第32回東京国際映画祭で特別招待作品部門に出品され、ジャパンプレミアとして10月30日に上映された日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』。
上映後に、共同監督である竹葉リサ監督とエルラン・ヌルムハンベトフ監督が登壇し、Q&Aが行われました。
1月18日(土)からの公開が近づきましたので、お届けします。
『オルジャスの白い馬』原題:Horse Thieves
監督・脚本:竹葉リサ、エルラン・ヌルムハンベトフ/
プロデューサー:市山尚三、木ノ内輝、キム・ユリア/
出演:森山未來、サマル・イェスリャーモワ(『アイカ(原題)』)、マディ・メナイダロフ、ドゥリガ・アクモルダ
*物語*
草原の小さな家に家族と住む少年オルジャス。
ある日、馬を売りに市場に行った父親が戻って来ない。母親アイグリに警察から連絡があり、父が殺されたことを知る。
突然父を失った一家の前に、カイラートという男が現われる。彼は8年前に失踪したアイグリの昔の恋人だった。
カイラートはオルジャスに、実は自分が本当の父親だということを明かし、それを黙っていることを条件に、従兄弟の家まで同行することを許す。カイラートは無口ながら、馬で一緒に草原を駆け抜けるうち、お互いに絵の才能を認め合い、心を通わせるようになる。
途中のカフェで、オルジャスは亡き父の腕時計をした男を見かける・・・
シネジャ作品紹介はこちら
2019年/日本・カザフスタン/カザフ語・ロシア語/81分/カラー/DCP/Dolby SRD(5.1ch)/シネスコ
配給:エイベックス・ピクチャーズ/
©︎『オルジャスの白い馬』製作委員会
公式サイト:http://orjas.net/
★2020年1月18日(土)に新宿シネマカリテほか全国順次公開
監督:エルラン・ヌルムハンベトフ
1976年カザフスタン生まれ。2000年、カザフスタン国立芸術大学脚本科卒業。
2011年に佐野伸寿と共同監督した『春、一番最初に降る雨』(日・カザフス共同製作)で監督デビュー。2015年、初の単独監督作品である『Walnut Tree(クルミの樹)』を監督。
監督:竹葉リサ(たけば りさ)
1983年生まれ。2014年に監督・脚本を手がけた初の長編『さまよう小指』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014で最高賞とシネガーアワードを受賞。
2作目の長編『春子超常現象研究所』もロッテルダムやシッチェス映画祭でも絶賛され、モスクワ国際映画祭でも上映。最新作となる長編ホラー『シグナル100』(2020年1月公開予定)はシッチェス映画祭でも上映される。
◎Q&A
2019年10月30日 22:01~22:30
TOHOシネマズ 六本木 SCREEN1にて
登壇者:竹葉リサ監督、エルラン・ヌルムハンベトフ監督
上映が終わり、満席の観客の前に共同監督の竹葉リサさんとエルラン・ヌルムハンベトフさんが登壇。二人とも、とってもチャーミング。
MC(ミックさん):お二人をお迎えしたいと思います。ようこそお越しくださいました。まずはご挨拶をお願いします。
竹葉:本日は肌寒くなってきたところ、ジャパンプレミアムにお越しいただきまして、まことにありがとうございます。
エルラン:映画をご覧いただいて、ラフマット(ありがとう)という言葉しかないです。
*会場とのQ&A*
◆二人の役割は一緒にいい映画を作ることに尽きる
― 素晴らしい作品でした。お二人が監督ですが、役割分担は?
竹葉:ワールドプレミアの釜山映画祭でも出た質問なのですが、最初の立て付けとしましては、エルラン監督がカザフスタン側の俳優さんたちの指示、私は日本側の森山未來さんのディレクションをするという役割分担だったのですが、撮影時間がタイトで、現場が想像以上に混沌としていまして、私としてはストーリーボードを書いたり、コンテュニティに意識することに集中しました。エルランは元々役者もされていて、役者さんとのコミュニケーションを取ることに長けていましたので、最終的には、そのような役割分担がありました。
エルラン:二人の役割は、いい映画を作ることを一緒にやったということにつきます。
◆子どもならではの感性を追体験してほしい
― 新しい感覚の映画でした。ラストシーン、幻想的なのかなと思ったのですが、その前の相撃ちの場面ですでに亡くなっている。最後の映像がクリアで、どうなったのかは観客に結末をゆだねているのでしょうか?
竹葉:繊細な質問をありがとうございます。夢と捉えることも、実際は生きていると捉えることもできると思います。オルジャスは2回、父を亡くしています。少年というのは大人になる境界線に常に立たされています。尊敬している育ての父親が、実は血の繋がっていない父親だと気づきながら、家族の前では気づかないふりをしていて、そのことを誰にも言えずに過ごしてきています。おそらく自分の父親であろう侵入者である森山さん演じるカイラートがやってきて、二人の間では聞いてはいけないから言えないということがあったと思います。家族として過ごしていきたい希望はあるけれど、それもままならない状況があります。あそこで森山さんが死んだと捉えることもできるし、少年の淡い期待として家族として過ごすことになったという幻想として捉えることもできると思います。少年時代に起こることは、大自然の中で起こる様々な残酷なことを真に受けたりすることがあったりします。子どもならではの鋭い感性なので、それをお客さまにも追体験してほしいと思いました。あえて、夢なのかしらという感覚に陥ってほしいという思いで脚本を書きました。このことは、私よりもエルランに聞いていただいた方がいいかもしれません。
◆アンドリュー・ワイエスの絵画に影響を受けた
エルラン:私はアンドリュー・ワイエス(アメリカン・リアリズムの代表的画家)という画家にものすごく感銘を受けています。この映画の中で最後の部分で多くを語らないでいます。彼の代表的な絵「クリスティーナの世界」のように、女の人がどこを見ているのか、そこにあるのが、将来の夢なのか、幸福なのか、それとも現実なのか・・・まさに観客の皆さんにゆだねるというのが正しいのだと思うのですが、いろんなものが交差する中で、何がそこにあるのかを追い求めたい、それを皆さんにゆだねたいと思っています。
竹葉:補足しますと、「クリスティーナの世界」はニューヨークのMOMAに展示されていまして、足が不自由な女性の視線の先にあばら家が見えていて、手を伸ばしているという絵画です。風景としては枯れた草木があるだけなのですが、彼女がそこに希望を観ているのか、助けを求めているのか、解釈は絵を鑑賞する側にゆだねているという絵です。エルランは、この映画もそのように受け止めてもらいたいとしきりに言っていました。
― オルジャスのコミュニケーションで二つ象徴的なのが、町並みは、大人の世界を垣間見る感覚。夢は、個人の願望という風に象徴的に描かれていると感じました。少年の内面の変化をどういう思いで描いたのでしょうか?
竹葉:カメラワークに関しては、『怒れるキューバ』のようなワイドレンズで撮っていこうかと悩んだのですが、基本的に子どもの目線で撮ろうと思いました。エルラン監督から「窓」という点でお答えできると思います。
エルラン:夢にどういう意味を込めていると聞かれて、答えにくい面もあります。
自然や馬も含めてトータルで皆さんにどう捉えるかを考えて貰いたいと思っています。交響曲に例えるならば、聴いて皆さんがどう捉えるかだと思います。この映画を観て、100人が100人、違うことを感じて貰えるような映画になればいいなと思っています。
◆蒙古斑のある日本人とカザフ人 DNAレベルで落ち着く
― 森山未來さんは日本人で一人だけ。どうして彼を起用されたのですか?
カザフ語は出来なくて全部暗記されたとお聞きしたのですが・・・
竹葉:おっしゃる通り、なぜカザフ人の役を彼にしたか違和感があるかと思います。侵入者として、実の父親が帰ってくるという違和感をつけるために、あえて外国人にカザフ人の役をさせるのがいいと思いました。
海外共同製作なので、すべてカザフ人にすると、それはカザフスタン映画になってしまうと思いました。日本人とカザフ人はアルタイ山脈から来た共通の民族と言われています。カザフのジョークにも近い話で、バイカル湖まで下りてきて、魚を求めて東に行ったのが日本人になって、肉を求めて南に行ったのがカザフ人になったという説があります。それを個人的におもしろいと思いました。
中国人は蒙古斑がないのに、カザフ人と日本人にはあります。初めて中央アジアを旅した時に、すごく親近感がありました。おおげさですが、DNAレベルでこの人たちといると落ち着くと思いました。エルランもアルファ―波が出ている感じがしました。森山さんくらい一流の俳優だったら、カザフ人の役もできるし、彼は難易度の高い役をほかの映画でもしてきたので、役者魂に火をつけられるのではないかという狙いがありました。
エルラン:森山未來さんの起用は、竹葉さんやプロデューサーを務めていただいた市山さんたちの支援があったからこそ出来ました。
現代は世界中の距離が縮まって、日本とカザフの距離も縮まり、人との関係も縮まった中で、映画を撮っていく時に、時間や距離を超越した中で異質であるかもしれないけれど森山さんが出演したことによって、思ってもみないような新しい発見ができるのではないかと思いました。
◆大自然と共演できるカザフの役者は一流中の一流
― 印象的なシーンがたくさんありました。カザフスタンの風景や人が新鮮でした。カザフスタン側の役者さんは、どういう経緯で出演することになったのでしょうか?
殺伐としたシーンもありましたが、カザフの風土についても教えてください。
竹葉:カザフ側の俳優については、私も是非お伝えしたいのですが、一流中の一流の方たちです。ビジュアルがいいからとスカウトされて、ポッと出たのではなくて、大学院を出てロシアの「スタニスラフスキー・システム」という演劇システムも学んでいるトップ中のトップが役者になっています。
エルランさんがサマルさんと前から縁があって、サマルさんがカンヌで女優賞を受賞する前にオファーしていました。
現場で一番驚いたのは、日本では俳優さんに説明して前もって芝居の段取りをしてもらうのですが、カザフではカメラマンが優先的にカットを決めていくので、それに俳優さんはすぐに対応しないといけません。向こうでは、監督の要求度が高くて、どんなことにも対応してくれました。
カザフスタンは社会主義国で計画経済で成り立っていて、名誉労働者の勲章があるのですが、俳優の中にも名誉俳優の勲章を貰っている人もいます。中には昼ドラなどに出ていて、演技が型にはまった方もいるのですが、俳優のレベルが高いです。お父さん役の方は、普段はとても上品な方のに、役になると下品な食べ方をしていました。
エルラン:この映画は、大自然やカザフの歴史の中で撮りたかったので、それに対応できる役者たちを選びました。大自然という大きな役者がまずいますので、それと共演できる役者さんという視点です。
MC: 森山未來さんと息子役の少年がとても似てますね。
竹葉:感動したのですが、オーディションの最中に息子役の少年の農村の家を訪ねたら、お母さんがプロフというカザフの炊き込みご飯を作って振舞ってくださいました。泣きそうになりました。
MC:とても心に響くお話をありがとうございました。
フォトセッション
*エルランさんに、どこかでお会いしたような気がすると思ったら、2016年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で『くるみの木』のタイトルで監督作品が上映された時に、お会いしていました。
2016年のスタッフ日記に掲載しています。
報告:景山咲子