アジアフォーカス 『恋の街、テヘラン』

『恋の街、テヘラン』のアリ・ジャベルアンサリ監督Q&Aが、9月14日と18日の上映後にあるので、9月17日~19日の2泊3日で航空券とホテルのパッケージを予約したのですが、9月に入って、スケジュール表から、18日のQ&Aが消えました。監督が予定を変更されて17日に帰国されることになったとのこと。インタビューは叶いませんでしたが、映画の内容と、佐賀在住のペルシア語科卒業生のTさんからいただいたQ&A追加情報をお届けします。

『恋の街、テヘラン』
Tehran: City of Love
2019年/イラン・イギリス・オランダ/102分/DCP/1:2.39/ペルシア語
監督 : アリ・ジャベルアンサリ

アリ・ジャベルアンサリ
1981年イラン、テヘラン生まれ。10代にカナダに移住。テヘランに戻り、アッバス・キアロスタミの映画製作ワークショップで1年学んだ後、2008年にロンドン映画学校に入学。卒業制作『Aman』(2011年)はフランスおよびポルトガルの映画祭で賞に輝く。長編映画監督デビュー作『Falling Leaves』(2013年)は、米カリフォルニア州のティプロン国際映画祭で最優秀海外新人賞を受賞。現在ロンドン在住。

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9月14日上映後のQ&A 公式レポート(写真:公式サイトより)

*物語*
大都会テヘランで、孤独を抱えた3人が、それぞれに愛を求める。
◆同性愛者の悲哀
ヘサム
は、ボディビルの元チャンピオン。伯父から選手権を目指すアルシアの面倒を見てやってほしいと頼まれる。一方、ルイ・ガレル主演のフランス映画のオーディションに受かり、承諾すればパリでの撮影もあり、アルシアの指導が出来なくなる。悩んだあげく、映画出演を断るが、アルシアから選手権は諦めたので指導は不要と言われてしまう。

◆SNSで美女になりすます女性
ミナ
は美容クリニックで受付をしている小太りの女性。アイスクリームが大好きで、ダイエットもなかなか効き目がない。容姿に自信がなく、美人の写真をSNSにアップしている。受付で知った、これはという男性に甘い声で電話し、会う約束を取り付けるが、いつも結局会わずに帰ってきてしまう。
ミナは人づき合いを改善するための教室に通い始める。そこで、理想の男性に出会い打ち解けるが、彼には妻がいることがわかる。
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◆結婚式で歌う葬儀専門の根暗な歌手
ワヒドはモスクで葬儀の時に追悼の歌を歌っている。婚約者に振られてしまい、叔父から、陰気くさいから女性も逃げると、結婚式場で歌ってこいといわれる。歌える曲のリストを渡すと、結婚式場の担当者からは、結婚式でこんな歌を?と言われる。男ばかりの部屋で歌うワーヒド。結婚式場付のカメラマンの女性ニルファ―から、男女混合の非合法の披露宴で歌ってみない?と紹介される。彼なりに頑張って明るい歌を歌うが、やがて警察の手入れが入り、刑務所に入れられてしまう。有力者に口をきいてもらい、釈放されるが、淡い恋心を抱いたニルファーは、オーストラリアに移住してしまう。

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★同性愛者ヘサムの場面は、2分カットされた
冒頭、会話する男女の後姿が写しだされ、バスが来て、男性は前へ、女性は後ろへ。男女の席が分かれていることを象徴した幕開け。
入れ違いに降りてきた体格のいい男が、主人公の一人であるヘサム。
私は鈍くて気がつかなかったのですが、ボディビルダーのヘサムは同性愛者。家で過去の選手権のDVDを観ようとアルシアを自宅に招いた後に、アルシアから指導を断られてしまいます。その夜のことが原因だと推察する友人。
9月14日の上映後のQ&Aで、「ヘサムは同性愛者か?」との質問が出て、監督から「まさにそうです。イランでは、場所がインスピレーションを与えます。ジムの場面は、男だけのホモエロティックの部分を表しています。イランでも、撮影・上映OKでした。ただし、2分間ほどカットされました」という回答があったと、佐賀在住のTさんから教えてもらいました。(公式サイトのレポートには掲載されていません)

★非合法の結婚披露宴とは?

私が観る前に観た友人から、「合法的結婚と非合法の結婚はどう違うの?」と聞かれました。結婚自体は、契約書を交わして合法となるのですが、状況がわからなかったので答えられませんでした。映画を観て、披露宴が男女別なのが合法、男女混合なのが非合法という意味だとわかりました。
イスラーム革命後、ホテルやレストランでの披露宴は男女別が基本。(実際には、男女一緒のものにも遭遇したことがあります。)
「はい、今度は花嫁からキスを!」とワヒドが促して、男女一緒に踊っている雰囲気を感じさせてくれますが、客席は映しません。
この映画に出てきたような、塀に囲まれた大邸宅を利用したレストランは、今、流行っていて、あちこちにあるそうです。男性歌手のショー(女性の歌手はご法度)もよくやっているそうですが、立ち上がって踊ってはいけないそうで、皆、着席のまま身体を揺らして手拍子しているとのこと。踊りが大好きなイラン人には、かなりつらいのではと察します。
思えば、結婚披露宴は男女別室なのに、レストランでは普通に男女同席です。
(革命直後は、家族席がカーテンの向こうというレストランもありましたが)

★結婚式場のカメラマンのニルファーは『ある女優の不在』のベーナズ・ジャファリさん
ワヒドが結婚式場で知り合うカメラマンの女性ニルファーは、実は、美容クリニックで受付をするミナの友人。ミナと違って美人。オーストラリアへの移住を申請している積極的な女性。
レストランで、ニルファーがミナにビザがおりたと報告したとき、注文したデザートが届き、ミナのアイスクリームには付いている紙の傘が、ニルファーのフルーツサラダには付いてなくて、ボーイに「こっちにはないの?」と特別にお願いします。
ミニ傘を持って二人で写真を撮る場面がなかなか印象的だったのですが、このニルファーを演じたベーナズ・ジャファリさん、12月13日から公開されている『ある女優の不在』の主演を務めている女優さん。東京フィルメックスで特別招待作品として上映され、審査員として来日されました。
『ある女優の不在』を観た時には、『恋の街、テヘラン』のニルファーだと気がつかなかったのですが、本人にお会いして、まさにニルファーだとわかりました。「あのニルファーですね!」と言ったら、劇中でワヒドが歌った「ニルファー」の歌の出だしを歌ってくださいまいsた。

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『ある女優の不在』で、ぜひニルファーに再会してみてください。
ベーナズ・ジャファリさん インタビュー

報告:景山咲子





アジアフォーカス『ナイト・ゴッド』 カザフスタン制作会社の若き女性に聞く 

アジアフォーカス・福岡国際映画祭2019で上映されたカザフスタン映画『ナイト・ゴッド』と、ゲストとして来日された制作会社のボータ・アブディラフマノワさんインタビューをお届けします。

『ナイト・ゴッド』 

原題:Nochnoi Bog 英題:Night God
監督: アディルハン・イェルジャノフ
2018年/カザフスタン/110分/DCP/1:1.85/カザフ語・ロシア語

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終末を迎え闇が世界を支配し、空に現われた神を見た者はすべて焼き尽くされるという。ネオンがわびしく光る中、男一人と女二人。大きなスーツケースが傍らにある。
どこに旅立とうとしているのか・・・

終始暗闇の中の、まるで舞台のセットのような街角で会話が続き、カザフスタンの風景が見られなかったのが残念でした。
監督は、「不条理」を描いたそうですが、話が難解で、よく理解できませんでした。
監督が来日されなかったので、映画に込めた思いを直接伺うことはできませんでした。

制作会社のボータ・アブディラフマノワさんが来日。インタビューの時間をいただきました。
アディルハン・イェルジャノフ監督の作品を掲載したリーフレットをいただきました。どの作品も画像から受ける印象が暗かったのですが、ボータさんに「監督はどんな方ですか?」と伺ったら、「とても可愛い感じの方で、話しやすい方です」との答えが返ってきました。映画から受ける印象とは、まったく違う雰囲気の方のようです。

アディルハン・イェルジャノフ監督
1982年生まれ。2009年、映画監督の視覚を取りカザフスタン国立芸術アカデミーを卒業。
長編作『Owners』(2014年)カンヌ映画祭でワールドプレミア。
『The Plague at the Karatas Village』(2016年)ロッテルダム国際映画祭でワールドプレミア。NETPACアジア最優秀映画賞授賞。
『ナイト・ゴッド』は、モスクワ国際映画祭でワールドプレミアされている。

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9月17日(火)14:05からの上映前の舞台挨拶
特に詳細な説明はありませんでした。
右:ボータ・アブディラフマノワさん  左は通訳のロシア女性

9月15日16:00からの上映後のQ&A 公式レポート 
(私は残念ながら参加していませんでした)

◎ボータ・アブディラフマノワさん インタビュー
2019年9月17日(火)
福岡「ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13」8階 ゲストルームにて

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笑顔が素敵な25歳。イスラーム教徒。母語はカザフ語だが、ロシア語も日常的に使用。通訳を目指して大学で英語を学ぶ。映画祭で英語通訳を務めるうちに映画に興味を持つ。夢は映画祭を主宰すること。

◆映画『ナイト・ゴッド』について

とても実験的な映画で、カザフスタンの映画の中では、珍しいタイプで主流の映画ではありません。撮影には残念ながら立ち会っていません。海外への販売に携わっています。
監督はとてもかわいい感じの方です。質問すれば、なんでも優しく答えてくれます。
結構きびしい内容の映画で、暗い映画ですが、最後には新しい命が生まれて、明るい未来を感じさせてくれると思います。

◆映画祭で英語通訳をするうちに映画に興味を持つ
大学では通訳になりたくて英語を専攻しました。通訳として映画祭に参加する機会があって、映画に興味を持つようになりました。これまであまり映画を観る機会がなかったのですが、外国の映画も観るようになりました。『ロード・オブ・リング』や『千と千尋の神隠し』のようなタイプの映画が好きです。
今は、カザフスタンの映画を海外に売ることにも携わっています。いろいろな映画がありますので、売り込む時には、それぞれに考えないといけないのですが、カザフスタン独特の文化を紹介できるものであれば、それをキーワードにします。

◆カザフスタンの映画事情
大きな町には、結構な数の映画館があります。皆、映画が好きで、映画館に足を運ぶ人も多いです。新しい映画が公開されると、映画館に行くのが楽しみです。
一方、今、ネットで観る人も増えています。『ナイト・ゴッド』に関していえば、全体的に画面が暗いこともあって、スクリーンの方が迫力あります。音も違いますし。
ソビエトの時代から、インド映画はよく上映されていました。
イラン映画は映画祭で上映される程度です。トルコのものは映画もテレビドラマも多いです。

*今、私が平日毎晩観ているトルコのドラマ「オスマン帝国外伝 〜愛と欲望のハレム〜」も、カザフスタンで人気だそうです。
カザフ語はトルコ語に近いので、聞けばかなりわかるそうですが、このドラマはトルコ語のオリジナルではなく、吹替えだそうです。カザフ語なのかロシア語なのか聞きそこねました。



◆夢は映画祭を開催すること

制作会社に所属していますが、プロデューサーになることよりも、私の夢は映画祭を開くことです。いろんな国の映画が観て、いろんな国の文化を知って、世界が広がることが素晴らしいと思います。
自分の国の文化や伝統を映画を通じて知ってもらうことも嬉しいです。
映画祭だけでなく国際交流によって、自分の国を守ることもできると思います。
ほかの国のことを知ることによって、お互いの理解が深まると思います。
自分自身で映画祭を開催できるまでには、まだまだあちこちの国にも行って、勉強しないといけないです、映画祭の名前はまだ考えていません。

◆映画業界で活躍する女性も増えている

映画業界の中で、今までは女性が参加するのはなかなか難しかったのですが、今は、若い世代を中心に女性も活躍できるようになりました。大学や専門学校で映画関係の学科がいろいろあります。女性も多く学んでいます。映画監督として映画(短編・長編)を製作している女性も増えています。私自身、仕事の上で女性だからというハンディは感じたことはありません。

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ボータさんとお話して、とても伸びやかに仕事を楽しんでいるのを感じました。
この日の通訳の方はロシアの女性でした。思えば、英語で直接お話したほうがよかったかも。ムスリマ(イスラーム教との女性)とわかって、「アッサラームアライクム」と挨拶したら、「ワレイコムアッサラーム!」と応じてくれました。
カザフ語とロシア語が普通に共存するカザフスタンを感じたひと時でした。

取材:景山咲子