東京国際映画祭 『第三次世界大戦』 主演女優マーサ・ヘジャーズィさんインタビュー (咲)

コンペティション部門 審査委員特別賞
『第三次世界大戦』
原題:Jang-e Jahani Sevom 英題:World War III  
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監督:ホウマン・セイエディ
出演:モーセン・タナバンデ、マーサ・ヘジャーズィ、ネダ・ジェブレイリ
2022年/イラン/ペルシャ語/107分/カラー

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©Houman Seyedi

映画の撮影現場で日雇いで働いていた男シャキーブは、エキストラから、さらにヒトラー役に抜擢される。地震で妻子を亡くしたシャキーブにとって、唯一の慰みだった聾唖の売春婦ラーダンを、撮影現場のヒトラー邸に匿うことになる・・・
(★物語の詳細は、インタビューの後に掲載しています)

◎主演女優マーサ・ヘジャーズィさんインタビュー

10月31日(月) 18時25分からのQ&A付上映の前にお時間をいただきました。
(Q&Aは、末尾に掲載しています)
通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん

◆4か月かけて手話をマスター
― たまたま撮影現場で働いていたシャキーブが、いきなりエキストラとして強制収容所のユダヤ人になってガス室でシャワーを浴びせられ、さらにヒトラー役に抜擢されるという話に大笑いでした。 マーサさんは、どのようにしてラーダン役に選ばれたのでしょうか? 

マーサ:オーディションがありました。私の年齢位のあまり顔を知られていない役者を探しているとのことでした。最初は演じてみるというテストはなくて、監督といろいろ話しただけでした。やってくれれば嬉しいといわれました。

― 手話がもともとできたことが決め手だったのでしょうか?

マーサ: 手話はまったくできませんでした。人生の中で苦労したことは? といった質問を監督から受けました。 どれくらい役に近づけるかを確かめたかったのではないかと思います。 トレイナーのもとで手話を習い始めて、時々、監督が覗きにきました。 撮影の1週間前まで、やってもらうかどうかわからないと言われていましたが、それでもいいと手話を習い続けました。
(注: 監督から最初に貰った台本は、自分のパートだけのもので、セリフは書いてあって、実は手話だとは思わなかったと、この後のQ&Aで明かしています。)

― 言葉を発することができない役のご苦労は?

マーサ: 台詞なしで表現するのは難しいです。オーバーアクトにならないようにしました。手話を使っている人に見えないといけないので、少しでも近づけるよう、映画を観たり、実際に手話を使っている方に会ってみたりしました。身体のどこかが不自由だと、どこか別の場所が強くなるものだとわかりました。部屋の中でピアノを弾くシーンで、シャキープが先に外からの光に気が付くと台本に書いてありましたが、耳の聴こえない役の私の方が視覚が鋭くて、先に気が付くのではないかと監督に言って、変更してもらいました。

― ラーダンが隠れていた撮影セットのヒトラーの家が燃やされて、ラーダンの生死がわかりません。焼け跡からは彼女の腕輪が出てきました。 脚本を読まれた時に、どのような結末を予想しましたか?

マーサ:最初にもらったシナリオは、自分の出るパートだけでしたので、どうなるのかわからなくて、ドキドキしました。映画を観る方たちと同じように、生きていてほしいと思いました。ラーダンは彼を騙そうとしたのではなく、誠実な彼に惚れたのだと思います。


◆イランの撮影現場が垣間見れる映画
― 映画の撮影現場を映し出した映画で、イランではこういう風に映画を作るのだと興味深かったです。

マーサ: 撮影現場そのものですね。

― スタッフやキャストが一緒に食事をしている場面は、実際のもの?
 
マーサ:まさにそうです! 実際に、この映画のスタッフとキャストが一緒に食事をしている場面そのものです。ただ、エキストラが地べたに座って食事していたのは、監督の演出で、ほんとはエキストラの人たちも一緒にテーブルを囲んで食べていました。

― ロケ地は、茶畑がみえましたが、ギーラーン州でしょうか?

マーサ: 撮影をしたのはギーラーン州のフーマンです。

― フーマンといえば、クルーチェ(胡桃の入った焼き菓子)ですね! 友達がいて行ったことがあります。懐かしいです。

マーサ:映画に出てきたホテルに皆泊まっていました。私も懐かしいです。

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◆俳優でもあるセイエディ監督
― ヒトラーの話が終わったら、次は、サッダーム・フセインの話。世界には今も独裁者が次々に出ています。ホウマン・セイエディ監督は、ベネチアから帰ってきてパスポートを取り上げられたと聞いています。日本に来られなかった監督から、東京での上映にあたって、どんなメッセージを預かってきましたか?

マーサ:特にメッセージは託されませんでした。ただ、監督がパスポートを取り上げられたのは、ベネチアから戻ってきた時ではなくて、その後の抗議デモが始まってからのことです。 監督というのは独裁者になりがちですが、セイエディ監督は、穏やかな方です。

― ホウマン・セイエディ監督は、俳優としても活躍されています。マーサさんが出演された『The Pig』のマニ・ハギギ監督も俳優でもあります。マーサさんから見て、俳優経験のある監督の良い点は?

マーサ:演技経験のある監督の場合、ベテランの役者にとってはやりにくいこともあるのかもしれませんが、私は経験が浅いので、細かく演技指導してもらえてよかったです。
シャキープ役のタナバンデさんは、監督もしたことがあるので、セイエディ監督とどうだったのかわからないのですが、一緒のミーティングの時に、「この方がいいのでは?」と言った時に、受け入れられることもありました。


◆両親は医者になるのを期待していた
― マーサさんのインスタグラムにずっと女優になりたいと思っていたと書かれていました。いつごろから女優になりたいと思っていましたか?

マーサ:小さい時に女優になりたいと思ったけれど、実は勉強がすごくよく出来て、親は医者になってほしいと期待している雰囲気でした。高校を終える18歳頃まではすごく勉強しましたけれど、やっぱり女優になりたいと思って、演劇の塾に通い始めました。

― 憧れている女優さんは?

マーサ:メリル・ストリープです。


◆短編映画を製作中!
― 映画の中で、Neda Jebraeiliさんが演じていた助監督ザーレが、かっこよかったです。あのように、実際、女性も映画の現場で活躍している方が多いのでしょうか?

マーサ: はい、とてもたくさんいます。

― マーサさんも、いつか映画を作りたいと思っていますか?

マーサ:もちろんです! 実は脚本も書いたりしています。短編はいくつか具体的に準備しています。

― マーサさんの作った映画をいつか観られることを楽しみにしています。 今日はどうもありがとうございました。

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取材:景山咲子


*物語*  ロングバージョン
シャキーブは、地震で妻子を失い、知り合いの雑貨屋で寝泊まりして日雇いで暮らしている。時折、町外れの売春宿で聾唖のラーダンに相手をしてもらうのが、ささやかな楽しみだ。
ある日、日雇いの現場に行くと、泥まみれになりながら鉄条網を張ったり、小屋を作らされたりする。映画の撮影現場だった。電気もない小屋に泊まり込みで見張りをし、昼間は、雑用と厨房の手伝いをすることになる。
撮影現場で作業をしていると、いきなり囚人服を着ろと渡される。追い立てられて狭い部屋に入れられ、上からシャワーを浴びせられる。第二次世界大戦中の強制収容所のガス室だった! 
ヒトラー役が発作を起こし病院に運ばれる。シャキーブは監督からヒトラー役に抜擢される。髪を切り、髭を整え、メイクをして、シャキーブはヒトラーに変身する。セリフはあとから被せるから、1,2,3と数えていればいいと言われる。夜も、電気のつくヒトラーの赤い屋根の邸宅に泊まることになる。
そんな折、ラーダンから、売春宿でドラッグを打たれたので逃げ出したいと連絡が来る。近くの茶畑に迎えに行き、赤い家に案内する。昼間の撮影中、ラーダンは床下に隠れることにする。
売春宿のファルシードが訪ねてきて、ラーダンを知らないかと聞かれる。
否定するが、結局、匿っているのを知られ、1億5千万トマーンを要求される。
ラーダンから、金の腕輪を売って足しにしてと言われるが、シャキーブは断り、母が緊急手術することになったと、プロデューサーから前借する。ファルシードに金を渡しに行って戻ってくると、撮影現場から火が出ている。赤い邸宅を爆破している!!!
ラーダンに電話するが出ない・・・

シャキーブは、母親が聾唖だった為、手話ができます。地震で妻子を亡くしますが、その時に不在だったために義兄はシャキーブが妻子を置いて逃げたと思っていて、墓参りもさせてもらえないでいます。その寂しさを埋めてくれていたのが、ラーダンでした。
雑貨屋の友人からは、「知らない女と寝るような危険なとこに行くな。ばれたらあそこは放火される」と注意されます。「相手にするのは一人だけ」と答えるシャキーブ。
ラーダンも、手話で話せるシャキーブには心を開いている様子。
匿ってもらっているうちに、一緒に暮らしたい、子どもも欲しいというくらい、打ち解けていきます。シャキーブも若いラーダンからそう言われて、心の隙間が埋まっていく思いなのです。
赤い家のセットを燃やすことは言われたはずなのに、シャキーブは心ここにあらずで、聞きそびれていたのでした。 火をつける前に、家にいる者は出るように伝えたと言われますが、ラーダンは聞こえないのです。
けれども、売春宿のファルシードからは、ラーダンは売春宿に戻っている、お前は騙されたと言われます。さて、ラーダンは無事生きているのでしょうか・・・
(日本で公開されるかもしれないので、話はここまでで!)


◎Q&A
10月31日18時25分からの上映後

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登壇ゲスト:マーサ・ヘジャーズィ(俳優)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).
通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん

石坂:2回目のQ&Aです。

マーサ:コンバンハ。 サラーム! ここにいられることがとても嬉しいです。1回目は、観客の皆さんと一緒に映画を観れて嬉しかったです。今日は一緒にみられませんでしたが、今こうして一緒にいるのが嬉しいです。
監督から先ほどメッセージをいただきました。「東京国際映画祭に行って、皆さんと一緒に映画を観たかったのですが、自分の選んだ道ではなく、イランから出ることができなかったのです」

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ホウマン・セイエディ監督 ©Houman Seyedi


石坂:臨場感のある作品でした。手話の役作りはどのようにされましたか? また、台本はどのように渡されたのでしょうか? 

マーサ:監督から自分のパートの台本しか最初は貰っていませんでした。セリフは書いてあって、手話とは思いませんでした。本読みも何度か監督とやりました。途中から監督が少しずつ役について説明してくれて、手話だとわかりました。撮影前に4カ月、トレーナーについて手話を学びました。やっとすべてのセリフを手話でできるようになりました。

石坂:全体像は、最初はわからなくて、だんだんわかって理解するという、監督の演出方法だったのですね。

マーサ:まさにそうです。自分とシャキープのやりとりの部分しか貰ってなくて、外の世界がどうなっているか全く知りませんでした。最後の方になって脚本をもらって全体がわかりました。


◆会場より
―(男性)素晴らしい映画をありがとうございます。男ならではの質問ですが、髭を生やしているシャキープと、髭のないシャキープ、どちらが好きですか? 私にとって髭を剃るのはとても大変なのです。

マーサ:(笑う)シャキープにとっては髭を剃るのが大変だっただけじゃなくて、髭を剃ってしまい、ヒトラーのような古いスタイルの髭を付けなくてはいけないので、大変な役でした。

―(男性)この映画は非道徳的なテーマを取り扱っていると思うのですが、演技をするに当たって気をつけたことや、監督と話し合って、こういう方向性にしたいと考えたことはありましたか?

マーサ:撮影に入る前に監督とたくさん話しました。アンネ・フランクというユダヤ人をイメージしてくださいと言われました。ラーダンがどういう背景や考えをもっているのか? なぜ今の自分の生活から逃げたいのかを話してくれました。役柄を理解した上で、撮影が始まりました。もう一つ、セットがすべて出来て、撮影を始める前に、監督は「5分下さい」と言って、もう一度、私のキャラクターの深いところを話してくれて、お陰で心構えができました。

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―(男性) ポスターは映画の印象を裏切るもので、もだえ苦しむ感じしか受けません。そういう映画ではないので、日本で公開するなら、イメージが悪いので変えた方がいいと監督に伝えてください。
主人公は、女性の金のブレスレットを見て、錯乱状態で最後の行動に出るに至ったのでしょうか? 
大きな疑問が残るのは、綺麗な聾唖の若い女性が、3人でも4人でも子供を産んでもいいと言ってましたが、あのような中年の男性と合わないです。監督はどういう意図で二人を組み合わせたのでしょうか?


マーサ:(また笑う) ポスターのことは必ず監督に伝えます。
シャキープは家が燃えているのを見て、彼女があそこで死んでいると信じていたのですが、ブレスレットが最後の留めになりました。それで、行動に出たのです。
シャキープとラーダンが似合うかどうかですが、彼女は今の泥沼から出たいと、最初はシャキープを頼ろうとしただけだったのですが、だんだん、彼の優しさに惚れました。顔や姿は関係ないのです。

石坂:時間が来てしまいました。最後に一言お願いします。

マーサ: 皆さんともっと話したかったのに、時間が来てしまい残念です。映画について、もっとお話ししたかったのですが、ご質問やコメントは興味深いものでした。日本で公開できましたら、またその時に私だけでなく、ほかのキャストも来てお話しできれば嬉しいです。

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★会場の男性たちからの質問は、マーサさんも苦笑するしかないものでしたが、マーサさん、上手に交わして答えていました。
1回目のQ&Aの時にも、「イランの人たちは、ヒトラーを知っていますか?という質問が出て呆れたのよ」と、ショーレさんより聞かされていたのでした。 もっと撮影現場のことなどを話したいとおっしゃっていたのでした。



報告:景山咲子



公式インタビュー
イランの風刺劇『第三次世界大戦』、ろうあ役のヒロインは4カ月かけ手話習得
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60491



東京国際映画祭 トルコ映画『突然に』Q&A報告 (咲)

アジアの未来 『突然に』
原題:Aniden 英題:Suddenly 

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監督:メリサ・オネル
出演:デフネ・カヤラル、オネル・エルカン、シェリフ・エロル
2022年/トルコ/トルコ語/115分/カラー

*物語*
夫と一緒に30年ぶりにドイツのハンブルグからイスタンブルに帰ってきたレイハン。突然、嗅覚障害に襲われた彼女はショックを受け、海辺の昔暮らしていた町を訪れる。幼馴染の女性からムール貝を買うが、彼女はレイハンだと気が付かない。夫は、生のムール貝の匂いがよくて美味しいと言い、ハンブルグに帰りたくなくなりそうだという。
長い間、離れて暮らしていた母との確執は、なかなか解けない。レイハンは黙って母のもとを離れ、亡き祖母の遺した家に住み、ホテルで働き始める。そこで彼女は盲目の教師やホテルに長期滞在している人と知り合う。ようやく抑圧されていた気持ちを表に出せるようになる・・・

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イスタンブルの町がどんよりしていて、レイハンの気持ちを表しているようでした。
レイハンは足を引きずって歩いているのですが、その理由は、小さい頃のイスタンブルでの出来事にありました。かつて、アイススケートをしていたレイハン。てっきりアイススケートでの事故と思ったのですが違いました。

◆Q&A
10月26日(水)14:55からの上映後

登壇ゲスト:メリサ・オネル(監督/プロデューサー/脚本)、フェリデ・チチェキオウル(脚本)、メルイェム・ヤヴズ (撮影監督)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).

監督(メリサ・オネル):お招きくださり、ありがとうございます。チーム全員、興奮しています。トルコから遠く離れた地で、どのように受け取られたかを感じることができて嬉しいです。どのように心に届けることができるかを考えております。

脚本(フェリデ・チチェキオウル):日本にいながら、ホームベースから遠く離れた感じがしません。お互い議論し、互いを否定することもあれば違いを認めあうこともある形で映画を作りました。東京に来て、静かな形で皆様と繋がっている気がします。イスタンブルは賑やかでうるさい町です。ここ東京では静けさを感じて、ほっとしています。

撮影監督(メルイェム・ヤヴズ) :メルハバ。ここに来られて表現のしようがないほど嬉しく思っております。3年前に脚本を読んだ瞬間から、私の心に染み入るものがありました。一人の人間として撮影監督として携わることができて嬉しく思っております。

石坂:チームのほとんどが女性だそうですね。
(注:来日したのも女性3人ですが、女性の多い製作チームだったそうです。プロデューサーは産休で来られなかったとのこと。その他、アート・ディレクター、照明、助監督も女性)
『突然に』というタイトルは、どのような思を込めてつけたのですか?

監督:自分の人生を変えようと決心する時、計画を立てたわけでもなく、主人公は突然決心します。人生において、真実というのは、突然訪れるのではないかと思います。勇気のいることです。突然、ちゃんと生きようと決心します。このタイトルはどうだろうと相談しました。タイトルから重さを排除したかったのです。チームで話して、このタイトルでいいのではということになりました。


*会場から*
―(男性)美しくて、興味深い作品でした。音響にこだわられていました。環境音や生活音がとても気になりました。

監督:ありがとうございます。音響は映画の中でとても大切な部分だと考えて作りましたので、嬉しいコメントです。主人公がイスタンブルの町を歩きまわりながら、自分を探す物語です。私たちが懐かしく思うイスタンブルを描きたいと思いました。音を通してイスタンブルを知っていきます。イスタンブルに命を吹き込むにはビジュアルだけでなく音も大切だと思いました。感情を感じていただくのに音は大事です。ロケはトルコとドイツの両方で行いましたので、環境音も両方で録音する必要がありました。

―(女性)体験に一部重なるところがあって、映画を観ていい経験ができました。  
監督に伺います。主人公は事故にあって、ドイツとトルコに分かれて家族が暮らしています。トルコとドイツは関係が深いと思います。ドイツという場所、ドイツ語で吹き込んだ場面もありました。ドイツがこの作品にどのような効果を与えたのでしょうか?


監督:答えになるかどうかですが、レイハンは自分の記憶を嗅覚を通じて繋げようとします。嗅覚を失っていて、故郷を喪失したともいえます。自分の身体も失ってしまった感じなのです。ドイツが象徴するのは、自分を失ったほかの場所です。皆でドイツに行きましたが、母はドイツに父とレイハンを置いたまま帰りました。レイハンは、トルコに戻り、人生を取り戻そうとしますが、既に30年経っています。

脚本:映画には出てきませんが、皆で話し合ったことがあります。ドイツのような寒冷地にあるところでは匂いもあまりありません。イスタンブルから離れたレイハンは嗅覚を失ってしまいます。イスタンブルに戻って町と繋がろうとするのですが、うまくいきません。一度、故郷を去った者にとって、必ずしも故郷は待ってくれているところではありません。

―(男性)テーマになっている女性の心理は理解できているかどうか自信はないのですが、レイハンはどうなるのかはらはらしながら見ました。この物語は、いつ頃発想して、どれくらいの期間で書かれたのでしょうか? スケートのシーンが出てきたときに、スケートで傷害を起こしたのだと思ったのですが、そうではなかったことにも驚きました。

脚本:監督と3回目の仕事でした。共に旅をしている感じです。いろいろ探って、一歩ずつ共にストーリーを作っていきました。コロナの前でしたが、嗅覚を失うことを思いつきました。コープロデューサーにお会いしたら、急に嗅覚を失ったことがあるとお話しされました。そのころ、私がたまたま足を怪我をしていて、どこにも行けない状態でしたので、この物語を思いつきました。共に航海する形で作りました。 監督は映画を感じる人、私は言葉の人間で口数が多いです。

石坂:撮影監督としては、室内もあれば海辺もあります。撮影が大変だったと思うのですが、どんなところに気をつけられたのでしょうか?

撮影監督:シナリオを読んだ時に、ずいぶん旅することになると思いました。楽しいことで光栄でした。様々な音や色が出てきます。 ボートの場面から始まって一つの長い旅になると思いました。監督や撮影チームや俳優の皆さんと話し合うプロセスは素晴らしいものでした。レイハンが公園に行ったり、窓を開けたり、様々なドアを開けていく物語で、そのたびに自分も開けていく感じでした。いろいろなことがありました。音も重要でしたし、最後には嗅覚にたどりつきました。

報告:景山咲子


Q&A動画
https://youtu.be/eGNomSK2U24


◆公式インタビュー
「観ている人が、それまでずっと止めていた息を吐き出す表現ができればと」ーー第35回東京国際映画祭アジアの未来部門出品作品『突然に』メリサ・オネルイ監督、フェリデ・チチェキオウル(脚本)インタビュー
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60542


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東京国際映画祭 『クローブとカーネーション』 Q&A報告 (咲) 

アジアの未来
『クローブとカーネーション』
原題:bir tutam karanfil  英題:Cloves & Carnations
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『葬送のカーネーション』のタイトルで公開されます!
2024年1月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBIS GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
公式サイト:https://cloves-carnations.com/


監督:ベキル・ビュルビュル Bekir Bülbül
出演:シャム・ゼイダンŞam Zeydan (少女ハリメ)
   デミル・パルスジャンDemir Parscan (おじいさんムサ) 

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©FilmCode

冬の南東アナトリア。
太鼓の音と銃の音。小雪の舞う中、白い馬に赤いベールの花嫁が乗っている。
踊る人たち。料理が振舞われる。
ラジオからは、「今朝、難民が国境を越えようとして亡くなった」というニュースが流れている。
年老いた難民の老人ムサは孫娘ハリメを連れ、亡き妻の遺体の入った質素な棺桶を引きながら国境をめざしている。
質素な棺を荷台からおろすムサ。手伝ってくれた人に「シュクラン」とアラビア語でお礼をいう。
孫娘ハリメはトルコ語が出来て、肝心な話の時には通訳してくれる。
孫娘と二人で棺を引いて荒れた大地を行く。
なかなか乗せてくれる車はない・・・  言葉の通じない地で、手助けしてくれる人もいる。
トラクターに乗せてもらう。
棺はまずいといわれ、ハリメはモスクから段ボールを貰ってきておばあさんを入れる。
国境近くまでいくというトラックに乗せてもらう。
ハヴァという老婆。「人生は短いの。死は別世界に行くこと」とハリメに語る
グローブの絵が描かれた箱に入ったキャンディをもらう。
ムサ キャンディを嬉しそうに口にする。
グローブは歯の痛みを和らげるのよといわれる。
国境近くのチェックポイントで捕まり、牢屋に入れられてしまう。
「死体は国境を越えられない」と言われ、ムサはここで死体を埋葬すると断念する。
アラビア語の書かれた緑の布に覆われた棺に入れた遺体を埋葬する。
ハリメ、おばあさんの墓に赤いカーネーションを添える。
故郷に埋めてあげたいと鉄条網の向こうを眺めるムサ・・・・

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©FilmCode


『クローブとカーネーション』Q&A
2022年10月28日(金)15:00からの上映後

登壇ゲスト:ベキル・ビュルビュル(監督/脚本/編集)、ハリル・カルダス(プロデューサー)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).
通訳:野中恵子さん

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石坂:初上映を観客席でご覧になりました。

監督(ベキル・ビュルビュル):メルハバ。とてもワクワクして興奮しています。世界の一つの端からやってきて、映画を共有することができ、とても嬉しいです。4年前に祖父を亡くしたことや、新聞で読んだことをもとに、妻と一緒に発展させて映画にしました。私の祖父もいつも生まれ故郷に行って死にたいと思っていました。私の最初に作ったドキュメンタリー『ブルグルの水車』も、老人と死に関するものでした。私の父も自分の土地に行って死にたいと言っていました。そうした老人たちの心の中の不安や心配を取り上げて、ストーリーを作り上げました。

プロデューサー(ハリル・カルダス):今日はワールドプレミアの私たちの映画をご覧いただきありがとうございました。

石坂:文化的背景、政治的背景、言葉がトルコ語と地元の言葉が出てきますので、そのあたりを簡単に教えてください。

監督:私たちの国には難民が多くいます。私たちの地区にも大勢いて、難民から見た物語を考えました。新聞で読んだニュースももとにしています。亡くなった親族を故郷に連れ帰りたいと行く途中で捕まってしまった方もいました。なぜ人々は自分の国や土地に戻りたいのか、その努力をなぜするのだろうか。元々のところに戻るために私たちはあるのだろうかと考えて、難民をベースにした物語を考えました。

石坂:シリア難民でしょうか?

監督:そうですが、シリア難民だけでなく、今、私たちの国には、アフガニスタン、ウクライナ、ロシアなどたくさんの難民の方がいます。それを明らかに示そうとしたわけではありません。政治的な材料にしようとは思っていませんでした。世界中の難民について、他の国でも同じことがいえるということをテーマにしたいと思ったのです。

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©FilmCode


*会場から*
―(男性)ラストに近いシーンで、警察に捕まっている時、少女がミルクをもらいますが、飲まずに落としてしまいました。印象的だったのですが、あのシーンの意味は?

監督:ミルクと子供は、二つとも純粋さの象徴です。世界中どこでも同じです。難民になって警察に捕まってしまうという状況では、純粋さが失われてしまいます。

―(女性)お棺を見続ける映画を初めて観ました。ロードムービーというとキラキラして未来があるのに、どうなるのだろうとドキドキしました。監督として、これだけは持って帰ってほしいというメッセージがありましたら教えてください。

監督:内面のことを問いただすことを考えて作り上げた映画でした。旅というのは自分の精神と一つになっているものです。私たちは母体から生まれ子どもになり、成長して老人となり、やがて亡くなります。その旅路でもあります。自分たちが持っている身体というのは、運ばなければならない義務があります。これをロードムービーに結び付けました。

―(男性)とても役者の表現が素晴らしかったです。キャスティングと現場でどのような演出を心がけていたのか教えてください。

プロデューサー:キャスティングには長い時間をかけました。とても大変でした。撮影前に撮影地区に行き、シリア人の難民を見つけました。他にも、いろいろな人物を見つけました。少女役のシャム・ゼイダンは、あの地区に住んでいるシリア人です。小学校でトルコ語を学んでいます。長い間、接してみて、彼女の俳優性も見出しました。おじいさん役は、マイナス20度のところで演じることのできる人を探すのが大変でした。デミル・パルスジャンさんは70代で、彼の手振りや、ちょっとした表情が素晴らしかったので、彼なら出来ると信じて採用しました。

石坂:本作は出来上がったばかりですが、彼らは完成作品をまだ観ていないのでしょうか?

監督:はい、まだです。

石坂:観る機会があるといいですね。

監督:トルコでのプレミアの時に観ることができると思っています。

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報告:景山咲子