イスラーム映画祭7 『ソフィアの願い』(モロッコ)

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『ソフィアの願い』★日本初公開
原題:Sofia 英題:Sofia
監督:マルヤム・ビンムバーラク / Meryem Benm'Barek
2018年/フランス=カタール=ベルギー=モロッコ/アラビア語、フランス語/85分
字幕:日本語、英語
予告篇
https://youtu.be/BBdWdhyg0RE

マルヤム・ビンムバーラク監督の初長篇作品。
婚前交渉や中絶が違法のモロッコ。 本作は婚外子を生む20歳の女性ソフィアの物語で、2021夏に公開された『モロッコ、彼女たちの朝』http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/482804629.html
のルブナ・アザバルも出演。

*物語*
カサブランカの海辺の瀟洒な邸宅で両親とともに暮らす20歳の女性ソフィア。親戚が集まって食事中に、ソフィアは破水。医療従事者の従姉のレナが気づいて病院に連れていき出産するが、父親の存在を証明しなければ、婚外交渉として警察に通報されてしまう。出産したことが両親にばれ、ソフィアは、子どもの父親は以前職場で知り合ったウマルだと明かす。両親は下町のウマルの家に押しかけ、結婚式の日取りも決める・・・・


ウマルの父は亡くなっていて、母親は金持ちの娘と結婚できることに、成り行きはともかく内心喜んでいます。ウマルは何も弁明しませんが、あまり嬉しそうではありません。結婚式を3日後に控えた日、ソフィアが驚くべき発言をします。 まだ名古屋・神戸での上映がありますので、真相は明かせませんが、衝撃の作品でした。
家父長制の社会の中で、女性の立場が弱いことには間違いないのですが、本作では女性の家族が金の力で物事を片付けるという格差社会も描いています。
ラストの結婚式。楽団の奏でる音楽の中、新郎新婦の乗った輿が入場してきます。無表情の花婿と、どこか虚ろながら必死に手を振る花嫁の姿が対照的でした。

エンドロールで流れる歌は、ベルベル語。藤本さんは、この歌詞もぜひ字幕にしたいと、堀内里香さんに翻訳を依頼されています。


◆2月24日(木)13:30~からの上映後トーク
《映画に見るイスラーム世界のジェンダー変容》
【ゲスト】辻上奈美江さん(上智大学総合グローバル学部教授/明石書店『イスラーム世界のジェンダー秩序』著者)

まずは藤本さんより、本作は観た人によって受け止め方が違って、反響が大きいことが語られました。抑圧されている社会の中で抵抗している女性という見方をした人が多かったとのこと。
この後、辻上さんと核心に触れる会話があったのですが、ここでは明かさないでおきます。

◆姦通(ズィナー)や一夫多妻について
モロッコでは未婚者の性交渉は違法だが、チュニジアでは未婚者同士の性交渉は違法ではない。 イスラーム学派の違いで国によって法律も違う。
クルアーンに書かれていないことを、後世、どう解釈するかの違い。
チュニジアは北アフリカの中で、最も家族法の発展している国。フランスから独立した時に整備した。 一夫多妻を禁止。男性から3回離婚といえば離婚が成立することも禁止。当時としては画期的な法律。一夫多妻を法律で禁じているのは、トルコとチュニジア。
中東では、夫がどこで浮気しているかわからないより、わかっていた方がいいとか、自分が年を取ったので第二夫人をと考える女性もいる。第一夫人とほかの夫人の間で相互扶助が行われることも。 サウディアラビアで、かつて女性が運転できなかった時代には、例えば第一夫人の息子に運転してもらうというケースもあった。

モロッコの刑法 中絶に対して厳しい。モロッコでは、年間 6千人~7千人の子が出生時に捨てられている。
本作では、モロッコ国内の格差も描いていて、丸く収めようとするのが女性たち。
シングルマザーに対する法律は、日本でもちゃんと整備されていない。
監督は、「貧しくて男性社会に抑圧された女性」というステレオタイプへの異議申し立てとして本作を作ったと語っている。
「家父長制とミソジニーの犠牲者」としてのみ描かれるアラブの女性像と違ったものを描いている。

(景山咲子)


第11回 江古田映画祭 3.11福島を忘れない まだ間に合います(暁)

2月26日から3月11日にかけて「第11回江古田映画祭 3.11福島を忘れない」が開催されています。「3・11福島を忘れない」と、東日本大震災の発生した3月11日に向けて開催されている「江古田映画祭」も11回目をむかえました。
「東電福島第一原発の事故から11年。今年も福島を忘れません。ヒロシマ、ナガサキに加え、旧ソ連の核実験、足尾鉱毒事件の映画や、高校生、大学生の作品も上映します」と、江古田映画祭実行委員会代表の永田浩三さんの提言のもと、「福島だけでなく地球上で起きている核をめぐる動きに関心を寄せてほしい」と、様々な作品が上映されています。興味ある方、ぜひ行ってみてください。

主催 江古田映画祭実行委員会
後援 みどりのまちづくりセンター
協力 ギャラリー水・土・木(練馬区小竹町1-44-1)

江古田映画祭facebookページ

*会場・参加費など 

会場:ギャラリー古藤 東京都練馬区栄町9-16
江古田駅南口から徒歩6分 武蔵大学正門斜め向かい

映画1本 大人 予約1,000円・当日1,200円
大学生・ハンディのある方800円 高校生以下無料 チケット3枚つづり 2,700円 
トークがある場合も上記料金に含まれる
トークのみは500円、「武蔵大学永田ゼミ制作作品」は500円
予約優先 入場各回35名定員制 予約すると200円割引
大震災からの避難者は無料。受付で伝えて下さい。
チケットは電話・メールでの予約を。
電 話 03-3948-5328 メールアドレス fwge7555@nifty.com

3月7日以降の上映作品を紹介します

3月7日(月) 
13:00~ 『まわる映写機めぐる人生』(110分)
15:00~ トーク:編集協力者 四宮鉄男    
16:40~ 『太陽が落ちた日』+監督メッセージ(88分)
19:00~ 『星に語りて~StarrySky~』(115分) 

3月8日(火) 
13:00~ 『Workers 被災地に起つ』(89分)
14:40~ トーク:映画監督森 康行 
16:20~ 『星に語りて~StarrySky~』(115分) 
19:00~ 『スターリンへの贈り物』(97分)

3月9日(水) 
13:00~ 『太陽が落ちた日』+監督メッセージ(88分) 
14:40~ オンライントーク:映画監督ドメーニグ・アヤ 
16:20~ 『原発故郷3650日-福島、それぞれの現在』((70分) 
19:00~ 『朝日のあたる家』(118分)

3月10日(木) 
13:00~ 『一緒に生きたい~自主登校の記録』(60分)
14:10~ トーク:社会福祉士 山崎 正   
15:40~ 『まわる映写機めぐる人生』(110分)    
18:30~ 相馬高校放送局制作4作品+参考映像(60分)
19:40~ オンライントーク:渡部義弘

3月11日(金) 
13:00~ <追悼・長谷川健一>『飯舘村 わたしの記録』(68分) 
14:20~ トーク:フォトジャーナリスト 森住 卓 
16:00~ 『アベ政治を記憶するー2887』(105分)
19:00~ 『ヒロシマへの誓い サーロー節子とともに』(82分)

*トークの講師は変更の可能性あり。江古田映画祭facebookページで確認。

プログラム 両面 表面  裏面 上映スケジュール



イスラーム映画祭7『時の終わりまで』(アルジェリア)

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『時の終わりまで』★日本初公開
原題:Ila Akher Ezaman 英題:Until the End of Time
監督:ヤスミーン・シューイフ / Yasmine Chouikh
2018年/アルジェリア=UAE/アラビア語/94分
字幕:日本語、英語
予告篇 https://www.youtube.com/watch?v=inbUUG5irrE

イスラーム映画祭6で上映された『ラシーダ』のヤミーナ・バシール=シューイフ監督の息女、ヤスミーン・シューイフ監督のデビュー作。
元々は編集者であるバシール=シューイフ監督が娘のデビュー作でも編集を担当しています。

*物語*
アルジェリア西部の山間。スーフィーの聖者シディブーレクブルが祀られている廟を中心に墓地がある。初老の独身男アリーはここで遺体のお清めと埋葬を生業としている。聖廟参詣の祭に人々がバスに乗ってやってくる。最後に降りた一人の女性ジョヘル。彼女は祭ではなく、ここで亡くなった姉エルアーリアを偲びにきたのだった。アリーが、エルアーリアは家にいつも鍵をかけてなかったと声をかける。姉の葬式に夫が行かせてくれなかったが、夫が亡くなり家を追い出され、やっと墓参りに来たと語るジョヘル。ナスィーマという女性に姉の暮らしていた家に案内される。どうやらここで参詣にきた男性の相手をしていたらしいと、ジョヘルは同業のナスィーマに冷たい目を向ける・・・


墓地を舞台に繰り広げられる老いらくの恋?!
遺体のお清め係アリーの同僚ジェルールも独身で、来世で天女フーリーに囲まれて暮らすことを楽しみにしています。導師は、メッカ巡礼の機会が巡ってきてアリーに導師の代理を頼みます。葬儀をしきっているナビールは葬儀ビジネスで一旗あげることを夢見ています。
ある日、海を見たことがないナスィーマを連れて、アリー、ジョヘル、ジェルールは4人で海へ。ジェルールとナスィーマはいい雰囲気になり結婚することに。天女フーリーよりも現世で女性と楽しむことを覚えたジェルールは仕事もおろそかに。アリーも思い切ってジョヘルにプロポーズします。さて、ジョヘルの答えは・・・

時の終わり=現世の終わりを見届けてきた人たちが、あらためて自分の人生を見つめる姿にほろりとさせられました。ジョヘルの姉エルアーリアやナスィーマも、決していかがわしい商売ではなく、お墓参りに来た人たちに食事を提供し、話相手をして近親者を亡くした人の心を癒していたのだとわかります。

この映画のテーマは、イスラームの信仰の基礎である「六信五行」の六信の一つ「来世」。
イスラームでは来世は生まれ変わるのでなく、この世は仮の住まいで、人は死んだあと世界の終末が訪れた時に神様の「最後の審判」を受けて天国行きか地獄行きかが決められるとされています。 この世には終わりがあるけれど、永遠に続く来世のために、ムスリムの人たちは現世で善行を積むのです。
本作には、クルアーンの朗誦が多く出てくるのですが、藤本さんはそのすべての翻訳にもこだわり、字幕をつけています。


◆2月19日(土)16:30からの上映後トーク
《映画から知るアルジェリア―知られざるその魅力》
【ゲスト】和家麻子さん(危機管理コンサルティング会社勤務/アルジェリア滞在歴5年)

和家麻子さん、2013年~2018年 5年間アルジェリアに滞在。 アルジェ、オラン、コンスタンティーヌ。 2013年2月 天然ガスプラントが襲われ、日揮の日本人10名が亡くなられる。当局からはっきりした情報は発表されておらず、軍が襲撃したときに亡くなられた方も。

アルジェリア
人口 4390万人。日本の3分の1.
面積:238万㎡。 アフリカ最大。(スーダンから南スーダンが独立したので)
民族:アラブ人 74%  ベルベル人 25% その他
宗教:イスラーム 99%
言語:アラビア語、ベルベル語、フランス語
在留日本人 和気さんのいた頃、1000人位。1980年:2000人、 2020年:77人
在日アルジェリア人 379人(2021年) 

18030年から132年間 フランス統治
1954年~ 対仏独立戦争
1962年7月5日 独立宣言

*独立戦争を描いた映画
『デイズ・オブ・グローリー』 2006年 仏
『アルジェの戦い』 1966年 イタリア・アルジェリア
『いのちの戦場』 2007年 仏・モロッコ

◆独立後のアルジェリアの歴史と映画
独立前、フランス語で教育。独立後、アラビア語教育。他国から教師を呼んできたが、フスハ(文語)のアラビア語がアルジェリアで実際に使われているアラビア語と違うので、ほとんど外国語を学ぶ感じ。
独立後、民族解放戦線(FLN)による一党独裁体制。
1991年 イスラム救国戦線(FIS)が選挙で圧勝。FLNが選挙結果を無効とし、1992年 クーデター、内戦に。暗黒の10年。
1999年 ブーテリカ大統領 国民和解政策

*内戦を描いた映画
『ラシーダ』 2002年 アルジェリア・フランス
『パピチャ 未来へのランウェイ』2019年 フランス・アルジェリア・ベルギー・カタール
『神々と男たち』 2010年 仏
『インターネットの扉』 2004年
『時の終わりまで』 2017年

◆スーフィズムとアルジェリア
アルジェリア内にたくさんのスーフィー教団がある

アルジェリア最古のスーフィー関連施設:14世紀 アブー・マドヤン・モスク (トレムセン)
歴史家イブン・ハルドゥーンも教鞭をとった
アブー・マドヤン (1126~1198年) :マグリブ地域のスーフィズム普及に貢献。

フランス統治時代、スーフィー教団指導者の影響が大きく、フランスが資産を没収。
20世紀、サラフィー・ジハード主義が台頭し、スーフィズムは異端として施設が攻撃される。
政府はスーフィズムを穏健なイスラームとして後押しし、過激派のジハード主義に対峙する。

(景山咲子)