Halal Love (and Sex)
2015年、ドイツ・レバノン、95分
監督:アサド・フラッドカー
イスラーム映画祭5 東京での上映日程
①3/15(日)13:45
★上映後トーク《ムスリムたちの愛と性 ~イスラーム法の結婚と離婚~》
【ゲスト】 小野仁美さん(東京大学大学院人文社会系研究科研究員)の予定でしたが、ご家族の都合により、登壇できなくなりました。ピンチヒッターで佐野光子さん(アラブ映画研究者/写真作家)が登壇します。
② 3/17(火)11:00
③ 3/19(木)16:30
レバノンのイスラーム教徒のコミュニティを舞台に、イスラームの教えに則した(ハラール)結婚を追及する物語。
2016年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で、『ハラル・ラブ』のタイトルで上映され福岡観客賞を受賞しました。『ハラール・ラブ』と、タイトルに長母音を入れてほしかったと思っていたのですが、イスラーム映画祭5では、ちゃんと長母音が入っています。
イスラーム映画祭5での上映を機会に、アジアフォーカスでのQ&Aと、来日した女優のダリン・ハムゼさんのインタビューをお届けします。
*物語*
毎夜求めてくる夫に応じきれず、二人目の妻を夫にあてがう妻。喧嘩が絶えず三度離婚してしまい、同じ相手と再婚するには、一度、他の相手と結婚しなくてはならない夫婦。親の決めた相手と意に沿わぬ結婚をし、離婚し晴れて再婚しようとするが、好きだった彼には既に家庭があり、一時婚しか手がない女性ルブナ。3組のカップルの結婚を巡る。
冒頭の小学生の女子生徒相手の性教育の場面から、思わぬ顛末まで、会場からは何度も笑いが起こりました。福岡観客賞を受賞したのも納得の楽しい作品。
2016年09月18日 アジアフォーカス福岡国際映画祭
◆上映前のダリン・ハムゼさん舞台挨拶
レバノンの一部、イスラーム教徒のコミュニティでの物語です。ベイルートは多様性に満ちた町ですが、監督はイスラーム地区の出身で、普段見られない一部の地域を見て貰いたいという思いで本作を作りました。
映画は他の世界をみる窓と、ディレクターの梁木さんがおっしゃっていました。レバノンの窓を開いてみていただければと思います。
◆上映後のQ&A
登壇:一時婚を選ぶことで迷うルブナ役のダリン・ハムゼさん
― どこの国でも子どもの作り方を説明するのはタブー。お父さんから虫が出てくるというのは、レバノンでは一般的な説明ですか?
ダリン:クルアーンには、Alakaが夫から出てくると書いてあります。監督も、質問があった時にそう答えるのは、小さい頃にそのような説明を受けたからと言っていました。
司会:性教育はオープンですか?
ダリン:ベイルートでも様々です。イスラームの宗教的な学校ならクルアーンに沿って教えます。レバノンには、オープンなムスリムやクリスチャンと、そうでないムスリムとクリスチャンの両方がいます。多様性のある国です。一つの決まったルールがあるわけではありません。今回は、子どもにとって楽しい設定にしています。
― 我が儘な奥さんが第二夫人を連れてくるけど、結局しりぞけてしまう。お金持ちでなく、普通の庶民でも第二夫人を娶るのですか?
ダリン:レバノンは多様な背景を持った国です。ですが、夫が二人目の妻を迎えるのは珍しいです。湾岸諸国ではよくあるようですが。今回の映画は面白いケース。監督は映画を通じてイスラームにおいて色々な考えがあることを描きたかったのです。シャリーアは厳しいルール。息子を持つために二人目の妻を求めることもOKにしています。レバノンでは現代において、二人目の妻を迎えるのは難しいです。
― 最初に出てきた小学校の先生は、ルブナの恋人である八百屋さんの妻ですね。オーストラリアにいるお兄さんがゲイであることまで描いています。ベイルートで上映されて問題はなかったのでしょうか?
ダリン:冒頭の先生はまさにルブナの恋人の奥さんです。お料理も上手。ゲイは法律上では禁止されています。でも、たくさんいます。オープンにはしないけれど。
3回離婚したら、シャリーアの規則で、一度別の夫と結婚しないと同じ男性とは再婚できません。レバノンでは賛否両方の反応がありました。オープンに語りたくないことが語られていましたので。でも、概ねいい反応でした。
― 短期的結婚は不倫とどう違うのですか?
ダリン:一時的結婚については、イスラームの中でも色々な考えがあります。監督に説明を求めたら、戦争で夫が亡くなった場合、男性が足りなくなるので、一時的に結婚して、別の人が見つかるのを待つこともあると。私自身、組織された社会の中で、ちゃんとした結婚が出来ない時に、こういうケースもいいのではと思います。子どもが生まれれば、もちろん認知します。役を演じる前に、背景を勉強しました。イスラームの中で女性の権利が考えられていると思いました。
◎ダリン・ハムゼさんインタビュー
2016年09月19日
福岡の町も散歩して、日本文化を楽しまれているというダリンさん。着物を着た時の写真を見せてくださいました。
*キリスト教徒も一緒に作ったイスラーム映画
― 昨年(2015年)、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映されたレバノン映画『ガーディ』は、マロン派キリスト教徒の多い町の話でした。
ダリン: レバノンではイスラームのコミュニティを描いた映画は少なくて、恐らくこれが初めてだと思います。
― ダリンさんご自身は、ムスリマ(イスラーム教徒の女性)ですか?
ダリン;はい、ムスリマですが、オープンな家族で育ちました。レバノンのイスラーム教徒は、宗教的な学校に行ってない人も、宗教的な学校に行っている人も、ファナティックではありません。
― ナディーン・ラバキー監督の『キャラメル』では、キリスト教徒とイスラーム教徒が共に暮らしている光景が描かれていて、それが一般的なレバノンの姿かなと思いました。
ダリン: キリスト教徒とイスラーム教徒が人口の半々。共存しているのがレバノンの姿だと思います。20年位にわたって内戦があって、その時代に生まれた私たちの世代の特に芸術に携わっている人たちは違う宗教の人も受け入れています。神の名において殺しあうのは嫌なことです。だからこそ、映画をいろんな宗教の人が関わって作っています。監督と私はイスラーム教徒ですが、この映画には多くのキリスト教徒も関わっています。多くのクリスチャンの俳優がムスリムを演じていました。夫の為に2番目の妻を探していた女性を演じたのはクリスチャンです。私自身、映画や舞台でキリスト教徒の役を演じることもあります。
★「イスラーム映画祭1」で上映されたイラン映画『法の書』 (2009年、マズィヤール・ミーリー監督)では、レバノン在住のキリスト教徒のフランス女性を演じています。)
― 前述の『ガーディ』にイスラーム教徒の女性との結婚を反対されて独身でいる男性が登場しました。来日したプロデューサーのガブリエル・シャームン氏にお伺いしたのですが、レバノンでは18の宗派があって、以前は違う宗派どうしの結婚は認められなくて、国外に行って結婚するしかなかったけれど、法律が変わって認められるようになると聞きました。
ダリン:国として法律を変えようと努力はしているのですが、今もまだ宗派が違うと国外に出ないと結婚できません。
*夜の話も女どうしで大胆に
― 『キャラメル』でも、今回の映画でも、夜の秘め事について大胆に話していましたが、普段からレバノンではそうなのですか? 日本人はお互いにすごく親しくても話しませんので、ちょっとびっくりしました。
ダリン: はい、そうですね。レバノンの人はアラブと地中海世界の両方の文化の影響を受けていて、ギリシャ、イタリア、スペイン、オリエント世界の女性たちも、表に出して話すのが好きです。自分の感情を表現します。女性どうしでも、よく話します。日本の皆さんも、そうしてみたらいかがでしょう。(笑)
― 本作のオファーを受けて、いかがでしたか?
ダリン:母親との絡みのシーンで、社会のせいで母親が娘に強制的にやらせようとすることに苦しんでいることが多いと思います。脚本を読んだときに、そんなシーンがあったから出演を決めました。同世代の女性たちとよく話すのですが、普段話せないようなことを映画で描けるので映画が好きと。
― 好きなシーンは?
ダリン:自分の役では、最後の方で別れを告げるシーンで、実際のあなたより夢をくれたというところ。脚本も監督も男性なのですが、女性が男性を愛するのに、実際どうするのかに入り込んでいるところが面白いと思いました。
― 映画の中の男性では、どのタイプが好きですか?
ダリン:妻に2番目の妻をあてがわれようとした男性。一人の妻を毎夜でも愛そうという、本物の愛妻家です。
― 妻を愛しすぎる男性ですね。それにしても2番目の妻をあてがおうなんて面白いですよね。
ダリン: 通常じゃ起こらないことが起こっているのが面白いですよね。
― レバノンの人たちは、コメディタッチで考えさせてくれるような映画が好き?
ダリン:そうですね。女性が二番目の奥さんを連れてくるといった面白い発想。スマートで謙虚さがあって、正直なのが好きですね。
― 映画館は結構あるのでしょうか?
ダリン:あります。色々なタイプの映画が上映されています。商業的な映画であまりよくないものも上映されたりしますが。
今回の映画はドイツのプロダクションも資金を出してくれていますし、フランスもよくレバノンの映画に投資しています。結構自由なトピックを取り上げることができます。
*避難先のロンドンで演劇に出会う
― 女優になろうと思ったきっかけは?
ダリン: 内戦があって、ロンドンに両親と一緒に移住していました。ロンドンの学校で舞台に立ったことから、演劇に愛着を持ち続けたいと思うようになりました。大学で4年間、演劇を学び、ワシントンでマスターを取りました。ニューヨークで映画の為のワークショップにも参加しました。最初は演劇やテレビのドラマに出演していました。今は映画にも出演しています。
― どんな映画が好きですか?
ダリン:ドラマが好き。人の魂に入り込むようなジャンルだと思います。本を読んだり、映画を観たりして、新しいことを感じて成長していけるものだと思います。日本映画では、黒沢明監督の『夢』が好きですね。
― 今はご両親もレバノンに?
ダリン:父は亡くなりました。エンジニアでした。母は画家です。母はレバノンにいますが、別に住んでいます。
― 次の出演作は?
ダリン:2017年に『Nuts』という映画が公開されます。ポーカーで勝って、チップが集まったのをNutsといいます。結婚している女性が人生にフラストレーションを感じている時にポーカーの面白さに目覚めて、地下のポーカーの世界に入り込んでいく姿を追っていく映画です。フランスの監督がレバノンで撮った映画です。
― 次の作品もぜひ日本で観たいです。本日はありがとうございました。
取材:景山咲子