イスラーム映画祭4 『その手を離さないで』
『その手を離さないで』
英題:Never Leave Me, Bırakma Beni
監督:アイダ・ベギッチ
2017年/ボスニア・ヘルツェゴビナ=トルコ/96分
☆日本初公開
イスラーム映画祭4 名古屋 上映日程
3月31日(日)14:50~
4月5日(金)16:45~
*物語*
内戦で、シリアのアレッポからトルコのシャンルウルファに逃れてきた少年イーサ。母が亡くなり、孤児施設に引き取られる。そこで同じ境遇のアフマドとモアタズと出会う。3人はアダナの町で開催される「僕らはシリアの未来」のイベントで優勝すれば賞金が出ることを知る。アダナに行く交通費を稼ぐために、学校を抜け出し町でティッシュを売り始めるが・・・
東トルコを旅した折、シャンルウルファを訪ねたことがある。まだシリアの内戦も、ISの台頭もなかった15年程前のことだ。少年たちがティッシュを売っている中で、水の豊かな大きな池のあるモスクが出てきて懐かしかった。祈りの場だが、人々の憩いの場ともなっていた。今は、この町もシリアからの避難民で溢れているのだろう。
車で小1時間走ったところにある、ハランのおっぱい型(円錐型)の屋根の住居を訪ねた。
ハランは、古代メソポタミアの時代には、商業・文化・政治・宗教の中心都市で、イスラームの時代になっても学問の中心都市だった。モンゴル帝国の襲来で廃墟となり、今は独特の住居で観光名所となっている。
住民の女性にトルコ語で話しかけたら、「トルコ語はわからない」と言われたので、もしやとアラビア語に切り替えたら、話が通じた。もうシリア国境に近いところで、かつてシリアを旅した時には、シリア側で同じおっぱい型の住居を見ている。たまたまそこに国境が引かれたことを感じさせてくれる。
トルコ映画『プロパガンダ』を思い出した。ある日、村の真ん中に突然国境線が引かれて、村人たちが右往左往する物語。片方にしか割礼を施せる者がいないので、少年たちが鉄条網のそばに並ばされて割礼を受ける場面があって、大笑い。でも、実際に突然国境線が引かれてしまった人たちにとっては笑い事じゃない。
『その手を離さないで』のアイダ・ベギッチ監督は、ユーゴスラビア生まれ。10歳の頃に内戦が起こり、国が分裂。今は、ボスニア・ヘルツェゴビナとなった国に住む。ムスリマ(イスラーム教徒の女性)である。自らの内戦の経験が映画に投影されている。
そして、演じている少年たちは、実際にシリア難民。3人とも、父親を亡くし、母親が一人で5~6人の子どもを連れてトルコに逃れてきたという。健気に演じる少年たちの姿に、胸が痛んだ。戦争さえなければ、家族そろって平穏に暮らしていただろうに・・・。
先の見えないシリア情勢。内戦が終結したとしても、国は破壊し尽くされ、元の生活にはとても戻れないだろう。安住の地を求めて、国外に出ても、今やどこも難民の受け入れに難色を示している。ニュージーランドで起こったモスク襲撃事件では、シリア難民の方も犠牲になっている。民族や宗教の違う人々の共生は、今や夢なのかと暗澹たる思いだ。 (景山咲子)