山形国際ドキュメンタリー映画祭2019 本誌103号より転載(暁)

山形国際ドキュメンタリー映画祭2019
宮崎 暁美
今回、全日行きたいと10月10日から山形に入り、40年ぶりくらいに快晴の蔵王のお釜にも行って、オープニングから参加しました。地元の人も驚くくらいの快晴だったのですが、それは天気が変わる変わり目でもありました。それは今思うと台風が来る前触れだったのですが、関東地方に大きな被害を与えた台風19号でした。台風19号が関東地方に上陸した12日は、映画が終わってから東京から来た友人たちとご飯を食べにいき、帰りはずぶ濡れで宿に戻りましたが、その時はそんなすごい台風だとは知らずでした。12日は新幹線が止まってしまい、東京から来る予定だった(咲)さんは来ることができなかったくらいでした。
私は結局最後の日までいました。その中からお勧めの何本かを紹介します。

『潮の狭間に』 監督:フォックス雅彦
日本、アメリカ/2018
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フォックス雅彦監督

小笠原諸島に最初に入植したのは1830年父島に入植した英・米・ポルトガル系の人たちと言われ、日本は1876年に領有宣言した。
太平洋戦争後は、1968年の本土復帰まで23年米国統治領だった。欧米系島民だけが帰島を許されたが、子どもたちはアメリカ式に英語で教育を受け、学校で日本語を学ぶ機会はなかった。アメリカ海軍の統治下で育った「ネイビー(米国海軍)世代」の男女5人のインタビューを中心にした小笠原の欧米系島民の物語。
戦時中は敵国人として扱われ、名前も日本名に強制的に改名させられ、英語を話すことも禁止された。ネイビー世代にとって返還後の選択肢はあまりなく、本土復帰という歴史に翻弄された。ほとんどはアメリカへ渡り、島に留まることを余儀なくされた人の中には日本語を勉強し、東京都の公務員になり定年になるまで働いた人もいる。欧米系コミュニティはバラバラになり、島に残っていたアメリカの影もなくなりつつある。それでも集まって昔のようにバーベキューをする光景が見られることもあった。『潮の狭間に』は、そんな彼らの姿をみつめた作品である。

『セノーテ』 監督:小田香
日本、メキコ/2019
公開予定 2020年9月19日(土)〜 新宿K’s cinema

メキシコ、ユカタン半島北部に点在するセノーテと呼ばれる洞窟内の泉。そこはかつてマヤ文明の時代の唯一の水源であり、雨乞いの儀式のために生け贄が捧げられた場所だった。古代マヤで、現世と黄泉の世界を結ぶと信じられていたセノーテをめぐって交錯する、人々の過去と現在の記憶。カメラは水中と地上を浮遊し、光と闇の魅惑の映像に遠い記憶がこだまする。
現地に住む人々に取材し、現地の人たちの語る「精霊の声」、「マヤ演劇」のセリフなど、マヤの人たちにより伝えられてきた言葉の数々。集団的記憶、原風景を映像に取り入れている。
セノーテの水中撮影のため、自らダイビングのライセンスを取り、iPhoneや8ミリフィルムカメラを駆使し、誰も見たことがない不思議な世界を表現した。
 今も泉の底に残る骸骨や遺品の数々。泉の中から真上を見上げた光景などが印象に残る。こんな映像を自ら撮った女性がいるというのを心強く思った。今年、第1回大島渚賞を受賞した。

『ミッドナイト・トラベラー』
監督:ハサン・ファジリ
2019 アメリカ、カタール、カナダ、イギリス
「優秀賞」

アフガニスタンの映画作家夫婦がタリバン指導者についての映像作品を作ったことで死刑宣告を受け、子どもとともに欧州へ逃れるまでの3年間の旅の記録。スマートフォンを駆使して撮影した旅の姿は、逃避行の不安と家族の親密さをリアルに描き出し、ヒヤヒヤハラハラしながらも、きっとうまくいくと思って観ることができた。戦争の影響が残る不安定な社会から逃れた家族が、安全な場所にたどり着いた時にはほっとした。

『あの店長』 
タイ/2014 
監督:ナワポン・タムロンラタナリット 

1990年代から2008年まで、タイで違法海賊版のDVD屋をしていた「あの店長」についての思い出や、世話になったこと、映画界への影響など、タイ映画界を牽引していると思われる10人余りの人々が語っている。謎の人物っぽい店長の人柄や、タイのアート映画史上で、彼が果たした役割などを語る。当然、本人は出てこない。なにしろ違法である。当時のタイでは、アート映画はそこで観るしかなかったと語る映画愛好家たち(映画ファン、現役の監督、映画評論家、大学教授など)の話が興味深く、面白かった。日本でも、そういう店はあったけれども、中国や香港の海賊版を置いている店だった。

『これは君の闘争だ』 
監督:エリザ・カパイ
ブラジル/2019 「優秀賞」
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エリザ・カパイ監督

ブラジルの学生たちが繰り広げる、公共交通機関の値上げ反対デモや、公立高校再編案に反対する学校占拠など、活発な政治運動。その記録映像に、当事者である若者たちがナレーションをつけ語る。若者たちは、学校を、そして街頭を次々と占拠し、自らの主張を政治家たちに認めせていくが、しだいに警察は暴力的なものになり、ブラジルは極右政権の誕生へと向かってしまった。 

『死霊魂』
監督:王兵(ワン・ビン) 
 フランス スイス/2018 495分(8時間15分!)

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「大賞」

公開予定 2020年6月27日

1950年代後半に起きた中国共産党の反右派闘争で粛清され、ゴビ砂漠夾辺溝にある再教育収容所へ送られた人々。ぎりぎりの食料しか与えられずに過酷な労働を強いられた劣悪な環境で多くの人が餓死した。生き抜いた人々が語る壮絶な体験と、収容所時代の墓地跡に散乱する人骨から、置き去られた死者たちの魂の叫び声が聞こえてくるような気がする。
「百家争鳴」キャンペーンを信じ、自由に発言したら「右派」と呼ばれ、55万人もの人が収容所に送られたと言われているが、王兵監督は『鳳鳴フォンミン― 中国の記憶』、『無言歌』でも反右派闘争を追い続け、いまだに明らかにされていない中国史の闇を追求している。
大飢饉が重なり収容所は地獄になった。生還率10%ともいわれた収容所を生き延びた人たち。その後、開拓地として頒けられたその地で暮らす農民たち、収容所の係員だった人の証言も含め、2005年から2017年までに撮影された120人の証言、600時間に及ぶ映像から本作はまとめられたという。
 すごく厳しい体験をした人たちの言葉は、ずしりと重く苦しい。多くの亡くなった人たちのこととか、棺桶がなくなった後は布団に丸めて遺体を放置した話などは涙が出た。1日の配給量とか、炊事係をして助かった話なども出てきて、いろいろな人たちの体験の話にひきつけられた。ただ、あまりにもたくさんの人の話が出てきて、人と人のつながりに話が広がっていくのにはついていけず、誰と誰が繋がっていたとか、誰が誰の妻だとか、誰が再婚したとか、人間関係がどうだとか、そこはもう途中でわけわからなくなってしまって、途中で考えるのをあきらめた(笑)。それにしてもこんな長い映画を作り続ける監督の執念はすごい。でも、もう一度観るのはつらいかも。
8時間を越える作品で、これを全部観ると、他の作品を観ることはできないなと思いつつ、それ以上に体が持つかどうかと思いながら会場に行ったけど、最後まで観ることができた。

2020年5月発行、本誌103号掲載レポートより情報や写真を追加して転載しました。

第20回 東京フィルメックス 本誌103号より転載(暁)

第20回 東京フィルメックス
宮崎 暁美

9月に始まった映画祭シーズンの怒涛の日々も、フィルメックスで一段落。朝から夜遅くまで、通った映画祭シーズンでしたが、今年も素敵な作品に出会えました。

『春江水暖』 2019年 中国
監督:顧暁剛(グー・シャオガン)
出演:銭有法 王風娟 孫章建 章仁良 
★審査員特別賞受賞作
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顧暁剛監督
浙江省杭州市富陽の美しい自然を背景に、町の近代化や四季折々の風景とともに、一つの家族の出来事、変遷を描いた顧暁剛監督のデビュー作。まるで絵巻物を鑑賞しているかのような水辺の横移動のカメラワークは雰囲気があって、とても心地良かった。
四人兄弟の長男がやっているレストランで、母の90歳?の誕生祝いの宴が開かれ、そこに集まった息子たち。四人には軋轢がある。その席で母が脳卒中で倒れ、長男夫婦と同居することに。そこから夫婦の介護に関する葛藤が始まった。二人の娘グーシーは同僚のジャン先生と恋愛中で結婚したいのに、両親がその結婚に反対なのでこの町を出ようと考える。漁師の次男夫婦は、30年暮らした家を立ち退くことになり、持ち船に仮住まい中。その息子に結婚話がて、急遽見合いすることになる。三男は離婚してダウン症の息子を育てているが、あちこちに借金があり、てっとり早く返すためなのか、違法な賭場を開いている。そのせいで借金取りが来たり、警察に捕まらないかと兄弟たちはやきもきしている。四男は何をしているのかわからないが未婚で、高齢な母の指令で?見合いさせられ、決断を迫られる。賭博がバレて三男が警察に捕まる以外は、ごく一般的な家族の出来事が水辺の街で営まれる。派手ではないけど、観ている人たちには共感される家族の光景が続く。
登場人物は、監督自身の親戚・知人を、脚本を書く段階から考えて、アテ書きをしたそう。「製作費を節約できるという事情に加え、時代の風景を切り取ること、市井の人々の雰囲気を伝えることを大切にする思いがあったから」と、顧暁剛監督はQ&Aで答えていた。
影響を受けた監督について訊かれると、侯孝賢監督(ホウ・シャオシェン)監督と楊德昌(エドワード・ヤン)監督の名前を挙げた。「現代の街の変化をいかにとらえるかを考えるうちに、『富春山居図』という絵巻物からヒントを得て、映画を絵巻物のように描くことを思いつきました」と振り返りながら、「侯孝賢監督の作品は、詩や散文など中国の伝統的な文人の視点で物語が組み立てられていると考えています。私自身は、文人的な視点と絵画を融合した映画を撮りたいと思いました」と語った。
劇中の音楽は中国のロック歌手、竇唯(ドウ・ウェイ。元、黒豹楽隊のボーカリスト)で、最近は伝統的な古典と現代文化を融合した新たな音楽を生み出している。顧監督がどのようにして古典を現代に落とし込もうかと苦慮していた時に大きな示唆を与えてくれたという。
「巻1終り」と出て、続編を想像させるような終わり方に監督は「この続編は必ず撮りたいと思っています」と語り、「最初からそういう構想だったわけではなく、撮影が進むうちに映画に対する考え方に変化が生まれ、このスタッフと一緒にこれからも映画と芸術を探求していきたいと考えるようになった。10年でひとつの作品として杭州の町の変化を描く構想もあり、名画『清明上河図』のように一つの長い絵巻物として見せることができればと思います」と結んだ。

『気球』 2019年 中国
監督:ペマツェテン 
出演:ソナム・ワンモ ジンパ ヤンシクツォ クンチョク ダンドゥル 
★最優秀作品賞受賞作

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出演者ジンバさん

チベット草原。牧畜で暮らす三人の息子を育てる夫婦の話(一人っ子政策下でも少数民族は複数の子が許されていた)。「気球」は子どもたちが親の寝室で見つけて持ち出し、飛ばしたコンドーム(苦笑)。それは診療所が無料で配ったもの。避妊に協力的でない夫と妻の思いとの差が描かれる。
妻の妹はかつて恋人との交際の中で中絶をした(はっきりとは描かれていないが、そういうことだと思う)、それを機に尼僧になった? その元恋人が姉の息子の学校の教師になって偶然再会するが、彼は彼女との経験を元に小説を書いていた。出版した本を渡されるが、ここにも男と女の思いの違いがある。
夫の父が亡くなり、僧が転生を予言する。亡くなった人が転生することを信じる宗教文化が生きている地域。まもなく妊娠がわかるが、貧しい生活の中、子供を育てていけるか悩む妻。
夫は子の誕生は父の転生と喜ぶが、妻は現実に直面し中絶を決断する。手術台にいる妻のもとに夫と長男が駆けつけ、長男が中絶を止める?やめたかどうかは描かれないが、その後、診療所の医師はたくさんのコンドームを届ける。
そして、妻は尼僧の妹とともにお寺参りに行き、街に出かけた夫は、子たちとの約束の大きな赤い風船をふたつ買って帰る。しかし、風船は息子たちに渡した途端にひとつは割れ、もうひとつは青空のかなたに飛んで行ってしまう。家族はその行方を追う。問題に直面しながら解決されないこの問題を暗示しているよう。淡々とした草原の暮らしの中で、この夫婦や家族の将来はどうなっていくのだろうと思わせる。

『昨夜、あなたが微笑んでいた』
監督:二アン・カヴィッチ 
2019年 カンボジア・フランス   
★スペシャル・メンション、学生審査員賞受賞作

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二アン・カヴィッチ監督

 
若い監督自身が育ったという、プノンペンの歴史的建造物として知られた集合住宅「ホワイト・ビルディング」。1963年に建立されたという巨大なビルだが、クメール・ルージュ時代には住んでいた人々が退去し無人化したという。その後、人々が戻ってきた時にはアート関係者が多く住み、アート村になった。しかし、2017年には日本企業に買収され、取り壊しが決まり、住民は立ち退きを迫られる。
監督は取り壊し直前のこのビルにカメラを持ち込みそこに暮らす人々を撮影した。監督の家族の様子も描かれる。立ち退きのための片付けをする人たちにインタビューしながら、住民の記憶を掘り起こし、このビルの記憶をカメラに収めた。カンボジアには、当時はこんなに大きなビルはなかったという。そういう意味では解体前に、その記録を撮れたことは、貴重な映像記憶になっているのだろう。
監督は元々、2016年に自身が生まれ育ったホワイト・ビルディングを題材にした劇映画を企画していたが、政府が取り壊す計画を発表。
それで、人々が荷造りをして退去していき、建物が取り壊されるまで、すべての瞬間を記録してみようと考えた。しかし、それを映画にするとは考えていなかった。撮影した映像を何かに活用できないかとプロデューサーに相談したり、東京フィルメックスの関連事業「タレンツ・トーキョー」などのワークショップに参加して、撮影した映像を披露したところ、「ドキュメンタリーにしないのか」といわれ。「劇映画の製作に時間がかかりすぎることが、ドキュメンタリー製作の後押しになったのかも」と語っていた。
しかし、撮影時は荷造りをして退去していく人々や、カメラの前で話をする人の姿を記録することだけを考えていたため、ストーリーは特に決めていなかった。撮影した50時間ほどの映像を元に自ら編集に着手したものの、「全て同じように見え、違いが見えなかった」。映像を見ながら編集のレームさんと話し合う中で、「記録の映画にする」という方針が決定したのだという。
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右 編集のレームさん

レームさんは、映像を見たときの印象を「フレームの取り方や長回しの多用が印象的で、静けさや哀愁のようなものを感じた」と振り返り、最初の編集では、監督のこだわりを尊重し、長回しの映像を多く取り入れてみた。ところが、それを見た人から、「建物がなくなる理由がわからない」などの指摘を受けたため、監督のこだわりと観客に物語を伝えるバランスを意識して、さらに編集を進めたとのこと。予定していた劇映画の方も無事に撮影が終わり、これから編集作業に入る予定だという。

『熱帯雨』 2019年 シンガポール・台湾 
監督:陳哲藝(アンソニー・チェン) 
出演:楊雁雁、許家楽、李銘順、楊世彬 

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陳哲藝監督

2013年の『イロイロ/ぬくもりの記憶』以来となる陳哲藝監督の2作目。前作のキャストを再び起用し、中学4年生(高校1年)と担任の女性教師の間で起きたえしまったことを描き、女の人生ってなんだろうと考えさせられる。
マレーシア出身でシンガポールの男子中学で中国語教師をしているリンは不妊治療中。マレーシアの母はどうでもいいことで電話してくるし、ドリアンを運びの弟はお金をせびりに来る。車いすの義父の介護も担っている。夫の代わりに義父に付き添って夫の姪の誕生祝いに行くが、子どもがいないことをバカにされ、さらに夫の浮気。不妊治療に非協力的な夫の不倫を目撃してしまう。これらがヒロインを追い詰める。
 国民の大多数が中華系でありながら、英語を使うことがほとんどで、中国語を使う機会がなく中国語が忘れ去られそうなシンガポールでは、学校の補習授業で中国語がある。中国語の先生はマレーシアなどから来た人が多いらしい。また、中国語教師を軽く見ている同僚・校長などの姿も描かれる。そんなシンガポールでの中国語の立場だからか、さぼり気味な生徒たち。そんな中でウェイルンという生徒は熱心に中国語を勉強している。そんな閉塞状況の中で彼の存在がリンの慰めになっていく。
 両親が不在がちのウェイルンは中国武術にもたけている。足を怪我したのをきっかけに、家までリンの車で送ってもらうようになり、当たり前のように補習の帰りは車に乗り込んでくるようになった。むげに断ることもできず、武術映画ファンの義父を連れて武術大会に出場する彼を応援に行ったりもした。そんな中、彼の家まで送っていったある日、彼にレイプまがいに迫られ関係を持ってしまう。その後、彼はますます彼女を慕って、相手の立場や気持ちも考えず迫るようになってしまった。そしてとうとう彼のせいで事故を起こしてしまい、夫とも離婚。さらに学校で噂にもなり、学校にもいられなくなり、マレーシアの実家に帰る。そして妊娠がわかる。そこで終るのだけど、仕事もなにもかもなくなって妊娠しても育てられるの? この終わりは何? とても割り切れない。

『シャドウプレイ』
原題「風中有朶雨做的雲」
監督:婁燁(ロウ・イエ)2018年 中国
出演:井柏然 宋佳 秦昊 馬思純 張頌文 陳妍希(ミシェル・チェン)
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婁燁監督

2013年に中国・広州で起きた汚職事件を巡る騒乱をベースにしたサスペンス。中国、香港、台湾を舞台に、改革開放が本格化した1980年代末からの30年間を描き出す。冒頭、2006年広州の林の中で男女が焼死体を発見、次に手持ちカメラとドローン映像で追いかけた目まぐるしい映像で立ち退きを迫られ走る青年たちを追う映像が続き、住民と開発側の対立場面へ。開発側で、住民を説得する唐がビル5階から墜死という衝撃的な場面が映し出される。
その場に居合わせた若い刑事楊が捜査を始めるが、不穏な事態が起こり、彼は何者かの謀略でスキャンダルに巻き込まれ香港に逃れ、事件の鍵を握る女性と恋に落ちてしまうが、事件の真相を探り続ける。
 都市再開発を巡る殺人事件の謎を追うひとりの刑事と、5人の男女の愛と欲望が描かれ、中国が辿った30年の裏の歴史を浮き彫りにする。手持ちのカメラ、ドローンの活用、暗い画面。そしてスピーディな映像。社会派ドキュメンタリー映画の要素をもった、ミステリーといった作品に仕上がっている。
高層ビルの中に「村」が残っていて、そこから映画を作る発想を得たと監督は語っていた。
この作品は2020年6月に日本公開予定だが、この作品のメイキングである『夢の裏側~ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』も公開される予定。『シャドウプレイ』の過酷な製作現場、表現の自由をかけて検閲と闘い続ける監督の姿を、同作の脚本家で監督の妻であるマー・インリーが記録したドキュメンタリーで、こちらも一緒に観るとさらに面白い。
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マー・インリーさん

2020年5月発行、本誌103号掲載レポートより情報や写真を追加して転載しました。