イスラーム映画祭『イクロ クルアーンと星空』突然の主演女優登壇にびっくりの巻  (咲)

『イクロ クルアーンと星空』
インドネシア、2017年、監督:イクバル・アルファジリ
上映:3月19日(月)1時~ 東京・ユーロスペース(渋谷)

会場の正面前の方の席には、ヒジャーブ姿(髪の毛や身体を隠したイスラームの教えに則った服装)のインドネシアの小学生の少女たちがいっぱい!
「アッサラーム アレイコム」というイスラーム映画祭主宰・藤本高之さんの呼びかけに、「ワライクム アッサラーム」と答える子どもたち。可愛い!
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「終了後に、主人公アキラ役の女優アイシャ・ヌラ・ダタウさんと優しいおじいさん役のチョク・シンバラさんによる舞台挨拶がございます!」と発表され、突然のゲストにびっくり。実は、上映1時間前にお二人をはじめ本作の関係者の方たちの来日が判明、突如の登壇が決まったそうです。

◆映画の上映
*物語*
アキラは、科学の勉強が大好きな小学生の少女。夏休み、宿題の自由研究のため、天文学者の祖父に会いにボスロ天文台のある町を訪ねる。大望遠鏡で星を見せてほしいと頼むアキラに、祖父はクルアーンを上手に朗誦できるようになることを約束させる。天文台に行きたいのに、なぜクルアーンをと不満のアキラに、おじいさんが諭す。クルアーンと科学は切り離せない。クルアーンを読めば自分が何者かもわかると。
一方、おじいさんはボスロ天文台の出資者が光害を問題にして出ししぶっているという問題を抱えていた。近くにホテル建設計画があって、地区のリゾート化が進むと光で星が見えにくくなるのだ・・・

映画の冒頭、題名にもなっている「イクロ」について語られます。
「Iqro(イクロ)」とは、アラビア語で「読め」という命令形の動詞。アッラーの最初の啓示です。インドネシアでは、「イクロ」といえばクルアーンをアラビア語で朗誦するための5冊の学習本のこと。アラビア語が母語でないインドネシアの人たちのための、入門書のようなもの。


◆上映後のトーク
当初のゲスト:野中葉さん(慶應義塾大学,「インドネシアのムスリムファッション」の著者)に加え、主人公アキラ役の女優アイシャ・ヌラ・ダタウさんと優しいおじいさん役のチョク・シンバラさん、それにプロデューサーの方も。

アキラを演じたアイシャさんが登場すると、インドネシアの小学生たちが、歓声をあげて拍手で迎えました。

藤本:プロデューサーのイマームさんに伺います。本作は、バンドン工科大学のサルマン・モスクが作った映画。去年、インドネシアで上半期に公開され、大ヒット。学校やモスクでも上映されたと伺っています。この映画が作られた経緯は?
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プロデューサー:テレマカシ。高之さんにも感謝。サルマン・モスクはバンドン工科大学の構内にあります。技術、サイエンス、アートなどを学ぶ大学。この映画を通じて、クルアーンの一番のメッセージである「読め」(イクロ)、そしてクルアーンに書いてある科学技術について、もっと興味を持ってもらいたいと思って映画を作りました。もう一つ、イスラームは平和な宗教である事を世界に伝えたいという思いがありました。

野中:インドネシアでは、映画がたくさん作られていますが、モスクが作るのは珍しいです。バンドン工科大学という理系の大学です。イスラームと科学は相容れないというイメージがあるかもしれませんが、理系の学生もイスラームに熱心です。

藤本:アキラ役のアイシャさんに。出演して変わったことは?

アイシャ:アッサラーム アレイコム (小学生たちが、応える)
満席で、興味を持っていただき嬉しかったです。どんな障害があっても、頑張れば報われることを学びました。映画を観ることで、いいものを持ち帰っていただけることを願っています。

藤本:おじいさん役のチョク・シンバラさん、上映の反響をお聞かせください。

チョク・シンバラ:アッサラーム アレイコム (小学生たち、また口をそろえて応えます)
43年のキャリアの中で、この映画は一番印象深いものです。国内200箇所位で上映されました。イギリス、フランスなどでも上映され、世界中で良い反響がありました。小さい頃からクルアーンを勉強して、科学にも興味を持つことを映画を通じて伝えられればと思います。

藤本:今、Part2を作っているそうですね。

プロデューサー:そうです。科学や宇宙観測のストーリーで、クルアーンの色々なことを伝えられればと思っています。舞台はイギリスです。その次には、ぜひ日本でも撮りたいです。

*会場から
― (男性)50年前、日本ムスリム協会でクルアーンを貰いました。信者ではないですが、御徒町のモスクに通っています。インドネシアはスンニ派が多数ですが、シーア派をどう思っているのか、野中さんにお伺いしたいと今日はやってきました。

野中:大多数のインドネシアのムスリムはスンニ派ですが、シーア派も同じイスラームと感じています。サルマン・モスクでは、イランの学者の書いたものも読んでいます。多くの思想を学ぼうという姿勢です。報道では、対立を強調することがありますが、政治的なものです。

― キャスティングはどのように?

プロデューサー:出演者の選定にあたって、イスラームから見て、安全な人を選びました。安全というのは、クルアーンに従うような人という意味です。クルアーンのメッセージを伝えていきたいのが映画の目的ですので。

藤本:アイシャさんは映画初出演ですか?

プロデューサー
:そうです。アイシャさんのお母さんは有名な舞台女優です。今日、会場に来ています。お父さんは、有名なカメラマンです。賞も多く受けている方です。

藤本:アイシャさんは主演に決まっていかがでしたか?

アイシャ
:嬉しい反面、不安もありました。緊張でいっぱいでした。初めての映画で、チョク・シンバラさんとの共演を光栄に思いました。演技についても、いろいろと教えてもらいました。

―(女性)科学の中でも天文学を取り上げた理由は?

プロデューサー
:バンドン工科大学の天文台施設が光害で星の観測がしにくくなって、閉められるという話も出ているので、それを阻止したいという思いもありました。イスラームが誕生した時の背景にも天文学者が多くいたということがあります。

野中
:バンドンはジャカルタから200キロ。近くにあるレンバンという小さな町にボスカ天文台があります。バンドンに人が増えて、観光地化していくことに対してメッセージを伝えたかったのではないかと思います。

―(男性)出演者の二人に伺います。演じる上で難しかったことは?  アイシャさんがクルアーンを朗誦されていましたが、日常生活で朗誦されることは?

アイシャ:一番難しかったのが、アキラが科学に興味を持っていることでした。私は興味があまりないので、そこが難しかったです。クルアーンの朗誦は週4回先生に学びました。

チョク・シンバラ:役作りは難しくなかったのですが、一番大変だったのは、撮影がバンドンで、住んでいるのがジャカルタで200キロ位離れています。渋滞がひどいと6時間位かかることもあって大変でした。普段は2時間位なのですが。

野中:クルアーンの朗誦ですが、インドネシア語が母語ですので、アラビア語を勉強しないとできません。最初は意味を理解するより、朗誦して覚えます。
「イクロ」とは、クルアーン第96章 凝血章(アル=アラク)の最初に書いてあるのですが、アラビア語で「読め」という意味です。インドネシアでは、子どもたちがクルアーンを読むために、最初に読むのが「イクロ」本です。それをマスターすると、クルアーンが読めるようになります。

―(日本人のムスリム)日本では宗教と科学は相反するという意識があります。
クルアーンの朗誦のところで訳が出なかったのが残念です。

藤本:1週間しか訳す時間がなく、すみません。

―(男性)キャストの二人に伺います。日本でも伝統に対する意識が薄くなっています。信仰に対しても世代によるギャップがあるかと思います。

チョク・シンバラ
:インドネシアのムスリムは、小学校に入る前くらいの小さいころからクルアーンの朗誦を教わります。信仰への意識は薄れていないと思います。学校では、1週間に2時間、地方の言葉を学ぶことになっていますので、地域の文化についても関心を持つようになっていると思います。

アイシャ
:私の場合、学校でお祈りの時間になって面倒だなと思うと、友人が誘ってくれます。

野中:高校の時からインドネシアに係わり、25年位になります。かつてより、今の方がイスラームに対する思いが強くなっています。確実にモスクに通う人も増えています。
2000年代に入る前には、ベールをつけた女性の映画はほとんどありませんでした。2000年以降、ベールをつけた女性が映画に普通に出てくるようになりました。

プロデューサー:大学でも同様、信仰深い教授が多くいます。過激派イスラームをできるだけ防ぎたいと思っています。

― (インドネシアの子どもたちを代表して小学生の少女)アイシャさんは他の映画に出ましたか?

アイシャ:いえ、初めてです。

― (バンドン工科大学に通っていた女性)毎日モスクに通ってました。2003年に日本に来て、14年になります。日本に来て、サルマン・モスクで学んだことが役立っています。代々木上原の学校で教えています。

―(インドネシア女性 日本語で)アイシャさんに伺います。クルアーンですごいと思うところは?

アイシャ:(笑って)タイトルの「イクロ」が印象深く、すごいと思います。

プロデューサー:「イクロ」は科学を読み、心を読むことです。

チョク・シンバラ:クルアーンには何でも載っています。たくさんのことが学べます。

― (男性、インドネシア語を学んでいる日本人。最初にインドネシア語で、後に日本語で)映画の中で日本統治時代に天文台が壊そうとされたことが語られていましたが、事実でしょうか?  日本統治時代に兵隊が悪いことをしたことが映画で描かれている一方、400年のオランダ統治から独立することができたということも言われています。

プロデューサー:ボスカ天文台に爆弾を落とそうとしたのは事実です。今は日本から学ぶことが多くて、ポジティブなイメージです。

チョク・シンバラ
:歴史は変えられないけれど、日本に対するイメージは、親戚という感じ。日本の綺麗な町を見て、学べることは多いと感じています。

アイシャ
:親日が高まっていて、かつての話はあまり出ません。今の日本から学ぼうと。

藤本:Part2が日本で上映されるかは、インシャッラー(神の思し召しがあれば)ですね。

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このあと、会場の外でアイシャさんやチョク・シンバラさんをインドネシアの子どもたちが囲んで、なごやかな光景が繰り広げられました。


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ユーロスペースの入っているビルの1階で。
イスラーム映画祭主宰・藤本高之さん、チョク・シンバラさん、アイシャ・ヌラ・ダタウさん