インディアンムービーウィーク2021 『グレート・インディアン・キッチン』

グレート・インディアン・キッチン  
原題:The Great Indian Kitchen
原語タイトル:മഹത്തായ ഭാരതീയ അടുക്കള  

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©Cinema Cooks, ©Mankind Cinemas, ©Symmetry Cinemas

監督:ジヨー・ベービ
音楽:スラージ・S・クルップ、マチュース・プリッカン
出演:ニミシャ・サジャヤン、スラージ・ヴェニャーラムード(ジャパン・ロボット)、T・スレーシュ・バーブ、アジタ・V・M、ラーマデーヴィ、カバニ、シッダールト・シヴァ

2021年/インド/マラヤーラム語/100分/ドラマ
配給:Space Box
©Cinema Cooks, ©Mankind Cinemas, ©Symmetry Cinemas
★初回上映:インディアンムービーウィーク2021パート1(6月開催)
★インディアンムービーウィーク2021パート2 上映日:9月18日、10月4日
公式サイト & SNS https://imwjapan.com/

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©Cinema Cooks, ©Mankind Cinemas, ©Symmetry Cinemas


インド南西部ケーララ州第三の都市カリカット(コーリコード)。
美味しそうなお料理の数々を作る場面から、ゴージャスなレストランでのお見合い、伝統的な結婚式・・・と、ある若い女性の物語は一気に駆け抜ける。そこからは広い邸宅で夫の両親と同居の単調な新婚生活。中東バーレーンで大学生活を過ごした新妻にとって、それは義父や夫に仕える屈辱的な日々だった。料理を作り、義父と夫が食べ散らかした食卓を片付けてから、やっと台所で義母と食事。台所仕事の合間には掃除に洗濯。最初は恥じらいながらも心躍った夜のおつとめも、自分の欲望だけを満たす夫に不満がつのる。義母が娘の嫁ぎ先に長期で出かけてしまい、家事は新妻一人の肩にかかる。義父から、チャトニー(チャツネ:薬味)は手で挽くもの、ご飯は釜で炊くものと、ミキサーや電気釜を使ったのを見透かされる。排水管が詰まり、夫に修理業者への連絡を頼むが、一向に連絡してくれない。やがて生理になり、不浄な間は台所に入るなと、ダリット(不可触民)の家政婦ウシャーが呼ばれる。
仕事がしたいとネットで検索してダンス教師の職に応募するが、義父に見つかってしまい、「主婦のいる家は尊い。妻は大学を出たが父に従って家にいた。お前の仕事は官僚や大臣より遠い」と諭される。
やがてシャバリマラ・アイヤッパン寺院の巡礼の時期になる。前日の残り物を食卓に出すと、「この期間は前日作った料理は食べられないことを知らなかったのか?」と言われてしまう・・・

夫は教師をしていて、女学生たちに家族制度の大切さを説いている姿が映し出されます。家では、父親に似て、だんだん封建的な態度になっていきます。妻の堪忍袋の尾が切れないはずはありません。
この映画を観て思い出したのが、2019年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で観客賞を受賞したインド映画『シヴァランジャニとふたりの女』です。抑圧されていた妻が抵抗する物語。
『シヴァランジャニとふたりの女』ヴァサント・S・サーイ監督インタビュー

『グレート・インディアン・キッチン』に出てくるシャバリマラ・アイヤッパン寺院は、ケーララ州南部の西ガーツ山中にあり、インド全域から参拝者が訪れる名刹。ヒンドゥー以外のあらゆる他宗教の信徒にも門戸を開く一方、女性(初潮から閉経までの、子供を産める状態にある女性。便宜的に10~50歳と表現される)の参拝者の入構を禁じています。

★本作の家族のカーストのことや、シャバリマラ・アイヤッパン寺院のことなど、配給SPACE BOXによる補足ノートをぜひお読みください。
https://note.com/india_film/n/n7cfe601cde3d

ケーララの高位カーストの暮らしや、シャバリマラ・アイヤッパン寺院の巡礼など、この地域ならではの風俗が見られるのも、この映画の魅力です。
「アイヤッパン神よ~」と詠じている中に、東大寺の修二会で聴いた声明に、すごく似た旋律のものがありました。もしかして、遠い繋がりがあるのでしょうか・・・

一方で、女性が差別を受けたり、女人禁制の場所があったりすることは、日本でもあるし、世界各地である問題。女性が声をあげることで、社会が変わることも示唆しています。本作のテーマは、とても普遍的なものといえるでしょう。



◆インドの中でも、マラヤーラム語映画には、本作のような社会派のものが多く見受けられます。 
最近、紹介したものをいくつかご参考までにあげておきます。

『ジャッリカットゥ 牛の怒り』 (2021年7月17日公開)
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/482418488.html

『青い空、碧の海、真っ赤な大地』 (イスラーム映画祭6)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/480493464.html

『ナイジェリアのスーダンさん』 (イスラーム映画祭4)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/464878729.html

『アブ、アダムの息子』 (イスラーム映画祭3)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/459144037.html

(景山咲子)