【SKIPシティ】『シュテルン、過激な90歳』ホロコーストを生き抜いた女性の物語(咲)

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©Adrian Campean A+A Produktion.

『シュテルン、過激な90歳』 英題:Ms. Stern 
監督:アナトール・シュースター
出演:アフーヴァ・ゾンマーフェルト、カーラ・シュレーダー
2019年/ドイツ/79分
公式サイト作品情報

「死にたいの」と語る90歳になるユダヤ女性シュテルン。ホロコーストで家族すべてを失い、戦後、イスラエルで出会った男性と結婚。彼の故郷ドイツへ移住したが、20年前に愛する夫は亡くなり、今はベルリンで娘や孫と暮らしている。
死にたいと線路に横たわってみるが、助けられてしまう。なんとか銃を手に入れたいと奔走する・・・

シュテルンさんは、煙草をスパスパ吸い、孫の世代の若者たちと夜な夜な踊ったりして、すこぶる元気。時折、イケメン美容師が家にやってきて髪の毛を整えてくれて身綺麗にしています。何よりの楽しみは、「星の時間」というトーク番組。孫娘の計らいで、ついにこの番組のゲストとして出演するシュテルンさん。憧れの司会者が「信仰を支えに、過去を忘れて生き抜いて・・・」と紹介するのを、「嘘を言わないで。私たちは許しても、過去は決して忘れないと夫と約束したの」とさえぎります。
シュテルンさんが、あえて若い人たちと仲良くしているのにも、実はワケがあるのです。ホロコーストを生き抜いた人たちも、どんどんあの世に旅立っています。どんな思いで生きてきたかを知る一端となる言葉でした。

監督は、エネルギッシュなアフーヴァ・ゾンマーフェルトさんと出会って、ぜひ彼女を主人公に映画を撮りたいと思ったそうです。彼女はホロコーストを生き抜いたけど、哀れな人でなく自由な精神を持った人。素晴らしいキャラクターに触発されて、自由なストーリーテリングをしたいと既存の形に捉われない映画作りに取り組みました。アフーヴァさんの人生が反映されているけれど、あくまでフィクション。娘さんは女優で、この映画に娘役で出演していますが、アフーヴァさんは女優初体験。これまで歌ったことはなかったのですが、カラオケにも挑戦しています。こんな風に生きたいと、元気を貰える映画です。

アナトール・シュースター監督オンラインインタビュー動画は、こちらで!


【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020】 二人の戦場カメラマン『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』『南スーダンの闇と光』(咲)

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020の国際コンペティション 10作品の中で、まず気になったのが、戦場カメラマンを主人公にした2本の映画でした。
ドキュメンタリーとドラマの違いはありますが、どちらも戦場カメラマンが身の危険を冒してまで戦地で苦しむ人々の姿を捉えて発表することにより、世の人々に反戦の思いを感じてほしいと願っていることを感じさせてくれる映画でした。
一方で、戦場カメラマン自身、自国で平和に暮らしているように見えながら、家族のことなど様々な問題を抱えていることも見せてくれました。


◆『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』 原題:Photographer of War
監督:ボリス・B・ベアトラム
2019年/デンマーク、フィンランド/78分  ★ドキュメンタリー
公式サイト作品情報
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©Good Company Pictures
戦場や災害被災地を撮り続けているヤン・グラルップ。
船で逃れる人々、木の上で佇む少年、モスルの戦火の中での結婚式・・・
オペラハウスで写真を披露するヤン。
再度、自爆テロの続くイラクへと出かけていく。
イスラム国が台頭し、多くの民間人が犠牲になっている様を捉えるヤン。
妻サーシャが病に倒れ、これまでは4人の子どもたちも母親がいるからと戦地にいても安心していたが、今は自分だけが頼りだ。
無事帰国するが、やがて妻が亡くなる。
「共に過ごした時間を喜ぼう」と子供たちに語る。
そして、また戦地へと出かけていく・・・

カメラマンを戦場へと駆り立てる原動力は何だろうか?と考えることがよくあります。
一発当てて名声を得たいという者も中にはいるかもしれません。
本作の中で、戦場の惨い死体の写真をみながら、ヤンが「この写真を撮ったのは誰と聞かれても、特派員とだけ伝えて。代理店経由で名前も国籍も伏せて。デンマークとわかると、ほかのデンマークの記者も困る」と語る場面があります。
純粋に、写真で反戦を社会に訴えたいという思いがわかる言葉です。
それでも快適なデンマークの自宅で過ごすヤンと、惨たらしい戦地で暮らさざるを得ない人たちとの天と地の差に、居心地の悪さを感じてしまいます。それは、私自身もまた何不自由ない暮らしをしているのに、何も手を差し伸べることができないでいるからかもしれません。


◆『南スーダンの闇と光』 原題:Hearts and Bones ★観客賞受賞
監督:ベン・ローレンス
2019年/オーストラリア/111分  ★ドラマ
公式サイト作品情報
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© 2019 Hearts and Bones Films Pty Ltd, Spectrum Films Pty Ltd, Lemac Films (Australia) Pty Ltd, Create NSW and Screen Australia
戦場カメラマンのダンは、パートナーのジョシーから妊娠したと告げられても素直に喜べないでいる。PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えている彼には父になる自信がないのだ。
そんなある日、セバスチャン・アフメッドという男が訪ねてくる。南スーダンの自分の出身地でダンが撮った写真を、まもなく開催する写真展に出さないでほしいという。さらに、難民仲間で歌を歌って過去を克服しようとする姿を撮ってほしいと頼まれる。彼らの集う場に行き、打ち解けたところで、セバスチャンが写真に写っている銃を持っている手は自分のものだという。家族を皆殺しにされ、復讐しようと銃を向けた思いをダンにぶちまける・・・

セバスチャンは、ダンに勝手に自分のことを戦争被害者だと思い込んだと当たります。復讐のためとはいえ、銃を手にした自分は加害者だという負い目があるのです。難民としてやってきた地で知り合って結婚した妻には、過去に家族がいたことを明かせないでいます。戦争加害者だったことは、さらに言えないでいます。写真には手しか写ってなくても、自分だと特定できるものが写っている・・・ 写真を公の場に出してほしくない思いが痛いほどわかります。
戦場に限らず、肖像権の問題で、今は本人に断りなく写真を発表することが難しくなっています。何気なく撮った写真が、被写体となった人に迷惑をかけることもあるということに思いが至ります。本作は、それを乗り越え、カメラマンと被写体となった男性の心が通う瞬間を捉えています。また、様々な思いを抱えていても、寄り添える相手がいて、人は未来に希望を持って生きることができるのだと感じました。

ベン・ローレンス監督インタビュー(Youtube)は、こちらで観れます。

◆映画本編の視聴方法◆
https://www.skipcity-dcf.jp/howtowatch.html
1本 300円 見放題 1480円
*10月4日(日)まで