ベトナム映画祭2018 『目を閉じれば夏が見える』(暁)

映画祭シーズンが終わって一段落したら、なんと帯状疱疹になってしまい、眼精疲労がひどく2週間以上原稿が書けず状態でした。
http://cinemajournal.seesaa.net/article/463241761.html

楽しみにしていたベトナム映画祭ですが、東京フィルメックスと重なっていて、ベトナム映画祭の間には2本しか観ることができなかったけど、そのレポートを。

11月21日(水)
東京フィルメックス2018(11月17日~25日)とベトナム映画祭(11月10日~23日)がバッティングしてしまい、ベトナム映画祭になかなか行けずにいたけど、やっと行くことができた。
13本の上映作品のうち6本は、それまでの映画祭で観たり、公開されていて観たことがあったけど、ベトナムの映画を観る機会というのはなかなかないので、他にも観たかったのだけど、前半は東京国際映画祭が終わった直後でなかなか行けずで、すごく残念だったけど、ベトナム映画祭は結局1日しか行けなかった。
その中で、日本が舞台の作品『目を閉じれば夏が見える』が印象に残った。

『目を閉じれば夏が見える』 
監督:カオ・トゥイ・ニ 2018年製作
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©Soul Catcher Production

北海道東川を舞台に、ベトナムの女性が幼い頃にわかれた父親を探す物語。
日本にいる父からの手紙とともに、ベトナムに送られてきた写真を手がかりに東川にやってきたベトナム女性ハー。東川に向かうバスで、アキラと出会った。しかし、無愛想なアキラは、全然親切ではなくぶっきらぼう。写真教室を開いている。それでもハーはその教室の撮影会に参加しながら、父親探しを兼ねて彼女の父親の跡をたどる。父親から送られてきた写真はどこで撮られた写真かを東川在住の人たちや撮影会に参加している人たちの協力を得ながら探っていくのだが、彼女の父は東川で写真を教えていたらしい。そしてアキラはその教え子だということがわかってくる。そしてハーにはいきつけの写真屋ができ、そこのオーナーとも親しくなってゆく。雪山で撮られた写真は旭岳周辺で撮られた写真だった。しかし父親はすでに他界していた。そして、その写真屋こそ父親とゆかりの地だった。

東川は写真の街として知られる。写真をやっている私もいつか行ってみたいと思っている街。でもずっと勘違いしていて、北海道南部にある街だと思っていたら、旭川や美瑛に近い街だった。美瑛や富良野など、近くに何回も行っていたのに知らずにいた。今度は絶対行ってみよう。
この『目を閉じれば夏が見える』は日本・ベトナムの合作作品。カオ・トゥイ・ニ監督、初の長編作品で、今年(2018年)6月ベトナムで公開され、インディペンデント作品ながらヒットし、大きな反響があったという。
映画上映が終わった後、アキラ役を演じた阿久津貴文さんが登場し、撮影でのエピソードや、ベトナムでの舞台挨拶の話なども話してくれた。そして、本人いわく、実際の僕はアキラのような陰気でイジワルな人物ではありませんと笑いながら語っていた。

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阿久津貴文さん

ベトナムの映画、今までけっこう観てきたけど、ここ数年、ベトナムの発展とともに、娯楽作品が増えてきたなと感じる。以前はベトナム戦争を踏まえた作品だったり、『モン族の少女 パオの物語』や『草原に黄色い花を見つける』のようにベトナムの農山村部を描いた作品が多かったけど、都会の若者を描いた作品や『超人X』のようなスーパーマンだけどゲイなんていう単なるアクションではなく、ちょっとひねった作品なども出てきた。
今年大阪アジアン映画祭で観た『仕立て屋 サイゴンを生きる』などタイムスリップものとかも面白かったし、本来ベトナム現地でヒットしているエンターティメントやアクションなどのベトナム作品も日本で観ることができるようになったなと、この映画祭でのラインナップを見て思った。
今回とても残念だったのは、ダン・ニャット・ミン監督の『焼いてはいけない』を観ることができなかったこと。ダン・ニャット・ミン監督の作品は、これまで『十月になれば』(84)、『河の女』(87)『ニャム』 (95)を観ていて、この監督の作品に興味を持っているので、いつか『焼いてはいけない』を観てみたい。

参照 シネマジャーナルHP

『焼いてはいけない』ダン・ニャット・ミン監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/461786756.ht

『モン族の少女 パオの物語』ゴー・クアン・ハーイ監督 インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2007/pao/index.html

『草原に黄色い花を見つける』 ヴィクター・ヴー監督 来日会見&インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellow-flowers/index.html

そういえば前日の11月20日(火)は、東京フィルメックスに行っていて、「そうだ、今回1回も行っていないのでベトナム料理食べよう」と、バインセオサイゴン有楽町で「バインセオセット」を食べたんだけど、21日ベトナム映画祭に行ったら、バインセオサイゴン新宿とのタイアップでバインセオが無料サービスされるというので、この日もバインセオを食べて(笑)、2日も続けて食べてしまった。バインセオというのはベトナムのお好み焼きというような料理で、薄いオムレツの中に海老とか豚肉、もやしなどが入っていて、それをレタスのような葉っぱに巻いて食べる。手で食べないといけないので、手が油だらけになってしまい少々食べにくい。でもさっぱりしていて、大好きなベトナム料理。以前はフォーを食べていたけど、最近はベトナム料理の店に行くと頼むことが多い。

白石さんの記事参照
http://cinemajournal.seesaa.net/article/462899070.html

思えば、このバインセオサイゴン新宿は新宿駅の上のビル(新宿ミロードだったかな?)にあった時に初めて行ったのを思い出した。その後、有楽町店にも通うようになった。その後、新宿店は別の場所に移り、そこにも行ったけど、今はまた駅に近いところになったようだ。
でも一人で入ることが多い私には、有楽町店のほうがセットがあるので入りやすい。このバインセオセットだとフォーもついている。新宿店は数人で入るにはいいけどセットがなくて、一人だといろいろ食べられないのが残念。でも、新宿店は、私がベトナム料理を好きになったきっかけになった店。そういう意味ではおいしいベトナム料理を教えてくれてありがとうと思っている。



東京国際映画祭 イラン映画『冷たい汗』ソヘイル・ベイラギ監督 Q&A  (11月1日)

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(左:通訳のショーレ・ゴルパリアンさん)

アジアの未来 『冷たい汗』
2018年/イラン
監督:ソヘイル・ベイラギ

*物語*
女子フットサルのイラン代表チームの主将をつとめるアフルーズは、自らの活躍でアジア選手権大会の決勝進出を決める。ところが、決戦の地マレーシアへ向かう空港で、夫が出国を認めていないことが発覚し、足止めを食ってしまう。テレビキャスターの夫とは別居中で、夫はこれを機に妻が他国のチームに引き抜かれて国を去ってしまうのではないかと危惧していたのだ。アフルーズは、チームメイトの待つマレーシアに行けるのだろうか・・・
★注)イランでは、女性が出国する場合、既婚者は夫の許可、未婚や離婚した女性は父親(亡くなっている場合は親族の男性)の許可がいる。

1回目の上映は深夜だったのでQ&Aを聴くのを諦め、2回目の上映後のQ&Aを取材しました。
公式レポートが掲載されていないので、遅ればせながらお届けします。
*1回目の10月30日のQ&Aの模様はこちらで

監督:こんにちは。初めて東京に来られて、皆さんと一緒に自分の映画を観ることができてとても嬉しいです。

司会:7年ほど前の実話をもとに作った作品で、今、イランで公開中で大ヒットしているとのことです。

*会場とのQ&A

― 現在公開中とのこと。女性への対応も変化し、かつてはサッカー場に観にいけないという映画も作られました。このような題材で作る上での困難はあったのでしょうか?

監督:
女性がサッカー場に入れないのは、今も同じ状況です。特別に許された女性だけが、先日入ることができました。
フットサルは、女性が選手として活躍しているけれど、服装に規制があります。またイランでは、女性のフットサルを観にいけるのは女性だけです。映画では家族の問題も扱っています。

― 夫が古い価値観を代表するキャラクターです。テレビのパーソナリティをしていますが、番組も古い価値観を表わしているタイトルでした。イランのテレビでは、古い価値観のものを番組が多いのでしょうか? メディアの事情を教えてください。

監督:番組は、実際に似たものがあって、真似して作りました。伝統的なものだけではなくて、新しい雰囲気の番組もあります。本作のキャスターはモダンな格好をしているのに、頭の中は古くて、モダンでもな伝統的でもない中途半端な男になっています。

― サラーム! 半年前に女一人でイランを2週間旅しました。離婚した女性や離婚調停中の女性と話す機会もあって、どんな扱いをされるかを聞くことができました、男性が離婚すると、イランの社会ではどういう扱いをされるのでしょうか?

監督:離婚は他の国と同様の状況だと思います。女性が離婚する時は、独立を求めていて、とても芯が強いです。イランの法律は、全くアンチ女性ではないけれど、男性の肩を持っている部分が多いと思います。女性は自分から離婚したいと思って裁判にかけると男性に有利な場合が多いのが実情です。
女性は単なる遊びの旅行だけでなく、仕事で国外に出る場合も夫の許可が必要なので、そこを変えてほしいと、この映画を作りました。

司会:離婚して女性が非難されるようなことはありますか?

監督:
家族の中で生きている女性の方が自由があるかもしれません。離婚して一人で暮らしている女性が白い目で見られることはないけれど、皆、一人で頑張って生きていこうとしています。イランの女性はとても強いです。

― 主人公が連盟から解雇通告を受けたあと、連盟の部屋の中で女性たちが宗教的な歌を歌っている場面があったのが気になりました。信仰と社会システムの関係をどう描こうとしたのでしょうか?

監督:イランでは、聖人の生誕日を祝ったり、亡くなった日を悼む行事が数多くあります。そのような宗教的行事を役所の中で仕事をやめて行うのはいけないことだと思うので、あえて入れました。
彼女が解雇されて悲しい思いをしているのに、連盟のスタッフの皆が楽しそうにやっているのを見て、さらに孤独を感じます。連盟は自分の第二の家だと思っていたのに、違っていたという思いです。

― 映画を作っている時に、イラン国内で、反発はありませんでしたか?
また、公開後の反応は?


監督:このテーマは検閲官がいろいろ言いたくなるものでしたが、あれこれ口論して、検閲で引っかかったところはほとんどありませんでした。結局、一つ二つの台詞が駄目と言われましたが、大切な台詞ではなかったので削除しました。
映画が出来上がって、公開前にはイスラーム指導省の検閲が入って、テレビや新聞に宣伝を出せないという“静かな検閲”を受けました。口コミやSNSで広めてくれて、お陰さまで、多くの人に観てもらうことができました。人々が映画を守ってくれました。指導省は悔しがっていると思います。

― 夫役の人は、こんな人は死ねばいいというキャラクターでした。女性から観て、あんなに気分の悪くなる男性を男性監督が撮ったのがすごいと思いました。女性を抑圧する理不尽な法律はすぐには変わらないと思うのですが、変えていこうというムーブメントはあるのでしょうか?


監督:幸い、国会の中で議論していて、もうすぐ変わるのではと期待しています。女性議員のコミュニティがあって、電話をくださって、「あなたの映画を観て勇気を貰いました」と言われました。法律が変われば、女性議員の人たちが私の映画に影響を受けて頑張ってくれたのだと嬉しく思います。

司会:あのにくたらしい夫役はとても上手かったですが、プロの役者ですか?

監督:はい、大プロです。この映画に出演しているメインの5人の役者すべてイランの映画祭で賞も貰うような方たちです。

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東京国際映画祭 トルコ映画『シレンズ・コール』 ラミン・マタン監督インタビュー   ~ 自立したトルコ女性シレンは、西洋のオリエンタリズムに合わない~  (咲)

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東京国際映画祭 2018年 コンペティション部門
『シレンズ・コール』 2018年/トルコ


*物語*
離婚寸前の妻の父が営む建築会社に勤めるタクシン。建築ラッシュの大都会イスタンブルに嫌気がさして、女友達シレンが有機栽培をして暮らしている南の町のコミューンに行く決意をする。辞表を出したタクシンは、社有車と社用の携帯電話を取り上げられてしまう。交通渋滞でタクシーを降りたタクシンは、慣れないバスや電車に乗るが、小銭がなくて苦慮する。あげく、無賃乗車で検挙されそうになり逃げる羽目に。
トルコ行進曲に乗って、イスタンブルの町を右往左往するタクシン。夕方のフライトに乗りたいのに、なかなか空港にたどり着けない。しかし、憧れて行った南の地も決して天国ではなかった・・・
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ユーモアと皮肉を散りばめて、本作を紡いだラミン・マタン監督にお話を伺う時間をいただきました。
インタビューの前に、10月27日の上映後のQ&A、10月30日の記者会見があり、お聞きしたかったいくつかのことが話題に出ました。
また、インタビュー後には、2回目の上映後のQ&Aも行われました。

10月27日のQ&Aの折の記事は、公式サイトをご参照いただくとして、写真のみこちらに掲載します。
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また、記者会見やQ&Aでの大事なポイントをこちらにまず挙げておきます。

◆原題は『Siren's Call』 (シレンからの電話)
トルコ語タイトル『Son Çıkış(最後の出口)』が原題ではなく、英語タイトル『Siren's Call』の方が、先につけたタイトルです。
女友達の名前Sirenは、神話に出てくる人魚で、水兵たちを海に引きずり込むことで知られています。トルコ語でパトカーのサイレンと同じ綴りのため、トルコではサイレンを思い浮かべる人が多いので、トルコ語タイトルを後から別に考えました。「最後の出口」が意味するところは観客に委ねます。

◆モーツァルトのトルコ行進曲

曲の元々のタイトルは「Rondo alla turca」。(ロンド:輪舞)。最初の10分位を編集していて、タクシンが町をぐるぐる回る内容に合うと思いつきました。最後の方では、調子を崩してみたら面白いなと考えました。

◆イスタンブルの乱開発

イスタンブルの人口は公式で1700万人位。そこまで新しい住居が必要なわけではないのに、ここ数年、建築バブルで、バブルも崩れつつあって、150万戸が売れ残っています。ちゃんとした建設計画もなく、インフラも整備されていません。

◆男たちのたむろする茶屋
タクシンが疲れ果てて入った古い町並みに残る茶屋。空港に行けなくて困っていると知って、親分肌の男が茶屋にいる男二人に車で送るように指示します。昔ながらのトルコの助け合いの精神ともいえますが、茶屋に集まる人たちはちょっと極右っぽい人たちで、昔の伝統的なトルコを残そうというフリをしているんです。

◆タクシンがシレンと再会したカフェバー
シレンと女友達がお酒を飲みながら煙草を吸っていた店は、若い人たちが飲みに行く隠れ家的な知る人ぞ知る場所で、解き放たれた気持ちなれる所です。


◎ラミン・マタン監督インタビュー

私がイランのことにも係わっていると自己紹介したところ、お父様がイラン人とのこと。ラミンというのは、イラン系の名前でしょと監督。お父様は外交官でトルコに駐在していた時に、お母様と知り合って結婚。その後は、ずっとトルコに住んでいて、監督自身もイランに行ったことがなく、ペルシア語も、出来ないとのこと。お父様が、トルコに居座ることになった事情など、お伺いしたい気持ちを抑えて、映画についてお伺いしました。
なお、通訳の都合で、監督は英語で発言されました。

― 35年前に初めてトルコに行って以来、6回訪れています。最後は10年ほど前です。
この映画を観て、ますます乱開発が進んで、ビルの谷間にモスクがあるのを観て、古き良きイスタンブルはどこに行ったと寂しくなりました。

監督:ほんとに、この10年でさらに変わりました。

― ビルの合間にモスクが埋もれるように建っているところが映し出されていましたが、あれはどのあたりですか?

監督:冒頭の工事現場は、アジア側のカドゥキョイの近くです。埋もれたモスクもアジア側です。撮影自体は、イスタンブルのあちこちで撮っています。


― バスの中でお釣りを乗客たちがバトンリレーしているのは35年前と変わらないと可笑しかったです。バスも恐らくこれからはカードになるので、なくなる文化ではないかと思いました。チャイハネに男たちが集っているのも昔ながらですが、いずれも消えつつあるトルコの姿を映像に残す思いがあったのでしょうか?

監督:大きなバスは、もうカードになってしまっています。ドルムシュ(ミニバス)では、今も見られる光景です。
男たちが集まるチャイハネは、今は確かに消えつつあります。古いものを映したかったのではなく、話の展開で、あそこに集まっている男たちがタクシンと絡んで何かを起こすということで登場させたのです。


― 立ち退きで、これまでのご近所付き合いがなくなる上に、高層アパートで新しい隣人と顔も合わせない事態になって、孤独な老人が増えるのではないかと心配します。世界のどこの都会でも起こりうることだと思いました。

監督:まさにそうですね。大都会の話として共感いただければと思います。

― 一軒家に一人住まいしているおばあさんは、若者に大麻を売っているようでしたが、若者が偽札で支払って騙しているのが気になりました。オレオレ詐欺じゃないですが、世界のどこにでもある話で、これも共感してもらえると思いました。
(ここで、通訳の方が日本でのオレオレ詐欺について、詳しく説明してくださいました。あぁ~持ち時間はあまりないのに・・・!)

監督:同じようなことがトルコでもありますね。実は、私の母も騙されかけたことがありますよ。

― 時折映し出される看板の言葉 「ここはあなたが勝つための場所」「人生の幕開けに」など、映画の内容にぴったりでした。 実際に町にあるものを映したのでしょうか?

監督:撮影場所を探しているときに、たまたま見つけたものなのです。新しいマンションの売り込みのためのキャッチフレーズなどですね。


― この映画では、シレンや友人の女性が生き生きと自分の思う人生を歩んでいる姿が、男たちと対照的で素敵でした。トルコの女性というと、スカーフをしっかり被って、伝統的な家父長社会の中で生きているイメージが強いですが、対極にある、仕事を持ち、活躍している女性たちのことを描いていて嬉しかったです。

監督:そうおっしゃっていただいて嬉しいです。実は西洋では、自立して活躍する女性はトルコのイメージに合わないと不評なのです。バーで煙草を吸う女性など論外なのです。前回の映画も生き生きとした二人の女性についての物語だったのですが、もっと抑圧されているステレオタイプな伝統的な女性じゃないと、彼らのオリエンタリズムに合わないという次第でした。西洋の人にとって、トルコ人といえば、いつも鬱々としているイメージなのですね。残念ながら。
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― 40年程前に、トルコ大使館主催の料理教室に参加したら、文化参事官の方が女性で、とてもアクティブに働いていて、当時の日本の女性はまだまだ仕事上で地位が低かったので、うらやましく思ったことがあります。

監督:トルコは西欧に先駆けて女性の参政権も認めた国なのに、そういった面をヨーロッパ諸国は見てくれないのです。それに、トルコの現状は後退していますし。

― エルドゥアン大統領のもと、宗教的にも保守化しているようですね。

監督:政治的なことは言いたくないですね・・・ 


― 確かに! もっとお話したいところですが、あっという間に時間が来てしまいました。
テッシェッキュル エデリム (トルコ語でありがとうございます)

監督:先日の上映後にも、トルコ語で話しかけてくださる日本人が大勢いて嬉しかったです。

― トルコは日本人に人気で、トルコ語を学ぶ人もすごく増えています。

通訳の方からも、エルトゥールル号遭難事件のこと(1890年、和歌山の串本沖で遭難したトルコの船の乗組員たちを串本の人たちが助けた)が映画になって、日本でもトルコに親近感を持つ人が多くなったことが語られました。

    **★**★**★**
映画では、カタルの貿易投資団が来るため、空港からの道路が封鎖されていて、渋滞を起こしていて、タクシンはなかなか空港に行けないでいました。
私も、1991年7月にイスタンブルに行った折、ボスポラス海峡を渡る船に乗ろうとエミニョニュの船着き場をめざしたのに、あちこち道路が封鎖されていて、なかなかたどり着けないということがありました。着いたらボスポラス海峡も封鎖でした。アメリカのブッシュ大統領が湾岸戦争のお礼参りにトルコに来ていて、船着場近くの広場で演説を行ったあと、ボスポラスクルーズをされた次第。そんなことも、懐かしく思い出しました。その頃のイスタンブルには、まだ高層ビルはなく、モスクの丸い屋根とミナレットがそこかしこに見えていたことも思い出しました。時代に応じて開発は必要だけど、景観は旅人の郷愁をそそるためだけのものではないと思います。(景山咲子)





東京国際映画祭 トルコ映画『シレンズ・コール』 10月30日上映後のQ&A  (咲)

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東京国際映画祭 2018年 コンペティション部門
『シレンズ・コール』 2018年/トルコ

建築ラッシュの大都会イスタンブルを抜け出し、女友達シレンのいる南の町に行きたいのに、なかなか空港にたどり着けない男タクシンの物語。

上映後、ラミン・マタン監督、タクシンを演じたデニズ・ジェリオウルさん、シレン役の女優エズギ・チェリキさん、プロデューサーのエミネ・ユルドゥルムさんが登壇。Q&Aが行われました。司会は矢田部さん。

司会:東京にブラックユーモアをもってきてくださってありがとうございます。

監督:上映していただき光栄です。楽しんでいただけたなら嬉しいです。

司会:タクシン役のデニズ・ジェリオウルさん、1回目の10月27日の上映の時にはいらっしゃらなくて、今回2回目の上映には飛んできていただけました。

デニズ:イスタンブルから出られなかったら、まさに作品通りでした。脱出して来ることができて嬉しいです。

エズギ:(トルコ語で発言し、監督が英語に通訳)東京に来ることができてとても嬉しいです。皆さんに楽しんでいただけたなら幸いです。
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プロデューサー:皆さん、ご覧いただきましてありがとうございます。
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★会場とのQ&A

ートルコ映画なので、イスラーム色が強い映画と思っていたら、モスクもスカーフの女性も出てきませんでした。
(注:ビルに埋もれたモスクや、まだ残る古い地区の市場にはスカーフの女性がたくさんいました。咲)
トルコには行ったことがないのですが、今のトルコはこの映画のような感じなのでしょうか?

監督:はい、もちろん、この映画は今のイスタンブルで撮りました。まさにこんな感じです。でも、モスクも映っていましたし、場所によってはイスラーム色の強い場所も出ています。

司会:開発は結構町中で進んでいるのですか?

監督:ほんとにイスタンブル中で古いビルを解体して、新しいビルを建てています。特に価値の高い土地で開発が進んでいます。

ー おもしろく拝見しました。東京のど真ん中の六本木で上映されているのが皮肉ですね。東京でも、30分もいけば、畑が広がっているところがあります。


監督:
イスタンブルは4時間車で走っても、まだ町から出られません。
そんな状況をもっと深堀りしたいと思ったのが、この映画のきっかけです。おかしな建築ブームが起きています。その状況が普通になっていて、それを人々がどう感じているかも描きたいと思いました。主人公は建築会社の社員で、地獄を作っている一人です。

― モーツァルトのトルコ行進曲を変調して使っているところにも意味を感じました。


監督:トルコ行進曲は、オープニング部分を編集している時に思いつきました。元々「Rondo alla turca」という曲名で、まさに、主人公がぐるぐる回って逃れられない姿にぴったりだと。少しずつ調子を崩していきました。ぐるぐる回って、最後には元に戻るのですが、若干違った人物になっています。

司会:主人公をどのように理解して演じましたか?

デニズ:この役柄は年齢も同じ位なので、考えていることを理解しやすかったです。物理的に逃げようとしているけど、何から逃げようとしているのか実はわかってない。自分の目を覚ましてくれるような役柄でした。これはやってはいけないということを教えてくれました。
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― ユートピアと思った島に行ってもお金次第で、どこまで行っても資本主義から逃れなれないのだなと思いました。
シレンという名前は、トルコでは普通によくある名前ですか? 神話からきているのでしょうか?


監督:まさにそうです。神話に出てくる人魚で、水兵たちを海に引きずり込みます。Sirenは、トルコではわりと稀な名前です。トルコ語でサイレンと同じ綴りです。

デニズ:大都市を離れたシレンを追って、彼はファンタジー求めていったのですが、現実は違いました。

監督:彼が何を学んだかは、観客の皆さんにお任せしたいと思います。

デニズ:監督は観客に考える余地を残しますが、役者としては、いつまでもぐるぐる回ってないで、ステップアップしたい。(笑)

監督:最後の方で、同じようなところに戻っているように見えますが、バーで女性から誘われても応じません。

― 映画の中でヒッピーのコミューンが出てきます。トルコ女性たちの間で、今、実際にそのような動きがあるのですか?

監督:リアルです。女性だけではないですが、イスタンブルから逃れようとして、地方でコミューンを作るけど、失敗して戻ってくることも多いです。撮影も、実際にあるコミューンで行っています。

東京国際映画祭 トルコ映画『シレンズ・コール』記者会見  (咲)

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東京国際映画祭 2018年 コンペティション部門
『シレンズ・コール』 2018年/トルコ

建築ラッシュの大都会イスタンブルを脱け出して、自由に生きる女性シレンのいる南の町に行きたいのに、なかなか空港にたどり着けない男タフシンの物語。

◆記者会見  
10月30日(火)『シレンズ・コ―ル』P&I上映後 13:40から記者会見が行われました。
   
登壇者:ラミン・マタン監督、俳優デニズ・ジェリオウル、女優エズギ・チェリキ、プロデューサー:エミネ・ユルドゥルム
*女優のエズギさんのみトルコ語で発言し、マタン監督が英語に通訳しました。
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監督:上映をご覧いただき嬉しいです。質問を楽しみにしています。

デニズ:来日できて嬉しいです。遠く感じられますが、そこまで遠くないと思います。

司会:映画のキャラクターと違って、ソフトな方ですね!

デニズ: yes!

エズギ:映画を楽しんでいただけたら嬉しいです。ここに来られてワクワクしています。

プロデューサー:作品をご覧いただき、ありがとうございます。

司会:東京にいると、都会の生活はもう嫌だと思うのですが、最後のシーンを観て、自分もやっぱり都会を捨てられないと思いました。映画に込めた思いを!

監督:都会から逃れたいというのはイスタンブルでも東京でも皆が思っていると思うのですが、ほんとはどうなのか? 大都市での日々の生活に関する物語を作って検証したいと思ったのが発端でした。

司会:監督は都会派? 田舎派?


監督:たぶん、大都市から離れては住めない。でも、イスタンブルのようなカオティックな場所にいると、家から出たくなくなることもあります。

司会:デニズさん、ダメ親父ぶりが最高でした。

デニズ:サンキュー! 

司会:演じる上で、どこが難しかったですか?

デニズ:役者にとってリサーチしなければ演じるのが難しい役もあるけれど、この役は大都市に住んでいる人物で、精神的には遠くなかったです。駄目っぷりだけでなく、共感してもらえるように演じるのが難しかった。

司会:シレンは田舎に憧れながら、都会のシステムを捨てきれない複雑なキャラクターでした。何かを象徴しているように思えました。
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エズギ:多くの人が都会から離れたいと思っているけれど実行できないでいます。シレンは実際に行動を起こして都会を離れ、新しいところで暮らすけど、それは自分で作りだしているもので、考え方は変わってなくて、一貫性のある人物です。

<strong>司会:演じたお二人は、都会派? 田舎派?
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エズギ:難しい質問! たぶん、心の準備が整ってないので、都会を離れられません。

デニズ:田舎で町に近いところ! 創作を続けるには都会じゃないと難しいけれど、心の平穏を保つために緑もあるところがいいと思いますので。

司会:大都会を駆けすり回る映画。製作側としては、どこが難しかったですか?
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プロデューサー:すべて! 資金調達が一番大変でした。2016年、プリプロダクションに入って2週目にクーデターが起こって、その後は世の中クレイジーな状況になりましたので、すべての作業を止めなければなりませんでした。翌年、再開したのですが、予算も限られている中で、素晴らしいクルーに恵まれて撮影することができました。町中を駆け回る生々しさを撮るのが特に難しかったです。嘘っぽくなくリアルに撮るのが大変でした。

司会: 監督、リアルに撮る難しさは?

監督:ほんとうに予算が限られていたので、生々しさを作るより、ゲリラ的に、いきなり行って撮影する形でした。バスで移動するシーンも、道路を閉鎖して撮影するのではなく、いきなり行って小型カメラで撮影しました。

司会:バスの中のシーンも? 乗ってる人たちもエキストラではない?

監督:周りを囲む数人だけエキストラの人を採用しました。一般の人だと、カメラを覗きこんだりしてしまいますので。実は、エキストラも、クルーの中から選びました。

★会場より
― 最初に入った喫茶店のようなお店は?

監督:あれはカフェバーで、若い人たちが飲みに行く隠れ家的な知る人ぞ知る場所で、解き放たれた気持ちなれる所です。

― 都市への人口流入が日本より激しくて、建設ラッシュのようでした。都市計画含めて、わかる範囲で教えてください。

監督:
イスタンブルの人口は公式で1700万人位。そこまで新しい住居が必要なわけではないのに、ここ数年、建築バブルで、バブルも崩れつつあって、150万戸が売れ残っています。建築計画もなく、インフラも整備されていません。

― トルコ行進曲が効果的でした。最初から使うつもりだったのでしょうか?

監督:元々考えていたのではなく、最初の10分位を編集していて思いつきました。元々のタイトルが、「Ronde(輪舞)」で、タクシンが町をぐるぐる回る内容に合うと思いました。最後の方では、調子を崩してみたら面白いなと考えました。

― 『シレンズ・コール』は英語のタイトルで、トルコ語のタイトルは「Son Çıkış」で最後の出口という意味だと思います。どういう思いを込めてタイトルをつけたのでしょうか? 都会のイスタンブルに戻るというラストでしたが。

監督:オリジナルのタイトルは実は『シレンズ・コール』です。Sirenがトルコ語だと、パトカーのサイレンがまず思い浮かぶので、トルコ語では別のタイトルにしました。トルコ語ではタイトルを変えました。『最後の出口』の意味するところは、皆さんの解釈にお任せします。