『赦し』 英題:Forgiveness 原題:Af
監督:ジェム・オザイ
出演:ティムル・アジャル、エミネ・メルイェム、ハカン・アルスラン
2020年/トルコ/95分/カラー/トルコ語 *長編1作目の監督作品
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
上映:11月4日(水)20:50~ 11月7日(土)20:05~
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP14
厳しい父に愛されずに育った兄はある日、間違って猟銃で弟に発砲してしまう。お気に入りの次男に起こった事故に愕然とする父、沈黙する母、絶望する長男。家族に希望は訪れるのか。新鋭監督の重厚なドラマ。(公式サイトより)
*物語*
霧深い山奥で木を切り出して暮らす一家。
父親は次男メレクを贔屓にして、長男アジズに何かと厳しく当たっている。
父に銃の使い方を教えてもらった兄弟。アジズが試している時に足元に蛇が来て、驚いたとたんに発砲し、弟を撃ってしまう。
お気に入りの次男が亡くなり、ますますアジズにつらく当たる父。
アジズを赦す時は来るのか・・・
村の小さなモスクでクルアーンを学ぶ兄弟。
試験に受かったご褒美に弟が父に買ってもらったドローンをアジズは木に引っかけてしまいます。木片を集める作業中に、要領のいい弟がちょっと遊ぼうと言った時の出来事でした。それでも父は兄を悪者と決めつけてしまいます。
母親がアジズを気遣うのも気に入らない様子の父親。
父親の眼光が鋭くて、過去に何があって、そこまで長男を疎むのかと、アジズが気の毒になりました。
何十年も前の話かと思ったら、ドローンが出てきて現在の話とわかりましたが、地方ではまだまだ家父長制が強いことを感じさせてくれる物語でした。でも、こうした親の子どもたちに対するえこひいきは、どこにでも存在すること。普遍的な物語でもあると気づきました。子どものいない私にはわからないけれど、やっぱりお気に入りの子を贔屓にしてしまうかも。
TIFFトークサロンで、監督の知り合いに実際にあった出来事が、この映画の発端だと知りました。
TIFFトークサロン
11月8日(日)17:30~
『赦し』
登壇者:ジェム・オザイ(監督/脚本/編集)
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)
トルコ語通訳:野中恵子さん
英語通訳:王みどりさん
アーカイブ動画 https://youtu.be/hfZFojHTDg4
監督:メルハバ!
石坂:『赦し』をワールドプレミアで出していただき、ありがとうございます。
監督:このような形でお会いできて、私の作品を観た方たちから感想を聞くことをできるのが嬉しいです。この困難な日々の中で東京国際映画祭を開催いただきまして、関係者の方たちに感謝します。
石坂:複数の方たちからいただいている質問で、その中には日本トルコ協会アナトリアニュースの担当者の方もいらっしゃいます。Q「この作品を撮るきっかけは何だったのでしょうか?」
監督:知り合いの人の実際にあった話がきっかけです。映画のデコレーション関係の仕事の師匠の立場の方から、家族との間でこういう問題があると聞いたことから着想を得て、この映画のプロジェクトが始まりました。
石坂:脚本からお書きになっているのですね。次の質問です。やはり複数の方からいただいています。「キャスティングが素晴らしいです。兄役は、演技と思えない緊張感がありリアリティがあって素晴らしかったです。お父さん役にも圧倒されました」
監督:兄役ハカン・アルスランは、撮影現場の地方で暮らしている少年。とても賢い子で、どうすればいいか素早くキャッチしてくれました。自然の中で隔絶されているところです。内向的で静かな子という、探し求めていたアジズの精神的なものも備えたキャラクターでした。自然な立ち居振る舞いもよかったです。カメラの前に立ったことのない子です。撮影期間中、見事に役割を演じてくれました。弟役ユスフ・バイラクタルもアマチュア。母役エミネ・メルイェムはプロです。リハの時や撮影の休憩中もとても貢献してくれました。
石坂:長男アジズは誤って弟を撃ってしまう役。子役にはとても重い役だと思います。撮影中、心のケアなど、気を付けられたことはありますか?
監督:アジズ役も弟役も重い憂鬱な心理状況にならないようにしなければなりませんでした。彼らに対してこれは芝居でありゲームであると言って協力してもらうようにしました。ドラマの持つ深みを認識しないように仕向けました。お陰で、いい結果を得ることができました。子どもに演じてもらうのは難しい。一方、容易であるともいえます。彼らの認識は浅いので、撮影環境の中で集中してくれて、成功したと思います。
石坂:Q「ロケ地が素晴らしかったです。どのように決めたのですか? 監督ゆかりの地ですか?」
監督:いろいろなところを見ました。頭の中にあったのは、山の中の村。隔絶された地で、社会との交わりのない、時が止まったような場所。今回の家族の悲劇は、内向的に閉じ込められ追い詰められたようなところで起こりました。父親の役柄を表す為にも、地理的にも困難なところである必要がありました。子どもたちに成功することを強要する父親。そのような気持ちになる場所ということで、ここで撮らなきゃと思いました。交通も不便で到達するのも難しいところです。私の作品にふさわしいと思いました。
石坂:Q「劇中に音楽がBGMとして使われなかったのは?」
監督:音楽は映画を感情的にさせてしまいます。メロドラマ的にしたくありませんでした。心理状態のリアリティを反映させるために音楽はいれないのが正しいと思いました。現場の家族の背景にある厳しく激しい自然の自らの音に任せるのがいいと思いました。
石坂:これは私からの質問です。父親に疎まれる長男と、好かれている次男、その関係から悲劇が起こることから、旧約聖書のカインとアベルを思い出しました。実際にあった話とのことですが、古典の物語をどこかで意識していたのでしょうか?
監督:古典を意識したことはないです。旧約聖書のカインとアベルは違う。彼らの関係は嫉妬の感情。この兄弟の関係はえこひいき。公正でないという関係です。父親は成功を求めていて、長男にはより多くを求めています。二人の子がいて、公正でないことはよくあることです。よりできる子を贔屓にすることがあります。ここで表現したのは、父親のかたくなで圧力的な態度です。
石坂:Q「子豚のシーンが印象的でした。お父さんが粉をかけましたが、何だったのでしょう?」
監督:ネズミを殺すための粉でした。
石坂:残念ながら時間となりました。最後のメッセージをお願いします。
監督:初めての長編です。観た方と初めてお会いできました。時間をとって観ていただき、関心を示してくださりありがとうございました。それに見合う内容であったならば嬉しいです。
スクリーンショットタイム
まとめ 景山咲子