SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020の国際コンペティション 10作品の中で、まず気になったのが、戦場カメラマンを主人公にした2本の映画でした。
ドキュメンタリーとドラマの違いはありますが、どちらも戦場カメラマンが身の危険を冒してまで戦地で苦しむ人々の姿を捉えて発表することにより、世の人々に反戦の思いを感じてほしいと願っていることを感じさせてくれる映画でした。
一方で、戦場カメラマン自身、自国で平和に暮らしているように見えながら、家族のことなど様々な問題を抱えていることも見せてくれました。
◆『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』 原題:Photographer of War
監督:ボリス・B・ベアトラム
2019年/デンマーク、フィンランド/78分 ★ドキュメンタリー
公式サイト作品情報©Good Company Pictures戦場や災害被災地を撮り続けているヤン・グラルップ。
船で逃れる人々、木の上で佇む少年、モスルの戦火の中での結婚式・・・
オペラハウスで写真を披露するヤン。
再度、自爆テロの続くイラクへと出かけていく。
イスラム国が台頭し、多くの民間人が犠牲になっている様を捉えるヤン。
妻サーシャが病に倒れ、これまでは4人の子どもたちも母親がいるからと戦地にいても安心していたが、今は自分だけが頼りだ。
無事帰国するが、やがて妻が亡くなる。
「共に過ごした時間を喜ぼう」と子供たちに語る。
そして、また戦地へと出かけていく・・・
カメラマンを戦場へと駆り立てる原動力は何だろうか?と考えることがよくあります。
一発当てて名声を得たいという者も中にはいるかもしれません。
本作の中で、戦場の惨い死体の写真をみながら、ヤンが「この写真を撮ったのは誰と聞かれても、特派員とだけ伝えて。代理店経由で名前も国籍も伏せて。デンマークとわかると、ほかのデンマークの記者も困る」と語る場面があります。
純粋に、写真で反戦を社会に訴えたいという思いがわかる言葉です。
それでも快適なデンマークの自宅で過ごすヤンと、惨たらしい戦地で暮らさざるを得ない人たちとの天と地の差に、居心地の悪さを感じてしまいます。それは、私自身もまた何不自由ない暮らしをしているのに、何も手を差し伸べることができないでいるからかもしれません。
◆『南スーダンの闇と光』 原題:Hearts and Bones
★観客賞受賞監督:ベン・ローレンス
2019年/オーストラリア/111分 ★ドラマ
公式サイト作品情報© 2019 Hearts and Bones Films Pty Ltd, Spectrum Films Pty Ltd, Lemac Films (Australia) Pty Ltd, Create NSW and Screen Australia戦場カメラマンのダンは、パートナーのジョシーから妊娠したと告げられても素直に喜べないでいる。PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えている彼には父になる自信がないのだ。
そんなある日、セバスチャン・アフメッドという男が訪ねてくる。南スーダンの自分の出身地でダンが撮った写真を、まもなく開催する写真展に出さないでほしいという。さらに、難民仲間で歌を歌って過去を克服しようとする姿を撮ってほしいと頼まれる。彼らの集う場に行き、打ち解けたところで、セバスチャンが写真に写っている銃を持っている手は自分のものだという。家族を皆殺しにされ、復讐しようと銃を向けた思いをダンにぶちまける・・・
セバスチャンは、ダンに勝手に自分のことを戦争被害者だと思い込んだと当たります。復讐のためとはいえ、銃を手にした自分は加害者だという負い目があるのです。難民としてやってきた地で知り合って結婚した妻には、過去に家族がいたことを明かせないでいます。戦争加害者だったことは、さらに言えないでいます。写真には手しか写ってなくても、自分だと特定できるものが写っている・・・ 写真を公の場に出してほしくない思いが痛いほどわかります。
戦場に限らず、肖像権の問題で、今は本人に断りなく写真を発表することが難しくなっています。何気なく撮った写真が、被写体となった人に迷惑をかけることもあるということに思いが至ります。本作は、それを乗り越え、カメラマンと被写体となった男性の心が通う瞬間を捉えています。また、様々な思いを抱えていても、寄り添える相手がいて、人は未来に希望を持って生きることができるのだと感じました。
ベン・ローレンス監督インタビュー(Youtube)は、
こちらで観れます。
◆映画本編の視聴方法◆https://www.skipcity-dcf.jp/howtowatch.html1本 300円 見放題 1480円
*10月4日(日)まで