TIFFトークサロン『荒れ地』(イラン)

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『荒れ地』  英題:The Wasteland 原題:Dashte Khamoush
監督:アーマド・バーラミ
2020年/イラン/102分/モノクロ/ペルシャ語
上映:11月5日(木)20:45~  11月9日(月)10:35~
◆ワールド・フォーカス国際交流基金アジアセンター共催上映
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC13

*物語*
レンガ工場に家族で住み込んで働いている労働者たち。工場主が突然工場の閉鎖を告げる。解雇を言い渡され、個別に工場主に嘆願する。ここで40年勤め、工場主と労働者の間を取り持つロトフォッラーのことを、皆それぞれ告げ口する・・・

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TIFFトークサロン
11月9日 18:00~
登壇:アーマド・バーラミ監督
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)
ペルシア語通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん
英語通訳: 野村よしこさん 
アーカイブ動画:https://youtu.be/_VCjTklG1s0

◆撮影は、廃墟になったレンガ工場で
石坂:監督、どうぞ画面にお入りください。

監督:皆さんこんにちは。私の映画をTIFFで紹介できて、とても光栄です。

石坂:こちらこそ素晴らしい作品を東京に出していただいて感謝申し上げます。
皆さんのご質問も交えて進めていきたいと思います。Q「映画のスクリーンサイズについて、スタンダードサイズの構図、横移動のカメラワークが素晴らしく、目を見張りました。実際のレンガ工場で撮影したのでしょうか? それともセットを組んで撮影したのでしょうか?


監督:実際のレンガ工場で撮影しています。5年前から稼働してなかったのですが、映画のために手を入れて、稼働させました。全部、現実にあるものですが、ディテールは手をかけています。

◆原題は『静かな地』社会が沈黙している意も
石坂:Q「ペルシア語のタイトル『Dashte Khamoush』は、沈黙の地というニュアンスだと思います。タイトルに込めた監督の思いをお聞かせください」(景山の質問)

監督:英語では、『Wasteland』になっていますが、ペルシア語では、静かなというニュアンスです。実際、映像を見ても、レンガ工場が閉鎖されて静かになってしまいます。Khamoush には、静かなとか沈黙という意味のほかに、消えたという意味もあります。今のイラン社会は皆、沈黙していると思いましたので、このタイトルは両方を含めています。

石坂:Q「工場には、いろいろな人たち、男女、若い人、年を取った人、クルド人やトルコ系のアゼリーの人たちなどの様々な民族の人が働いていて、イランの縮図、ひいては世界の縮図のようでした。様々な人を登場させた意図をお聞かせください」(景山の質問)

監督:労働者の映画を撮りたかったのです。そして、イランのいろんな民族のことも撮りたかったのです。実際、レンガ工場には、西のクルドや東のホラーサンなどいろんなところから働きに来ています。イランではいろんな民族が一緒に暮らしていますので、レンガ工場は舞台にぴったりだと思いました、

石坂:Q「[時代設定は現在でしょうか? モノクロのせいもあって遠い昔の神話のようにも思えました]

監督:20年前位から使われているものを使って撮影しています。いつの時代と限定したくなかったのです。モノクロにしたのは、レンガ工場の労働者の世界にはあまり色がないので、モノクロで描きました。

石坂:こちらは感想です。「工場の閉鎖は世界の終りのようにも思えました」

監督:同感です。一つの仕事が終わると、まるで人生が終わったような感じです。

石坂:次の質問は皆さん一番気になっていることだと思います。Q「映画の語り口がとてもユニークです。同じ時間が反復するアイディアはどこから生まれたのでしょうか? 着想のヒントになったものは? 『羅生門』の語り口を思い起こしました」

監督:まずは日本の黄金時代の映画を何度も何度も観ていることをお伝えしておきたいと思います。偉大な黒沢監督や小津監督から多くのことを学びました。この映画のフォームはハンガリーのタルベーラ監督をイメージしたものです。工場では同じサイズのレンガが毎日毎日リピートして作られています。ですので、この映画もリピートした作りにしたいと思いました。
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石坂:Q「労働者だったお父様に捧げた映画とのことですが。お父様には映画をご覧いただくことはできたのでしょうか? どんな感想を?」(景山の質問)

監督:父は30年産業の工場で働いていました。この作品はまだ観ていませんが、前の作品は観て、励ましてくれています。保険のことを父はいつも心配していて、映画界には保険はあるのかと気にしているので、映画の中にも保険の話を入れました。

石坂:複数の方からいただいている質問です。Q「話を終えて白いシーツにくるまって寝る場面は、何を意味しているのでしょうか?

監督:映画を観る方に自分の解釈してもらいたいので、あまり説明したくないのですが、あえて説明しますと、一つ一つの家族の話が終わると、その中の一人が頭から白い布をかぶって寝てしまいます。人生が終わる、夢も終わる、つまり死をイメージしています。

石坂:まるで遺体のように思えましたとのコメントもいただいていますので、腑に落ちましたね。

監督:もう一つ、工場で働いている人たちは、長年働いていて、白い布を被った時には、もう仕事は終わりという意味もあります。自由な解釈をしていただいていいのですが。

石坂:Q「ロケ地は辺鄙な場所かと思います。撮影で一番大変だったことは?」

監督:とても大変なロケ地でした。沙漠で、夏の初めでしたので、40度を超えてました。朝の5時から夜の8時まで撮っていました。低予算なので、一日に長時間使わないと終わらないと思いました。とても暑くて、自分もスタッフも30本くらいの水や、レモン水を飲んで乗り越えました。

石坂:ドラマの中で「暑い暑い」と言ってましたが、俳優さんたちもほんとに暑くて大変だったのですね。

監督:もう一つ、撮影していた時、レンガの焼き窯は稼働してなかったのですが、ほんとに稼働していて熱いということが伝わればいいなと思いました。キアロスタミ監督が、映画は嘘の塊と言っていたのを思い出します。レンガ工場の労働者たちが熱い中で働いていることが、少しでも感じていただければいいなと思いました。

石坂:キアロスタミ監督の名が出ましたが、一緒に仕事をされたことはありますか?
ショーレさんは長年一緒に仕事されていますが・・・


監督:心からキアロスタミ監督を尊敬し、彼の映画が好きです。キアロスタミ監督の映画を観て、監督になりたいと思いました。大学で映画は学んだのですが、10年前に1年間のキアロスタミ監督のワークショップに参加して、キアロスタミの映画作りを学んでから映画を作り始めました。キアロスタミ監督の大ファンだったので、ショーレさんのこともキアロスタミ監督を通じて知ってました。この映画もキアロスタミ監督の影響を受けて作ったといえます。

石坂:「映画は嘘の塊」というキアロスタミの名言がありますが、そうはいっても彼の映画はリアリティにあふれています。キアロスタミ監督から一番影響を受けたのは、どんなことですか?

監督:現実に基づいて作ることを、自分も一番やりたいと思いました。キアロスタミ監督は素人をよく使っていますので、私も素人を使おうと思いました。自分の人生に近いものを描くということもキアロスタミ監督から学びました。

石坂:長編2作目ですが、次の作品の計画は?

監督:映画は2本目ですが、テレビドラマやドキュメンタリーをたくさん作ってきました。
この作品を筆頭に3部作を作りたいと思っています。あと2本同じテーマで作ります。
2本目は脚本を書き終わって、プレ製作に入っています。刑務所から釈放される女性の話です。

石坂:『荒れ地』はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門のグランプリでしたが、同じ部門の監督賞を受賞したラブ・ディアス監督の『チンパンジー族』を今回のTIFFで上映しています。これも労働に関する話ですが、ご覧になりましたか?

監督:残念ながらコロナのせいでヴェネチアでは時間がなくて観られませんでした。3日間しかいられなくて、自分の映画の取材でつぶれてしまいました。ぜひ観てくださいとは言われました。

石坂:時間がきてしまいました。最後にご覧になっている皆さんに一言お願いします。

監督:映画をご覧いただき、トークサロンにも参加してくださいましてありがとうございました。イランでは日本の文化をとても尊敬しています。豊かな文化に口づけすると例えています。何年か後に、作品をもって日本に行くチャンスがあれば嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。

石坂:ぜひその日が来ることを願っております。

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スクリーンショットタイム

景山咲子

TIFFトークサロン『悪は存在せず』(ドイツ・チェコ・イラン)

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『悪は存在せず』英題:There Is No Evil 原題:Sheytan vojud nadarad
監督:モハマッド・ラスロフ
2020年/ドイツ・チェコ・イラン/152分/カラー/ペルシャ語
上映:11月2日(月)19:45~ 11月4日(水)13:30~
◆ワールド・フォーカス国際交流基金アジアセンター共催上映
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC12

*物語*
イランの死刑制度にまつわる4つのエピソード。
エピソード① 仕事帰りに高校生の娘を迎えにいき、家では妻の髪を染めてあげる夫。ごく普通の日常だが、刑務所に勤める彼は死刑執行人だった・・・
エピソード② 兵役で任地の刑務所で死刑執行を命じられるが、耐え切れずに脱走する若い兵士。
エピソード③ 恋人の誕生日に指輪を持って列車に乗り、山奥の故郷を目指す兵士。実は、彼は脱走してきたのだった・・・
エピソード④ 留学先からイランに帰ってきた医学を学ぶ女性。辺鄙な山奥に、父の親友の男性を訪ねていく。彼は死刑執行を拒んだために、娘を親友に託し身を潜めたのだった・・・

★2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金熊賞受賞。
イラン政府より出国を禁止されている監督に代わり、娘で映画にも出演しているバーラン・ラスロフが授賞式に出席しました。

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TIFFトークサロン
11月9日 21:45~
登壇者:モハマッド・ラスロフ(監督/脚本/プロデューサー)
司会:矢田部さん
ペルシア語通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん、
英語通訳:王みどりさん
アーカイブ動画:https://youtu.be/V0IRSKsUL4Y

監督:サラーム!

矢田部:初めまして。ベルリンで拝見して、素晴らしい作品でした。ベルリンでご挨拶できなくて残念でした。こうしてオンラインで繋がって、お会いできて光栄です。
ラスロフ監督は、イラン、シーラーズ生まれ。カンヌ映画祭など数々の映画賞を受賞されています。『悪は存在せず』は2020年のベルリン金熊賞に輝いています。ベルリンで観て、これこそグランプリにふさわしい作品と観た直後に思いました。
まず、死刑制度という世界でも問題になっているヘビーな主題で撮ろうと思われたきっかけをお聞かせください。


監督:まずは、コロナの中で、皆さんとお話しできる機会を作ってくださってありがとうございます。メインテーマは市民一人ひとりの責任についてです。強制的に政府からさせられることに対して、どう対応するかです。

矢田部:どのエピソードも面白い。全体の構成が素晴らしくて感動します。前半は戦慄するのですが、後半は人の命の重みに厳粛な気持ちになっていきました。執筆には苦労されましたか? それとも次々と浮かんできたのでしょうか?

監督:私には制限があるので、一つのフィーチャーフィルムを作るのは体制的に許されないかなと思いました。そこで、4つのショートフィルムを作ろうと思ました。どのテーマにしようか考えて、一つのサブジェクトをいろんな角度から見て書こうと思いました。2年位かけて、4つの短編を考え、一つの長編としてどう繋いでいくかをまとめたところで撮影に入りました。

矢田部:Q「エピソードごとに処刑の現場からどんどん離れていきます。反面、処刑にかかわった経験が人生にどんどん重くかかわっていく構成が素晴らしかった。それぞれのエピソードとエピソードの関係には気を使われたのでしょうか?

監督:すべてのストーリーが出来上がった時、4つ目のエピソードで観る側にわかりやすくするために説明がいると思いました。イランでは徴兵を終わらせないと、自動車免許も取れないし、社会の中でいろいろなことができません。2番目のエピソードでこの情報を入れるといいなと思いました。それぞれのキャラクターは違うけど、何かコネクションを作るのがいいと思い、3のキャラクターを2で説明しています。
エピソード1は、全然違う話。主人公は決して悪い人ではないけれど、システムの中に身を任せている人物。何が良くて、何が悪いか決められない設定です。

矢田部:1が強いインパクトありました。仕事として、マシーンに徹しようとするけれど、睡眠薬がないと眠れないし、青信号でぼ~っとしてしまいます。マシーンに徹しきれなくて歪が出てしまう。どういうところで無理が来るかと相当悩まれてキャラクターを書かれたと思います。

監督:1話目のキャラクターで、一つ大事なのは、彼はモンスターでも機械でもないことです。猫が駐車場で捕まった時には、解放してあげています。人間的なところが残っています。アイシュマンはユダヤ人が目の前で殺された時、一度泣いたことがあると書いています。私たちにどれくらい責任があるか?が大切だと思います。強制されたとき、人間としてモラルをなくすことをしてはいけない。どうやって責任を果たしながら、モラルを保てるのかを考えたいと思いました。

矢田部:アイシュマンはホロコーストの執行者の一人ですね。Q「4つ目のエピソードのタイトルにもなっている「マラーベブース」(私にキスを)の歌は、1950年代に政治犯として死刑になる前に、娘への遺言として作られた詩とされていますが、革命前の1970年代にイランに駐在していた日本人の間でも有名な曲です。今のイランの若い人たちにもよく知られているのでしょうか? 監督にとって、この歌にどんな思いがありますか?」(景山の質問)

監督:この歌の誕生秘話について、1950年代のは作り話ともいわれています。今でも私たちにはノスタルジーのある曲なので、エピソード4にふさわしい曲だと思って入れました。

矢田部:Q「すべてのエピソードに、顔を思いきり洗う場面がありましたが、どんなことを意図したのでしょうか?」

監督:面白い質問! 私は精神科に行ったほうがいいかな(笑いながら)

矢田部:Q「後半のロケ地はキアロスタミ監督の映画を彷彿させられました。キアロスタミ監督へのオマージュを込められたのでしょうか?」
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監督:イラン人で映画人ですから、もちろんキアロスタミ監督の映画には興味があって、すべて観ています。ご覧になったのは、イランの風景です。3と4に景色を選んだのは、最初の1と2はクローズされたシーン。圧迫感を感じさせると思います。2は、兵士がノーと言って出ていって、町からどんどん離れます。町のど真ん中に居られない。遠くに行かないと生きていけない。1と2は暗い環境で撮られているけど、3と4では、問題は問題だけど、ロケ地は自由さを感じさせてくれる中で撮っています。

矢田部:Q「死刑制度について、執行人として徴兵された若い兵士にやらせることが多いのでしょうか? 兵士たちへの心のケアはあるのでしょうか?」

監督:普通の兵士でも、小さな刑務所などで担当させられることがあります。リサーチしてわかったのですが、徴兵中に死刑執行をやった人に聞いたら、長年精神的に落ち着かなかったけれどケアはされていないそうです。強制的にやらされるので、逃げ道がありません。

矢田部:Q「役者について伺います。ヘビーな内容なので、出演交渉して断れたこともありますか? 受けてくれた俳優さんたちと、映画についてどのような話をしましたか?
イランにはユニークな演出をする監督が多いですが、監督は細かく指示するのか、自由に役者に任せるのか、どちらのタイプでしょうか?」


監督:映画は自分一人ではなくチームで撮りますので、皆、心を込めて一緒に撮ってくれました。私はラッキーなので、後ろに座っていることができました。カメラの前もカメラの後ろも一人一人が協力的だったので映画が完成しました。人間的に大切なプロジェクトであることを理解してくれました。一番最初に、どうやって役者が自分のやる役を信じてくれるかが大事。役者さんを選ぶ時、役に合っていると信じてお願いします。テストしながら、役に近づけていきます。現場で、よく話しもします。俳優から提案があって、面白いものであれば採用します。役者と監督がお互いに理解すれば、うまくいくと思います。
エピソード4の奥さん役は、ちゃんと書かれてなかったですが、優しくて独立しているキャラクターです。ディテールを書いていませんでした。女優さんが現場で足して演じてくれて、いい感じになりました。
エピソード1はディテールは書いていたのですが、夫婦と子供がほんとの家族を味わうために、買い物に行ったり食事に行ったりしていました。執行人として、クーポンをもらったりしているのも入れてみました。
エピソード2は、兵士たちが会話している場面は計算して書き込んでました。何度も何度も練習したのですが、その時の彼らの言葉から脚本を書き換えたりもしました。兵士たちは、こういう会話をするだろうなと思い描きました。

矢田部:最後の質問です。Q「20代のなおさんから。これから映画製作を目指すのですが、若い人に勇気を与えてくれる言葉をぜひ!」

監督:決まったことはないのですが、今までのメソッドを繰り返さないで、新しいメソッドを怖がらないで使ってみることを自分に言い聞かせています。

矢田部:新しい試みを恐れるなというのは、若い人だけでなく全員に対するメッセージだと思います。
今年の東京国際映画祭を締めるのに、これほどふさわしい言葉はないのではないかと思います。
最後にスクリーンショットを撮りたいので、5秒位、笑顔で手を振っていただければと思います。そういうキャラでないのはわかっているのですが。


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思いきりの笑顔で手を振る監督。

矢田部:貴重なショットだと思います!

監督:こちらこそ、嬉しかったです。素晴らしい質問をありがとうございました。今後、新しい作品を持って、ぜひ日本に伺いたいと思います。

矢田部:ほんとうにありがとうございました。またお会いしましょう! さようなら。
監督と直接お話できるのは、ほんとうに貴重なことです。
視聴者の皆様もありがとうございました。


景山咲子