文化庁映画賞 受賞記念上映会

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池畑美穂

文化庁映画賞(文化記録映画部門)受賞作品受賞記念上映会が、東京国際映画祭の期間中である、2022年10月30日(日)に開催された。文化庁長官が、日本の文化として、映画はもちろん演劇や美術など日本芸術の日本からの海外発信が必要と、授賞式の挨拶でおっしゃっていた。
受賞作品の上映後、受賞者がゲストとして登壇し、作品の背景や製作秘話などを伺うことができた。

文化映画記録部門大賞 『私だけ聴こえる』
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監督:松井至
2022年/カラー/76分制作テムジン/リトルネロフィルムズ

この作品は、アカデミー賞作品賞『コーダ あいのうた』(2022年)でスポットライトがあたったコーダ(CODA=Child of Deaf Adults 聾唖の親を持つ子供)を主人公にした作品である。
2011年の東日本大震災で、アメリカのテレビ局のレポーターとして来日していたアシュリーさんは、両親、祖父母4世代にわたり聴覚障害の遺伝があった。自身の出産でも、生まれてくる子供に遺伝がないか心配だったという。
松井監督は仕事を通してアシュリーさんと知り合い、2015年にアメリカ現地をおとずれる。そこで、15歳の健常の子供が、聴覚障害の親とは手話で、社会では言葉で…と、親を社会とつなぐ架け橋になっており、この子供世代を総称して、「CODA」ということを知る。

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いっぽう日本では、優性保護法の判例で、聴覚障害者の子供は1人で、あとは産めない様に、不妊処置が取られたケースがある。これではCODAの数が限られてしまうと思う。私自身、地元の障害者センターでの勤務や、手話の初級講座を受講、中難手話の会参加、デフ協会の方との交流経験から、聴覚障害当事者だけでなく、その子供の会をCODAの会(聴覚障碍者の家族会)として、各市町村で立ち上げて、手話が聴覚障害者の家族とコミュニケーションを取る手段であることを広めることが必須だと思った。そして、その長所を生かして、手話講座の講師やアシスタントの育成と、映画の中にあるコーダキャンプでのコーダたちの心の悩みを傾聴して、受容して、否定しないで非審判的態度で、希望が持てるようにしてあげるソーシャルワーカーの育成も急務だと思う。
さらに、2025年に東京で招致が決まったデフリンピック東京大会に向けて、各都道府県での手話通訳ボランティアの育成や、渋谷の東京都聴覚障害者連盟にある自立支援施設での手話のできる社会福祉士、精神保健福祉士の育成が、CODAが目指す将来の選択肢として必要だと思う
上映会で松井監督は、日本のCODAキャンプに密着したドキュメンタリー映画を次期作とする、とおしゃっていたのでとても楽しみである。また、『カナルタ 螺旋状の夢』の太田光海監督が質問されて、他者の自己理解ということで、新進監督同士で、親交を深められていた。

*シネジャの『私だけ聴こえる』作品紹介はこちら



優秀賞『うむい獅子 -仲宗根正廣の獅子づくり-』
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監督:城間あさみ
2022年/カラー/58分 制作株式会社海燕社

古代、獅子舞は、アジア各地、そして日本でも全国的にみられる伝統文化である。その中でも特にシーサーに象徴される沖縄での獅子舞の愛され方は特徴的だ。城間監督は、師弟関係にあたる野村岳也監督と沖縄戦を舞台にした作品の構想を練っていたが、野村監督が逝去された。その後、沖縄の伝統文化を追ったドキュメンタリー作品を制作している。
本作品は、木彫刻師、中曽根正廣氏が300年の歴史をもつ獅子舞の獅子頭を彫る過程を丹念に取材したドキュメンタリ―作品である。
沖縄の地元に根ざした映画づくりを続ける城間監督は、これまでも唯一日本で連合軍と地上戦となった沖縄を題材にした作品を製作してきたが、あわせてシーサーやぶくぶく茶、ゆんたくなど、地域の繋がり、助け合い、共助のなど沖縄の伝統文化の伝承も重要であると考えている。その一つとして獅子頭づくりがある。
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上映会のトークショーで、城間監督が、故人の野村監督に話が及ぶと涙ぐまれたのをみて、監督の心の喪失感が感じられた。時間が悲しみを癒してくれるにちがいない。支援者の助力により、新しい作品を制作することで、新たな希望が湧いてくることを願います。


優秀賞『カナルタ 螺旋状の夢』
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監督:太田光海
2020年/カラー/121分
太田光海監督は、日本で少年時代を過ごし、パリで人類学の修士号を取得した。そして、カメラや映像などの趣味から、デジタルカメラを自ら回し、フィ―ルドワークとして映像人類学という新しい分野でイギリスのマンチェスター大学大学院において博士号を取得した。
初監督となるこの作品は、スペインの植民地だったエクアドル南部アマゾン熱帯雨林のシュワ―ル族が暮らすケンクイム村が舞台。自らカメラを回し、初の女性村長であるパストーラ夫妻の1年間を追った。 自然の中、たくましく生きる彼らの姿に生命力が感じられる。
シュワール族は、熱帯雨林の中、21世紀の文明社会とかけ離れた日本でいうと縄文時代の生活様式に類似する原住民生活を送っている。政府は、彼らを生きる世界国宝と考え、助成金を出し、原住民を強制的に現代化、文明化するのではなく、逆に、アマゾンの先住民族の生活様式を保存するべく支援している。

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太田監督の次期作は、東京が舞台とのこと。日本人の生活様式や文化をフィ―ルドワークとしてカメラで追うのか、それとも在日外国人の生活模様を題材とするのか、監督の2作品目が期待される。

*シネジャの『カナルタ 螺旋状の夢』作品紹介はこちら

***★***☆***★***


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★写真は、すべて、「公益財団法人ユニジャパン 国際支援グループ」様よりご提供いただきました。





香港映画祭2022

ファンの熱い声援に支えられ、今年も全国5都市にて開催決定!!
2022年11月26日(土)から12月28日(水)まで、全国5都市にて「香港映画祭2022」が開催されます。

■期間・会場
11月26日(土)~12月2日(金) シネ・ヌーヴォ(大阪) 
12月2日(金)~12月8日(木) 出町座(京都)
12月10日(土)~12月16日(金) 元町映画館(兵庫)
12月17日(土)~12月23日(金) シネマスコーレ(愛知)
12月27日(火)、28日(水) ユーロライブ(東京)
※上映スケジュールは各劇場HPをご参照ください。
※ユーロライブのみ12月19日(月)0:00よりLive Pocketにてチケット発売予定。詳細は公式HPをご確認ください。本映画祭について、ユーロライブへのお問合せはお控え下さい。

■プログラム
香港を知る、香港を楽しむ、いま観るべき、日本初公開となる珠玉の19作品をラインナップ!
全国5都市にて開催!上映スケジュール等詳細は、公式HPをご覧ください。

主催:香港映画祭実行委員会
共催:シネ・ヌーヴォ、出町座、元町映画館、シネマスコーレ、シネフィルム、Cinema Drifters
助成:文化庁、ARTS for the future!2
宣伝:大福

公式サイト: https://hkfilm2021.wixsite.com/2022

2022年を締めくくる香港映画祭は日本初公開19作品をラインナップ!

2022年11月26日(土)から12月28日(水)まで、シネ・ヌーヴォ(大阪)を皮切りに、出町座(京都)、元町映画館(兵庫)、名古屋シネマスコーレ(愛知)、ユーロライブ(東京)にて開催されます。
日本ではなかなか観る機会のない貴重な日本初上映作品をラインナップ。日本初上映19作品(短編を含む)が上映されます。
2022年は、映画『男たち挽歌 4Kリマスター版』、ウォン・カーウァイ監督の『WKW4K ウォン・カーワイ4K』、カンヌ国際映画祭でサプライズ上映された『時代革命』、香港が誇る七人の監督による『七人樂隊』、デビュー作で台湾アカデミー賞を席捲した『少年たちの時代革命』、山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞を受賞した『理大囲城』、「Making Waves - Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」開催など、新旧多くの香港映画が公開され話題を呼びました。
香港映画に沸いた2022年の総決算として「香港映画祭2022」は、ここでしか観られないインディペンデント映画から、海外映画祭を席捲した大ヒット映画まで幅広くラインナップ! 新人監督の作品から、トップスターが出演する作品まで幅広いラインナップになっています。香港トップスター故アニタ・ムイの伝記映画『アニタ』で香港アカデミー賞(香港電影金像奨) 最優秀女優助演賞を受賞したフィッシュ・リュウが出演する『風景』、ジャッキー・チェン映画でもお馴染みの名バイプレーヤーの太保(タイポー)が優秀男優賞受賞した『ソク・ソク』(原題:叔・叔)。90年代を代表する女優・李麗珍(ロレッタ・リー)の久しぶりのカムバック作であり、香港映画を代表する呉鎮宇(フランシス・ン)が主演する、実際の事件をベースにした『香港の流れ者たち』(原題:濁水漂流)は、香港映画ファンならずとも見逃せない作品です。
またデビュー作の映画『少年たちの時代革命』(12月よりポレポレ東中野にて公開)で台湾アカデミー賞を席捲した、レックス・レン監督とラム・サム監督の短編集も上映される貴重な機会です。

■香港映画祭2022キュレーター林家威(リム・カーワイ)監督より
香港映画祭2022開催に寄せて(公式HP)
2021年年末に初開催された「香港映画祭2021」は、日本未公開の香港映画7作品を、大阪・京都・神戸・名古屋・東京の全国五大都市のミニシアターで巡回上映し、大盛況のうちに閉幕した。そして今年も香港映画祭がやってくる!
そもそも香港映画祭をはじめたのは、香港の社会と政治の変化を反映した香港映画が多く制作されているにも関わらず、日本の映画祭や配給興行の傾向と合わず、日本に紹介されない作品が多くあったことが大きな理由であった。そうした香港映画の多様性と魅力をもっと沢山の日本の映画ファンに届けたいという思いから、本映画祭ははじまった。今年も同じ趣旨で開催するつもりだったが、1年も経たないうちに日本における香港映画の受容状況に変化があることに気づいた。
エンターテイメント映画やインディ映画、香港では上映禁止となった映画、黄金期の香港映画など、多くの香港映画が日本では次々と劇場公開されており、リバイバル上映や特集上映なども大変賑わっている。そこに配信を含めると、今の日本はおそらく世界中で一番香港映画を観ることができる国である。この映画鑑賞状況は実に健全で素晴らしいことだ。それでも日本に紹介されていない素晴らしい香港映画がまだ数多くあるはずだ。作品の選考から、配給会社や監督たちとの交渉の結果、短篇映画を含め昨年よりも多くの未公開作品(なんと19本!)を本年の映画祭で上映することとなった。

第23回東京フィルメックス 受賞結果

11/5(土)に行われた授賞式で、各賞の発表が行われました。

◆コンペティション 受賞結果

【最優秀作品賞】 
『自叙伝』Autobiography
監督:マクバル・ムバラク(Makbul MUBARAK)
インドネシア、フランス、シンガポール、ポーランド、フィリピン、ドイツ、カタール / 2022 / 116分

【審査員特別賞】 
『ソウルに帰る』Return to Seoul
監督:ダヴィ・シュー(Davy CHOU)
ドイツ、フランス、ベルギー、カタール / 2022 / 116分

【審査員特別賞】 
『Next Sohee(英題)』
監督:チョン・ジュリ(JUNG July)
韓国 / 2022 / 138分
配給:ライツキューブ

【スペシャル・メンション】 
『ダム』The Dam
監督:アリ・チェリ(Ali CHERRI)
フランス、スーダン、レバノン、ドイツ、セルビア、カタール / 2022 / 80分

☆第23回東京フィルメックス コンペティション審査員:
リティ・パン ( Rithy PANH / フランス・カンボジア / 映画監督 )
キム・ヒジョン ( KIM Hee-Jung / 韓国 / 映画監督 )
キキ・ファン ( Kiki FUNG / 香港 / 映画プログラマー )

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◆観客賞
『遠いところ』A Far Shore
監督:工藤将亮(KUDO Masaaki)
日本 / 2022 / 128分
配給:ラビットハウス

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◆学生審査員賞
『地中海熱』Mediterranean Fever
監督:マハ・ハジ(Maha HAJ)
パレスチナ、ドイツ、フランス、キプロス、カタール / 2022 / 108分

学生審査員:
はるおさき(HARUO Saki / 東京藝術大学大学院)、山辺愛咲子(YAMABE Asako / 武蔵野美術大学)、高野志歩(TAKANO Shiho / 立教大学)

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タレンツ・トーキョー

◆タレンツ・トーキョー・アワード2022
「Forte」(ソン・ヘソン(SON Heui Song)/韓国)

◆スペシャル・メンション
「Future Laobans」(マウン・サン(Maung Sun)/ミャンマー)

「TROPICAL RAIN, DEATH-SCENTED KISS」(シャルロット・ホン・ビー・ハー(Charlotte HONG Bee Her)/シンガポール)

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受賞理由など詳細は、こちらで!
https://filmex.jp/2022/program/competition


祝・30周年記念回! フランス映画祭2022 横浜 

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1993年に始まり、今年で記念すべき30回目を迎えるフランス映画祭。
今年は12月1日(木)から4日(日)の4日間、クリスマスシーズンの祝祭感溢れる冬の横浜で開催されます。

フランス映画祭2022 横浜   
Festival du film français au Japon 2022      

期間:2022年12月1日(木)~12月4日(日) 全4日間

会場:みなとみらい21地区を中心に開催

主催:ユニフランス
共催:横浜市、在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
特別協賛:日産自動車株式会社
公式サイト:https://www.unifrance.jp/festival/2022/
★チケット発売中★ https://unifrance.jp/festival/2022/ticket/


11月7日、フランス大使館 大使公邸で行われた記者会見には、ユニフランス代表のダニエラ・エルストナーをはじめ、フィリップ・セトン駐日フランス大使、山中竹春横浜市長、日産自動車の田川丈二専務執行役員 チーフサステナビリティオフィサーらが出席。フランス映画祭2022 横浜の作品ラインアップが発表されました。
今年のフェスティバル・ミューズに決定した石田ゆり子さんも登壇し、「ボンジュール。石田ゆりこです」と、心を込めたフランス語で挨拶。好きなフランス映画のことや、2018年に『マチネの終わりに』という映画の撮影で3週間モンパルナスに滞在した思い出などを語られました。

記者会見の模様はこちらで!
https://unifrance.jp/festival/2022/news/info/1218/


◆上映作品◆

『フルタイム』À PLEIN TEMPS
監督:エリック・グラベル
出演:ロール・カラミー、アンヌ・スアレス、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ

『EIFFEL(原題)』EIFFEL
監督:マルタン・ブルブロン
出演:ロマン・デュリス、エマ・マッキー、ピエール・ドゥラドンシャン、アルマンド・ブーランジェ

『幻滅』Illusions Perdues
監督:グザヴィエ・ジャノリ
出演:バンジャマン・ヴォワザン、セシル・ド・フランス、ヴァンサン・ラコスト、グザヴィエ・ドラン

『イヌとイタリア人、お断り!』Interdit aux chiens et aux Italiens
監督:アラン・ウゲット

『The Passengers of the Night (英題)』LES PASSAGERS DE LA NUIT
監督:ミカエル・アース
出演:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、エマニュエル・ベアール

『あのこと』L'événement
監督:オードレイ・ディヴァン
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ、ケイシー・モッテ・クライン、ルアナ・バイラミ、ルイーズ・オリー=ディケロ

『メグレ(仮)』MAIGRET
監督:パトリス・ルコント
出演:ジェラール・ドパルデュー、メラニー・ベルニエロデオ

『ロデオ』Rodeo
監督:ローラ・キヴォロン
出演:ジュリー・ルドルー、ヤニス・ラフキ、アントニア・ブレシ、コディ・シュローダー

『ワン・ファイン・モーニング(仮)』UN BEAU MATIN
監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー

『VORTEX』VORTEX
監督:ギャスパー・ノエ
出演:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ、キリアン・デレ

フランスのストップモーション・アニメーションの世界
短編映画6作品
『くすんだ海』À la mer poussière
『風の娘たち』Les Filles du vent
『崩れる関係』Les Liaisons Foireuses
『記憶』Mémorable
『レイモンド、もしくは縦への逃避』Raymonde ou l’évasion verticale
『姉妹』Sororelle


◆来日ゲスト一覧(予定)◆
マルタン・ブルブロン(監督) 『EIFFEL(原題)』
ロマン・デュリス(俳優) 『EIFFEL(原題)』
エリック・グラヴェル (監督) 『フルタイム 』
バンジャマン・ヴォワザン(俳優) 『幻滅』
アラン・ウゲット(監督) 『イヌとイタリア人、お断り!』
オードレイ・ディヴァン(監督) 『あのこと』
アナマリア・ヴァルトロメイ(俳優)『あのこと』
ミカエル・アース(監督) 『The Passengers of the Night (英題)』
パトリス・ルコント(監督) 『メグレ(仮)』
ローラ・キヴォロン(監督) 『ロデオ』
パスカル・グレゴリー(俳優) 『ワン・ファイン・モーニング(仮)』
メルヴィル・プポー(俳優) 『ワン・ファイン・モーニング(仮)』
ギャスパー・ノエ(監督) 『VORTEX』
エロイーズ・フェルレ(監督) 短編『くすんだ海』『風の娘たち』
クロエ・アリエズ(監督) 短編『崩れる関係』
ヴィオレット・デルヴォワ(監督)短編『崩れる関係』
ブリュノ・コレ(監督) 短編『記憶』
サラ・ヴァン=デン=ブーム(監督)短編『レイモンド、もしくは縦への逃避』
ルイーズ・メルカディエ(監督) 短編『姉妹』
フレデリック・エヴァン(監督) 短編『姉妹』



◆フランス映画祭の変遷◆
1993年、当時のユニフランス会長で映画プロデューサーのダニエル・トスカン・デュ・プランティエにより横浜で誕生。2006年に会場を東京に移し、2011年より2016年まで、有楽町朝日ホール及びTOHOシネマズ日劇で開催。2012年からは、アンスティチュ・フランセ日本の協力により、地方での開催を実施。
第25回の2017年には、フランスを代表する女優のカトリーヌ・ドヌーヴが団長として来日。フランスでも人気の高い北野武監督が親善大使を務めた。
2018年に13年ぶりに横浜へ場所を移した。

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★これまでにWeb版シネマジャーナルに掲載したフランス映画祭関連記事★

第12回 フランス映画祭横浜2004
〜華麗に軽やかに♪〜
http://www.cinemajournal.net/special/2004/france/index.html

フランス映画祭2009 記者会見&オープニングレポート
http://www.cinemajournal.net/special/2009/france/index.html

フランス映画祭2010 オープニングイベントレポート
http://www.cinemajournal.net/special/2010/fffj2010/index.html

フランス映画祭2011『セヴァンの地球のなおし方』
ジャン=ポール・ジョー監督、古野隆雄さん 舞台挨拶レポート
http://www.cinemajournal.net/special/2011/severn/index.html

フランス映画祭2019 横浜
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/466890900.html

フランス映画祭2019横浜 『カブールのツバメ』 ザブー・ブライトマン監督&エレア・ゴべ・メヴェレック監督インタビュー
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/467418249.html

フランス映画祭2019横浜 『マイ・レボリューション』ジュディス・デイビス監督 インタビュー
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/467414956.html

フランス映画祭2019横浜  『シノニムズ』
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/467418028.html

フランス映画祭2020 横浜
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478862399.html

フランス映画祭 2020 横浜 中東絡みの作品たち  (咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478868949.html




東京国際映画祭 イラン映画『蝶の命は一日限り』モハッマドレザ・ワタンデュースト監督 Q&A報告(咲)

アジアの未来部門 作品賞受賞
『蝶の命は一日限り』
Butterflies Live Only One Day
[Parvaneha Faqat Yek Rouz Zendegi Mikonand]

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監督:モハッマドレザ・ワタンデュースト
出演:マンザル・ラシュガリ、マルヤム・ロスタミ、ネダ・ハビビ
(注:カタカナ表記は映画祭サイトに掲載のものです。
 ワタンデュースト監督は、ワタンドゥーストと表記した方が発音に近いと思います。)
78分カラーペルシャ語、マーザンダラーン語2022年イラン
作品公式サイト:http://vatandoust.art/

戦争の傷跡、老女の執念
イラン北部のダムに沈んだ村の近くで独り暮らす老女。イラン・イラク戦争で死んだ息子の墓はダム湖に浮かぶ小島にあるが、入島は禁じられている。意を決して彼女はある行動に出る。静かな長回しが印象的。(公式サイトより)

*物語*
湖。鳥の声。
「生きる場所は、すべて湖の底に沈んだ。でも、私はここに残った。あの子も寂しくない」と語る老いた女性。

視力検査をするおばあさん。視力が落ちている。
女医さんがこけて、視力検査の道具が散らばる。
1本の義足が投げ出される。戦争の置き土産。

殉教者の写真が並ぶ廊下。役所らしい。
おばあさんの陳情は今となっては無理と言われ、知事室への紹介状を渡される。

林の中の岩場を降り、ゴミ捨て場で鏡のかけらを拾ってくる。
壁に鏡を貼り、湖がいくつも鏡に映る。
「これで、あの子をいつでも見れる」とつぶやくおばあさん。

役所の階段をあがって途中で倒れる。
「なぜ上がってきたの? 受付に紹介状を見せればよかったのに」と言われる。
「あなたの件は、すでに国に報告している。上司も協力すると言ってる」

大きなダム。
ボートで島に渡りたいというが、「管理者として許可できない」と言われる。

元の村の隣人が訪ねてくる。
「あなたは村の誇り。13年も一人で立ち退きを拒んで、ここにいる。一人にしておけない。
皆、村を出たくなかったけど、移住した。あなたの家も建てた。春になったら、また戻ればいい。近くにいてくれれば、皆、安心する」

おばあさんが湖に入ろうとするところが鏡に映る

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こたつの上に食べ物や果物が並んでいる。
ダフにあわせて、手を叩きながら踊る。

ペットボトルで筏を作って湖に出るが溺れそうになる・・・
倒れたおばあさんに差し伸べる手

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島にある祠。
棺に寄り添うおばあさん
息子の墓。
湖ができることを政府から言われ許さなかった。
丘の上に埋葬することは、息子の遺言だったから。
1996年、ダムができることになり、ラフラク村は湖に沈む。
丘は島となって見えているが、島に入る許可は出ない・・・

20万人がイラン・イラク戦争で殉教。

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映画を観終わって、ロビーにショーレ・ゴルパリアンさん! そして、モハッマドレザ・ワタンデュースト監督もいらして、お話することができました。
緑の多い小高い山の雰囲気から、「マーザンダラーン州ですか?」とお聞きしたら、大当たり。監督の故郷の町サーリーの近くだそうです。サーリーには、20数年前に行ったことがあるとお伝えしたら、監督、嬉しそうになさっていました。

映画の最後に「亡き兄アリレザ(2021年没)に」とあったので、お伺いしたところ、去年、コロナで亡くなられたとのこと。この映画にも手助けしてくださっていたそうです。


◆1回目のQ&A
10月26日(水)21:10からのTOHOシネマズ シャンテ1での上映後
(YouTubeより抜粋)

監督:いつかインデペンデントな東京国際映画祭に来たいと思っていた夢が叶いました

石坂:実話からできた映画とのこと。100%実話なのか、映画的に場所など創作した部分もあるのでしょうか?

監督:ストーリーは現実に基づいていますが、夢の中で出てくる場面は創作です。
島は現実にあるものです。ただし、洞窟のようなところを歩く場面は映画のために創作したものです。
最初、新聞で読んだニュースは、「おばあさんが小さな船を作って息子に会いにいきます」という見出しでした。とても興味を持って、調べました。もともとドキュメンタリー映画の監督ですので。この話を映画にした方がいいと思いました。

*会場からの質問*
― (男性)撮影の手法が面白かったです。横にカメラがパンすると人がフレイムアウトして、次の人が入ってくる。

監督:クラシックな撮り方を望んでなくて、この映画も立ち位置を考えました。特別なフォームがストーリーに合わないといけないので、考えて実現させました。時間と一緒に流れていって、夢の中からリアリティに近づくようにしたかったのです。時間がカットなしで変わっていくように工夫しました。
二つ目に考えたのは、主役のおばあさん以外は顔を見せていません。主役だけが大事で、ほかの人は表情を見せなくてもいいと考えました。

― (女性)美しくて、悲しくて、エンディングでは涙が止まりませんでした。圧倒されました。タイトルの意味合いについて教えてください。

監督:脚本を書いていて、最後のシーンでお墓でたくさんの蝶々を飛ばそうと、実際にその場面を撮りました。あとから考えたら、この場面はいらないと決めました。脚本を書く時に調べたら、ある種の蝶々は一日しか生きてない。私たちも蝶々じゃないかと。生まれて飛んで飛んで人生が終わってしまう。まるで、一瞬、一日のよう。蝶々の場面はなくしましたが、タイトルに残して、私たちの人生も一日のように短いということを表しました。

― (男性)美しい映画で感動しました。ラストで長回ししていて、女優さんはかなりタフな方だと思いました。ほかの方は顔は出ないのですが、手だけで演技している方は役者さんでしょうか?
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監督:主役は、最初、有名な女優のゴラーブアディネさんにオファーしたのですが、コロナ禍で、ご自身の舞台と重なって無理だと言われました。撮影監督から、CMに出ている女優さんに会ってみませんかと言われ、会ってみたら、声や歩き方がイメージしていた通りだったので、その場でオファーしました。彼女は舞台役者でフランスのソルボンヌ大学を卒業しています。ロケ地のドキュメンタリー映像や、実際のおばあさんの映像を見せて、彼女に演じてもらいました。
書いた時には手は絶対自分でやると言っていたのですが、実際、監督しながら演技するのは不可能で、アートデザイナーが私がやってもいいですかというので、やらせてみたら、私の柔らかい手より、彼の手は百姓のようで、ぴったりで、彼のために書いた脚本のように思いました。


◆2回目のQ&A
10月28日(金)11:30からの丸の内TOEI Screen1での上映後
(景山咲子取材)

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石坂:監督、客席で一緒にご覧になっていました。

監督:2回、会場で一緒に観ることができました。

石坂:一回目のQ&Aの内容をお伝えしておきます。こだわりが二つあって、一つは長回し。現実と夢をスムーズに移行させています。母親以外は、手だけを映すことにより、母親を強調させています。タイトルですが蝶々は一日で死ぬ、人間の命もはかないことを表しています。最後に蝶々を飛ばす場面を撮ったのですがやめたとのことです。タイトルだけ充分に思いが伝わると。

会場より
― (男性)ユニークで、映像も凄い。場所が独特でしたが、場所ありきで脚本を書いたのでしょうか? シンメトリー的な表現も面白かった。

監督:長回しを使ったのは、一つのシーンで場所と時を移動させ、現実から夢に旅する感じで使いました。ロケ地は現実に基づいていて、実際に島のあるところで撮りました。写真家としてもいろいろな国で撮ってきましたので、ストーリーに合わせて使いました。お墓は実際、ダムを造る時に、住民の許可を得て場所を変えたのですが、遺言で丘の上にと言われていたので、おばあさんは移すことを許可しませんでした。ほかの方のお墓は移されています。

― 鏡が多用されています。
階段の上からとか、手と手が触れ合うなどユニークな撮り方でした。


監督:私のアイディアは、おばあさんも含め、一つのゴールに向けて闘っていくけれど、いろいろな障害にぶつかります。現実に手に入らないと、夢の中で目的にたどり着きます。蝋燭をもってお祈りすることで願いに近づきます。川にペットボトルが流れてきて、これでなんとか船を造って島に渡ろうとするけれど、溺れそうになります。
今まで、たくさん撮ってきましたが、ロングショットはロケーションと人の関係を表せます。キャラクターの詳細を見せたいときには、クローズアップを使います。ミディアムショットは中途半端なので使いません。

― 主役の女性が素晴らしかった。どのようにして見つけたのでしょう?
それまでの人生を表したような顔の表情が素晴らしかったです。台詞は、ほとんどありませんが、感情を感じました。

監督:今のイラン映画では、台詞の多いものが流行っているのですが、沈黙を大事にしたいと思っています。
主役の方は舞台の役者で、映画にはあまり出ていません。舞台の演出もされています。撮影した地域の出身なので、あの地域の服を着て、役に入り込んでくれました。あの地域の女性の気持ちを伝えてくれました。

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クロージングセレモニー

*アジアの未来部門 作品賞受賞を受けて
コンバンハ。アリガトウゴザイマス。
映画祭、審査員の方々に心からお礼を申し上げます。一緒に映画を作った皆さんにもお礼を申し上げます。
東京国際映画祭の方々に特にお礼を申し上げたい理由があります。
賞をいただくととてもインスパイアされるのですが、今は芸術性の高い映画は、ほかの映画祭になかなか招聘されません。東京国際映画祭がアート系の映画を大事にしてくれることは、とても私たちにとって心強いことです。
私たちは監督として一つの社会問題を映画という言語で表現することはとても重要だと思っています。この場を借りて、この賞をイランの強くて素晴らしい女性たちに捧げたいと思います。世界の平和、戦争のない社会を願って、私の言葉を終わります。

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左:アジアの未来 審査委員 ソーロス・スクム氏(タイ、プロデューサー) 右:モハッマドレザ・ワタンデュースト監督
撮影:宮崎暁美


*受賞者記者会見
― 見ていくごとにおばあさんの目的がわかっていく、そして美しい景色と愛に満ちた作品でした。最初から、このような構成にしようと思ったのでしょうか?

監督:その通りです。ワンラインで説明すると、シネマティックな魅力がなくなるので、少しずつサスペンスを入れて、島には何があるのかを徐々に描いていきました。サスペンスを入れなければ、ワンシーンで終わってしまう物語です。

― アジアの未来部門作品賞受賞、あらためて落ち着いてみて、どんなお気持ちでしょうか?

監督:二つ、説明しておきたいと思います。
私は9歳から舞台や映画でたくさんの賞を受賞してきました。作った作品で82回も受賞していますので、映画学校で教えているのですが、学生には賞をもらったらギフトだと思ってください。ギフトをもらったら自分の作った作品は正しかったと。お正月のお年玉のように、翌日に起きた時には、嬉しさが残るだけで、また日常に戻ります。もう一つ、日本の映画祭で賞をもらったことにはとても大きな意味があります。日本は、私たちから見ると、ファンタジアの国。憧れがあります。我々の文化はとても似ています。芸術、文学や詩、絵など、日本人と我々は奥深くでつながっていると思います。日本からいただいたことは意味があります。友達は私にもう少し商業的な映画を作った方がいいのではというのですが、私は自分の心から出てくるものを作りたい。賞をいただいて、自分の道は正しかったと思いました。

― サラーム。シャブベヘイル(こんばんは)。共同通信の加藤さん(ここからは日本語でと)
授賞式に登壇されたときに「強くて素晴らしいイランの女性たちに捧げたい」とおっしゃっていました。今、イランは大変なのかなと想像しているのですが、いろいろ工夫されたり、何か規制があるから芸術性が高くなるのかなと思っているのですが・・・


監督:とても鋭いご質問ありがとうございます。
イランの歴史をさかのぼってみると、文明的に優れた国で、女性の立場はとても大切でした。力をもっていて、決め事は女性がして、聖なる母に特別な場所を与えていました。歴史として心の中に今も持っているのですが、近代、まるで女性にカバーをかぶせたようになっています。けれども、イランの男性は、すべての力は、母や妻、女性たちからもらっていると思っています。女性の立場を理解しています。体制の都合で、家の中にいたりしますが。
もう一つ、検閲があったりすると、もっとクリエイティブになるかというご質問だと解釈しました。女性を自由に描けないときがあるのですが、表現の仕方を変えれば、私たちが考えている女性を描けると思います。検閲はいいことではないのですが、あると、表現の仕方を変えて確かにクリエイティブになると思います。クリエイティブな人は検閲は嫌いで、言われると反発します。


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モハッマドレザ・ワタンデュースト監督には、私にとっての東京国際映画祭初日の10月25日、一番最初に観た『蝶の命は一日限り』のP&I上映の後にお会いして以来、いくつかの映画の上映後にお会いしました。その度に、「今の映画どう思った?」と聞かれ、「よかったけど、もちろん、あなたの映画が一番!」と言い続けていたのでした。(お世辞じゃなく、本心です♪)
作品賞受賞、ほんとうにおめでとうございます!



報告:景山咲子