東京国際映画祭 特集「イスラエル映画の現在 2018」『赤い子牛』10/27 Q&A (咲)
「イスラエル映画の現在 2018」 ワールド・フォーカス
『赤い子牛』 英題:Red Cow 原題:Para Aduma
監督:ツィビア・バルカイ・ヤコブ
出演:アビガイル・コバーリ、ガル・トレン、モラン・ローゼンブラット
2018年/イスラエル/ ヘブライ語/92分
*物語*
自分を産んだ時に母が亡くなり、ユダヤ教聖職者の厳格な父とふたりで暮らしてきた赤毛の少女ベニー。自分の誕生と同時に生まれた赤い子牛の世話をしている。明るく行動的な少女ヤエルと親しくなり、父親から宗教的な暮らしや牛の世話を強制されていると指摘される。ベニーとヤエルはお互い恋心に近い感情を持ち始める。やがて父がそのことを知る・・・
イスラームの「岩のドーム」が見晴らせる家で、正統派ユダヤの父と暮らすベニー。毎日、父と共に祈る。土曜日には、安息日の服に着替えなさいと父から注意される。煙草を吸っていると、司祭の娘が安息日に許される行為なのかと陰で言われる。ヤエルと知り合う前は、それが当たり前だと思っていた正統派としての暮らし。だんだん自我に目覚めていく少女の姿がまぶしい。
◆10月27日 上映後のQ&A
登壇者:ツィビア・バルカイ・ヤコブ(脚本/監督)、ボアズ・ヨナタン・ヤコブ(撮影監督)、イタイ・タミール(プロデューサー)
司会:松下由美さん
司会:スペシャルゲストがもう一人、ヨセフちゃんがいらっしゃいますね。この映画からもう一つ生まれた素敵なものがあるとは!
監督:ツィビアと申します。脚本と監督を担当しました。私の個人的な体験から生まれた物語です。宗教的な家庭に生まれ育って、入植地で暮らしていました。
撮影監督:撮影の責任者です。映画が終わると共にツィビアと結婚して、このヨセフが生まれました。
プロデューサー:お招きいただき光栄です。楽しんでくださったことと願っています。
司会:まず、場所の設定と背景をご説明お願いします。
監督:舞台は東エルサレムで、基本的にアラブ人の住む地域なのですが、一部、ユダヤ人が土地を買って住んでいます。「赤い牝牛」が生まれることによって神殿が再建されると信じられています。神殿は、今、岩のドーム(イスラームの第三の聖地)の建つ丘の上にもともとあったもので、第三神殿として再建されるべきものと考えられています。
父ヨシュアが信じているのは、神殿が丘に建てられ、ユダヤ人だけを守る国家でなく、神殿が必要をとする人たちの国ができることです。
「赤い牝牛」がキーワードになっていて、良い兆候として存在しています。聖なる存在で、主人公のベニーと重なっています。
*会場とのQ&A
― 牛を囲いから出そうとするのに、出ていかないのは何を象徴しているのですか?
監督: 「選択の自由」が映画の一つのテーマです。ベニーは牛を無理矢理出そうとせず、牛に任せています。門が開かれてるのに、牛は出て行かない。一方、ベニーは、自分で選択して出て行きます。
― イスラエルでのLGBTに対する状況は?
監督:テルアビブでは、非常にオープンです。その他の地域は、まだまだ古い習慣が根強く残っていて、宗教家の影響も強く、タブーがあります。宗教的なコミュニティの中でも、同性愛者の方たちが認めてもらおうと活動を始めているケースもあります。まだまだ始まったばかりです。
― 現在のイスラエル社会を考える意味でも良い作品でした。ヨシュアが所属する正統派の人たちはどのようなスタンスの人たちですか?
監督:正統派の中でも階層がいろいろ分かれています。ヨシュアはシオニズム宗教家の一人で、入植地に住んでいて、ヨシュアは中でも極端な立場をとっています。
― 父親が正統派ユダヤの祈りを捧げている窓の向こうに岩のドームが見えるという、素晴らしい構図でした。イスラームの祈りを呼びかけるアザーンが聴こえていて、ヨシュアのユダヤの祈りと重なっているのが、とても象徴的でした。
監督:エルサレムは3つの宗教の聖地で、緊張感が漂っていますが、あのようにアザーンの声が流れてくるのは、日常の一部です。それぞれの宗教の祈り方をしているのですが、同じ神様を祈っているはずのに、対立が生じているという皮肉な状況になっています。
― 描き足りなかったことが多々あると思います。
監督:まさに、そういう場面がたくさんあります。かなり早いペースで撮影したのですが、ストーリー性をはっきりするために割愛した場面もたくさんあります。
― エンディングは、試行錯誤したのでしょうか?
撮影監督:映画の最後は、彼女はよくわからないというところで終わっています。生まれたばかりの人間という状況です。1時間半という限られた時間で、最後はわからないという終わり方で、まだまだ物語に余地が残っています。
★10月29日の上映後のQ&Aは、公式サイトをご覧ください。