『天国と大地の間で』★日本初公開
原題:Between Heaven and Earth 英題:Between Heaven and Earth
監督:ナジュワー・ナッジャール / Najwa Najjal
2019年/ルクセンブルク=パレスチナ=アイスランド/アラビア語、ヘブライ語、フランス語、英語/92分
字幕:日本語、英語
予告篇
https://youtu.be/ku9y-Y9xUZs
ドキュメンタリーとフィクションの双方で実績を持つパレスチナ人監督、ナジュワー・ナッジャール監督の長篇第3作。
イスラーム映画祭では、これまでにも毎年のようにパレスチナにまつわる映画が上映されてきましたが、著作権元は欧州の国かレバノンでした。 本作は、初めてヨルダン川西岸の街ラマッラーにある映画会社と取引した作品。
*物語*
ヨルダン川西岸ラマッラーの瀟洒な邸宅で暮らすパレスチナ人夫婦。5年の結婚生活を経て別れることになり、離婚手続きのためイスラエルのナザレにある裁判所に向かう。妻サルマはナザレの生まれでイスラエルの市民権を持つが、レバノン生まれの夫ターメルは許可を貰っての入国で滞在期限は72時間。裁判所でターメルの父の履歴に不明な点があり、それをクリアしないと手続きはできないといわれる。ジャーナリストだった父はベイルートで亡くなったと聞かされていたが、死亡場所はイスラエル北部のガリラヤだという。しかも、ターメルの母親と出会う前に、ハジャルというユダヤ女性と暮らしていたことがわかり、謎を解くために、二人はガリラヤにハジャルを探しにいく・・・
まずは、二人の暮らしているのが、プールもある邸宅であることに驚かされます。妻サルマはスカーフをしてなくて、割と大胆な服装。監督は、固定化されたアラブやパレスチナのイメージを覆す意図があったようです。それにしても、人間関係が複雑でした。上映後に、イスラーム映画祭主宰の藤本さんがミニ解説してくださって、物語の背景や、人間関係を飲み込むことができました。
ターメル:レバノンで生まれたパレスチナ人。親世代が1948年にパレスチナから難民としてレバノンに逃れて、オスロ合意後にヨルダン川西岸に戻った。
サルマ:イスラエルの領土になったところ(ナザレ)に留まったパレスチナ人の子ども。彼女の父親は共産主義者で、宗教色のない家で育っています。
ハジャル:イラクで生まれ育ったアラブ系のユダヤ人でイスラエルに移住してきた。ヘブライ語では、ハダル。旧約聖書に出てくる女性の名前。
(2005年のアラブ映画祭で上映された『忘却のバグダード』で、サッダーム・フセインが、イラクで暮らすユダヤ人約12万人を、財産没収の上、イスラエルに追放したことが描かれていたのを思い出しました。映画に登場したのは、イラクの共産党員だったユダヤ人たちでした。ハジャルも共産党員だったとすれば、ガッサンとの出会いも、そんな繋がりだったのでしょう)
ガッサン:ターメルの父。パレスチナ人のジャーナリスト。パレスチナ人の作家で1972年に暗殺されたガッサーン・カナハーニーがモデル。 ターメルの母親と出会う前に、ユダヤ人のハジャルと暮らしていて、タミールという息子をもうけている。
タミール:ターメルとは異母兄弟。母親がユダヤ人なので、タミールはユダヤ人。赤ちゃんの時に誘拐されて、アシュケナージのユダヤ人に育てられた。
ハジャルは誘拐されたタミールを探し続け、タミールを取り戻すためにガッサンの情報を売り、そのためにガッサンは命を落としたのでした。
★詳しい解説を、岡真理さんが、イスラーム映画祭7 アーカイブに寄稿されています。
サルマとターメルは、ガリラヤやゴラン高原を巡って、再び、ナザレの裁判所に戻ってきます。番号札の48番が呼ばれるのですが、さて、二人は・・・・というところで映画は終わりました。もしかしたら、呼ばれたのをスルーして、手続きをしなかったのかも。
この48番は、1948年のナクバ、最初に裁判所を訪れた時の番号札は、67番で、こちらは1967年の第三次中東戦争の年。
1991年にイスラエルを旅したとき、ナザレやガリラヤにゴラン高原も訪れました。5月の連休で、花が咲き乱れ、のどかな光景でした。その時にはなかった分離壁が映画には映っていて、イスラエルとパレスチナの関係が悪化の一途を辿っているのを感じさせられました。
景山咲子