フランス映画祭 祝! 30回! 3年ぶりにゲストを迎えた盛大なオープニング

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1993年、当時のユニフランス会長で映画プロデューサーのダニエル・トスカン・デュ・プランティエにより横浜で始まったフランス映画祭。 2006年に会場が東京に移されましたが、2018年に13年ぶりに横浜に戻ってきました。
30回の節目を迎えた今年のフランス映画祭には、コロナ禍で叶わなかったフランスからの来日ゲストも3年ぶりに駆け付け、盛大なオープニングセレモニーが開かれました。
また、みなとみらいホールでのオープニングセレモニーの後には、コロナ禍での産物ともいえるドライブインシアターでのイベントも開かれました。

☆フランス映画祭2022 横浜 オープニングセレモニー☆

2022年12月1日(木)18:30~19:30
会場:横浜みなとみらいホール

5時半の開場を待ち構えたお客様たちが続々入場。満席の会場で、まずは30周年映画祭VTRが上映されました。
続いて、真っ暗な会場で舞台の袖のグランドピアノにスポットライトが当たり、映画音楽作曲家でシンガー・ソングライターの世武裕子さんによるピアノ演奏。フランス映画『軽蔑』『愛人/ラマン』『アメリ』『ぼくの伯父さん』のサントラに続き、間奏に『ロシュフォールの恋人たち』のメロディーを挟みんだあと、世武さんオリジナル作品の「みらいのこども」が歌唱付きで演奏されました。力強い演奏に圧倒され、会場から大きな拍手がおくられました。
ここで、MCの矢田部吉彦さんが登場。日本語とフランス語の両方で会場に語りかけました。さすが、流暢なフランス語です。先ほどの選曲について、世武さんから、フランス映画の中から思い出の名曲を少しずつと、みなとみらいホールでの開催なので、未来に向けて「みらいのこども」を組み合わせたことが語られました。
矢田部さんから、1993年に始まったフランス映画祭が30回を迎えたこと、2020年からコロナの影響で、それまでしばらく6月に開催していたのを、12月に変更したこと、ゲストを迎えられなかったのが、3年ぶりに大勢のゲストをお迎えできたことが説明されました。

ユニフランス代表ダニエラ・エルストナーさん挨拶
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「関係者の皆さま、会場の皆さま、大きくて美しいみなとみらいホールでお会いできたことに感動しています。30回目を祝うためにいらして下ったことに感謝します。日本の観客の皆さまにこそある映画祭です。開催のために多大な協力をしてくださったパートナーの方たちに、ユニフランスを代表して感謝申しあげます。これからアーティストがご挨拶に登壇します。初めて日本に来た者もいます。大半はパリから参りましたが、ブルターニュなど地方から来た者もいますし、ニューヨークの映画祭を終えて駆け付けた『あのこと』のメンバーもいます。オードレイ・ディヴァン監督、おめでとうございます! 
多彩なフランス映画を楽しんでいただき、ゲストと交流をはかってください。観客賞にはエールフランスが協力してパリ行の航空券も当たります。オープニングに上映する『EIFFEL(原題)』ではパリの姿をご覧いただけます。ロマン・デュリス演じる主人公の愛とロマン溢れる作品です。フランス映画祭は、日本とフランスの交流の場です。この映画祭は、作品を通して過去と現在のフランスの姿を映し出します。そこには常に映画監督の視点があります。彼らの巧みな演出で衝撃を受けたり、感動したり、喜びを味わうこともできます。映画祭の成功を祈りつつ、わたしの映画への愛を語りたいと思います。(日本語で)映画バンザイ! アリガトウゴザイマス」

山中竹春横浜市長
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「ようこそ、横浜へ。記念すべき30回目となるフランス映画祭、フェスティバルミューズに石田ゆり子さんをお迎えして開催いたしますこと、横浜市長として大変光栄に、嬉しく思っています。ユニフランス、日産自動車の皆さまにも感謝いたします。3年ぶりにゲストが来日してくださいました。交流も楽しみです。横浜では、12月をフランス月間としています。夜はイルミネーションで、みなとみらい全体で心ゆくまでご堪能ください。」

フィリップ・セトン駐日フランス大使
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「今回、30回目となるフランス映画祭で横浜に伺うことができて嬉しく思います。日仏間の文化事業の中で、映画祭は最も大きなイベントです。同時に日仏間の交流において、横浜が占める位置が大きいことを皆さんもご理解いただけているのではないかと思っております。12月はフランス月間で、時期に多くの催し物が行われているからです。フランス映画祭が30回目を迎えたのも、日本の皆さんが変わることなくフランス映画を愛してくださっていることを証明しています。今季あの開催に合わせ、3年ぶりにゲストの来日が果たせたことも嬉しく思っております。30回目となり、これまで支えてきてくださったことを感謝します。特に横浜市と日産自動車、そしてユニフランス、ミューズを務めてくださる石田さんに感謝申しあげます。何より、映画を輸入し配給してくださる方々にも感謝します。私の願いは、これからの30年も続きます様、それが横浜で行われますことです。」

日産自動車株式会社 田川丈二専務執行役員チーフサステナビリティオフィサー
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「ここ横浜は日産自動車発祥の地であり、このホームタウンでフランス映画祭が開催されますこと、心より嬉しく思っております。電気自動車に限定したドライブインシアターも、ユニークな取り組みだと思っております。映画祭をどうぞ楽しんでください。」


幕下から賑やかな声がして、いよいよゲストが登壇。矢田部さんが一人一人のお名前を呼び、壇上に4列になって並びました。

☆フランス映画祭代表団 登壇ゲスト☆
マルタン・ブルブロン(監督) 『EIFFEL(原題)』
ロマン・デュリス(俳優) 『EIFFEL(原題)』
エリック・グラヴェル (監督) 『フルタイム 』
バンジャマン・ヴォワザン(俳優) 『幻滅』
アラン・ウゲット(監督) 『イヌとイタリア人、お断り!』

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オードレイ・ディヴァン(監督) 『あのこと』 写真:右
アナマリア・ヴァルトロメイ(俳優)『あのこと』 写真:左
ミカエル・アース(監督) 『The Passengers of the Night (英題)』
ローラ・キヴォロン(監督) 『ロデオ』
パスカル・グレゴリー(俳優) 『ワン・ファイン・モーニング(仮)』
メルヴィル・プポー(俳優) 『ワン・ファイン・モーニング(仮)』
エロイーズ・フェルレ(監督) 短編『くすんだ海』『風の娘たち』
クロエ・アリエズ(監督) 短編『崩れる関係』
ヴィオレット・デルヴォワ(監督)短編『崩れる関係』
ブリュノ・コレ(監督) 短編『記憶』
サラ・ヴァン=デン=ブーム(監督)短編『レイモンド、もしくは縦への逃避』
ルイーズ・メルカディエ(監督) 短編『姉妹』
フレデリック・エヴァン(監督) 短編『姉妹』

来日ゲストの最後に、『EIFFEL(原題)』マルタン・ブルブロン監督と主演のロマン・デュリスが登壇した後、石田ゆり子さんが登壇。

フェスティバル・ミューズ 石田ゆり子さん
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「皆さんこんばんは。下手くそですが、フランス語のあいさつを用意してきましたので、これからフランス語でご挨拶したいと思います。間違えっていたら許してください。
(ここからフランス語で) 紳士、淑女の皆さま。横浜の皆さま、そしてフランスの皆さま、こんばんは。フランス映画祭、30周年おめでとうございます。私にとってフランスは、世界のどこよりも感銘を受ける国です。ですので、こうして皆さんと一緒にいられて本当に幸せです。フランスから来てくださった皆さま、本当にありがとうございました。日本での日々を堪能してください。ありがとうございました」

この後、マルタン・ブルブロン監督とロマン・デュリスさんの簡単なスピーチの後、石田ゆり子さんと共に開幕宣言。
ロマン・デュリスさんの口から、日本語の「腹、へった」が聞こえたのですが、訳した矢田部さん、「覚えた日本語も」と愛を込められていました。

フランス映画祭横浜2022の大きなパネルが運び込まれ、全員でフォトセッション

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正面真ん中にいた公式カメラマンの方からは、お顔が重ならないよう立ち位置を調整されたのですが、舞台に向かって右端にいた私からは見えない方々も。


◆オープニング作品『EIFFEL(原題)』舞台挨拶
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矢田部さんより物語の説明と、ロマン・デュリスさんの出演作について最新作『キャメラを止めるな!、』や『真夜中のピアニスト』、マルタン・ブルブロン監督については、コロナ後の大作『三銃士』の監督に抜擢されたことが紹介されました。

ロマン・デュリスさんの「モシモシ」という第一声に、矢田部さん、「あらためて挨拶をお願いします。そして、エッフェルさんがどのような人なのかもお話ください」と促しました。
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ロマン・デュリスさん「エッフェルは何も恐れない人。エッフェル塔を建てるという果てしない夢を着実に実現した革命家です。彼は合理主義で天才ですが、好きな女性の前では弱いところを見せてしまう人間的な感情も持っています。とても魅力的な人物です」

続いて、矢田部さん、ブルブロン監督には、エッフェルを描くきっかけや、魅力を尋ねました。
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「この企画は数年前から温めてきたものです。誰もが知っているエッフェル塔について語ることに野心を持ちました。エッフェルの人間的な部分も一緒に見せたいと思いました。。気に入っていただければ嬉しいです」とこれから観る方たちに語りました。


★ドライブインシアター 『EIFFEL(原題)』舞台挨拶★
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オープニングセレモニーの後、みなとみらいホールから歩いて5分ほどのところにあるパシフィコ横浜 国際交流ゾーン プラザ広場にドライブインシアターが設置され、ここでもオープニング作品『EIFFEL(原題)』が上映されました。こちらは電気自動車(EV)でご来場いただける方を応募し招待して行われました。電気自動車なら、日産自動車に限らず応募できたとのことです。

まずは、駐車場の後ろの入り口からレッドカーペットを歩いて、脇にあるイルミネーションライトの下でフォトコール。
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左から、フィリップ・セトン駐日フランス大使、ユニフランス代表ダニエラ・エルストナーさん、マルタン・ブルブロン監督、石田ゆり子さん、ロマン・デュリスさん、日産自動車株式会社 田川丈二氏、山中竹春横浜市長

最後の「ありがとうございました」の声に、「ドウイタシマシテ」と応えるロマン・デュリスさんでした。

次に、正面スクリーンの下で舞台挨拶。
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MCは、オープニングセレモニーと同じく矢田部吉彦さん。
ゲスト登壇前に、EV車で来場された方たちに、ハザードランプでの拍手の練習。
「先ほど、華やかにフランス映画祭は開幕しました。ゲストの来日は3年ぶりです。コロナ禍でもできるドライブインシアターが企画されました」と紹介。

スクリーンの枠は、ビニールを膨らませたような素材。(ゴムボートのイメージ?)
スクリーンの脇から登壇したロマン・デュリスさん、珍しそうに思わず触ってみます。続いて入ってきた石田ゆり子さんも、真似て触っていました。

日産自動車株式会社の田川丈二氏、「今日はこんなにたくさんのEV車が来てくださって、カーボンニュートラルを進める日産としてはうれしい限りです。いつもの劇場ではなく、ぜひ車の中のプライベート空間でフランス映画を楽しんでいただければと思います」

石田ゆりこさん「私もはじめてこのような経験をして、ビックリしています。今の時代ならではの、すてきな発明だなと思います、私も車から映画を観たいです」

ユニフランスのエルストナー代表「ハザードランプで迎えていただいてとても感動しました。震えているのは感動なのか寒さなのか・・・ 」
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ロマン・デュリスさん「日本に来られたのは夢のようです。車の中で、しかもEV車の中でフランス映画を観てくださることに、監督と一緒にびっくりしています」

ブルブロン監督「日本は本当に大好きな国。来られて幸せです。車の中で楽しんでください」

この後、エッフェルについて、矢田部さんより問われ、ロマン・デュリスさん:エッフェルは天才的なクリエーター。エッフェル塔や世界中の橋を作り、カリスマ的な人物だけど、監督から自由に演じていいよ、人間的な部分も出していいよと言われました。観に来てよかったという映画になっていると思います」
監督からは「二つの映画のジャンルを結び付けることができると思いました。エッフェル塔の建設と、エッフェルという人物を語ることで人間臭い部分も出せると思いました。」

最後に、矢田部さんが石田ゆり子さんに、「いつか二人とのお仕事もあるかもしれないですね」と言うと、「そんなそんな」と謙そんしつつも、「フランスが大好きで、フランスの文化、歴史、芸術、本当にすべて大好きですので、今日、こうして皆さんにお会いできるだけで夢のようです。共演の機会がありましたらよろしくお願いします」と石田ゆり子さん。
ブルブロン監督も「僕もそう願っています」と笑顔を見せました。その様子に、ハザードランプで拍手を送る観客の皆さん。
ロマン・デュリスさんの「じゃ、また」の日本語でドライブインシアターでの舞台挨拶は終了しました。

★『EIFFEL(原題)』は、『エッフェル塔〜創造者の愛〜』のタイトルで2023 年3 月 3 日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
作品紹介: http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/498339020.html


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上から眺めたドライブインシアター

★Facebookに アルバム「フランス映画祭2022 横浜 オープニングセレモニー&・ドライブインシアター」をアップしています
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.589442023183387&type=3

報告:景山咲子


東京国際映画祭 キルギス『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督Q&A報告 (咲)

コンペティション
『This Is What I Remember(英題)』
原題:Esimde
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監督:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト、ミルラン・アブディカリコフ、タアライカン・アバゾバ
2022年/キルギス・日本・オランダ・フランス/キルギス語、アラビア語/105分/カラー

キルギスの村。クバトは、ロシアに出稼ぎに行き20年間行方不明になっていた父ザールクを見つけて連れ帰る。父はロシアにいる間に記憶を失っていた。母は夫が亡くなったと思って、村のほかの男と再婚している。クバトは父を村のあちこちに連れていくが、記憶は戻らない・・・

『馬を放つ』(17)で知られるキルギスを代表する映画作家アクタン・アリム・クバトの最新作。

TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP14


●Q&A
2022年10月27日(木)18:30からの上映後-
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登壇ゲスト:アクタン・アリム・クバト(監督/脚本)
司会:市山尚三(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)

アクタン・アリム・クバト監督:まずは映画祭の方々に、この映画を観ていただく機会を与えてくださったことに感謝します。ワールドプレミアで、初めて上映されました。ビターズ・エンド代表の定井勇二さんのお陰で、製作から配給まで可能になりました。心から感謝しています。

市山:ロシアに出稼ぎに行って起こる物語。よくあることなのでしょうか?

監督:個人のストーリーをネットで読んで、2~3年経ってからそれをもとに映画を作りました。キルギスの人がロシアに出稼ぎに行って帰ってきたけれど記憶を無くしていたという個人の実話に、周囲の人たちの話を空想で付け加えています。

市山:モデルになった方は、記憶を取り戻したのでしょうか?

監督:観客の皆さんに私も聞きたいことです。我々は皆、記憶を取り戻したいと思っていると思います。皆さんはどう思いますか?


*会場からの質問*

―(男性)監督のデビュー作『あの娘と自転車に乗って』を、確か渋谷で拝見しました。続編か後日談のように思えました。

監督:スパシーバ(ありがとうございます)。続編と捉えていただき、ありがとうございます。これまで作ってきた映画は、子どものころ、私自身の人生を描いてきました。この映画ですべてを集めて語ろうと思いました。前の6本も、同じロケーションです。俳優も同じ人もいます。主人公ザールクという息子を演じたミルラン・アブディカリコフは、私のほんとの息子です。

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©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

―(男性・英語で)主人公の住む村のコミュニティと、イスラームの導師たちとの考え方の違うように感じました。敬虔な人と、そうでもない人がいるのでしょうか?

監督:私の経験したイスラームは、地元の伝統に結び付いていました。現代のイスラームは暴力的になって、伝統と食い違うことが多いように感じます。伝統を大事にしたい人たちは、イスラームを信じているのですが、心の一部には、伝統的なテングクの気持ちが残っています。私自身、信仰に反対ではなくて、アラビア風のイスラームには抵抗を感じています。その考えを主人公の一人である女性を通じて表そうと思いました。
彼女は夫が亡くなったと思って再婚しているので、イスラームの教えでは元夫のもとに行くことはできないのですが、最後には自分を取り戻して元夫のもとに行きます。
イスラームでは、神様にアラビア語で呼びかけます。私の考えでは、神様との繋がりは、自分の言葉(キルギス語)でしたいと思っています。

― (男性)主人公を追いかけて橋まで行く姿をカメラが追っているのは意図的?
また、息子のTシャツの7番には意味があるのでしょうか?


監督:カメラはいつも動いていて、カットせずに回しています。すべて手持ちカメラです。
7番というのは、キルギス語の諺に、「7人の人は皆、聖人」という言葉があります。主因河野息子は、自分の父と同じ価値があるという意味を込めています。息子はサッカーをやっているので、好きなサッカー選手の背番号が7番かなと思います。

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イスラームが起こったサウジアラビアでの厳格な解釈ではなく、伝播した地では、それぞれの伝統を大事にした形でのイスラームでいいという監督の考えを知ることのできたQ&Aでした。イスラームを過激に解釈する人たちの姿が、イスラームのイメージを悪くしている状況を憂いているのだと感じました。クバト監督のこれまでの作品にも、そのことを描いた場面があったのを思い出しました。

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©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

元妻は同じ村の男と再婚していて、夫が帰ってきたことを内心喜ぶのですが、ザールクは記憶を失っていて、自分の妻のことも思い出せないのです。(再婚しているので、かえって幸い?) あることがザールクの記憶を呼び戻しそうなラストに、ほろっとさせられました。
本作は、ビターズ・エンド様の配給で公開されることと思います。もう一度、ゆっくり拝見して、監督の思いを味わいたいと思います。

景山咲子



◆TIFF公式インタビュー
「今のキルギス人は家族や環境に対する考え方が変わってしまった。理性をもって物事に向き合ってほしいと。」
第35回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督インタビュー
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60671



東京国際映画祭 イスラエル映画 『アルトマン・メソッド』 Q&A報告 (咲)

アジアの未来
『アルトマン・メソッド』
The Altman Method
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監督:ナダヴ・アロノヴィッツ
出演:マーヤン・ウェインストック、ニル・バラク、ダナ・レラー
2022年/イスラエル/ヘブライ語/101分/カラー
作品公式サイト:https://www.shvilfilms.com/films/thealtmanmethod
TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3502ASF01

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©A.N Shvil Productions Ltd.

女優のノアは妊娠中。アパートの清掃をしている黒ずくめのアラブ女性に、床が濡れているので、きちんと綺麗にするよう注意する。そんな折、空手道場の経営不振にあえぐ夫ウリが、清掃員に成りすましていたテロリストを「制圧」したことが評判となり、道場は危機を脱する・・・


●Q&A
2022年10月31日(月)12:42からの上映後 

登壇ゲスト:ナダヴ・アロノヴィッツ(監督/脚本/プロデューサー/編集)、マーヤン・ウェインストック(女優)、ニル・バラク(俳優)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).通訳:松下由美

石坂:2回目のQ&Aです。
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ナダヴ・アロノヴィッツ監督:東京で1週間過ごして、わくわくする東京の日々です。初来日で、自分たちの文化と遠いと感じつつ、映画言語は普遍だと思います。

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マーヤン・ウェインストック:来日できて光栄です。2回目のQ&Aなのでリラックスできると思っていましたが、もっと緊張しています。監督に同意です。日本文化への理解が深まりました。日本人は静かですが、好奇心が旺盛で、知りたい気持ちが伝わってきます。

ニル・バラク:二人に同意です。食事が素晴らしい。ガソリンスタンドでも美味しいものが食べられました。人として繋がり、歓迎してくれているのが嬉しいです。

石坂:1回目のQ&Aで、武道は柔道や合気道など日本武道に精通していらっしゃるという話が出ました。空手を実際にされるのですか?
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ニル:イスラエルでとても空手はポピュラーです。5~10歳の子たちは、ほとんどが空手をやってます。柔道チャンピオンもいます。空手の道場にも指導者の姿を観に行ってみました。様々な流派があります。合気道は勝ち負けはありません。芸術的なものがあります。私が演じた夫は、勝ち負けに興味があります。白黒はっきりさせたい人物です。アート系は妻に任せています。

*会場からの質問*
―(男性)わくわくしながら観ました。驚いたのは、襲われる事件や、警官との証拠のやりとりの実際の場面は映されなくて、観客としては嘘かもしれないとも思わせられました。心理描写で引っ張っていく演技に工夫をされたのでしょうか?


監督:ありがとうございます。謙虚に受け止めます。観客に見せていない部分を埋めてもらおうと思いました。気持ちを掻き立てるものを用意しました。映画はノアの視点で描かれています。何が起きたかは、ノアは人から聞いて推測するしかないのです。ノアと一緒に旅をしてもらう形で描いています。2作目も、もっと観客に委ねる作り方をしたいと思っています。

マーヤン:とても素敵な質問をありがとうございます。監督から撮影は時系列には行わないので、何も考えずに状況に身を傾けてほしいと言われました。親友と一緒のシーンでは、愛する夫がいて、友がいるという気持ちで演じました。ストーリーのどこを撮っているのか考えたりもしました。けれども、監督からは共演している人とのことは、その場で感じて演じればいいと言われました。

― (女性)最後のガソリンスタンドで、彼にここが汚れているといくつか指摘するシーンですが、何か言いたいけれどやめようと。どういう気持ちだったのでしょうか?

監督:オープンに終わらせたかったのです。彼女は何か言いたいけど、男性の表情を見て、もう言わないでおこうと。言葉で言わなくても、映画は映像で伝えることができます。

マーヤン:彼の表情を期待せずに見て、わずかに距離が縮んだと思います。それまではパレスチナ人ということで、一個人として見てなかったのです。
夫が殺めた女性の夫に実際に会って交流できたことで、彼が笑っているのを見て、自分の道を歩み始めていると感じたのです。ノアはまだやっと自分の道を歩み始めたところです。これ以上何か言っては・・・と、やめたのです。

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夫が、清掃員を装ったテロリストのアラブ女性からナイフで刺されそうになったので、「制圧」したという場面は映されず、正当防衛だったと語る夫の言葉のみ。「制圧」したという場面を映像で見せなかったのは、この物語を妻の目線で描いたからと監督。なるほど!と納得でした。 それにしても、「アラブ人・パレスチナ人=テロリスト」が一人歩きする悲しさを感じました。妻ノアが真実を見抜いたことに救われた思いでした。

景山咲子



◆公式インタビュー
監督が本作を作った背景がよくわかります。ぜひご一読ください。
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60620