SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019 クロージング・セレモニー

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7月21日(日)11時から「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019」のクロージング・セレモニーが執り行われました。
7月13日(土)からの開催期間中に上映された国際コンペティション部門10作品、国内コンペティション長編部門5作品、同短編部門9作品の中から各賞が発表されるとあって、来場された監督やプロデューサーの方たちは落ち着かないご様子。
取材陣も観客も、それぞれのお気に入りの作品が受賞するかどうか、わくわくしながら発表を待ちました。

まずは、関係者挨拶から。

◎主催者挨拶
映画祭実行委員会会長 上田清・埼玉県知事
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この映画祭から、多くの監督やクリエイターが羽ばたいて活躍しています。Dシネマ映画祭がこうして発展してきたことを、関係者の皆さまに感謝申しあげます。
審査員の皆さまには、ご苦労の中に賞を選んでいただきました。
賞に選ばれた作品が、ここにとどまることなく、日本や世界で大きな評価を得られることを願っています。


総合プロデューサー・八木信忠氏

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皆さんの心配りと努力に感謝します。開催中に悲しい出来事がありました。112年前に日本で初めて映画が上映された京都で放火事件がありました。亡くなった方々に哀悼の意を表しますと共に、負傷された方々には早いご快復を念じています。
来年は東京オリンピック開催の年です、我々も明日から来年の映画祭に向けて始動します。


◎国内コンペティション各賞発表

発表は、映画祭実行委員会副会長の奥ノ木信夫川口市長から行われました。
「重々しく発表させていただきます」「さらに重々しく~」と、緊張を和らげながらの発表でした。

観客賞(短編部門)
『歩けない僕らは』
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佐藤快磨監督
この作品は、脳卒中で突然歩けなくなった方たちの物語です。脚本を書きながら、歩ける自分がこの映画を撮る意味をずっと考えていました。一年弱、取材してお話を聞き、その後、今回上映する直前までその思いは消えませんでした。今回、Q&Aで質問や感想をいただいて、お客様に観ていただいて初めて映画になるのだと感じました。面白い脚本を書いて、またこの映画祭に戻ってきたいと思います。


観客賞(長編部門)
『おろかもの』鈴木祥監督、芳賀俊監督
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鈴木祥監督
大学を卒業して約10年ぶりに芳賀君とタッグを組んで映画を撮りました。映画を作っている最中は時間を忘れるくらい楽しかった。今後も機会があれば続けていきたいです。
芳賀俊監督
自分の子どものような作品が賞をいただいて嬉しいです。(と、涙ぐむ芳賀監督)
ありがとうございました。


優秀作品賞(短編部門)
『遠い光』
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宇津野達哉監督
受賞すると思わなくて、荷物を控え室に置いていけといわれたのですが、会場に持ってきてしまい心配です。
幼少の頃から猟に連れて行ってくれた叔父の奥さん、つまり叔母さんが癌になったことをきっかけに脚本を書き出した作品です。千歳烏山の居酒屋でたまたま会った材木屋の社長さんに「映画を作りたい」と言ったら300万円ポンと出してくれました。それが、まさかこんな素晴らしい賞をいただくことになるとは思いませんでした。普段は映画やドラマのメイキングを作ったり、助監督として活動していますが、これからは監督として長編や商業デビューできるよう、頑張っていきたいと思います。


優秀作品賞(長編部門)

『サクリファイス』
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壷井濯監督
平成の終わりに多くの凶悪殺人犯と呼ばれる人たちが何も語らないまま死刑になり、令和になって、登戸の事件や、京都アニメーションの事件が起きました。改めて物語にできることはなに何もないと、もどかしく思いました。3.11の時も、押し寄せる津波に対してできることは何もないと思っていました。これから来る第2波、第3波に対しては、物語にできるもの、守れるものがあると思います。SKIPシティは多様性のあるところ。友達も赤ちゃんを抱っこしてきてくれて、『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』のようなヤバイ映画も観てくれました。
デジたるくん(映画祭マスコット)も色がいっぱいあって多様性を表してると思います。1色でも抜けては駄目。その色をすべて守っていくことが映画の役割だと思います。皆で既成の権威を壊して、よりよき社会を作っていきたいです。

SKIPシティアワード
『ミは未来のミ』
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磯部鉄平監督
映画祭期間中、サンダルを履いてウロウロしていたら、「セレモニーくらい靴を履きなさい」と怒られて、昨日靴を買ってよかったです。昨年、短編部門で優秀作品賞をいただいて、「長編を撮って早くSKIPに帰ってきたい」とこの場で言いました。一年後に戻ってこられて、賞までいただき、ほんとに嬉しいです。初長編は自分の高校3年生の時の話をやろうと決めていたので、その話で賞を獲れたのも嬉しいです。


審査委員長総評 荻上直子氏

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『ミは未来のミ』の童貞男子の馬鹿馬鹿しい会話と、あほらしい行動力がすがすがしくて、いとおしくなりました。私たち審査員は、磯部監督の次の作品に期待して、SKIPシティアワードを決定しました。
デジタル化が進んでクオリティがアップして、このまま劇場でかけられるようなものもありました。一方で、気が狂ったようなパッションに満ちた映画は、最近なかなか見せてもらえません。それは、ちょっと残念に思います。私も自主映画出身ですので、皆さんがどれだけ映画を作りたくてしょうがないかはわかっているつもりです。10年後、20年後もずっと作り続けてください。


◎国際コンペティション 各賞発表
埼玉県 上田清司知事より発表。奥ノ木川口市長の「重々しく」を受けて、上田知事は「厳粛に発表させていただきます」と、まず観客賞を発表。

観客賞
『ザ・タワー』 (マッツ・グルードゥ監督)
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現在、本作を持って中東の難民キャンプを回っている監督に代わってパトリス・ネザン プロデューサーがトロフィーを受け取りました。
プレゼンテーターは審査員のヘディ・ザルディ氏。

パトリス・ネザン プロデューサー
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日本の観客の皆さんに観ていただき、フィードバックを色々いただけたことに感謝します。皆様の心に響いたのは、人間性に溢れた普遍性のあるストーリーだからだと思っています。この映画祭のコンペティション作品に選定していただきありがとうございます。


審査員特別賞
『ミッドナイト・トラベラー』ハサン・ファジリ監督
ドイツで難民申請が受理され手続き中で来日が叶わず、「映画祭より責任をもってトロフィと副賞をお届けします」と発表されました。


監督賞

下記2作品に授与されました。
『イリーナ』ナデジダ・コセバ監督
『陰謀のデンマーク』ウラー・サリム監督

『イリーナ』
プロデューサーのステファン・キタノフ氏が挨拶。
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ナデジダ・コセバ監督に代わって感謝申しあげます。今回、12日間滞在し素晴らしい時を過ごしましたが、京都での事件には悲しい気持ちでいます、世界がより平和になることを願っています。日本の皆さんは、ブルガリアというとヨーグルトや琴欧州を思い浮かべると思いますが、願わくは、この映画がブルガリアに目を開くきっかけになればと思っています。


『陰謀のデンマーク』ウラー・サリム監督

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受賞でき光栄で嬉しいです。初来日でしたが、『ロスト・イン・トランスレーション』のような状態にはなりませんでした、温かく迎えていただきました。人を敬う日本の文化が世界に広まればいいと思います。この映画は起こりうる最悪の事態を描いていますが、そんな中から、起こりうる最善の事態を見出せればと思います。デンマークでこの映画を作り、こうして今、日本の皆さんに作品を認めてもらえるとは数年前には想像もできませんでした。映画作家として希望をいただき、次の作品につなげたいという気持ちになりました。


最優秀作品賞
『ザ・タワー』 (マッツ・グルードゥ監督)
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パトリス・ネザン プロデューサーが、審査員長 三池崇史監督よりトロフィーを受け取りました。

審査員長 三池崇史監督よりのコメント:
『ザ・タワー』の受賞、おめでとうというより、素晴らしい作品をありがとうございます。私は今、審査員長としてここに立っていますが、審査員の総意としてこの賞を決めました。審査員4人は皆それぞれ違う立場で映画にかかわっています。現場で映画を作る専門家、企画したり、いかにお金を集めて観客に見せるかをビジネスの視点から見ている人、アジアで最初に開かれた国際映画祭、シンガポール映画祭のディレクター。そして観客の皆さんの意見がすべて一致したのがこの映画の素晴らしいところだと思います。私は高校の時、歴史をあまり勉強しませんでした。でも、この映画を通じてレバノンの難民キャンプで生まれたパレスチナの少女と心を通わすことができました。それを作ったのがノルウェーの監督ということにも映画の凄さを感じました。特に今の日本の子供から大人まで、すべての人が観るべき作品です。観ることによって、優しさを取り戻せると思います。日本人が今、もっとも観るべき映画です。


パトリス・ネザン プロデューサー


審査員の皆さん、ありがとうございます。先ほどの言葉に付け加えるならば、アニメーション制作は時間がかかるものです。この作品も足かけ8年かかりました。しかし監督のマッツと私のやりたいことははっきりしていました。彼は子どもの頃、NGOのセイブ・ザ・チルドレンで看護師をしていた母親とともに毎夏、この難民キャンプで過ごしていました。リアリティにこだわって、難民キャンプの人たちの持っているお互いに尊敬する念や、ユーモアなどを忠実に描きたいと8年かけました。監督は繊細で人間性溢れる方です。寄り添えたのは贅沢な経験でした。
ヨーロッパ、特にフランスは、日本のアニメーションやグラフィックノベルの影響を多大に受けています。特に大人向けのアニメーションを作る私たちは、架け橋となることができれば嬉しいです。


審査委員長総評 三池崇史氏
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デジたる君がいなくなってしまいました・・・(と、寂しそうな三池監督)
国際長編部門10本いずれも素晴らしい作品。とてもキャリアの浅い、撮り出して数本のいわゆる新人の方が作られたとは思えない、技術的にも志も高いレベルの作品ばかりでした。最初戸惑ったのは、10本ジャンルがそれぞれ違う。サスペンスもあれば、お父さんが浮気するという身近な問題、そして女性の監督がたくさんいらっしゃった。自分の居場所をいろんな事情で失った人たちの内面を描くもの。ドキュメンタリーだけでなくアニメーションもあった。普通だとファンタスティック映画祭とかジャンルで括って競うのが、ジャンルに垣根のないのがこの映画祭だと感じました。
ここからは映画監督として、個人的なお願いです。今日受賞された方はすぐ、ご家族やスタッフなどにご連絡されると思います。映画祭が終わって、世界中で笑顔になる人たちがたくさんいる。我々現場で作っている人間は、その喜びを胸に明日に向かっていきます。いろんな映画祭で評価をいただいて、ありがたく身に染みて感じることです。その裏返しとして、この映画祭には重い責任が同時に生まれてくると感じます。いつまでたっても、賞をいただいた人間の心の中に、自分はDシネマ映画祭で賞を取ったということが誇りになって、10年経っても20年経っても残ります。その為には、
いろんな問題があっても、なんとかこの映画祭を高いレベルで盛り上げていただければと思います。あまり商業的にもならず、忖度からも解放されて、個性的で自立した映画祭は、埼玉県や川口市が誇ることでもあると思います。
映画祭の関係者の方たちに、映画を作る立場を代表して今後も続けてくださることをお願いします。
有意義な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。

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第2回東京イラン映画祭 (イラン大使館主催)

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イラン外交関係樹立90周年を記念に8月5日(月)~7日(水)、港区の赤坂区民センターにて東京イラン映画祭が開催されます。
イランの有名監督7人の作品が日本語字幕付きで上映されます。(ペルシャ語音声)
http://ja.tokyo.icro.ir/index.aspx?siteid=417&pageid=43488

★鑑賞料無料・予約不要

主催:イラン文化センター(イラン・イスラム共和国大使館文化参事室)
協力:港区、公益財団法人ユニジャパン
日程:
8月5日(月)(10:00~21:00)
8月6日(火)(10:00~21:00)
8月7日(水)(10:00~21:00)
会場:赤坂区民センター区民ホール(3F)
   (最寄り駅:赤坂見附、青山1丁目)

オープニングセレモニー:8月5日(月)15:00~15:30
各作品の上映日程は、こちらで確認ください。
http://ja.tokyo.icro.ir/index.aspx?siteid=417&pageid=43488#table

◆上映作品

『ロスト・ストレイト』Tangeye Abu Ghorayb(The Lost Strait)
2016年/ 93分
監督:バラム・タヴァコリ (Bahra Tavakkoli)
https://www.imdb.com/title/tt7897306/
上映: 8/5 15:30~、8/7 19:00~

『ボディーガード』 (Bodyguard)
2016年、105分
監督:エブラヒーム・ハータミーキヤー (Ebrahim Hatamikia)
https://www.imdb.com/title/tt5460508/
2017年広島イラン愛と平和の映画祭〜イン東京〜 および
東京イラン映画祭2018年でも上映された作品。
上映:8/6 17:00~、8/7 10:00~

『想像の甘美な味わい』Tame Shirin Khial (Sweet taste of Imagination)
2014年/94分/監督:カマル・タブリーズィー
https://www.imdb.com/title/tt3719560/?ref_=fn_al_tt_1
上映: 8/5 19:00~、8/6 13:00~

『クレイジールーク』Rokhe Divaneh (Crazy Rook)
2015年/110分
監督:アボルハサン・ダヴーディ(Abolhasan Davoodi)
https://www.imdb.com/title/tt4532764/
上映:8/6 10:00~、8/7 13:00~

『ペインティングプール』Houz naggasi (The Painting Pool)
2013年/92分
監督:マーズィアール・ミリー (Maziar Miri)
https://www.imdb.com/title/tt2848876/?ref_=fn_al_tt_1
★アジアフォーカス福岡国際映画祭2014年で『絵の中の池』のタイトルで上映
上映: 8/5 13:00~、8/6 19:00~

『こんなに遠く、こんなに近い』Kheili dour, kheili nazdik (So Close, So Far)
2005年/121分
監督:レザ・ミル・キャリミ (Reza Mirkarimi)
https://www.imdb.com/title/tt0483703/?ref_=nv_sr_1?ref_=nv_sr_1
★アジアフォーカス福岡国際映画祭2005年で『こんなに近く、こんなに遠く』のタイトルで上映。2006年、NHKアジア・フィルム・フェスティバルでも上映。
上映: 8/5 10:00~、8/6 15:00~

『最後の晩餐』 (The Last Supper)
2017年/70分
監督:モハッマド・ファルド (Mohammad Q. Fard)
https://www.imdb.com/title/tt9085580/
上映: 8/7 15:00~



SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 『ザ・タワー』  ~パレスチナの難民キャンプを描いたアニメーション~  (咲)

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『ザ・タワー』  原題:The Tower
監督・脚本:マッツ・グルードゥ
2018年/ノルウェー・フランス・スウェーデン/77分

*ストーリー*
ベイルート郊外のブルジュ・バラジネ難民キャンプで暮らすパレスチナ人の少女ワルディ。名前を付けてくれた曽祖父シディが大好きだ。1948年5月15日に故郷を追い出されたときのことを忘れてはいけないと、よく語って聞かせてくれる。そんなシディが、いつも首にぶらさげている故郷の家の鍵をワルディに渡す。いつか故郷に帰るという夢を捨ててしまったのかとワルディは不安になる・・・

現在はパペット(人形)で3D。1948年5月15日のナクバ(大災厄)から何年と、時々振り返る形で挿入される過去はフラットな2Dで描かれています。
写真や動画を参考にして描かれた難民キャンプの建物や雰囲気は、現地を知っている方から、ほんとにそっくりと伺いました。
家族が増えるたびに、上へ上へと部屋を積み上げていった結果、建物が塔のようになって林立していることを会話の中から知りました。イスラエル建国で追い出されてから、もう4世代目が生まれているのです。レバノンで生まれても、パスポートの国籍欄は「難民」。
パレスチナの人たちが平穏に暮らせる日の来ることを願わずにはいられない作品でした。

16年目となる本映画祭の国際コンペティション部門に出品された初めての長編アニメーション。
マッツ・グルードゥ監督は、ノルウェー出身。お母様がブルジュ・バラジネ難民キャンプで医療に携わっていたことから、子供の頃から夏休みには難民キャンプで母のもとで滞在。1990年代にはベイルート・アメリカン大学に通いながらブルジュ・バラジネ難民キャンプで英語とアニメを教えていた経験を元に本作を製作。
監督に代わり、プロデューサーのパトリス・ネザン氏が来日されました。

◆7月15日 上映後のQ&A
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パトリス・ネザン氏挨拶:
現在、マッツ・グルードゥ監督は本作を持って中東の難民キャンプをツアー中ですので、代わりに私が日本に参りました。通常のアニメーションと違って、本作はほぼドキュメンタリーです。難民キャンプに暮らす人たちのインタビューから言葉を取り入れています。また、難民キャンプの様子も、写真やビデオをもとに忠実に描いています。

●会場とのQ&A
― 感動しました。実際の写真が途中で出てきましたが、モデルになった方たちでしょうか? ひとつの家族そのものがモデルになっているのでしょうか? それともいろいろな人物を組み合わせたのでしょうか?

ネザン:監督が子供時代から難民キャンプでお母様が医療に携わっていて、毎夏訪れていました。その経験をもとに短編をいくつか作っていました。長編を作るとき、自分の友人たちを描きたいと思ったそうです。写真は皆、友人たちから借りた実際のものです。ワルディの家族は監督が小さい時から親しくしていた家族がモデルになっています。私がプロデューサーになった時には、監督はすでに2年間にわたってインタビューをしていました。ライプチヒで開かれていた企画マーケットで監督に会いました。ドキュメンタリーにしたいと言っていたのですが、フィクションのアニメーションにした方が、より普遍的なものになるとアドバイスしました。
ワルディは様々な女の子をミックスしています。
フランスで公開した時に、監督が一つだけ後悔があると言っていました。すべての事件をダブルチェックしたのですが、家族が経験した囚人が戻された事件だけはきちんとチェックできなかったと。アニメだけどすべて事実に基づいて描きたいと思っていたので、その1点は気になると言っていました。

― 2Dと3Dは、どう使い分けたのですか?

ネザン:現在の場面は、パペットのアニメーションで3Dで描いています。過去のシーンは、人間の記憶はどこかブレがありますので、雑誌『ザ・ニューヨーカー』でも活躍するグラフィックノベリストの方に漫画とノベルが合体したようなフラットな絵を描いてもらいました。

― ワルディという少女の名前の意味は?

ネザン:薔薇の色と匂いをミックスした言葉です。フランスでも女の子に付けられることがあります。

― 言語が、英語や出資国のものでなく、パレスチナのアラビア語にしたのは?
また、声を担当したのは?


ネザン:
もちろん難民キャンプでは英語をしゃべっていません。監督がリアリティにこだわり、実際の言語にしました。ただ、フランスで公開した時には、子供たちにも観てほしいので、フランス語の吹き替え版を作りました。子供たちは字幕を読めませんので。
声優はパレスチナの有名な実績のある人たちにお願いしました。パレスチナの方たちなので、繊細なニュアンスも出してくださいました。

― パペットのデザインの意図は?

ネザン:
通常クリーンに作るのですが、この作品ではあえて綺麗ではなく汚したものにしています。顔や姿は、モデルになった人たちに似せて作っています。

― パレスチナの現実を知ることができてよかったです。お姉さんは好きな人がいるのに、外国に嫁いでいくのは?


ネザン:
これも現実です。難民キャンプを出て、より良い生活を求めて外国の人と結婚する人たちがいます。でも、一度外国に出てしまうと、2度と戻れないので、家族と会えないことを決意して行くのです。世界中の難民キャンプの人たちも同様に困難な暮らしをしていることを示したかったのです。ヨーロッパでは、難民受け入れを閉ざそうとしていますので、それに反対する意味も込めています。
第二次世界大戦の時には、フランスやドイツの人たちがアメリカに受け入れてもらいました。人道主義の立場から難民を受け入れたのです。そのことを思い起こして、今、難民となっている人たちに手を差しのべてほしいと願っています。
監督は誰が悪人というのでなく、パレスチナの現状について考えてほしいという思いで本作を作っています。そして、パレスチナとイスラエルの人たちがお互いに敵視しないで、特に若い世代が対話を始めるきっかけにこの作品がなればと願っているのです。

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公式サイトのQ&Aレポート 

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019『バッド・アート』タニア・レイモンド監督  (咲)

私が早起きできなくて観れなかった『バッド・アート』の感想を友人の毛利奈知子さんからいただきました。下記タニア・レイモンド監督の写真も毛利さん提供です。(咲)
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7月15日(祝)11時からの『バッド・アート』(アメリカ、2019年、ジャパンプレミア)を観てきました。

アメリカのTVシリーズ「LOST」やアマゾンプライムの
オリジナルドラマ『弁護士ビリー・マクブライド』他アメリカのTVドラマを中心に活躍している女優タニア・レイモンドが、
今回、長編映画を絵画・彫刻のアーティストジオ・ゼッグラーと共同
で初監督した映画。

タニア・レイモンドは、今回のSkipシティ映画祭の目玉となる大物ゲストの一人かと思います。

映画祭ガイドのチラシには”スラップスティック・コメディ”と書いてあったので、
ナンセンスなどドタバタコメディー映画だったら少々苦手だなあと思いつつ観に行きました。実際に観てみるとドタバタ感は、思ったより控えめでアート業界への風刺を込めたセリフとともに、ゼックラーのモダンなアートも同時に楽しめるコメディータッチの小洒落たアートな映画といった印象でした。

自己主張の強い登場人物が次々と登場してそれぞれがそれぞれの立場で、
あれこれ主張し、しゃべり続けるセリフの多い映画です。

議論好きの登場人物が何人も出てきて、風刺も効いていて、飛躍しすぎかもしれませんが、ある意味フランス映画っぽいと思いました。アカデミックなアート論なんかも出てきて知的な要素もある映画。
Q&A『映画の最後が英語の映画なのに、The endじゃなくてFinとフランス語なのはなぜですか?』という質問が出たときには、その方がおしゃれだと思ったといった回答をされていましたが、加えてタニア・レイモンド氏のお母さまはフランス人だということも話されていました。
その影響でフランス映画っぽい雰囲気が醸し出されたのかとふと思ったりもしました。

上映後の質疑応答では、タニア・レイモンド氏が今後この映画の脚本を舞台演劇として、毎回違う絵画のアーティストを取り上げるような計画もあるとのことでした。実際この映画では撮影場所は雇われ画家のアトリエの部屋と庭といった限られた空間のみの中で展開され、舞台演劇っぽい雰囲気いっぱいの映画でしたので、そういわれて納得。

存在感と華の両方を兼ね備えたタニア・レイモンドの主役としての演技も光ってました。

2回目の上映は7月18日(木)17時から多目的ホールにてとのことなので、
お時間の許す方はご覧になってみてはいかがでしょうか!
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東南アジア映画の巨匠たち/響きあうアジア2019 (暁)

響きあうアジア 2019 特集上映「東南アジア映画の巨匠たち」オープニングセレモニー&『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』(ガリン・ヌグロホ監督)上映
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【日時】2019年7月4日(木)18:30~
【場所】 有楽町スバル座
【登壇者】ガリン・ヌグロホ、ブリランテ・メンドーサ、エリック・クー、カミラ・アンディニ、ナワポン・タムロンラタナリット森崎ウィン(スペシャルゲスト)安藤裕康(国際交流基金理事長)、久松猛朗(東京国際映画祭 フェスティバルディレクター)

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ゲストの皆さん

国際交流基金アジアセンターが、日本と東南アジアの文化交流事業を幅広く紹介する祭典「響きあうアジア2019」。舞台芸術、映画、混成サッカーチーム国際親善試合などの様々なイベントプログラムのひとつとして、躍進目覚ましい東南アジア映画を様々な形で紹介してきた東京国際映画祭と共に、スペシャルプログラムを組み特集上映。国際的に活躍する東南アジアの監督を迎えての上映とトーク、日本と東南アジアの映画交流に関するシンポジウムなどが実施されている。
特集上映「東南アジア映画の巨匠たち」のオープニングセレモニーが7月4日、東京・有楽町スバル座で行われ、ゲストとしてガリン・ヌグロホ監督(インドネシア)、ブリランテ・メンドーサ監督(フィリピン)、エリック・クー監督(シンガポール)、ヌグロホ監督の長女であるカミラ・アンディニ監督、ナワポン・タムロンラタナリット監督(タイ)、安藤裕康氏(国際交流基金理事長)、久松猛朗氏(東京国際映画祭フェスティバル・ディレクター)が出席。ミャンマー出身で俳優、アーティストとして活躍する森崎ウィンも登壇。

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ガリン・ヌグロホ監督

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ブリランテ・メンドーサ監督

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エリック・クー監督

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カミラ・アンディニ監督

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ナワポン・タムロンラタナリット監督

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森崎ウィン

ヌグロホ監督は「わたしのキャリアの一部は日本で形成されたといっても過言ではありません。東京国際映画祭では12本もの作品が上映されました」と感謝の言葉。また、昨年、第31回東京国際映画祭コンペティション部門の審査委員長を務めたメンドーサ監督は、「来年早々にも日本との合作をプロデュースする」と語り、「日本の映画人の皆さんと映画作りを続けていきたい」と結んだ。
森崎ウィンは「東南アジア各国を代表する監督の皆さんに来ていただいたこの場に呼んでいただき、感謝しています」と語り、「現在は日本とミャンマーの両国で活動をしていて、夢はアジア各国の映画に出ること。海外に東南アジアの魅力を伝えられたらと思います。そして最先端の東南アジア映画に触れて、そのカルチャーにも注目してもらえれば」と語った。
『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』『アルファ 殺しの権利』『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』『ミーポック・マン』[デジタルリストア版]』『一緒にいて』『十年 Ten Years Thailand』『飼育』『見えるもの、見えざるもの』『ダイ・トゥモロー』『アジア三面鏡2018:Journey』など全10プログラムが上映される。

オープニングセレモニー後にはガリン・ヌグロホ監督の最新作『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』(2018年)がジャパンプレミア上映された。
中部ジャワのレンゲル(女装した男性が踊る女形舞踊)のダンサーを主人公にし、地域の伝承芸能に根付くLGBTQの伝統を描いた。「ひとつの身体の中に混在する男性性と女性性、を描き、男性の身体の美しさを表現しました」とトークで語った。
(2018/インドネシア/106分)

特集上映「東南アジア映画の巨匠たち」は、7月10日まで有楽町スバル座で開催。