Yebisu International Festival for Art & Alternative Visions 2020:
The Imagination of Time
会場:東京都写真美術館
東京都写真美術館にて、2月7日〜2月23日まで開催された第12回恵比寿映像祭。ゲスト・プログラマーのアイリー・ナッシュがチョイスしたドキュメンタリー作家アナ・ヴァスの短編集「アナ・ヴァス特集──未来の祖先へ、アイリー・ナッシュ(ニューヨーク映画祭)・セレクション」が上映された。ブラジル生まれのアナ・ヴァス作品が上映されるのは日本初である。
この日、上映されたのは、《陸が見えた!》2016、《アトミック・ガーデン》2018、《石器時代》2013の3作品だった。
福島の民家を題材にしたり、ドミニカ共和国や故郷ブラジルの採掘現場まで、透明感溢れる詩情豊かな映像が続く。時間と場所が持つ”意味”、人間と歴史との関わり合いについて思考させ、感じさせる作品群だった。
上映後、アイリー・ナッシュとアナ・ヴァス監督が登壇し、質疑応答が行われた。
⚫アイリー・ナッシュ(以下アイリー):アナ・ヴァス作品はこれが日本初。時間がテーマだが、国境のない描写の映像、歴史を超えた原風景や、日本での撮影もある。場所へのアプローチはどのように?、体験として映画化してますか?
⚫アナ・ヴァス(以下アナ):場所、風景は国境がなく、国境は近代の発想。故郷ブラジルは分断の歴史で、見えない分断の前の場所がテーマ。カメラは感覚の拡張である。受動的に傍観ではなく、行動且つ能動的。米国の植民地支配により、身体と心を分断されるなら、それを一緒にする行為と考える。3作ともカメラの動きが不安や歴史性を体現する役割を果たす。フランスのジャック・デリダの言葉を引用した。アニミズム、全てが生きている、カメラが沈黙者を生き返らせる。そこでは石も同等で言語を使わない。全ての音は言葉として存在する。半植民地的な全ての事象を取り戻す。
⚫アナ:年代順でいえば、《オクシデント(西洋)》は民俗学的アプローチ。南から北へ行って撮影した。リスボンは観光都市へ変容する時で、観光熱が盛ん。500年の植民地支配が賞賛と感じた。発見は南米での植民地支配が遺した物 で、陶器、孔雀など見出した。人の移動は物や形も移動するアイコンと考える。昼食時にメイドが出すシーンは現在も続く植民地支配を象徴した。興味深いのは遺された身振りなどがなぜあるのか?それはギフトと捉えた。人物がカメラを見るのは、メイドが自分を装置として見るような気がする。映画史の逆で、撮っている者が逆に観る側。
《アテハ》は、少女に以前の映画の時から撮ろうと提案していた。一緒に映画を作るため少女にマイクを渡したのでノイズが多い。数多くある開発によって移動させられた人達。土地を耕したのに移動させられたため貧困層に陥った。少女は「しない」と言う。まとまって場所を占拠する活動に参加した。カメラは被写体に向かい、動く。シュートと同じなので暴力性、体現する行為を狩りで見失ってしまった。
《サプリ》は、探すようなカメラ。幽霊のように立ち上がる。ドミニカ共和国に呼ばれ、湖に滞在し破壊される場に立ち会った。未知の場所で当初は当惑し躊躇した。コロンブスが大陸を発見時、無数の矢で打たれるイメージ。”場のゴースト”を撮った。
⚫アイリー:最後に上映した《石器時代》は最初の作品。時間性の曖昧さ、建築的要素にも繋がる。
⚫アナ:空間の理解が重要なテーマ。ウェスタン映画は植民地支配の映画。ウェスタンジャンルは想像であり 、ユートピアが造られ、未来の遺跡を体現。ウェスタンという背景を逆にした。様々な動植物も同等。人間はエイリアンではなく先住民が主役。敢えて先住民の衣装ではなく、主人公の衣装で出てもらった。彫刻建築物が現実か?という疑問が残る。交差する時間制。人工的だが素材は地元であり、境界曖昧さ。自然人かもしれない。
⚫アイリー:《アトミックガーデン》は、福島で撮っている。福島の他、小笠原や東京も撮影した。
⚫アナ:プロジェクトは4年という長い月日。福島では自然災害と共に人災もあり、2016年に撮った作品。メディアを通し、どう表象するか考えた。友人は2011年から福島に住んでいる。是非にと連れられたが、カメラの残量が3分しか残っていなかった。1日かけ蝉の声など聞き、除染場所や畑を見つけた、青木さんは毎週、植物のお世話をなさってる。複雑な土地に抗い身振りが力強いと思った。青木さんの物語は先住民と重なった。花を撮るのが重要で人間以外を自然と映すのでなく、花火 がピッタリと思った。あれから4年続いている映画と考える。
小笠原の新しい島でも撮った。
この日はQ&Aの時間がなくなり、高齢と思われる男性から
「イメージがマテリアル。曖昧さ、カメラが揺れたり歪む。世界を見直す力を与えてくれる作品だ。アラン・レネを想起する美しい映画」
との感想に、アナ監督は嬉しそうに「有難う」と答えていた。
若く美しく見るからに聡明なアナ監督。撮影話法と同じく、瑞々しい印象を放つ魅力的な人物像が感じ取れた。
写真・文:大瀧幸恵
公式サイト: https://www.yebizo.com/jp/