第34回東京国際映画祭 観て歩き(暁)

2021年10月30日(土)~11月8日(月)

今回、東京国際映画祭の会場がこれまでの六本木から有楽町地区に移ったので去年よりは移動が楽になったけど、会場はシネスイッチ銀座、TOHO日比谷、シャンテ、読売ホールなど観劇の会場そのものがいくつもになり、さらに東京フィルメックスは朝日ホール。私の足では移動に時間がかかり、結局、TOHO日比谷で上映された作品はあきらめた。
その中から東京国際はプレス試写、一般上映合わせて7本の作品を観た。フィルメックスは8本で合計15本。これまで、大体東京国際映画祭で16本くらい観て来たので、だいたい例年通りの本数になった。
ただ今回プレスセンターがTOHO日比谷で、プレス試写会場のシネスイッチ銀座と離れていたので、プレスセンターをほとんど利用できなかったのが残念だった。これまでは空き時間にはプレスセンターに寄り、情報を集めたり、記事を書いたりできたのに、今回は時間的にプレスセンターに行くのが無理でそういうことはできなかった。
プレスカードの引き取りとクロージングセレモニーの申し込みのみ。クロージングの取材申し込みがネットでしか申し込めなかったので、ネット操作に疎い私は、プレスセンターで係の人に聞きながら申し込み申請した。
去年から東京フィルメックスと同時期開催になってしまい、これまで15年近く参加していた東京国際映画祭のオープニング取材は、フィルメックスでの映画鑑賞を優先させたので去年に引き続き参加を諦めた。やはり同時開催ではなく、少し時期をずらして開催してくれたらと強く思う。フィルメックスを少し後ろにしてくれないかな~。来年は久しぶりに東京国際映画祭のオープニングに参加してみたい。
さて、映画祭で観た作品ですが、観た作品から下記作品を紹介します。

『オマージュ』 原題[오마주] コンペティション
108分 カラー&モノクロ 韓国語 日本語・英語字幕 2021年韓国
監督:シン・スウォン[신수원]
キャスト:イ・ジョンウン、クォン・ヘヒョ、タン・ジュンサン

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©2021 JUNE Film. All Rights Reserved.

今年の映画祭で観た作品で、一番印象に残ったのがこの作品。
主人公のジワンは3本の映画を撮った中年の女性監督だが、そのあとの作品がなかなか撮れないでいる。このスランプのジワンがが請け負った仕事が、韓国の女性監督の先達が1960年代に撮った『女判事』のフィルムを修復することだった。元のフィルムは音声の一部と何かのシーンが欠落していた。検閲でカットされたと思われるフィルムを探すシーン、修復の作業の過程を通してその女性監督が辿った苦難の道のりが明らかになってゆく。と同時に、今も変わらぬ女性監督たちの実情も伝わってくる。
2010年東京国際映画祭最優秀アジア映画賞に輝いた『虹』のシン・スウォン監督の新作は、韓国最初の女性映画監督へのオマージュだった。主人公を演じているのは、『パラサイト/半地下の家族』(19)で怪しい家政婦役を演じていたイ・ジョンウン。

ジワンは「安いけど意義のある仕事と、何も考えずにやれる賃金の高い仕事とどっちを取る?」と言われて、このアルバイトをすることになったけど、さりげないセリフの中にユーモアがあったり、先輩監督の苦悩の中に韓国だけでなく世界中の女性監督が被ってきた苦難を表現していたり、最後のフィルムがみつかる思わぬシーンの意外性も素晴らしく感動的な作品だった。
ホームコメディ的な作品かと思うような冒頭の息子とのやりとりのシーンからは、こういうシリアスなテーマを扱う作品だとは全然思わなかった。コメディ色が結構ありながら、ミステリアスだったり、シリアスな現実も描いていて、こういう映画の作りとてもうまいと思った。女性監督が映画を続ける上での苦労などシビアなことを扱っていながら、映画は優しさにあふれていた。
シン・スウォン監督は、「1960年代当時の非常に保守的な環境の中、自分自身や他人からの視線と闘いながら生き残ってきた女性監督たちの姿が、自分自身の苦悩と重なる思いがあったことから、いつかこれをモチーフにした映画を撮りたいと思っていた」とトークで語っていた。
昔の女性監督は大変だったけど、今も変わらないというのが残念なことではあるけど、それを表現できるということが素晴らしい。

TIFFトークサロン『オマージュ』の情報 

「CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭」

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「CROSSCUT ASIA」は2014年から2019年の6年間にわたり、TIFFの一部門として東南アジアの国、監督、テーマ等、さまざまな切り口でアジア映画の特集上映を行ってきました。このたび、オンラインで2部構成の特別編として復活し、「CROSSCUT ASIA特別編「おいしい」アジア映画特集」部門と「CROSSCUT ASIAアンコール」部門として計13プログラムを無料配信上映します。

主催 :東京国際映画祭、国際交流基金アジアセンター
開催期間 :2022年1月21日(金)10:00から
     2月3日(木)23:59(日本時間)まで
字幕:日本語、英語 

※一部作品には東南アジアの複数言語の字幕が付きます
視聴 :無料 
※一部作品は視聴対象国に制限があります
※詳細、視聴登録はこちら:https://crosscutonline.jfac.jp
(1月18日(火)12:00から視聴登録開始)


プログラム
第一部:CROSSCUTASIA特別編「おいしい」アジア映画特集
日本と東南アジア各国・地域の食文化にまつわる珠玉の作品7本を上映します。

『アルナとその好物』(Aruna&HerPalate)
ラブストーリー|2018年|インドネシア|107分|インドネシア語|字幕:日本語・英語・クメール語・タイ語・ベトナム語監督:エドウィン出演:ディアン・サストロワルドヨ、オカ・アンタラ、ニコラス・サプットゥラ
鳥インフルエンザの調査旅行に出かけることになったアルナが、友人らとインドネシア各地の名物料理の食べ歩きを計画する男女4人のロードムービー。旅先のジャワ島では黒スープ、カリマンタン島では蟹入り麺等、数々の料理に出会う。エドウィン監督の新作『復讐は神にまかせて』が2021年のロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞。

『バロットの大地』(BalutCountry)
ドラマ|2015年|フィリピン|94分|フィリピン語|字幕:日本語・英語・インドネシア語・クメール語・タイ語・ベトナム語監督:ポール・サンタ・アナ出演:ロッコ・ナシノ、ロニー・クイゾン、ヴィンセント・マグバヌア、アーチ・アダモス
視聴可能国:全世界(フィリピンを除く)
亡父の遺言で広大なアヒル農場を相続することになった息子。家を出て都会でミュージシャン暮らしの彼は売却するつもりで農場を訪れるが、雄大な風景の中で心が揺れはじめる。タイトルの「バロット」とは、孵化しかけたアヒルの卵を茹でて食べるフィリピンのソウルフード。2015年「CROSSCUT ASIA」上映作品。

『カンパイ!日本酒に恋した女たち』
ドキュメンタリー|2019年|日本、アメリカ|96分|日本語・英語|字幕:英語・インドネシア語・クメール語・タイ語・ベトナム語
監督:小西 未来
キャスト:今田美穂、千葉麻里絵、レベッカ・ウィルソンライ
(※こちらの作品は日本では視聴できません。)

『愛のスープ』(MyLoveisSoup)日本初上映
コメディ|2020年|タイ|99分|タイ語|字幕:日本語・英語・インドネシア語・クメール語監督:クリアンクライ・モンウィチット出演:ハッサウィー・パッカポーンパイサーン、サッサニー・ウィラチャット、ピティサック・ヤオワナーノン、スッティダー・カセームサン・ナ・アユッタヤー
視聴可能国:日本、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ブルネイ、ラオス
料理が苦手であるにもかかわらず、高級レストランで働くことになったミニー。自分のミスで下げてしまった店の評価を挽回するため、宮廷料理人だった曾祖父の秘伝のスープのレシピを求めて奔走する。イスラム教徒が多いタイ深南部の料理が目に楽しく、レストランの厨房事情も覗ける、ハートフルコメディ。

『デリシャス!』(Namets!(Yummy!))日本初上映
コメディ|2008年|フィリピン|94分|ヒリガイノン語|字幕:日本語・英語日本初上映
監督:ジェイ・アベリョ
出演:エンジェル・ジェイコブ、クリスチャン・バスケス、ぺケ・ガリャガ 
視聴可能国:全世界
フィリピンのネグロス島・バコロドにて、借金のカタとしてイタリアンレストランが郷土料理の店に転身。鮮やかなプレゼンテーションのネグロス料理にグルメも唸る、目にも美味しいロマンティックコメディー。活況のフィリピン・インディペンデント映画界の登竜門シネマラヤ・フィリピン・インディペンデント映画祭出品作。

『川は流れを変える』(ARiverChangesCourse)
ドキュメンタリー|2013年|カンボジア・アメリカ|83分|クメール語・ジャライ語|字幕:日本語・英語
監督:カリヤネイ・マム
視聴可能国:全世界(米国を除く)
カンボジアの3人の若者の暮らしを追うドキュメンタリー。漁村での魚の乱獲、借金と貧困、森林破壊といった社会問題をあぶり出しながら、人々が日々食べ、働き、生活を紡いでいく姿を映し出す。2013年サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門審査員大賞受賞。

『ワンタンミー』(WantonMee)日本初上映
ドラマ|2015年|シンガポール|71分|英語・中国語|字幕:日本語・英語・インドネシア語・クメール語・タイ語・ベトナム語
監督:エリック・クー
出演:コー・ブーンピン、ビル・ティオ、タミー・チュウ
視聴可能国:全世界
中年料理評論家が、食の取材を通じてシンガポールの伝統と発展、そして自身のキャリアや人生も見つめ直す。ワンタン麺、ラクサ等の多様な麺料理、フィッシュヘッドカレーやナシレマといった多民族性が垣間見える料理等ストリートフードの数々を、巨匠エリック・クー監督がドキュフィクションとして描く意欲作。

第二部:CROSSCUTASIAアンコール
これまでの東京国際映画祭「CROSSCUTASIA」部門上映作品から選りすぐりの作品を再上映します。

『カンボジアの失われたロックンロール』‘Don'tThinkI'veForgotten:Cambodia'sLostRock&Roll)
ドキュメンタリー|2014年|アメリカ、カンボジア|107分|英語・フランス語・クメール語|字幕:日本語・英語
監督:ジョン・ピロジー
出演:シン・シサモット、ロ・セレイソティア、バイヨン・バンド
視聴可能国:全世界
クメール・ルージュによって弾圧されるまでのカンボジアのポピュラー音楽史を1950~70年代まで辿った貴重な音楽ドキュメンタリー。生存者へのインタビューやアーカイブ映像を駆使して歴史が甦る。

『インビジブル』(Invisible)
ドラマ|2015年|日本、フィリピン|134分|フィリピン語・タガログ語・日本語|字幕:日本語・英語
監督:ローレンス・ファハルド
出演:アレーン・ディゾン、セス・ケサダ、ベルナルド・ベルナルド、JMデ・グズマン
視聴可能国:全世界(マレーシアを除く)
真冬の福岡と旭川でロケを敢行し、日本滞在の4人のフィリピン人(日本人と結婚したリンダ、不法滞在労働者のベンジー、ホストのマヌエル、建設作業員のロデル)を描いた話題作。シナグ・マニラ映画祭2015グランプリ。

『ピート・テオ特集』(PeteTeoSpecial)
短編集|2008年~2013年|マレーシア|97分|中国語・マレー語・タミル語・英語|字幕:日本語・英語
監督:ホー・ユーハン、ヤスミン・アフマド、アミール・ムハマド、ライナス・チャン、リュウ・センタック、デスモンド・ン、カマル・サブラン、タン・チュイムイ、ウー・ミンジン、ジェームス・リー、ベンジー&バヒール、ジョアン・ジョン、カイリル・バハール、ナム・ロン、スレイマン兄弟(『15Malaysia』)
ベンジー・リム(『Vote!』)
ピート・テオ(『MalaysiaDay:Slipstream』)
ヤスミン・アフマド、ホー・ユーハン(『HereinMyHome』)
カマル・サブラン(『IGo』)
視聴可能国:全世界
『15Malaysia』は、ピート・テオが企画・統括した、15人の監督たちによるオムニバス作品。ヤスミン・アフマドの遺作『チョコレート』をはじめ、マレーシア社会をさまざまな角度から切り取った短編が並ぶ。その他、ピート・テオが関わった短編『Vote!』、『MalaysiaDay:Slipstream』、『HereinMyHome』、『IGo』も併映。

『タン・ウォン~願掛けのダンス』(TangWong)
ドラマ|2013年|タイ|86分|タイ語|字幕:日本語・英語
監督:コンデート・ジャトゥランラッサミー
出演:ソンポップ・シッティアージャーン、シリパット・クーハーウィチャーナン、ナタシット・コーティマナスワニット、アナワット・パッタナワニットクン、ナッタラット・レーカー
視聴可能国:日本、インドネシア、カンボジア、シンガポール、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、ラオス
東京国際映画祭で『スナップ』(2015)や『私たちの居場所』(2019)が上映されたコンデート監督の作品。神様に願掛けをした4人の高校生が、チームを組んでタイ伝統舞踊を舞うことに。素人ダンサーたちが猛練習の果てに掴んだものは...。“タン・ウォン”とは踊りを始める前に構えるポーズのこと。

『三人姉妹(2016年版)』(ThreeSassySisters)
ミュージカル|2016年|インドネシア|124分|インドネシア語・英語|字幕:日本語・英語
監督:ニア・ディナタ
出演:シャンティ・パレデス、タラ・バスロ、タティアナ・アクマン、リオ・デワント、ルベン・エリシャマ、リチャード・カイル
視聴可能国:全世界
Netflixの『恋に落ちない世界』が記憶に新しい女性監督ニア・ディナタが、1956年の名作『三人姉妹』を現代に置きかえて描く華麗なミュージカル。個性の異なる美しい三姉妹の結婚話が快活に展開する。

『罠(わな)~被災地に生きる』(Trap)
ドラマ|2015年|フィリピン|93分|フィリピン語・ワライ語|字幕:日本語・英語
監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:ノラ・オーノール、フリオ・ディアス、アーロン・リベラ
視聴可能国:日本、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、ラオス2013年11月、巨大台風ヨランダがフィリピンを直撃して大災害をもたらした。被災地に生きる人々に寄り添い、人間の尊厳を問う作品。世界的に活躍する巨匠ブリランテ・メンドーサ監督作品。ノラ・オーノール主演。カンヌ映画祭2015「ある視点」部門スペシャル・メンション。

※上記作品の他、「CROSSCUTASIA特別編「おいしい」アジア映画特集」部門の『バロットの大地』もTIFF「CROSSCUTASIA」部門の再上映作品となります。
スペシャルメニュー(関連企画)映画の上映に加え、映画監督らのトーク、食にまつわるインタビュー等、箸休めにも、主食にもなるような充実したスペシャルメニューもお届けします。在京各国大使館の料理や東南アジアのランチの様子の他、現地直送の映像や記事が盛りだくさん。詳細は本オンライン映画祭公式サイト上でお知らせします。

【視聴の注意点】
・公式サイトより視聴登録完了後、作品視聴が可能となります。
・視聴可能人数には制限があります。制限人数に達した場合は、配信終了となります。
・インターネットの回線速度が十分でない場合や、ご利用端末の状態によって快適な視聴が難しいこともございます。安定した通信環境下でご利用ください。
・視聴条件等詳細は、公式サイトでご確認ください。

東京国際映画祭2021のレポ(白)

今頃ですみません。
東京国際映画祭(TIFF)の会期中10月30日(土)~11月8日(月)の10日間分のレポートをスタッフ日記に書いています。こちらにもまとめておきます。(白)

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TIFF開幕 1日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484139431.html

TIFF2日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484153797.html

TIFF3日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484170450.html

TIFF4日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484187511.html

TIFF5日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484203201.html

TIFF6日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484216652.html

TIFF7日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484231637.html

TIFF8日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484245921.html

TIFF9日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484273000.html

TIFF10日目
http://cinemajournal.seesaa.net/article/484274443.html

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イスラーム映画祭7『ジハード・フォー・ラブ』  ★監督登壇のオンライン上映会  (咲)

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イスラーム映画祭7での上映作品『ジハード・フォー・ラブ』のパーヴェズ・シャルマ監督が登壇するオンライン上映会が開かれます。(要申し込み)
監督のQ&Aを聞いたのちに、ぜひまたイスラーム映画祭7でスクリーンで映画をご覧ください。

『ジハード・フォー・ラブ』 原題:A Jihad for Love
監督:パーヴェズ・シャルマ / Parvez Sharma
2007年/米=英=仏=独=豪州/アラビア語、トルコ語、英語、ペルシャ語、ウルドゥー語、パンジャービー語、ヒンディー語、フランス語/81分
予告篇 https://youtu.be/78jUBRio3So
インド出身のムスリムで、ゲイでもあるパーヴェズ・シャルマ監督が、信仰とセクシュアリティの間で葛藤するムスリムたちの声を集めたドキュメンタリー映画。
本作は過去に『愛のジハード』の邦題で公開されています。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件後に本作を作る必要性を強く感じたというシャルマ監督は、6年がかりで世界各地の同胞たちを取材しました。(劇中で話される言語は9つ)
神の存在を意識しながら他者に理解されない葛藤を抱き続ける(しかしそれこそが“ジハード”では)彼らの姿を監督のカメラは真摯に捉えています。

オンライン上映会 詳細:https://t.co/ujqpcmK2E6
(以下に内容貼っておきます)

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イスラーム教徒の同性愛者たちをテーマにしたドキュメンタリー映画『A Jihad for Love』(米2008年)のオンライン上映会を開催します。本人もゲイ・ムスリムであるパーヴェズ・シャルマ監督も登壇します。

ムスリム社会におけるLGBTという問題を切り口に、イスラームの解釈をめぐる議論や、性的少数者の権利など、現代的な諸問題を考えるきっかけになれば幸いです。多くの方々のご参加をお待ちしております。

開催日時:2022年1月19日(水)17:00~19:45

開催方法:Zoomウェビナー(申込みされた方にURLをお送りします)

プログラム:17:00~ 趣旨説明・映画と監督の紹介
      17:10~ 映画上映
      18:40~ アラブ文化研究会発表
      19:00~ パーヴェズ・シャルマ監督Q&A

お申し込みはこちらから↓
https://forms.gle/WD7KjhcVhSA8Cud8A

主催 アラブ文化研究会(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)
共催 科研費基盤A「トランスナショナル時代の人間と「祖国」の関係性をめぐる人文学的、領域横断的研究」
協力 イスラーム映画祭


東京国際映画祭 トルコ映画『最後の渡り鳥たち』TIFFトークサロン (咲)

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©IEDB Film

アジアの未来 共催:国際交流基金アジアセンター
『最後の渡り鳥たち』  *ワールド・プレミア
原題:Turna Misali  英題:The Last Birds of Passage  

監督:イフェト・エレン・ダヌシュマン・ボズ
出演:シェンヌル・ノガイラル、ネジメティン・チョバンオウル、ティムル・オルケバシュ
2021年/トルコ/トルコ語/99分/カラー

*物語*
トルコ南部メルスィン。海が遠くに見える高台。
年に2回、夏と冬に400キロの旅をするノマド(遊牧民)も、今や120名(家族?)。
ヤギを追う男や子どもたち。住民から、「なぜ毎日ここを通る?」と言われる。
徒歩での家畜移住禁止令が出る。トラックでヤギを移動させることに遊牧民の女家長ギュルスムは反対。徒歩移動はヨリュク民族の伝統なのだ。
一方、娘ルキエの夫は、ラクダよりもトラクターの方が便利だとギュルスムと対立している。
当局が定住用住宅を建て、25年ローンで売るという。水もお湯も出る。暖房も自動と言われ、膝の悪いギュルスムの夫ジェマルは定住に乗り気だ。
「定住用住宅はコンクリの墓。死ぬ前から行くのか」とギュルスム。
夫と二人で定住住宅を見に行き、先に定住した知り合いの女性たちに会う。洗濯機は水道代が高くつくから手洗いしているという。定住した男も、遊牧が懐かしいという。
フェスティバルでカシュックダンスを踊るノマドたち。
伝統と近代化の間で揺れる中、移動の時期が近づく。
火を焚き、雨が降りますように、草が乾かないよう、高地への旅が続きますようにと祈る。
いよいよテントをたたみ、ラクダに荷を積み出発する・・・



TIFFトークサロン
『最後の渡り鳥たち』
2021年11月5日 19:00~

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登壇者:イフェト・エレン・ダヌシュマン・ボズ(監督/脚本/プロデューサー)
モデレーター:石坂健治

石坂:長いお名前ですが、今日はエレンさんとお呼びしていいでしょうか。まず、ひとことお願いします。

監督:イスタンブルからこんばんは。TIFFで上映されるのをうれしく思っております。そちらに伺えませんが、行ったも同然と思っております。

石坂:冒頭、映画の舞台や登場人物が説明されていますが、あらためてご説明お願いします。

監督:舞台はトルコの南部メルスィンで、イスタンブルからは遠いところです。

石坂:複数の方からキャスティングについて、本物のノマドの方が出演されているように見えましたがという質問がきています。
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©IEDB Film
監督:メインのキャストはプロの役者です。お婆さん役シェンヌル・ノガイラルもトルコで有名な女優です。唯一、2歳の赤ちゃんのみ実際の遊牧民の子どもです。エリフ役やタシュバシュ役は、まだプロにはなっていないのですが、メルスィンで演劇を学んでいる学生さんです。もちろん、エキストラとして実際の遊牧民の方たちも出演しています。

石坂:脚本もご自身で書かれていますが、ノマドの暮らしについてはかなり取材されているのでしょうか?

監督:共同脚本の夫エイブ・ボスはプロデューサーであり撮影監督でもあるのですが、彼とともに4~5年かけて入念なリサーチをしました。エイブは13年前にノマドについてのドキュメンタリーを撮るために一緒に暮らしていたこともあります。私どもはノマドについて以前から知ってはいたのですが、あまり詳しくは知りませんでした。ドキュメンタリーの制作を通して彼らと一緒に過ごしたことで彼らの生き方にインスパイアされて、今回の作品にいたりました。彼らといろいろ話して、彼らについての本も読みました。

石坂:ノマドの人たちはトルコ人と外見で違いがわかるのでしょうか?

監督:女性に関しては、とてもカラフルな服装をしていますので、すぐにわかります。赤と青などとても元気の出る色を着ています。男性は服装に関しては特に特徴はないのですが、エイブとも話したことがあるのですが、薄毛の人は少ないです。ノマドの男性は頭髪が豊かです。外の風にあたって健康的なものを食べているからかなと思います。子どもたちも明るい色の服装をしています。
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©IEDB Film
石坂:女主人公の存在に強い印象を受けました。イスラームでは家父長制と思っていたのですが、女性のほうが強い。トルコではよくあることなのか、もしくはノマドの特徴なのでしょうか?

監督:決してギルスムだけでなくノマドの中では女性が重要で、女性が決定権を持っていることが多いです。男性のほうがノマドの暮らしを捨てて定着することが多くて、女性のほうが遊牧を続けていることが多いです。

石坂:『最後の渡り鳥たち』というタイトルに、今、撮らなければいけないという思いを感じました。

監督:この映画を作ったメインの目的は、まさにそこにあります。声を大にして、彼らの好きなように彼らのスタイルで生活させてあげてください、彼らを歩き続けさせてあげてくださいと言いたいのです。彼らは歩きたいのです。暮らし方は賢いものです。彼らと時を一緒に過ごして、自然との特別な関係を保っていることがよくわかりました。それは大変重要なことですし、私たちは彼らの声となって伝えたいと思いました。

石坂:ノマドに対して、トルコでは学校教育をきちんとする対応をとっているのでしょうか? 差別や偏見はあるのでしょうか? 後半にフェスティバルでノマドが行進する場面がありましたが、差別をなくす試みとして行われているのでしょうか?

監督:トルコの文化の中では、どのような立場の人も自分のルーツはノマドにあるといいます。彼らの生活や哲学が好きだというのですが、反面、実際彼らが移動する地区の人たちは彼らを歓迎していません。移動するのがだんだん難しくなっています。草が豊かに生えるためには水が必要なのですが、水源が工場に取られたりしているのが実情です。暮らしはますます過酷になっているのが現状です。彼らの暮らしに憧れて、リゾートのように2日間や1週間位一緒に暮らしたり、彼らからチーズを買ったりする人たちもいますが、当局としては定住してほしいと思っています。移動されるとコントロールできませんから。お祭りのシーンで認知されているように見えましたが、もてはやされますが、祭りが終われば忘れ去られてしまいます。子どもたちもなかなか良い教育を受けることができません。学校の始まるころにちょうど移動するので、定住して学校に通えるようになった時には学期の途中で勉強が遅れてしまいます。また学年の終わるころには移動しなくてはならないので、1学年をちゃんと終えることができません。学校の教育問題も取り上げたいと思って、学校の先生を登場させました。

石坂:ラストのほうで、研究者のような男性が一緒に遊牧についていきますが、小さな希望とみていいでしょうか?

監督:研究者をいれたのはそういう意図です。ノマドの生き方はとてもパワフルで、継続させるべきだという人もたくさんいます。研究者である男性教師が一緒に移動することで希望を表したいと思いました。

石坂:車椅子の女性は、怪我をした男性にスカーフを差し出したりしていますが、親からはアバズレと言われています。女性が男性に親切にするだけでアバズレと言われてしまうのでしょうか?

監督:決して一般的ではありません。あのシーンを私たちはとても気に入っています。お父さんもお母さんもあまり教育を受けてなくて視野が狭いので、娘を罵倒しています。でも、若いカップルはいずれも障がいをもっています。片方は身体的に、もう片方は精神的にという違いはありますが。二人はとてもナイーブで純真で、お互いに惹かれあっています。周りの人からみれば、ただただ障がい者と思われているのですが、決してそうではないと私は考えています。

石坂:スカーフについての質問がきています。おばあさんは寝ているときもスカーフを被っています。娘さんは寝るときにははずしています。小学校の女の子は、山の青空教室ではスカーフをしているのに、町の学校では外しています。どのような考えで、あのような演出をされているのでしょうか?

監督:リアルな姿です。トルコでは文化的な意味と政治的な意味の両方があります。文化的なとらえ方で映画ではスカーフを描いています。祖母の時代はずっとスカーフをしていました。私はそれを自然な姿だと見て育ちました。ノマドに関しては、日中着ている服のまま寝ます。寝巻は持っていません。ルキエは夫とともに寝るので、スカーフを外しています。そして、トルコでは10年前まで学校ではスカーフを被ってはいけませんでした。今はそうでもありません。(末尾を参照ください)少女は、学校ではほかの子と同じようにスカーフをはずして、目立たないようにしています。

石坂:ヤギが可愛かったです。ノマドにとって家畜であると同時にペットでもあるのでしょうか?

監督:彼らはヤギたちと一緒に暮らしていて、病気になったらテントの中に入れて介護します。子どもたちは、ペットのように遊んでいます。赤ちゃんやぎはテントの中に入ってきて一緒にじゃれあっています。今一緒に遊べないから向こうに行っててよと子どもたちが話しかけたりしています。赤ちゃんヤギだけじゃなく、大人のヤギも中に入れています。もちろん、肉を食べたりもするし、ミルクを飲んだり売ったりもするのですが、まさにペット同然の存在だと思います。

石坂:まだまだ質問がきているのですが、時間がきてしまいました。

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*スクリーンショットタイム*

石坂:最後にひとことお願いします。

監督:作品を受け入れて上映してくださってありがとうございます。私たちがノマドの声となり伝えることができ、お礼申しあげます。


**********

★トルコでのスカーフ問題★
このTIFFトークサロンの中で、気になったのが、トルコでのスカーフ問題です。監督は政治的にとらえる意図はなかったと語っていますが、「トルコでは10年前まで学校ではスカーフを被ってはいけませんでした。今はそうでもありません」という部分が、とても気になりました。

トルコでは1980年以降、政教分離政策の一環でイスラーム教徒の女性が公共の場でヒジャブ(スカーフ等)を着用することを禁止してきました。
最後にトルコを訪れた2006年に感じたのは、大都市イスタンブルはじめ各地でスカーフでしっかり髪の毛を隠した若い女性が増えたことでした。それも古風な被り方ではなく、比較的派手な柄のスカーフで、おしゃれにしっかり。信仰の証というより、それがトレンドなのかと感じるほどでした。

2008年6月第1週のスタッフ日記にこんなことを書いていました。
5日(木)帝国ホテル「孔雀南の間」で、オスマントルコ時代の女性用民族衣装展。ギュル大統領ご夫妻によるテープカット。
このとき、大統領夫人はスカーフでしっかり髪を隠されていて、政教分離をうたうトルコの大統領夫人が公式の場でこのように髪を隠すのはどういうことなのかと思ったのでした。
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調べてみたところ、下記のような事情がわかりました。
2008年2月、イスラーム系の与党・公正発展党(AKP)政権の主導で国会でイスラーム教徒の女性に大学構内でのスカーフ着用を認めた憲法修正が可決されました。ところが6月5日、憲法裁判所がこの憲法修正を憲法が定める世俗主義の原則に反するため無効との判断を下しています。

そして、その後の状況:
与党・公正発展党(AKP)は段階的に公共の場でのヒジャブ着用禁止を解除。2013年には大学生と官公庁職員、2014年には中高生に着用を許可したほか、昨2016年8月には対象を警察官に拡大。軍隊はスカーフ着用が認められていない唯一の政府機関で、政教分離の牙城とされてきたが、2017年2月、女性兵士のスカーフ着用が許可された。

現エルドアン大統領は「着用禁止は反自由主義的な過去の遺物」と断じています。
2020年7月、エルドアン大統領は世界遺産の旧大聖堂で博物館のアヤソフィアを、イスラーム教の礼拝の場であるモスク(礼拝所)に変更。
1934年にモスクだったアヤソフィアを博物館に変更したのは初代大統領ケマル・アタチュルクでした。政教分離をうたって独立したトルコ共和国ですが、今後、どうなるのでしょう・・・

たかがスカーフ、されどスカーフ。外国人にも着用を強制しているイランでは、女性たちが着用は自由意思にまかせてほしいと命がけで運動しているのも忘れてはなりません。

景山咲子