SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019 クロージング・セレモニー
7月21日(日)11時から「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019」のクロージング・セレモニーが執り行われました。
7月13日(土)からの開催期間中に上映された国際コンペティション部門10作品、国内コンペティション長編部門5作品、同短編部門9作品の中から各賞が発表されるとあって、来場された監督やプロデューサーの方たちは落ち着かないご様子。
取材陣も観客も、それぞれのお気に入りの作品が受賞するかどうか、わくわくしながら発表を待ちました。
まずは、関係者挨拶から。
◎主催者挨拶
映画祭実行委員会会長 上田清・埼玉県知事
この映画祭から、多くの監督やクリエイターが羽ばたいて活躍しています。Dシネマ映画祭がこうして発展してきたことを、関係者の皆さまに感謝申しあげます。
審査員の皆さまには、ご苦労の中に賞を選んでいただきました。
賞に選ばれた作品が、ここにとどまることなく、日本や世界で大きな評価を得られることを願っています。
総合プロデューサー・八木信忠氏
皆さんの心配りと努力に感謝します。開催中に悲しい出来事がありました。112年前に日本で初めて映画が上映された京都で放火事件がありました。亡くなった方々に哀悼の意を表しますと共に、負傷された方々には早いご快復を念じています。
来年は東京オリンピック開催の年です、我々も明日から来年の映画祭に向けて始動します。
◎国内コンペティション各賞発表
発表は、映画祭実行委員会副会長の奥ノ木信夫川口市長から行われました。
「重々しく発表させていただきます」「さらに重々しく~」と、緊張を和らげながらの発表でした。
観客賞(短編部門)
『歩けない僕らは』
佐藤快磨監督
この作品は、脳卒中で突然歩けなくなった方たちの物語です。脚本を書きながら、歩ける自分がこの映画を撮る意味をずっと考えていました。一年弱、取材してお話を聞き、その後、今回上映する直前までその思いは消えませんでした。今回、Q&Aで質問や感想をいただいて、お客様に観ていただいて初めて映画になるのだと感じました。面白い脚本を書いて、またこの映画祭に戻ってきたいと思います。
観客賞(長編部門)
『おろかもの』鈴木祥監督、芳賀俊監督
鈴木祥監督
大学を卒業して約10年ぶりに芳賀君とタッグを組んで映画を撮りました。映画を作っている最中は時間を忘れるくらい楽しかった。今後も機会があれば続けていきたいです。
芳賀俊監督
自分の子どものような作品が賞をいただいて嬉しいです。(と、涙ぐむ芳賀監督)
ありがとうございました。
優秀作品賞(短編部門)
『遠い光』
宇津野達哉監督
受賞すると思わなくて、荷物を控え室に置いていけといわれたのですが、会場に持ってきてしまい心配です。
幼少の頃から猟に連れて行ってくれた叔父の奥さん、つまり叔母さんが癌になったことをきっかけに脚本を書き出した作品です。千歳烏山の居酒屋でたまたま会った材木屋の社長さんに「映画を作りたい」と言ったら300万円ポンと出してくれました。それが、まさかこんな素晴らしい賞をいただくことになるとは思いませんでした。普段は映画やドラマのメイキングを作ったり、助監督として活動していますが、これからは監督として長編や商業デビューできるよう、頑張っていきたいと思います。
優秀作品賞(長編部門)
『サクリファイス』
壷井濯監督
平成の終わりに多くの凶悪殺人犯と呼ばれる人たちが何も語らないまま死刑になり、令和になって、登戸の事件や、京都アニメーションの事件が起きました。改めて物語にできることはなに何もないと、もどかしく思いました。3.11の時も、押し寄せる津波に対してできることは何もないと思っていました。これから来る第2波、第3波に対しては、物語にできるもの、守れるものがあると思います。SKIPシティは多様性のあるところ。友達も赤ちゃんを抱っこしてきてくれて、『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』のようなヤバイ映画も観てくれました。
デジたるくん(映画祭マスコット)も色がいっぱいあって多様性を表してると思います。1色でも抜けては駄目。その色をすべて守っていくことが映画の役割だと思います。皆で既成の権威を壊して、よりよき社会を作っていきたいです。
SKIPシティアワード
『ミは未来のミ』
磯部鉄平監督
映画祭期間中、サンダルを履いてウロウロしていたら、「セレモニーくらい靴を履きなさい」と怒られて、昨日靴を買ってよかったです。昨年、短編部門で優秀作品賞をいただいて、「長編を撮って早くSKIPに帰ってきたい」とこの場で言いました。一年後に戻ってこられて、賞までいただき、ほんとに嬉しいです。初長編は自分の高校3年生の時の話をやろうと決めていたので、その話で賞を獲れたのも嬉しいです。
審査委員長総評 荻上直子氏
『ミは未来のミ』の童貞男子の馬鹿馬鹿しい会話と、あほらしい行動力がすがすがしくて、いとおしくなりました。私たち審査員は、磯部監督の次の作品に期待して、SKIPシティアワードを決定しました。
デジタル化が進んでクオリティがアップして、このまま劇場でかけられるようなものもありました。一方で、気が狂ったようなパッションに満ちた映画は、最近なかなか見せてもらえません。それは、ちょっと残念に思います。私も自主映画出身ですので、皆さんがどれだけ映画を作りたくてしょうがないかはわかっているつもりです。10年後、20年後もずっと作り続けてください。
◎国際コンペティション 各賞発表
埼玉県 上田清司知事より発表。奥ノ木川口市長の「重々しく」を受けて、上田知事は「厳粛に発表させていただきます」と、まず観客賞を発表。
観客賞
『ザ・タワー』 (マッツ・グルードゥ監督)
現在、本作を持って中東の難民キャンプを回っている監督に代わってパトリス・ネザン プロデューサーがトロフィーを受け取りました。
プレゼンテーターは審査員のヘディ・ザルディ氏。
パトリス・ネザン プロデューサー
日本の観客の皆さんに観ていただき、フィードバックを色々いただけたことに感謝します。皆様の心に響いたのは、人間性に溢れた普遍性のあるストーリーだからだと思っています。この映画祭のコンペティション作品に選定していただきありがとうございます。
審査員特別賞
『ミッドナイト・トラベラー』ハサン・ファジリ監督
ドイツで難民申請が受理され手続き中で来日が叶わず、「映画祭より責任をもってトロフィと副賞をお届けします」と発表されました。
監督賞
下記2作品に授与されました。
『イリーナ』ナデジダ・コセバ監督
『陰謀のデンマーク』ウラー・サリム監督
『イリーナ』
プロデューサーのステファン・キタノフ氏が挨拶。
ナデジダ・コセバ監督に代わって感謝申しあげます。今回、12日間滞在し素晴らしい時を過ごしましたが、京都での事件には悲しい気持ちでいます、世界がより平和になることを願っています。日本の皆さんは、ブルガリアというとヨーグルトや琴欧州を思い浮かべると思いますが、願わくは、この映画がブルガリアに目を開くきっかけになればと思っています。
『陰謀のデンマーク』ウラー・サリム監督
受賞でき光栄で嬉しいです。初来日でしたが、『ロスト・イン・トランスレーション』のような状態にはなりませんでした、温かく迎えていただきました。人を敬う日本の文化が世界に広まればいいと思います。この映画は起こりうる最悪の事態を描いていますが、そんな中から、起こりうる最善の事態を見出せればと思います。デンマークでこの映画を作り、こうして今、日本の皆さんに作品を認めてもらえるとは数年前には想像もできませんでした。映画作家として希望をいただき、次の作品につなげたいという気持ちになりました。
最優秀作品賞
『ザ・タワー』 (マッツ・グルードゥ監督)
パトリス・ネザン プロデューサーが、審査員長 三池崇史監督よりトロフィーを受け取りました。
審査員長 三池崇史監督よりのコメント:
『ザ・タワー』の受賞、おめでとうというより、素晴らしい作品をありがとうございます。私は今、審査員長としてここに立っていますが、審査員の総意としてこの賞を決めました。審査員4人は皆それぞれ違う立場で映画にかかわっています。現場で映画を作る専門家、企画したり、いかにお金を集めて観客に見せるかをビジネスの視点から見ている人、アジアで最初に開かれた国際映画祭、シンガポール映画祭のディレクター。そして観客の皆さんの意見がすべて一致したのがこの映画の素晴らしいところだと思います。私は高校の時、歴史をあまり勉強しませんでした。でも、この映画を通じてレバノンの難民キャンプで生まれたパレスチナの少女と心を通わすことができました。それを作ったのがノルウェーの監督ということにも映画の凄さを感じました。特に今の日本の子供から大人まで、すべての人が観るべき作品です。観ることによって、優しさを取り戻せると思います。日本人が今、もっとも観るべき映画です。
パトリス・ネザン プロデューサー
審査員の皆さん、ありがとうございます。先ほどの言葉に付け加えるならば、アニメーション制作は時間がかかるものです。この作品も足かけ8年かかりました。しかし監督のマッツと私のやりたいことははっきりしていました。彼は子どもの頃、NGOのセイブ・ザ・チルドレンで看護師をしていた母親とともに毎夏、この難民キャンプで過ごしていました。リアリティにこだわって、難民キャンプの人たちの持っているお互いに尊敬する念や、ユーモアなどを忠実に描きたいと8年かけました。監督は繊細で人間性溢れる方です。寄り添えたのは贅沢な経験でした。
ヨーロッパ、特にフランスは、日本のアニメーションやグラフィックノベルの影響を多大に受けています。特に大人向けのアニメーションを作る私たちは、架け橋となることができれば嬉しいです。
審査委員長総評 三池崇史氏
デジたる君がいなくなってしまいました・・・(と、寂しそうな三池監督)
国際長編部門10本いずれも素晴らしい作品。とてもキャリアの浅い、撮り出して数本のいわゆる新人の方が作られたとは思えない、技術的にも志も高いレベルの作品ばかりでした。最初戸惑ったのは、10本ジャンルがそれぞれ違う。サスペンスもあれば、お父さんが浮気するという身近な問題、そして女性の監督がたくさんいらっしゃった。自分の居場所をいろんな事情で失った人たちの内面を描くもの。ドキュメンタリーだけでなくアニメーションもあった。普通だとファンタスティック映画祭とかジャンルで括って競うのが、ジャンルに垣根のないのがこの映画祭だと感じました。
ここからは映画監督として、個人的なお願いです。今日受賞された方はすぐ、ご家族やスタッフなどにご連絡されると思います。映画祭が終わって、世界中で笑顔になる人たちがたくさんいる。我々現場で作っている人間は、その喜びを胸に明日に向かっていきます。いろんな映画祭で評価をいただいて、ありがたく身に染みて感じることです。その裏返しとして、この映画祭には重い責任が同時に生まれてくると感じます。いつまでたっても、賞をいただいた人間の心の中に、自分はDシネマ映画祭で賞を取ったということが誇りになって、10年経っても20年経っても残ります。その為には、
いろんな問題があっても、なんとかこの映画祭を高いレベルで盛り上げていただければと思います。あまり商業的にもならず、忖度からも解放されて、個性的で自立した映画祭は、埼玉県や川口市が誇ることでもあると思います。
映画祭の関係者の方たちに、映画を作る立場を代表して今後も続けてくださることをお願いします。
有意義な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。