
(さらに詳しいストーリーは末尾に掲載しています。)
2022年/トルコ/103分
監督:ジュネイト・カラクシュ
1980年9月、トルコのアンカラに生まれる。ガジ大学コミュニケーション学部でラジオ・テレビ・映画を専攻。その後、写真の学位も取得し、写真展を開催。短編映画『Suret』(13)が、国内外の著名な短編映画祭で数々の賞を獲得する。初の長編映画となる本作は、文化観光省映画総局から製作支援を受けて製作された。
◎インタビュー
2023年7月20日
景山咲子
ジュネイト・カラクシュ監督
ヤームル・カールタル・カラクシュ(編集、VFXアドバイザー、アニメーション)
通訳:野中恵子
◆記憶の中で色が識別できる女性
― とてもロマンティックなラブストーリーでした。
お父さんたちの亡くなったのが、日めくりカレンダーから1996年とわかりましたが、それから何年経って、時代はいつだろうと気になりました。携帯はもうある時代とわかりましたが。36枚撮りのフィルムが見つからないという言葉がありました。デジタルカメラが普及してきた、2000年以降でしょうか? レトロな雰囲気でいつごろかなと思いました。
監督:時代は、2005~6年。エフラートゥンは、30歳位の設定です。
― 目の見えない人にとって、色はどんな風に区別しているのだろうと気になります。エフラートゥンは、5歳で視力を失った設定なので、色の記憶があると思っていいのでしょうか? 最初の場面で事故がありましたが、その時に視力を失ったのでしょうか?
監督:生まれつき盲目と考えていたのですが、ヤームルと話して。5歳までは見えていた設定に変えました。記憶の中でぼんやりと色が識別できるほうがいいのではないかと思いました。事故ではなくて、お母さんからくる遺伝性の病気で見えなくなったのです。それでお母さんが責任を感じています。
― 身近に、目の見えない方がいらしたのでしょうか?
監督:おじさんが聴覚障碍者です。ボランティア活動をしていて、視覚障碍者のことも知りました。
◆アニメ部分は、運命的に出会った奥様が担う
― トゥルルという不死鳥や、最後に二人が黄色い傘をさして腕を組んで歩いていく後ろ姿がイラストに変わっていくところなど、担当された奥さまの仕事がとても素敵でした。
脚本段階から、お二人で内容についてかなり話し合われたのでしょうか?
監督:脚本は知り合う前にすでに出来ていました。アニメの部分も元々ありました。彼女と知り合って、誰がアニメの部分を担当するかも解決しました。
― お二人の馴れ初めは? 映画自体が素敵なラブストーリーでしたので、お二人のこともぜひお聞きしたいと思いました。
監督も奥様も恥ずかしそうに笑う。
監督:簡単にお話します。作家協会のメンバーになっていたのですが、女性の友人から電話がかかってきて、ある女性が短編映画を作っていて、別の友人がインタビューをしたいと言っているのですが、映画監督ではないので、相談に乗ってほしいといわれました。SNSでアカウントを調べて、映画を観て、彼女に連絡しました。女性の友人から、とても綺麗な子よと言われてました。
― 映画は傘がシンボル。ヤームル(雨)さんという名前は映画にぴったりのパートナーですね。
監督:2013年に脚本は出来てました。詩を書いて、SNSで彼女に送りました。まだ会っていない段階でした。2017年末に実際に会いました。運命です。
― 彼女と出会ってから、さらに脚本を煮詰めたのでしょうか?
監督:脚本は最初とあまり変わっていません。
― イラストが専門の彼女と出会ったのはよかったですね。
監督:素晴らしい映画が出来るよう、神様が彼女を送ってくれました。
― 映画の中で、「黄色い傘を作っているけど、国内には黒しか売れない」と出てきました。
日本では、小学生が色の目立つ黄色い傘を持つことが多いです。トルコでは?
監督:トルコの伝統では、黄色は悲しみを表します。ノスタルジーを表す色でもあります。
2013年、『影』という短編でも、黄色の傘を使いました。
― イランでは、黄色は病気の色と言われてます。
◆女優は音の反響で動く技術を学んで撮影に臨んだ
― 時計屋さん「Ahkab Saat」が、とても古風で素敵でした。Sener Amcaが、エミニョニュに行ってくると言っていたので、あの近くの坂道に時計屋があるのでしょうか?
監督:エミニョニュのある旧市街ではなくて、新市街が舞台です。ニシャンタシュの裏手です。そのほか、ベシクタシュ、イェディクレ、サリエル、ブユカダ島で撮影しています。
― 女優さんは、どのようにして見えない役に取り組まれたのでしょうか?
監督:彼女の友人に視覚障碍者の方がいて、その方に音の反響で動く技術を教えてもらいました。コンタクトレンズをつけて見えないようにして練習しましたが、撮影の時にはコンタクトレンズはしないでとお願いしました。
男優さんは素朴な感じですが、有名な方です。撮影担当のセリム・バハルさんがキャスティングをしてくれたのですが、素晴らしい人選でした。
― とてもクラシックな雰囲気の映画ですが、トルコの人たちの感想はいかがでしたか?
監督:ボスポラス映画祭で上映されましたが、公開はまだです。
◎『エフラートゥン』Q&A
2023年7月17日 11時~ 映像ホール
登壇者:ジュネイト・カラクシュ監督、ヤームル・カールタル・カラクシュ(編集、VFXアドバイザー、アニメーション)
司会:プログラミング・ディレクター 長谷川敏行
通訳:野中恵子
長谷川: 盲目の女性エフラートゥンは、手で認識して時計修理を行っていますが、目が見えないと難しいのではないでしょうか? お父さんが目の見えない彼女の為に、指導したという設定なのでしょうか?
監督:父親は彼女が物音とその反響によって、物や人を認識できるように教えていました。盲目の彼女が人生を生きられるように、小さい頃から時計の修理の技術も教えてきました。時が人生に影響してほしいと、時計の修理ができるように教えたという設定です。視覚障害者も、健常者と同じことが出来ることを表したかったのです。調べてみて、時計の修理もできるとわかりました。
ヤームル:オスマン帝国時代にも、アンティークの時計を目の見えない方が修理していたことが調べてわかりました。
長谷川: お父さんが影絵で鳥を教えた場面ですが、トゥルルという不死鳥がはばたいていくところが好きです。あの鳥は伝説の鳥ですか?
©Karakuş Film
ヤームル:神話にあるもので、トルコにもあるし、世界のほかのところでも存在すると思います。空想的に描きました。不死鳥(フェニックス)は、炎が燃えるような鳥。この映画では、青や薄紫(エフラートゥン)で描きました。希望や夢を表しました。
鳥のデザインについて監督と話して、どう猛でもなく、可愛いいものでもない、誇り高く、しなやかで、力強いものにしました。子どもの頃に鳥と信頼関係を繋いだという設定なので、何か月もかけて考えました。トゥルルという鳥とは友人関係です。
監督:盲目の彼女にも友人がいて孤独じゃないということなのです。
*会場から*
― トルコ政府の助成金を得ていますが、資金はどのように?
監督:製作費集めには大変苦労しました。トルコ共和国の文化観光省映画総局からも融資を受けましたが、大半は自分の貯金です。日本に時々行く学術関係者の方から日本円で融資も受けました。だから、日本の皆さんも資金面で貢献してくださっているのですよ。
ヤームル:撮影が終わって、2日後にコロナでロックダウンになりました。ポストプロダクションに時間がかかることになってしまいました。私たちは結婚しているので、家で二人で作業することができました。監督の思い入れが強いので、時間がかかりました。 経済的にも、コロナで停滞して、どうしていいかと思いましたが、監督が望む形で完成させることができました。
監督:言っておきたいことがあります。トルコでは、インディペンデント映画に、文化観光省映画総局が援助してくれます。
― 映画の中で、女性のエフラートゥンという名前と、男性のオフラズという名前の意味は同じだと言っていましたが、花か色の名前なのでしょうか?
監督: エフラートゥンは、紫色の独特な花の名前で、アナトリアではオフラズと呼ばれているのです。
また、トルコでは、ギリシャの哲学者プラトンのことを、エフラートゥンと言います。
ヤームル: 世の中のものは映し出されてイデアに上がってくるというプラトンのイデア論をヒントにしています。「見えるものとは何か?」という問い、つまり視覚のことを問うています。
『エフラートゥン』 Eflatun
監督:ジュネイト・カラクシュ
出演:イレム・ヘルヴァジュオウル、ケレム・バーシン、ナザン・ダイパー、エルマン・オカイ、メリサ・アクマン、ユルディズ・クルトゥル、セミハ・ベゼク、ローザ・チェリック
*物語*
救急車が行く。事故。
黄色い傘を差した女性
©Karakuş Film
時計屋「Ahkab Saat」
時計の修理をする盲目の女性。
時計を修理に持ってきた男性、盲目の女性しかいないので、また来るというが、大丈夫と預かる女性。
時計屋は、1980年にエフラートゥンのお父さんと始めたと語るセネルおじさん。
翌日、時計を預けた男が来る。
「昨日の時計は、故障じゃなくて、少し疲れていただけ」と女性。
「人間と時計、似てるね」と時計の持ち主。
ゼンマイ付きの時計。
「長く使われてなかったのは、持ち主に嫌われてて?」
「亡き父の時計」と男。
さきほどバックギャモンをしに行ってくると出ていったセネルおじさんが、別の日だったと帰ってくる。
ちょうど仕事を終え、女性が外に出ると雨。
先ほどの男性客が傘を差してくれる。
「オフラズ」と名乗る男。
「エフラートゥン」と盲目の女性。
オフラズが父の遺したカメラでエフラートゥンを撮る。
「オフラズベイ」とエフラートゥンが呼びかけると、ベイはつけなくていいとオフラズ。
「36枚撮りのフィルムが見つからない」とオフラズ。
後日。
時計を取りにきたオフラズに「時計の修理代はいらない」というと、「じゃ、コーヒー」と誘い、一緒に出掛ける。
「父の好きな色は穏やかな空の色。薄紫色。それをエフラートゥンと言うの。私の名前に付けてくれた」
カセットテープを聴く
♪あなたは 何色?♪
何の音が聴こえる?
エフラートゥン、壁に手で鳥の影を映す。
「父が目の見えない私に指を使って教えてくれた」
鳥は、トゥルルというカラフルな伝説の鳥。
母は父に「夢ばかり与えないで。形は見えないのだから」と言っていた。
嵐の日。オフラズが来る。
「傘が人を傷つけるのが嫌だから傘は差さずに来た」と、濡れているオフラズ。
エフラートゥンがコーヒーを入れて戻ると、オフラズは寝ている。
日めくりのカレンダーを父といつも一緒にめくっていた。
亡くなった日のまま。1996年?月。
オフラズの母から電話がかかってくる。
「友達のところにいる」というオフラズに、「別れた妻に冷たすぎる」という母。
「写真の人のところね」と母
色の話をする。
「黄色は傘。父が黄色い傘で空を飛べるって」
「ピンクは綿菓子」
オフラズが好きなのは木登り。落ちそうになって、お陰で両親は離婚しなかったという。
二人で木登りして、木の幹に座る。
©Karakuş Film
オフラズから、「ブユカダ島に叔母がいる」と言われ、エフラートゥンは一人で訪ねる。
「オフラズと特別な関係になろうと思うなら諦めて」と言われる。
時計屋でオフラズが待っている。
オフラズに店番を頼んで、エフラートゥンは家へ。
ベッドにつまずく。父から貰った黄色い傘を探す。
家に籠るエフラートゥン。オフラズから電話。海に行く。
「やり残したことがあるの。昔の黄色い傘を見つけた。魔法の傘かどうか確かめたい」
飛べなかった。母が正しい。
海辺に立つ二人。 水面に二人が映る。
ショールでオフラズの目を覆う。目を開けないで。
開けた時にはエフラートゥンは立ち去っていた・・・
時計屋に行くがいない。
家に電話するが出ない。
ドアの前にカセットを置きかけて、持ち帰るオフラズ。
船に乗るエフラートゥン。 ブユカダの白い家へ。
「顔だけでなく心も美しいのね」と、オフラズの叔母。
「オフラズは早産で生まれた。地元でエフラートゥンをオフラズというの。私が名前を付けた。人生に偶然はない」と叔母。
また嵐。オフラズが来る・
「帰って!」とエフラートゥン。
「お別れを言いにきた。カセットを持ってきた」
「僕の傘を返してくれる?」
その傘をオフラズが差して、二人で腕を組んで歩いていく・・・・
二人の姿がイラストに
♪美しい音楽♪
景山咲子