『遺灰との旅』原題:Karkhanisanchi Waari 英題:Ashes on a Road Trip
監督/脚本:マンゲーシュ・ジョーシー
出演:アメーイ・ワーグ、モーハン・アーガーシェー、ギーターンジャリー・クルカルニー
2020年/インド/マラーティー語/109分/カラー
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
公式サイト:http://ashesonaroadtrip.com/
TIFFサイト:https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP06
©Nine Archers Picture Company, 2020
一家の大黒柱が亡くなった。遠く離れた思い出の地に遺灰を撒くまでは遺書を読むな、との指示に従い、残された者らは車で一路パンダルプールの川を目指す。インド的な笑いと涙に溢れたシニアたちのロードムービー。(公式サイトより)
*物語*
マハーラーシュトラ州プネーで暮らすカルカニスの一族。家長のプールーが亡くなる。次男が仕切って男たちで火葬を行い、遺灰が家に帰ってくる。四男が、「昨日、亡くなる前に、兄さんから遺灰を聖地パンダルプールに散骨して、それが済んだらクローゼットにある手紙を読めと言われた」と明かす。遺言書と思われる手紙を早く読みたい気持ちを抑えて、息子オームの運転する車に、弟3人と妹一人が乗り込んで聖地を目指す。
オームには、父親が怖くて言い出せなかった恋人がいて、彼女から妊娠を告げられ結婚を迫られている。三男は認知症気味、アメリカから帰ってきたばかりの四男はアメリカ人の妻からは離婚を迫られている。独身の妹には同性の恋人がいる。
一方、家に残った未亡人は、夫に別の家族がいたことを知ってしまう・・・
それぞれに悩みを抱えた家族。一緒に車で聖地を目指すうちに、家族の絆が強まるかと思いきや、皆それぞれに遺産をアテにしている姿が見え見え。あっと驚く遺言書の内容に、そう来るか~と! (公開されるかもしれないので、結末はお楽しみに)
上映が終わって、シネジャの(白)さんや(美)さんと、こんなインド映画もいいわねと。
インド映画に詳しい友人によれば、マラーティー語の映画には、このような家族の問題を取り上げた、いわゆる歌って踊ってのないものが結構あるとのこと。
歌や踊りの代わりに、賑やかな大きなお祭りが出てきて圧巻でした。
ぜひ公開を期待したい1作です。
◎TIFFトークサロン
11月2日(月)20:00~
オンラインでのTIFFトークサロンの1回目として取り上げられました。
リアルタイムで参加できませんでしたので、アーカイブ動画から書き起こしました。
アーカイブ動画:https://youtu.be/5fQWQglQLO8
登壇:マンゲーシュ・ジョーシー(監督/脚本)
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)
石坂:東京から、こんばんは。今年のTIFF全体を通じて、1回目のトークサロンで緊張しております。上映は映画館で行っていますが、海外のゲストが来られないことから、オンラインでQ&Aの場を設けました。皆様とのコミュニケーションを大切にしたいと思っておりますので、ご質問できる形になっております。Q&Aボタンをクリックして、書き込めるようになっています。私の方で見て、監督に質問を投げかける形で進めてまいります。
上映後の監督とのお話となりますので、この場では映画の結末までさらけ出してお話いただきますのでご了承ください。
1回目のゲストをお招きしたいと思います。インド映画『遺灰との旅』の監督マンゲーシュ・ジョーシーさんです。一言、コメントをお願いします。
監督:皆さん、こんにちは。映画はいかがだったでしょうか? 質問をお待ちしています。
石坂:最初に私の方から質問して始めたいと思います。日本映画がお好きとのことですが、どんな映画がお好きですか?
監督:黒澤明監督の作品はほとんど全部見ていて、私のグルのような存在です。特に『羅生門』が気に入っています。黒澤監督から学ばせていただいたことが多くあります。日本映画は黒澤明監督に限らず、いろいろなジャンルのものが好きで、若い年代のインディーズのものも観ています。
石坂:日本にいらっしゃったことはありますか?
監督:一度も行ったことがなくて、黒澤監督の国に行けることを楽しみにしていたのですが、コロナで行けなくて、近い将来ぜひ行きたいと思っています。
石坂:キャリアについてですが、最初は理系のエンジニアだったのが、どうして映画監督に転じられたのでしょうか?
監督:子どものころから、フィルムメーカーになりたいと思っていました。友達で俳優になりたいという人もいたのですが、私はどちらかというとストーリーを語ることに興味がありました。父も映画の大ファンでした。どういうわけかエンジニアになってしまいました。映画を作りたいという情熱は小さい頃からもっていました。
石坂:大家族の物語。アイディアはどこからきたのでしょうか?
監督:叔父が亡くなって、兄弟で遺灰をどこに埋めるかという話をし始めました。ちょうど大きなお祭りの直前でした。家族が遺灰の話をしているときに、どういうリアクションをするかのストーリーを考えたのが映画の始まりです。
石坂:そうしますと、キャラクターは家族をモデルにしているけれど、物語はフィクションということでしょうか?
監督:キャラクターは、叔父や兄弟をモデルにしていますが、ストーリーは全くの作り話です。
石坂:車は、本物のフェラーリですか?
監督:全然違います! フェラーリじゃないですが、気持ちとしてフェラーリが欲しい。でも買えない。インドの車にロゴを付けたもので、主人公の思いを表してます。
石坂:役者さんたちが素晴らしかったですが、役作りをどのように指導されたのでしょうか?
監督:ストーリーを書いている段階で役者さんたちを考えていました。書き終わって声をかけて、脚本を共有しました。自分から、こういう風にやってほしいという説明はしませんでした。こういうトーンの映画を撮りますという説明はしました。1週間リハーサルをして、本読みの時に、方言や話し方、発音などは説明しました。役者さんたちから聞かれた時には答えましたが、演技について、あれこれ指示は一切していません。
石坂:ほんとに家族のようでした。いつも仲がいいわけでなく、時々、腹立たしいという家族の雰囲気が出ていて素晴らしかったという感想をいただいています。
監督:とても素晴らしいコメントです。役者は皆、それぞれの家族をもっているのですが、一つの家族のように見えたとしたら嬉しいです。
石坂:テレビ番組「理想の家族」に出演する場面がありますが、実際にインドであるのでしょうか?
監督:実際にいくつかあります。カメラが回っているときには理想の家族風を演じるけれど、カメラが離れるとそうでもないということもあります。それがインドの現実の家族ともいえます。マラーティでは15年続いている番組もあります。
石坂:古い価値観の中にいる男性と対照的に、女性が新しい価値観を持っているという感想を複数の方からいただいています。女性のキャラクターはどのように作っていったのでしょうか?
監督:一緒に脚本を書いたアルチュナーさんという女性と話し合いました。女性が脚本を書く側に参加していると、女性は強くあってほしいという思いが入ります。女性が被害者的立場になることを避けたかったのです。ガールフレンドが男性も乗るようなバイクに乗って追いかけてきます。インドには女性のバイカーが存在していて、強い女性を描きたい思いがありました。家父長制の強いインド社会で、女性が遺灰をまくべきじゃないとか、来るべきじゃないといわれる場面がありますが、彼女は引き下がりません。
石坂:Q「未婚の女性が妊娠したり、違うカーストの相手との結婚の話も少し出てきます。こういう話題を脚本に盛り込んだ狙いは?
監督:カースト制度はインドで複雑。矛盾もあります。男性のほうが縛られていて、意思が強くない。子どものころから頭があまりよくなくて言われるままにしか行動できません。 女性のほうがアグレッシブで勇気があります。伝統に従わなければいけないインドの事情があります。彼は彼女のことを愛しているのに、家族に言う勇気がありません。そんな現実も描いています。
石坂:後半のお祭りに出くわす場面は迫力がありました。俳優さんをたくさん連れての撮影は大変だったのではないでしょうか?
監督:2回に分けて撮っています。お祭りのときには車で移動するのは不可能ですので、役者は連れずにいって、お祭りの様子をいろいろな角度から撮りました。別の日に同じ場所で役者に演じてもらったものを合わせました。
石坂:女性に相続権がないという男性の発言に対して、女性にもあると反論する場面がありましたが・・・
監督:実際に法律で女性に相続権がありませんでした。1995年に法律が改正されて相続できるようになりましたが、それ以前に結婚していた人には両親が亡くなっても土地の相続権がありません。1995年の法改正以降に結婚した女性には権利があります。
石坂:ボリウッド映画とマラーティ映画では規模が違うと思いますが、マラーティ語の映画は、州内で配給されるのでしょうか?
監督:インド内で公開するときには言語のこともあって、マラーティー語の映画はマハーラーシュトラ州のみでの公開になります。アメリカなどでは全国的にあるマラーティ語コミュニティで上映されます。
石坂:大家族の映画ですが、日本では核家族化しています。インドでは、まだまだ大家族が主流でしょうか? それとも変化があるのでしょうか?
監督:4世代が一緒の家族ですが、インドでも核家族化していて、もう最後の大家族。田舎ではまだ大家族も見られますが、都市では特に少子化して核家族化しています。
石坂:Q「インド映画というとダンスシーンがあるというイメージですが、こういうダンスのない映画も? LGBTの話題が出てきましたが、インドではどのようにみられているのでしょうか?」
監督:メインストリームの映画は歌や踊りが入っています。世界からも期待されていますので。インディーの映画では、歌も踊りもないものも多くて、受け入れられています。共存して観客に受け入れられているのが嬉しいです。
LGBTについて若い人はオープンです。伝統的に受け入れられない人も多いです。同性の結婚も合法ではありません。インドでは、300年~400年前のお寺を見ても、LGBTの像がありますので、西洋から来た新しいものではないと認識しています。昔からインドの文化の一部です。今は若い人たちがオープンに議論するまでになっているので、変わってきたと思います。
石坂:今回初めてやってみて気が付いたのですが、皆さん、話を聞きながら、どんどん質問が膨らんでくるようです。この最後の10分位でたくさんの質問がきました。せっかくですので、もういくつか質問を。
劇中の音楽は、映画のためのオリジナルでしょうか?
コロナの中ですが、次回作は考えていらっしゃるでしょうか?
監督:音楽は映画のために作ったものです。最初は歌はなしで撮ろうと思っていました。音楽担当のプラフッラチャンドラさんが曲を書いてくれました。ボリウッド的な音楽を入れようとは思っていませんでしたので、家族の気持ちを表すものや、二人の感情を表すロマンチックなものを入れました。
今、脚本を書いて撮れる状態にはなっているのですが、撮影にあたっての制限が厳しくて、ワクチンがないのでマスクをしなくてはいけないとか、ソーシャルディスタンスを取れというとロマンチックなシーンが撮れません。あと6か月か8か月くらい待ったほうがいいと思っています。
石坂:皆さん活発にご質問ありがとうございました。監督も貴重なお話をいただき、感謝申しあげます。
近い将来ぜひお会いしたいと思います。どうぞお元気で
監督:ほんとうにありがとうございました。
まとめ:景山咲子