第33回東京国際映画祭2020 (暁) 『遺灰との旅』『トゥルーノース』『チャンケ:よそ者』

新コロナウイルスの影響で、今年は3月の大阪アジアン映画祭に行った後、試写や映画館での映画鑑賞もままならず、4月、5月は自宅で自粛生活。6月から試写や映画には行き始めたけど映画祭は行かず、第1回から通っていた9月の第25回あいち国際女性映画祭はとうとう不参加に。そして10月の東京での映画祭シーズンに突入。今年は、私が参加したい「中国映画週間」、「東京国際映画祭」、「東京フィルメックス」が下記のように重なっていて、どのように観たい作品を組み合わせるかに四苦八苦。

10月27日~11月1日 中国映画週間2020(主に日比谷の映画館)
10月30日~11月7日 第21回東京フィルメックス(主に有楽町の映画館) 
10月31日~11月9日 第33回東京国際映画祭2020(主に六本木の映画館)

情報集めが間に合わないままチケットを買う日が来てしまったし、ネットを使ってチケットを買うのが苦手な私は、いつものようにとりあえず集まった情報から、どうしても観たい作品のチケットを買い、あとは当日の身体の調子や時間の合うもの、当日券のあるもの、そしてプレスで観ることができるものなどを組み合わせて観ることにした。それにしても今年は東京国際とフィルメックスがもろ重なってしまい、どちらをあきらめるか迷いました。10月27日の中国映画週間から映画祭が始まり10月30日までは中国映画週間。東京国際映画祭は11月1日から参加。
ここ10年くらいオープニングのレッドカーペットの写真を撮っているのだけど、今年はゲストが少ないのもあるけど、31日はフィルメックスのほうで原一男監督の『水俣 曼荼羅』(約6時間作品)があるので、こちらの鑑賞を優先した。せめて場所が近ければ行ったり来たりすることができるのだけど、そうも行かず、東京国際映画祭の日、フィルメックスの日というように日替わりで映画祭に参加することに。結局、東京国際映画祭で観た作品は10本だけ。そんな中から印象に残った作品をいくつか紹介します。

『遺灰との旅』 原題「Ashes on a Road Trip」 
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
監督:マンゲーシュ・ジョーシー
2020年製作/インド

インド・プネーに住むカルカニス一族の家長が亡くなり、「遺灰は先祖の土地とパンダルプールの川に撒くように」と遺言を残した。遺言が成就するまでは遺書の封を切ることができない。残された息子が車を運転し、遠くに住んでいる父の弟や妹(叔父や叔母。アメリカやインドでも離れている場所)とともに故郷の川を目指す。指示された遺言があり立つまで遺書の封を切ることができない。叔父や叔母は、実はいろいろ事情があってお金がすぐにでも必要な状態で、一刻も早く遺産の分け前がほしい。しかし、道中、祭りがあったり、車が故障したり、いろいろなことが起こり、なかなか目的地にたどり着かない。コミカルと皮肉、インド的な笑いと涙に溢れたこの道中のファミリー・コメディ。監督自身の体験にもとづいたフィクションとのこと。インドの社会事情、風情、人情、そしてブラックユーモア。

『トゥルーノース』 英題「True North」 
ワールド・フォーカス
監督:清水ハン栄治
2020年/日本・インドネシア合作 英語日本語字幕

ぎりぎり間に合い、もう試写会場が暗くなってから席についたのだけど、内容を何も確認せず、ただ日本とインドネシアの合作ということだけで入ったのに、北朝鮮の強制収容所を描いた作品でアニメ、しかも英語の語り。会場を間違えたかと思った。まさかアニメだと思っていなかったし、日本とインドネシアの作品なのに英語の語りとはびっくり。状況を理解するのに、数分かかった。
北朝鮮の政治犯強制収容所に生きる家族や人々の姿を描いた作品だった。北朝鮮の政治犯強制収容所のことは、収容所内で生まれ育った脱北者シン・ドンヒョクさんを描いた『北朝鮮強制収容所に生まれて』で、北朝鮮には政治犯強制収容所が何ヶ所もあることを知り、シン・ドンヒョクさん本人も来日して話を聞き、北朝鮮の実状にショックを受けたことを覚えている。

そのシネマジャーナル記事はこちら
『北朝鮮強制収容所に生まれて』シン・ドンヒョクさん来日報告
http://www.cinemajournal.net/special/2014/umarete/index.html

このアニメは、その『北朝鮮強制収容所に生まれて』の内容を踏襲したもので、収容所の出来事は真新しいものはなかったけど、絶望の淵で生きる人たちの姿をアニメで描くことで、子供たちにも入ってきやすいかもしれない。
この作品では、60年代の帰還事業で日本から北朝鮮に渡った家族が政治犯として強制収容所に収容され、10年に渡ってここで暮らし、生きてきた日系家族の10年にわたる人間性の探求を描いている。
日本公開の予定があるという。

『チャンケ:よそ者』 原題「醬狗」
英題「Jang-Gae: The Foreigner」
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
監督:張智瑋(チャン・チーウェイ)
北京語、韓国語(日本語・英語・台湾語字幕) 2020年製作/台湾

韓国で、台湾人の父、韓国人の母と暮らす高校生クァンヤン。成績優秀、性格もおだやかな彼だが、同級生からは外人と呼ばれ、いじめられたり、仲間はずれにされてクラスに馴染めない。家では(身体の調子が悪い)父との確執に悩み、学校では外国人として見られることで疎外感に苦しみ、自らのアイデンティティに悩んでいる。ダブルカルチャーを持つ移民2世の青年の苦悩。いじめと初恋、病気がちの父親との確執を織り込んだ辛口の青春映画。
監督のチャン・チーウェイは、クァンヤンと同じく、台湾人の父と韓国人のは母の間に生まれ南アフリカで育ったという。監督自身、このようなことに悩みを持ち、韓国で「ファギョ」と呼ばれている華僑が、長い間直面してきた問題や困難を描いた映画がこれまでになかったから、この作品を作ったという。「海外で生まれ、人生のほとんどを海外で過ごしたので、母国の台湾はもちろん、南アフリカでも韓国でもアウトサイダー。アイデンティティをめぐる葛藤や文化的混乱は、ずっと私の中心にあったことが、この作品を考えた第一のきっかけです」「韓国では、政治的・歴史的な理由によってファギョは韓国の市民権を取得することができず、台湾政府が発行した非市民/非居住者パスポートしか持っていません。つまり、彼らは政治的孤児と言えるのです。韓国ではファギョは中国人と見なされ、台湾では韓国人と見なされます。日本人の皆さんに分かりやすく言うと、在日の問題とよく似ています」と語っている。韓国で政治的孤児と言えるような中華系韓国人がいるとは全然知らなかったし、外人と言われ、差別されているというのも知らなかった。台湾のパスポートでは韓国で生まれて育ったとしても市民権は得られないのか。
今年の大阪アジアン映画祭でも、父母の国籍が違い、二つの文化の狭間で葛藤する子供の姿を描いた作品『燕 YAN』と『フォーの味』が上映されていたけど、これまでもそういう子供はいたと思うけど、そういう映画はほとんどなく、今年になってそういう作品が続いて出てきたというのはどうしてだろう。そういう経験をして育ってきた人が映画製作に関わるようになってきたということなのだろうか。自分は一体何人なのか、自分がいるべき場所はどこか、どこを故国と呼べば良いのか、そういうことを思うようになるのかも。どこかで折り合いつけて生きていくしかないのだろうけど。
ジャージャー麺がうまく取り込まれていると思った。ジャージャー麺は、もともと中華料理だけど、すっかり韓国の料理になっている。それが、韓国に暮らす「ファギョ」といわれる華僑の人々の姿に繋がっていると思えた。

イスラーム映画祭6

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【イスラーム映画祭6】の上映作品が発表されました。
今回は10作品(初公開7作品)+アンコール4作品(名古屋と神戸は2作品)が上映されます。

日程等 2月13日現在

☆渋谷ユーロスペース
 2021年2月20日(土) - 2月26日(金)
  ※当初、3月5日(金)までの予定で、 2週目は1日1回夜上映予定でしたが、緊急事態宣言が延長され、2週目は春以降に延期となりました。

☆名古屋シネマテーク
 2021年3月20日(土) - 3月26日(金)

☆神戸・元町映画館
 2021年5月1日(土) - 7日(金)

<イスラーム映画祭6延長戦>
☆ユーロスペース ※1週間1日1回夜
 4月中旬以降

「劇場が閉じない限りはコロナ対策を徹底したうえで開催する予定です」とのこと。
どうぞお楽しみに♪

【イスラーム映画祭6上映作品】
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(1)『結婚式、10日間』原題・英題:10 Days Before the Wedding
2018年/イエメン/121分/アラビア語
監督:アムルー・ガマール Amr Gamal
★日本初公開
“史上初めてイエメン国内で商業公開された”記念すべき作品。
舞台は南部の港町アデン。内戦の影響で結婚を阻まれてきた、ひと組のカップルの式までの道のりがコメディタッチで描かれます。


(2)『私の娘の香り』
原題:Kizim Gibi Kokuyorsun 英題:Scent of My Daughter
監督:オルグン・オズデミル  Olgun Özdemir
2019年/トルコ=アメリカ=フランス/96分/トルコ語・フランス語・英語・クルド語・アラビア語 字幕:日本語 / 英語 / トルコ語
★日本初公開
2016年7月14日、南仏ニースで起きたテロで家族を亡くし、父の遺言に従って遺体をトルコで埋葬したアルメニア系フランス人女性と、ISISの拘束からトルコ軍に救出されたものの、難民キャンプにいると思しき姉を捜すため逃走したヤズィード教徒のクルド人少女が出会います。2人は言葉や出自を越えて悲しみを共有し、アメリカ帰りのトルコ人青年の協力で少女の姉を捜しに行くのでした…。
トルコ南部ハタイ県にあるワクフルという国内に唯一残るアルメニア人の村が、共生を謳う場所として登場します。テロや紛争で奪われた無数の命に対する哀悼に充ちた作品です。


(3)『汝は二十歳で死ぬ』原題・英題:You Will Die at Twenty
監督:アムジャド・アブー・アラー Amjad Abu Alala
2019年 スーダン=エジプト=フランス=ドイツ=ノルウェー=カタール/102分/アラビア語
映画祭初のスーダン映画  ★日本初公開

2020年に公開されたドキュメンタリー映画『ようこそ、革命シネマ』が描いた通り、2019年まで30年間続いたイスラーム主義政権下で映画産業が衰退したスーダンで、史上7番目に作られたという長篇作品です。
出生時のズィクル(儀式)で「20歳で死ぬ」と予言されたムザンミル。成長した彼はある日、
洋行帰りの男スライマーンと出会い世界の広さを教えられます…。
スーダンに深く根づくスーフィズム(イスラーム神秘主義)の伝統がよくわかる作品で、
同じくイスラーム社会といっても中東とはまるで異なる風情が美しい映像で描かれています。


(4)『ザ・タワー』原題:Borj 英題:The Tower
監督:マッツ・グルードゥ  Mats Grorud
2018年/ノルウェー=フランス=スウェーデン/77分/アラビア語

2019年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で最優秀作品賞を受賞したアニメ映画
北欧ノルウェーの作家が、レバノンの首都ベイルートのパレスチナ難民キャンプに住むある一家を主人公に、パレスチナ難民70年の歴史を描いた傑作です。
ある年の5月15日“ナクバ”の日。11歳の女の子ワルディは、大好きなひいおじいちゃんのシディがずっと大切に身につけていた鍵を託されます…。
作者はNGO職員の母に連れられ、子どもの頃からパレスチナ難民キャンプを訪れていた経験があるそうです。それゆえに安易な理想主義とは異なる、パレスチナ人に心から寄り添って作った「希望」の物語にきっと胸が熱くなります。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 『ザ・タワー』  ~パレスチナの難民キャンプを描いたアニメーション~  (咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/468134874.html


(5)『シェヘラザードの日記』原題:Yawmiyat Scheherazade 英題:Scheherazade's Diary
監督:ゼイナ・ダッカーシュ Zeina Daccache
2013年/レバノン/81分/アラビア語

レバノンのドキュメンタリー映画 ★日本初公開

レバノンのバアブダ女性刑務所を舞台に、演劇を通じたドラマセラピーに参加する女性囚たちを描いた作品です。演劇は所内で2ヵ月にわたり12回上演されました。
監督はセラピストとしても活動しており、映画はセラピーの様子に加え上演の模様や女性たちへのインタビューで構成されています。
カメラを前に初めて自らの壮絶なDV経験などを語る、彼女たちの言葉に胸を打たれます。
なお、レバノンではその後DVから女性とその家族を守るための法律が施行されましたが、あまり効果的には機能していないようです…。


(6)『ラシーダ』原題・英題:Rachida
監督:ヤミーナ・バシール=シューイフ Yamina Bachir - Chouikh
2002年/アルジェリア=フランス/94分/アラビア語・フランス語

政府・軍とイスラーム主義勢力との対立から始まった1990年代の内戦を題材に、アルジェリア映画で初めて女性監督によって製作された作品です。
そう、『パピチャ 未来へのランウェイ』の、これがオリジンです。
学校教師のラシーダは、ある朝、過激派の若者たちから学校に爆弾を仕掛けるよう脅され、それを拒否したために銃で撃たれてしまいます…。
監督は内戦中に脚本を書き始め、5年の歳月をかけて本作を完成させました。内戦下の残酷な日常を生きた庶民たち、中でも女性や子どもたちの顔の一つ一つが丁寧に描かれています。

アラブ映画祭2005で上映
シネマジャーナル No. 65(2005 夏・秋)に掲載


(7)『痕跡 NSUナチ・アンダーグラウンドの犠牲者』原題:Spuren - Die Opfer des NSU
英題:Traces
監督:アイスン・バデムソイ Aysun Bademsoy
2019年/ドイツ/81分/ドイツ語

ドイツのドキュメンタリー映画  ★日本初公開
2000年代に、ドイツのネオナチ・グループが8名のトルコ系移民を殺害した“NSU事件”。
事件から10年を経て、遺族の声に初めて耳を傾けた作品です。
日本ではあまり知られていませんが、NSU事件はファティ・アキン監督のヒット作『女は二度決断する』の元ネタになった事件です。
現在はドルトムントに暮らす、父親を殺されたある女性の「それでもこの街が好き」という言葉が刺さります…。
ヘイトや人種差別、人類社会が共有すべき問題を声高にならず、しかしはっきりと示す作品です。


(8)『ミナは歩いてゆく』原題・英題:Mina Walking
監督:ユセフ・バラキ Yosef Baraki
2015年/アフガニスタン=カナダ/110分/ダリ語
★日本初公開
現在はカナダ在住のアフガニスタン人監督が、祖父や父親を養うため学校に通いながら路上で物売りをしている12歳の少女を主人公に、彼女の視線を通じてアフガニスタンの厳しい現状を描いた作品です。
主人公のミナを演じる彼女をはじめ、登場する少女少年たちはみな演技初経験。
監督は自らカメラを携え19日間で本作を撮り上げたらしく、アザーンが響くカーブルの街並みは臨場感満点です。
アフガニスタンで女性や子どもが置かれる環境は厳しくも、活発で自己主張も強いミナという女の子をきっと応援したくなります。


(9)『青い空、碧の海、真っ赤な大地』原題:Neelakasham Pachakadal Chuvanna Bhoomi
英題:Blue Skies, Green Waters, Red Earth
監督:サミール・ターヒル Sameer Thahir
2013年/インド/137分/マラヤーラム語・英語・ヒンディー語・オリヤー語・アッサム語・ナガ語・タミル語・テルグ語・ベンガル語
★日本初公開
ケーララのムスリム青年が、突然姿を消した愛する女性の出身地ナガランドを目指して友人とともに4800㌔を旅する青春ロードムービーです。
プリーのビーチ、ナクサライトの村、アッサムの暴動、そして回想で語られる恋人アシとの運命の出会い…。
宗教や民族、様々な経験を得ながら成長してゆく若者の姿がインド各地の美しい大自然とともに描かれます。
計9つの言語が出てくる、インドの旅が好きな人は必見の作品です。


(10)『孤島の葬列』原題:Maha Samut Lae Susaan 英題:The Island Funeral
監督:ピムパカー・トーウィラ Pimpaka Towira
2015年/タイ/105分/タイ語

2015年の東京国際映画祭でアジアの未来部門・作品賞を受賞したタイ映画
バンコクに暮らすムスリムの姉弟が、弟の友人と3人で伯母が住むというタイ深南部のパッターニー県を目指して旅をする不思議な雰囲気のロードムービーです。
仏教国タイにおいてマレー系ムスリムが多い“深南部”は、以北のタイ人にしても偏見を抱きがちな地域のようです。主人公姉弟もそれは同じで、しかし彼らは自身のルーツを求めて旅を始めます。
そしてその旅を追体験するうち、やがて観る者もなぜ人は他者に偏見を抱くのか?
という問いを感じるようになります…。


【イスラーム映画祭6アンコール】

『長い旅』原題:Le Grand Voyage 英題:The Great Journey
監督:イスマエル・フェルーキ Ismaël Ferroukhi
2004年/フランス=モロッコ=ブルガリア=トルコ/101分/アラビア語・フランス語・ブルガリア語・セルボ クロアチア語・トルコ・イタリア語・英語

初年のイスラーム映画祭で好評を博したフランス=モロッコの合作映画・
フランス生まれのモロッコ移民二世の若者が、父親に無理矢理駆り出され、イスラーム最大の聖地マッカを目指して7ヵ国を車で旅する長大なロードムービーです。
神戸では初めての上映です。


『マリアの息子』原題 : Pesar-e Mariam 英題 : The Son of Maryam
監督 : ハミド・ジェベリ Hamid Jebeli
1999年/イラン/72分/ ペルシャ語・アラビア語・アルメニア語

2017年のイスラーム映画祭2で上映し、少年の健気な姿に観た人すべて(自分の知る限り)が感銘を受けた珠玉のイラン映画です。
村で唯一の教会の聖マリア像に見知らぬ母の顔を重ねるムスリムの男の子が、怪我をした神父のために奔走するというお話です。
神戸では初上映となります。


★下記2本は権利の関係で東京のみの再映となります。
 2作品とも最後の上映ですのでぜひご覧ください。

『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』
原題:The Guest: Aleppo - Istanbul 英題:The Guest: Aleppo to Istanbul
監督:アンダチュ・ハズネダルオール Andac Haznedaroglu
2017年/トルコ=ヨルダン/ 89分/ アラビア語・トルコ語
予告篇https://youtu.be/r_SX2PpXlq0

イスラーム映画祭5 シリア難民を描いた『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』(咲)


『アル・リサーラ/ザ・メッセージ アラブ・バージョン』
原題:Al-Risâlah英題:The Message
監督:ムスタファ・アッカド Moustapha Akkad
1976-2018年/リビア=モロッコ=エジプト=サウジアラビア/207分/アラビア語・ 英語
予告篇https://youtu.be/bFBedljRGEE
今回の上映にあわせ、日本語字幕をブラッシュアップ!

イスラーム映画祭5 預言者ムハンマドの半生を描いた『アル・リサーラ/ザ・メッセージ アラブ・バージョン』(咲)



TIFFトークサロン インド映画『遺灰との旅』  (咲)

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『遺灰との旅』原題:Karkhanisanchi Waari 英題:Ashes on a Road Trip
監督/脚本:マンゲーシュ・ジョーシー
出演:アメーイ・ワーグ、モーハン・アーガーシェー、ギーターンジャリー・クルカルニー
2020年/インド/マラーティー語/109分/カラー
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
公式サイト:http://ashesonaroadtrip.com/
TIFFサイト:https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP06
©Nine Archers Picture Company, 2020

一家の大黒柱が亡くなった。遠く離れた思い出の地に遺灰を撒くまでは遺書を読むな、との指示に従い、残された者らは車で一路パンダルプールの川を目指す。インド的な笑いと涙に溢れたシニアたちのロードムービー。(公式サイトより)

*物語*
マハーラーシュトラ州プネーで暮らすカルカニスの一族。家長のプールーが亡くなる。次男が仕切って男たちで火葬を行い、遺灰が家に帰ってくる。四男が、「昨日、亡くなる前に、兄さんから遺灰を聖地パンダルプールに散骨して、それが済んだらクローゼットにある手紙を読めと言われた」と明かす。遺言書と思われる手紙を早く読みたい気持ちを抑えて、息子オームの運転する車に、弟3人と妹一人が乗り込んで聖地を目指す。
オームには、父親が怖くて言い出せなかった恋人がいて、彼女から妊娠を告げられ結婚を迫られている。三男は認知症気味、アメリカから帰ってきたばかりの四男はアメリカ人の妻からは離婚を迫られている。独身の妹には同性の恋人がいる。
一方、家に残った未亡人は、夫に別の家族がいたことを知ってしまう・・・
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それぞれに悩みを抱えた家族。一緒に車で聖地を目指すうちに、家族の絆が強まるかと思いきや、皆それぞれに遺産をアテにしている姿が見え見え。あっと驚く遺言書の内容に、そう来るか~と! (公開されるかもしれないので、結末はお楽しみに)
上映が終わって、シネジャの(白)さんや(美)さんと、こんなインド映画もいいわねと。
インド映画に詳しい友人によれば、マラーティー語の映画には、このような家族の問題を取り上げた、いわゆる歌って踊ってのないものが結構あるとのこと。
歌や踊りの代わりに、賑やかな大きなお祭りが出てきて圧巻でした。
ぜひ公開を期待したい1作です。



◎TIFFトークサロン
11月2日(月)20:00~
オンラインでのTIFFトークサロンの1回目として取り上げられました。
リアルタイムで参加できませんでしたので、アーカイブ動画から書き起こしました。
アーカイブ動画:https://youtu.be/5fQWQglQLO8

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登壇:マンゲーシュ・ジョーシー(監督/脚本)
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)

石坂:東京から、こんばんは。今年のTIFF全体を通じて、1回目のトークサロンで緊張しております。上映は映画館で行っていますが、海外のゲストが来られないことから、オンラインでQ&Aの場を設けました。皆様とのコミュニケーションを大切にしたいと思っておりますので、ご質問できる形になっております。Q&Aボタンをクリックして、書き込めるようになっています。私の方で見て、監督に質問を投げかける形で進めてまいります。
上映後の監督とのお話となりますので、この場では映画の結末までさらけ出してお話いただきますのでご了承ください。
1回目のゲストをお招きしたいと思います。インド映画『遺灰との旅』の監督マンゲーシュ・ジョーシーさんです。一言、コメントをお願いします。


監督:皆さん、こんにちは。映画はいかがだったでしょうか? 質問をお待ちしています。

石坂:最初に私の方から質問して始めたいと思います。日本映画がお好きとのことですが、どんな映画がお好きですか?

監督:黒澤明監督の作品はほとんど全部見ていて、私のグルのような存在です。特に『羅生門』が気に入っています。黒澤監督から学ばせていただいたことが多くあります。日本映画は黒澤明監督に限らず、いろいろなジャンルのものが好きで、若い年代のインディーズのものも観ています。

石坂:日本にいらっしゃったことはありますか?

監督:一度も行ったことがなくて、黒澤監督の国に行けることを楽しみにしていたのですが、コロナで行けなくて、近い将来ぜひ行きたいと思っています。

石坂:キャリアについてですが、最初は理系のエンジニアだったのが、どうして映画監督に転じられたのでしょうか?

監督:子どものころから、フィルムメーカーになりたいと思っていました。友達で俳優になりたいという人もいたのですが、私はどちらかというとストーリーを語ることに興味がありました。父も映画の大ファンでした。どういうわけかエンジニアになってしまいました。映画を作りたいという情熱は小さい頃からもっていました。

石坂:大家族の物語。アイディアはどこからきたのでしょうか?

監督:叔父が亡くなって、兄弟で遺灰をどこに埋めるかという話をし始めました。ちょうど大きなお祭りの直前でした。家族が遺灰の話をしているときに、どういうリアクションをするかのストーリーを考えたのが映画の始まりです。

石坂:そうしますと、キャラクターは家族をモデルにしているけれど、物語はフィクションということでしょうか?

監督:キャラクターは、叔父や兄弟をモデルにしていますが、ストーリーは全くの作り話です。

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石坂:車は、本物のフェラーリですか?

監督:全然違います! フェラーリじゃないですが、気持ちとしてフェラーリが欲しい。でも買えない。インドの車にロゴを付けたもので、主人公の思いを表してます。

石坂:役者さんたちが素晴らしかったですが、役作りをどのように指導されたのでしょうか?

監督:ストーリーを書いている段階で役者さんたちを考えていました。書き終わって声をかけて、脚本を共有しました。自分から、こういう風にやってほしいという説明はしませんでした。こういうトーンの映画を撮りますという説明はしました。1週間リハーサルをして、本読みの時に、方言や話し方、発音などは説明しました。役者さんたちから聞かれた時には答えましたが、演技について、あれこれ指示は一切していません。

石坂:ほんとに家族のようでした。いつも仲がいいわけでなく、時々、腹立たしいという家族の雰囲気が出ていて素晴らしかったという感想をいただいています。

監督:とても素晴らしいコメントです。役者は皆、それぞれの家族をもっているのですが、一つの家族のように見えたとしたら嬉しいです。

石坂:テレビ番組「理想の家族」に出演する場面がありますが、実際にインドであるのでしょうか?

監督:実際にいくつかあります。カメラが回っているときには理想の家族風を演じるけれど、カメラが離れるとそうでもないということもあります。それがインドの現実の家族ともいえます。マラーティでは15年続いている番組もあります。

石坂:古い価値観の中にいる男性と対照的に、女性が新しい価値観を持っているという感想を複数の方からいただいています。女性のキャラクターはどのように作っていったのでしょうか?

監督:一緒に脚本を書いたアルチュナーさんという女性と話し合いました。女性が脚本を書く側に参加していると、女性は強くあってほしいという思いが入ります。女性が被害者的立場になることを避けたかったのです。ガールフレンドが男性も乗るようなバイクに乗って追いかけてきます。インドには女性のバイカーが存在していて、強い女性を描きたい思いがありました。家父長制の強いインド社会で、女性が遺灰をまくべきじゃないとか、来るべきじゃないといわれる場面がありますが、彼女は引き下がりません。

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石坂:Q「未婚の女性が妊娠したり、違うカーストの相手との結婚の話も少し出てきます。こういう話題を脚本に盛り込んだ狙いは?

監督:カースト制度はインドで複雑。矛盾もあります。男性のほうが縛られていて、意思が強くない。子どものころから頭があまりよくなくて言われるままにしか行動できません。 女性のほうがアグレッシブで勇気があります。伝統に従わなければいけないインドの事情があります。彼は彼女のことを愛しているのに、家族に言う勇気がありません。そんな現実も描いています。

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石坂:後半のお祭りに出くわす場面は迫力がありました。俳優さんをたくさん連れての撮影は大変だったのではないでしょうか?

監督:2回に分けて撮っています。お祭りのときには車で移動するのは不可能ですので、役者は連れずにいって、お祭りの様子をいろいろな角度から撮りました。別の日に同じ場所で役者に演じてもらったものを合わせました。

石坂:女性に相続権がないという男性の発言に対して、女性にもあると反論する場面がありましたが・・・

監督:実際に法律で女性に相続権がありませんでした。1995年に法律が改正されて相続できるようになりましたが、それ以前に結婚していた人には両親が亡くなっても土地の相続権がありません。1995年の法改正以降に結婚した女性には権利があります。

石坂:ボリウッド映画とマラーティ映画では規模が違うと思いますが、マラーティ語の映画は、州内で配給されるのでしょうか?

監督:インド内で公開するときには言語のこともあって、マラーティー語の映画はマハーラーシュトラ州のみでの公開になります。アメリカなどでは全国的にあるマラーティ語コミュニティで上映されます。 

石坂:大家族の映画ですが、日本では核家族化しています。インドでは、まだまだ大家族が主流でしょうか? それとも変化があるのでしょうか?

監督:4世代が一緒の家族ですが、インドでも核家族化していて、もう最後の大家族。田舎ではまだ大家族も見られますが、都市では特に少子化して核家族化しています。

石坂:Q「インド映画というとダンスシーンがあるというイメージですが、こういうダンスのない映画も? LGBTの話題が出てきましたが、インドではどのようにみられているのでしょうか?」

監督:メインストリームの映画は歌や踊りが入っています。世界からも期待されていますので。インディーの映画では、歌も踊りもないものも多くて、受け入れられています。共存して観客に受け入れられているのが嬉しいです。
LGBTについて若い人はオープンです。伝統的に受け入れられない人も多いです。同性の結婚も合法ではありません。インドでは、300年~400年前のお寺を見ても、LGBTの像がありますので、西洋から来た新しいものではないと認識しています。昔からインドの文化の一部です。今は若い人たちがオープンに議論するまでになっているので、変わってきたと思います。

石坂:今回初めてやってみて気が付いたのですが、皆さん、話を聞きながら、どんどん質問が膨らんでくるようです。この最後の10分位でたくさんの質問がきました。せっかくですので、もういくつか質問を。
劇中の音楽は、映画のためのオリジナルでしょうか?
コロナの中ですが、次回作は考えていらっしゃるでしょうか?


監督:音楽は映画のために作ったものです。最初は歌はなしで撮ろうと思っていました。音楽担当のプラフッラチャンドラさんが曲を書いてくれました。ボリウッド的な音楽を入れようとは思っていませんでしたので、家族の気持ちを表すものや、二人の感情を表すロマンチックなものを入れました。
今、脚本を書いて撮れる状態にはなっているのですが、撮影にあたっての制限が厳しくて、ワクチンがないのでマスクをしなくてはいけないとか、ソーシャルディスタンスを取れというとロマンチックなシーンが撮れません。あと6か月か8か月くらい待ったほうがいいと思っています。
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石坂:皆さん活発にご質問ありがとうございました。監督も貴重なお話をいただき、感謝申しあげます。
近い将来ぜひお会いしたいと思います。どうぞお元気で


監督:ほんとうにありがとうございました。

まとめ:景山咲子

第33回東京国際映画祭『鈴木さん』舞台挨拶報告 2020.11.02

映画初主演のいとうあさこ「あんまり笑ってないけど」『鈴木さん』舞台挨拶
(まとめ&写真:大瀧幸恵)


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舞台挨拶に登壇したいとうあさこら

第33回東京国際映画祭「東京プレミア2020」に選出された『鈴木さん』。11月2日、TOHOシネマズ六本木ヒルズでの上映前に舞台挨拶があった。登壇したのは佐々木想監督をはじめ、主演のお笑い芸人いとうあさこ、佃典彦、大方斐紗子、保永奈緒、宍戸開ら主要キャストの6人。
映画は、少子化対策のため未婚者徴兵制が敷かれた世界を舞台にしたSFダークファンタジー。45歳の未婚女性役で映画初主演のいとうは「45歳独身で攻めていけるから、役づくりは必要なかった。根にあった奥の闇を出した感じ。映像はチェコスロバキアみたいな映画(笑)。あんまり笑っていないので、そんな顔を見てほしい」と、すかさず笑いをとった。

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いとうあさこ


佃はこの日、東京国際映画祭での上映とは知らされず名古屋から上京した。「監督が口下手だから何も聞かされていなくて、ここに来て初めて聞いた」と焦った様子。いとうが「知っていたらネクタイしてたよね。でも、監督の口下手と関係なくない?」とツッコみ、会場が沸いた。
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佃典彦


宍戸も「僕も同じですよ」と言い、撮影から2年以上を経ての晴れ舞台に「低予算でみんなの力を合わせて作った作品が、世界の方にご覧頂ける機会。映画は普通、撮影から1年くらいで公開されるけど、音沙汰がなかったのでポシャッたと思っていたら、今日ですよ!こんなに嬉しいことはない」と喜びを表した。
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宍戸開


保永は「非日常を描いているけれど、もしかしたら未来には本当に起こり得ること。そんな視点で楽しんでほしい」と映画の内容を語り、「一番いいことを言ってるぅ」と周囲から讃えられ、照れる場面もあった。
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保永奈緒


いとうは、「確かにSFだけれど、精神的には今に近いものがあるかもしれない」と同意。撮影中はロケ地となった廃墟のラブホテルで寝泊まりしていたそう。「夜中に、気球が浮かぶような映像が見えるんですよ」とホラーな体験を告白。司会者からそこが見どころですか?と問われると「違う違う、そこじゃない!」と打消し、会場は笑いに包まれた。

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大方斐紗子 、 佐々木想監督


”あんまり笑っていない”役柄とは真逆に、終始笑顔で腰の低いいとうはテレビで見る通り、気遣いのできる人だった。公開が決まると、いとうの別な顔が見られるかもしれない。

作品情報
少子化解決のために、未婚者徴兵制が敷かれた街で45歳になる未婚のヨシコは徴兵から逃れる為に婚活を始めるが…。社会に翻弄され追いつめられる中年男女を描くディストピアSF。
90分/カラー/日本語・英語字幕/2020年/日本/長編1作目の監督作品


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(C)映画「鈴木さん」製作委員会


東京フィルメックス クロージング作品『天国にちがいない』 リモートQ&A (咲)

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© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION


東京フィルメックス 特別招待作品 
クロージング作品

『天国にちがいない』 原題:It Must Be Heaven
監督:エリア・スレイマン(Elia SULEIMAN)
フランス、カタール、ドイツ、カナダ、トルコ、パレスチナ / 2019 / 102分
配給:アルバトロスフィルム/クロックワークス
公式サイト:https://tengoku-chigainai.com/
★2021年1月29日( 金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開.

新作映画の企画を売り込むため、故郷ナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る映画監督。そんな中、思いがけず故郷との類似点を見つけてしまう。果たして本当の故郷はどこに…? 昨年のカンヌ映画祭でダブル受賞した名匠エリア・スレイマン10年ぶりの傑作。(公式サイトより)

*物語*
ナザレ。
映画監督のES(エリア・スレイマン)が自宅のテラスでくつろいでいると、隣人と名乗る男が悪びれもなく庭のレモンを取っている。声をかけたが、返事がなかったと。
墓参りの帰り、こん棒を持った青年たちに出会う。
車椅子など不要になったものを処分し、ESは旅に出る。

パリの町。
アジア系の男女に「ブリジットさん?」と聞かれる。
首を振ると、お辞儀する二人。日本人だった。
ノートルダム寺院、ルーブル美術館、どこも人がいない。
ホームレスの女性のあとを5人の警官が追う。
黒人の清掃人二人。缶を箒で飛ばして、側溝に入れて遊んでいる。

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© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

戦車が町を行く。軍事パレードだった。花火があがる。
賑わうセーヌ川。
映画会社に企画を持ち込む。
「パレスチナ色が弱い」とフランス語で却下され、何も答えなかったら、英語で「言ったことはおわかりに?」と言われる。

夜のニューヨーク。
タクシーに乗り、運転手に「どこの国から?」と聞かれ、「ナザレ」と答える。
「それは国か?」と運転手。
「パレスチナ人だ」とES。
「パレスチナ人に初めて会った!」とはしゃぐ運転手。
「カラファトのだろ?(アラファトだよ!)ナザレはイエス様の故郷」

皆、大きな銃を持って歩いている。

紅葉が美しい公園。
天使の羽根を付けた女の子を追う警官たち。
バギーを押しながら運動する5人のママたち。

映画学校の講義やアラブ・フォーラムにゲストとして登壇するES。
なんとも居心地が悪い。

映画会社「メタ・フィルム」のロビーで、友人のガエル・ガルシア・ベルナルと一緒に人を待つES。
「パレスチナ出身でコメディを撮ってる。次の作品のテーマは中東の平和」とガエルがプロデューサーに紹介してくれるが、「もう笑えちゃう。またいつか」と、あっさり断られる。ガエルだけが中に入っていく

タロット占い。
「この先、パレスチナはあるのか?」
「必ずやある。ただし我々が生きているうちじゃない」

ナザレに帰ってくる。
オリーブの林。民族衣装の女性が頭に桶を載せている。
クラブで踊る人たち・・・

パレスチナに捧ぐ
父母を偲んで


今回のフィルメックスで、エリア・スレイマン監督特集が組まれ、長編デビュー作『消えゆくものたちの年代記』(1996年)を久しぶりに拝見することができました。
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あれから、4半世紀近く。ご両親は天国に召され、エリア・スレイマンもずいぶん老けて、時の流れを感じました。
パレスチナの置かれた状況は、ますます悪くなっているのに、映画の企画を持ち込んでも却下され、誰にも関心を持ってもらえない現状を突き付けられた思いがしました。

冒頭、「たとえ神様が来ても開けない」という扉を、神父が裏から暴力的に押し入ります。パレスチナの地が蹂躙されていることを象徴したような幕開けです。
映画には、エリア・スレイマンらしいウィットに富んだ場面やエピソードが満載。
ナザレの老人が話す蛇の恩返しの話。
「ハゲタカが蛇を狙っていたので、ハゲタカを撃ったら、蛇がお礼のお辞儀を。
別の日、タイヤがパンク。蛇が空気を入れてパンパンにしてくれた」
情景が目に浮かび、可笑しくて忘れられません。
ニューヨークの公園で、バギーを押しながら運動する5人のママたちの姿も、目に焼き付いています。
そして、所在なく居心地悪そうにアラブ・フォーラムの壇上の隅っこに座るエリア・スレイマン監督。
故郷ナザレで、平穏に暮らせる日が監督の生きているうちに来ることを祈るばかりです。



◎東京フィルメックスでの上映&リモートQ&A
2020年11月7日(土)  17:20からの授賞式終了後 @有楽町朝日ホール

上映後、フランスにいるエリア・スレイマンと、リモートでQ&Aが行われました。

『天国にちがいない』Q&A(リモート)
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登壇:
エリア・スレイマン(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)
動画 https://youtu.be/bxQbdL-v-S4
下記のうち、★印:動画にはない部分

市山: 前の作品『The Time That Remains(邦題『時の彼方へ』)』から10年。どれ位の期間をかけて準備をされて昨年完成されたのでしょうか?

監督:新しい脚本を手掛けるのに、いつも時間がかかります。生きて、観察して、経験をしたうえで、蓄積をメモに書き溜めて、脚本を書くためのヒントが満ちるまでに時間がかかるんです。私の働き方は時系列的に話が進むという脚本の書き方ではありません。例えば、画家のアトリエで200点くらい作品があって、常に何かしら手を加えているという形で進行しています。10年の間に、キューバでオムニバス映画(『セブン・デイズ・イン・ハバナ』2012年)を撮りました。私の映画のタイプは資金がかかるけど、商業的な回収は難しいです。

― パリで人が少なかったですが、理由があるのでしょうか? どのように撮影を?

監督:皆が聞くけれど、私自身、謎です。どうしてこういう状態が撮れたのか。ここは観光地で人が多いから、他の場所を選んでくださいと言われてました。黙示録的雰囲気の中で撮りたかったので、町の中心で撮ると自分の意思を曲げませんでした。実は、パリ市長オフィスのフィルムコミッションのような許可を出す係の方が私のやってることを理解してくれて、多大な協力をしてくれました。

― スズメが素晴らしい演技をしていますが、CGでしょうか? スズメの演技を待っていたのでしょうか?  

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© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

監督:複雑な仕組みです。一部は3Dで作っています。一部はほんとうのスズメで撮っています。トレーナーが何か月もかけて、20羽をトレーニングして、そのうちの2羽を推薦してくれました。私の依頼した演技をそのうちの1羽がとてもうまく演じてくれたので採用しました。3Dよりリアルなスズメの方が扱いやすかったです。裏話をしますと、現実に基づいています。妻が家族を亡くした孤児のスズメを持ち帰って、置いていたら、私のパソコンにジャンプして乗っかってきたのです。それに触発されて入れた場面です。 

― 初期の作品で「I Put a Spell on You」の歌を使っていましたが、今回も別のシンガーのものを使っていました。この歌に思い入れがあるのでしょうか?

監督:いろいろ音楽を探したのですが、シーンに合うものを150曲くらいの中から、一番合うものを選びました。一番しっくりした曲だったから選んだのです。『D.I.』で使ったのはナターシャ・アトラスのキッチュな雰囲気でした。今回は違うバージョンにしました。

― 日本人が出てくるシーンがありましたが、なぜこのようなシーンを作られたのでしょうか?

監督:まさにあの場所で全く同じことが起きたので、これは絶対映画に入れなくてはと思いました。

― 日本で映画を撮りたいと思いませんか?

監督:私のセンチメンタルな箱を開けてしまいました。私はとても日本を愛してます。妻と2回訪れました。今も日本にいられたらと思います。そして撮りたいところです。お気に入りの国なので、どこにカメラを置いても私の好みぴったりな絵が撮れます。明日にでも呼んでくださったら行きたいです。マスタークラスや取材で何度も言っていて聞き飽きたと思いますが、私が映画を撮り始めたのは、小津監督がいたからです。日本に降り立って最初に小津監督のお墓参りをしました。

― キャスティングをいつもしているジュナ・スレイマンさんはドキュメンタリー作家でもあると思います。監督のご親戚でしょうか?

監督:私の姪です。はい、ドキュメンタリー作家でもあります。パレスチナだけで撮った時は、全面的にキャスティングを担当してくれました。今回は、3か所でしたので、パレスチナ部分を担当してくれました。

― 監督が演じる主人公は、いつも台詞がありません。これには理由があるのでしょうか?

監督:戦略的に自分が出て何も話さないと決めた訳じゃありません。短編を撮り始めたときから、自分で演じてこのようなスタイルでした。自分がカメラの前に立たなければいけないのはわかっていました。非常に個人的なことを綴っていますので。一般的に、私の作品はセミサイレント映画で、音に溢れているけれど、人の話す言葉は少ないです。好みとして、映像の最大の効果を狙うために、人の言葉を最小限にしています。人の言葉に頼らないで作りたいという思いがあります。

― イギリスの作家ジョン・バージャーへの献辞がありましたが、その方への思いは?  

監督:パリで偶然会ったのは、ものすごく前のまだ若い時で、将来何をしたいか決めてないときでした。何がしたいかと聞かれ、映画とぽろっと言いました。その意味を理解せずに伝えたのがきっかけでした。それ以降、彼は守護天使のように見守ってくれていて、彼の影響で本を読んで自分自身を見つめることを始めました。常に応援してくれていて、家族のような関係がずっと続いていました。クリスマスを家族ぐるみで一緒に過ごしたりしました。

― 森の中で遭遇する女性が頭の上に桶のようなものを載せてました。彼女は祈りをささげるような儀式をしていたのでしょうか?  

監督:私の古い記憶から描いたものです。私の生まれたナザレから10キロくらいのところのベドウィンの村から女性がヨーグルトをポットに入れて売りに来ていました。映画でご覧になっていたように、ポットを二つ持ってきていて、一つを置いて、また一つを取りにいってということを繰り返していたのです。このシーンは私の覚えているかつてのパレスチナの情景です。オリーブの林があって、女性がいてという、郷愁に基づいて作られたシーンです。

市山:今までになく、50を超える質問がきていますが最後の質問になってしまいました。何人の方からの質問を選びました。タイトルに込めた思いは? 天国はパレスチナのことと考えていいでしょうか?

監督:天国はパレスチナを指していません。世界全体がパレスチナ化していることを映画で描いています。主人公は天国を探して移動するのですが、世界中どこにも問題がある。グローバル化であったり、すぐに警察が稼働して、どこに行ってもチェックポイントがあるような状態です。天国は理想の場所で、皆が探し求めているのではないでしょうか。グローバル化で問題のない場所は結局ないということですね。

市山:いつか機会があればスレイマン監督を日本にお招きしたいと思います。新しい作品を近いうちに観れることを期待したいと思います。

まとめ:景山咲子