『僕たちのキックオフ』は、イラク北部の町で、クルド、トルコ、アラブ、アッシリアの子どもたちが民族対抗のサッカー試合を開くという、とても愛おしい物語です。
上映日程:
3月16日 (土) 19:15~
3月18日(月) 11:00~
チケットは、3日前からこちらで予約できます。
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http://www.euro-ticket.jp/eurospace/schedule/
イスラーム映画祭4で、上映されるのを機に、2008年のNHKアジアフィルムフェスティバルで上映された折に来日した監督インタビューをお届けします。(シネマジャーナル75号に掲載したものを改編)
写真:2008年11月撮影。左は、ペルシア語通訳のショーレ・ゴルパリアンさん。コルキ監督は、生まれ故郷イラクのクルド地区からイランに避難して23年間暮らしていたので、ペルシア語も達者です)
『僕たちのキックオフ』 英題:Kick Off
監督:シャウキャット・アミン・コルキ
2008年/イラク:クルディスタン=日本/81分
*ストーリー*
イラク北部キルクーク。爆撃の跡の残る競技場で家を失った人たちが暮らしている。青年アスーは、美しいヘリンに恋心を抱くがなかなか告白できない。ある日、アスーは子どもたちを元気付けようと、民族対抗親善サッカー大会を計画する。不公平のないよう取材に来た外国人を審判に指名して試合が始まる・・・
◎シャウキャット・アミン・コルキ監督インタビュー
2007年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で『砂塵を越えて』が上映された折に来日し、顔なじみになったコルキ監督。
(写真は、2007年福岡で撮影したもの)
インタビュー当日、買い物に夢中になり、約束の時間に戻って来られず、帰国の日、昼食をとりながらお話を伺った。
◆クルド人は、どこにいても第一にクルド
オスマントルコの時代に、3000~4000万人いたクルド人は、1921年にイギリスが入ってきて、ばらばらに国籍を持つことになってしまいました。イラクでは、サッダーム・フセイン大統領の時代に、ハラブチェで大量虐殺されたりしています。私がイラクから避難して23年過ごしていたイランは、他の国に比べればクルド人にとってまだいい状況でしたが、気持ちは第一にクルド人です。生まれたイラクでも、長く暮らしたイランでもない。でも、ナショナリストではありません。私は政治家ではなく文化人。政治を外せば、皆一緒に平和に暮らせるということを映画を通じて描きました。
◆出演した子どもたちの民族は本物
ヘリンは、父がクルド人で、母がアラブ人。政治的なことがなければ、民族が違っても愛があれば結婚できる。昔から続いてきたことです。なぜ、子どもまで敵にならないといけないのでしょう。民族別チームは、ほんとにクルド、トルコ、アラブ、アッシリアの子どもたち。自分の住んでいた村の隣村は、昔からキリスト教徒のアッシリア人が住む村でした。
◆戦争に阻まれた青春
アスーがヘリンに結婚を申し込めないでいるのは、第一にクルドの男は愛を告白するのが苦手だから。特にアスーは、弟が地雷で片足を無くし精神を病んでいて、経済的にも苦しいのがネックになっているのです。アスーは文化人なのに、戦争の為に厳しい生活を強いられています。部屋にも本がたくさんあったのが見えたと思います。アスーのキャラクターは、一生懸命チェンジを起こしていこうとする人物なのですが、あれが精一杯。もっと伸びるタイプの人物なのに。アスーは、僕の一部でもあります。
◆主役の二人
アスー役を演じた人は、テレビドラマのシリーズにも出ていて、人気があります。ヘリン役の女性は、演劇学校を出て芝居もしている人。短編には3作出演していますが、長編は初めて。高校の美術の先生でもあります。
*私が「美人ですね」と言ったら、「たいしたことないよ。僕が映画で綺麗に見せているんだよ」と自慢げ。アスー役の方は、じぃ~っと相手を見て、人の癖を観察するそうで、「僕のことは、女優たちが厚化粧してやってくると、“全部取って!”という手振りをするって」とおっしゃっていた。顔洗って出直して来いという次第。
◆映画は未完成 ポスプロはイランで
107のデータに分けてメールで送り、東京で繋ぎました。ダウンロードするのに、丸一日かかってしまい、まだ満足のいく出来ではありません。色は、ロケ地で撮ってきた写真は白黒のイメージ。現実を描こうとすると白黒だと思ったのですが、NHKの方から、望みの感じられるカラーを入れたほうがいいと言われ、白黒でもない、カラーでもない、もっとも現実に近い色に出来上がりました。
サウンドなどポスプロは、これからイランでやります。
(ちなみに監督の住むイラクのアルビルへは、イランのテヘランまで飛行機で行き、そこから車で12時間かけて国境を越えて帰るとのこと)
◆映画の題材が山ほどある!
今回一緒に来日したプロデューサーのハサンさんがいなかったら、これまでの2本の長編映画はできませんでした。トルコとイラクの国境に住むクルドの女性の厳しさを描いた脚本を書いたけれど、まだ映画化できていません。ほかにも山ほどアイディアがあって、たくさん映画を作りたい。金銭的、精神的援助をよろしくお願いします!
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コルキ監督は、悲惨な状況の中でもユーモアを忘れないクルド人そのもの。映画の中で、上空をいつも飛んでいたヘリコプター。「僕が飛ばしたって書いてね」とおっしゃったが、キルクークの不安定な情勢を象徴しているものだと厳しい現実を思った。
様々な言葉が飛び交う競技場。トルコ人とクルド人の男の子が「今日は楽しかったね」と語り合うのは、共通語のアラビア語である。
日本語字幕も、メインのクルド語はカッコなしだが、アラビア語は< >、トルコ語は《 》、英語は[ ]と工夫がしてあるのが嬉しい。
監督が当初考えていたタイトルは『ヘリン』。クルドとアラブの混血の彼女は、まさに民族融和の象徴。
ヘリンは、鳩の意味。平和がいつの日かクルドの地にも宿ることを願わずにいられない。
取材:景山咲子