2日目、7日から11日までは、ほとんどシネ・リーブル梅田での会場。1日3本~4本の作品を観る。その中からセレクトしての紹介を。
●特別注視部門
『マリアム』 Mariam
3/7土 16:45 シネ・リーブル梅田4
監督:シャリパ・ウラズバエヴァ Director:Sharipa URAZBAYEVA
2019年/カザフスタン・ドイツ/75分
出演:メルエルト・サブシノヴァ、アルマス・ベクティバエフ、ハムザ・コクセベク、エディゲ・アフメト
カザフスタンの最大都市アルマトイから400キロ、さらに幹線道路から3キロ離れた大平原にある村で、マリアムは夫と4人の子どもたちと、牛を飼育して細々と暮らしていた。平原には雪が積もるある冬の日、夫は何も言わず姿を消してしまい、夫が乗っていた馬だけが主もなく戻ってきた。警察に捜索願いを出すが、警察も積極的に捜してくれているとは思えない。夫が失踪したことを知った雇い主からは、妻一人では牛を育てられないだろうと、牛を返すよう要求され、連れて行ってしまう。生計手段を失った一家は飼っている羊も少なく、困窮していくばかりとなってしまう。病気の子どもを抱えたマリアムは、警察にも何度か通い、必死に夫の行方を探すが、一向に進展のないまま数ヶ月が過ぎてしまった。そこで彼女は、同級生だった警官と会い、生きるための手段を相談する。それは草原でみつかった死体が夫であると認定することだった。ほんとにそうなのかはあやふやのまま、認定して国からの何らかの母子家庭に対する補償金を得るようになったのだが、数回もらったところで夫が突然帰ってきた。半年以上?帰ってこなかった夫は、その間どうしていたとも何も言わない。でも、怪我をしているらしく、働くことが難しそう。その補償金は国に返還しなくてはならないけど、今、返還するお金はない。マリアムは生きるため取った行動とは…。
半年以上、雪の中にある平原に暮らすマリアムの一家。しかも4人の子供。まだ一番上も中学生くらい。幼い子供を抱え、厳冬の大地を生き抜く、残された妻と子どもたちの生き様が、丹念にそしてあふれるリアリティで描き出される。
●特別招待作品部門
『燕 Yan』
3/8日 16:00 シネ・リーブル梅田
監督:今村圭佑 Director: IMAMURA Keisuke
2019年/日本/86分
脚本:鷲頭紀子
出演:水間ロン、山中崇、一青窈、テイ龍進、平田満
2020年6月5日から全国公開
公式HP(C)2019「燕 Yan」製作委員会
日本と台湾を舞台に、離れ離れになった兄弟、父母がそれぞれの思いを抱え、悩み、もがき苦しみ、成長する姿を描いた。
28歳の早川燕は、埼玉の父から台湾の高雄で暮らす燕の兄、龍心(リュウシン)に、ある書類に判を押してきてもらうよう頼まれる。子供の頃、燕を中国語で「イエンイエン(燕燕)」と呼んでいた台湾出身の母(一青窈)は、燕が5歳の時に兄、龍心を連れて帰ってしまった。「僕は母さんに捨てられた」。そんな母への複雑な思いを抱えながら育った燕は、母が病気と聞いても、亡くなった時にも台湾には行かなかった。20年以上の月日が過ぎたが、母と兄にはあれから一度も会っていない。そんな状態で、燕は台湾に行くことを拒むが、病気の父の最後の頼みと懇願され、渋々台湾へと旅立つ。
母はどんな思いでいなくなってしまったのか? なぜ自分を捨てたのか。なぜ手紙すらくれなかったのか?様々な思いがあって、高雄の母の実家に着いても、素直に兄とも向き合えない。
燕役は『パラレルワールド・ラブストーリー』の水間ロン。中国・大連出身で「僕自身も日本と中国、2つの家があり、そこに壁も境界線もありません。そういった思いでこの映画を見て頂けると幸いです」と語る。兄、龍心役は山中崇。中国語が不自然にならないくらい学んでこの役に挑戦している。歌手の一青窈が2人の母を演じている。たくさんの映画で撮影監督を務め、昨年の話題作『新聞記者』でも撮影監督を務めた今村圭佑の長編監督デビュー作。
左から今村圭佑監督、水間ロンさん、山中崇さん
この作品の中で、日本人の作るカラフルなお弁当と台湾人のお母さんが作る茶色の地味なお弁当との違いと不満が出てくるが、後に観た『フォーの味』にもポーランド在住のベトナム人とポーランド人女性との間に生まれた女の子の話の中にも、ポーランド人が作るパンのお弁当と、ベトナム人のお父さんが作るお米の弁当への不満の話が出てきて、文化の違いに葛藤する子供ながらの話が出てきて、なるほどと思ってしまった。国際結婚の影で、習慣や文化の違いへの葛藤に苦しむ子供の姿というのが共通な点でした。この件は下記スタッフ日記に書いていますので参照ください。
スタッフ日記「第15回大阪アジアン映画祭へ行ってきました」
http://cinemajournal.seesaa.net/article/474046141.html●コンペティション部門
『フォーの味』 The Taste of Pho
3/9月 14:40 シネ・リーブル梅田4
監督:ボブリックまりこ Director: Mariko BOBRIK
2019年/ドイツ・ポーランド/83
ポーランドの首都、ワルシャワ。ポーランド人の妻に先立たれたベトナム移民のロンは、団地で一人で娘のマヤを育てている。娘のスカートにアイロンをかけたり、縫い物も器用にこなす。ベトナムレストランでシェフを務め、流暢にポーランド語も話し、現地に溶け込んで暮らしている。しかし、現地の生活に慣れたとはいえ、母国の文化への執着を捨てられない。純粋なポーランド人として暮らしたい娘のマヤは、学校で浮かないように父が愛情込めて作ったベトナム料理の弁当を密かに捨てている。そしてたまにはパンのお弁当を食べたいと思っている。ある日、ロンが勤めている店が新しいオーナーに変わってしまった。ひき続き雇われるが、日本料理のほうが売れると、得意のフォーの代わりに寿司を作るように言われ、日本料理の勉強も始めた。さらにタイ料理も。オーナーが変わったときにベトナムに帰えろうか迷って、残ることにしたことを後悔。そして母国を懐かしむ。一方、亡き母への思いが強いマヤは、近所の金髪美人と父の間に何かがあると疑い、向かいの家に住む彼女を双眼鏡で監視し始めるが誤解を生んでしまう。
先の『燕 YAN』と対をなすような作品だった。『燕 YAN』で母が台湾人で父が日本人。母は一生懸命、日本で子供を育てるが、小学校にあがった子供は、母の文化と日本の文化の中で葛藤を抱えるようになる。母は自分の持っている文化と日本の文化の狭間で悩み、台湾に帰ってしまった。異文化の中で生きることと、溶け込むこと。そして親子の絆について焦点を当てた作品だった。
監督は、ウッチ映画大学を卒業した日本人のボブリックまりこ。この映画ではベトナムから移住した男性と娘の話にしているが、ポーランドは意外にもアジアからの移民が多いのかもと思った。ベトナムコミュニティがあったし、ベトナムだけなく、日本やタイの料理に興味をもつ、ポーランド人たちもたくさんいた。
●特別注視部門
『ローマをさまよう』Roam Rome Mein
3/7土 18:40 シネ・リーブル梅田
監督:タニシュター・チャタルジー Director: Tannishtha CHATTERJEE
2019年/インド・イタリア/101分
出演:ナワーズッディーン・シッディーキー、タニシュター・チャタルジー、ヴァレンティーナ・コルティ、フランチェスコ・アポッローニ、ウルバノ・バルベリーニ、イーシャ・タルワール
インド人青年ラージは、親から「妹の行動の管理」を任せられている。自分の結婚式が近いのに、妹は行方不明。ローマにいることがわかったがどこにいるかはわからない。出張と称してローマに行き、姿を消した妹リーナを捜しローマの街をさまよう。妹を捜し歩く先々で今まで会ったこともない不思議な人々と出会い、現実と非現実が交錯するなか、ラージが今まで知らなかった本当の妹の姿が浮き彫りになっていく。妹のやりたかったことがわかるにつれ、妹の行動に抑圧的な家父長制的な考えにとらわれている自分に気づいてゆく。
「これは男性が主演のフェミニズム映画で、近代のフェミニズムの芽が育まれたローマで撮ることが重要だった」と監督であり妹リーナ役を演じるタニシュター・チャタルジーは語る。『アンナ・カレーニナ』(2012)、『祈りの雨』(第26回東京国際映画祭上映)、『LION/ライオン~25年目のただいま~』(2016)に出演の国際派女優タニシュター・チャタルジーが初めてメガホンを取った意欲作。
ラージ役は『女神は二度微笑む』(2012)、『めぐり逢わせのお弁当』(2013)、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(2015)等に出演のナワーズッディーン・シッディーキー。『LION/ライオン~25年目のただいま~』でタニシュター・チャタルジーと共演し、映画作りで意気投合した二人の映画への思いが『ローマをさまよう』で実を結んだ。
●特集企画《祝・韓国映画101周年:社会史の光と陰を記憶する》
『マルモイ ことばあつめ』 Malmoe: The Secret Mission
3/8日 18:10 シネ・リーブル梅田
監督:オム・ユナ Director: EOM Yu-na
2019年/韓国/135分
出演:ユ・ヘジン、ユン・ゲサン、キム・ホンパ、ウ・ヒョン、キム・テフン
2020年5月22日(金)より、シネマート新宿&シネマート心斎橋ほか全国順次公開
公式HP
配給 インターフィルム
(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
1940年代の朝鮮半島:京城(日本統治時代の韓国・ソウルの呼称)。盗みや映画の上映劇場の宣伝で生計を立てていたお調子者のパンス(ユ・へジン)は、ある日、息子の授業料を払うためにジョンファン(ユン・ゲサン)のバッグを盗む。日本軍の台頭によって朝鮮民族の言葉が消えゆく1940年代、言葉を守ることによって国を守ろうとした人たちがいた。
ジョンファンは親日派の父(学校長)を持つ裕福な家庭の息子だが、失われていく民族の言語を守るため、父に秘密で辞書を作ろうと、各地の方言などあらゆる言葉を集めていた。辞書作りの為、全国の言葉・方言を集める「マルモイ(ことばあつめ)作戦」が多くの人の協力で秘密裏に進んでいた。しかし、日本の警察?に知られてしまい、せっかく集めた資料を没収されてしまう。日本統治下の朝鮮半島は、話す言葉が朝鮮語から日本語へと変わり、名前すらも日本式となっていく時代だった。
一方のパンスは学校に通ったことがなく、母国語である朝鮮語の読み方や書き方すら知らない。盗んだバッグをきっかけにジョンファンと出会ったパンスは、ジョンファンを始め、協力者たちの辞書作りを通して、自分の話す母国の言葉の大切さを知っていく。
日本統治時代の朝鮮半島では監視と弾圧の中、言葉だけでなく創氏改名、日本化が進められていた。このことを描いた作品としては林權澤(イム・グォンテク)監督の『族譜』が有名だが、この作品では辞典を作るのに非識字者が主人公という思いもよらない設定で、ユ・ヘジンの行動が、笑いと感動で観客の心を動かしてゆく。