スタンリー・トン監督『A LEGEND/伝説』が最優秀作品賞
主演男優賞はリウ・ハオラン&主演女優賞はチャン・チュンニンが受賞
『2024東京・中国映画週間は、10月22日(火)~10月29日(火)に開催され、29日に閉幕式&第9回ゴールドクレイン賞(金鶴賞)授賞式が行われました。中国映画の最新作・話題作を上映する東京・中国映画週間の出品作から、優れた作品に賞が贈られるゴールドクレイン賞(金鶴賞)。授賞式は「2024東京・中国映画週間」のクロージングとして朝日ホールで行われました。
第9回 ゴールドクレイン賞/金鶴賞 受賞結果
最優秀作品賞
『A LEGEND/伝説』 唐季礼(スタンリー・トン)監督
審査員特別賞
『新紅楼夢~天運良縁~』 胡玫(フー・メイ)監督
最優秀監督賞
徐崢(シュー・ジェン)『アップストリーム~逆転人生~』
最優秀主演男優賞
劉昊然(リウ・ハオラン)『デクリプト』
最優秀主演女優賞
張鈞甯(チャン・チュンニン)『黙殺~沈黙が始まったあの日~』
新鋭監督賞
柯汶利(サム・クワー)『黙殺~沈黙が始まったあの日~』
観客賞
『雲の上の売店』
最優秀助演俳優賞
楊童舒(ヤン・トンシュー)『新紅楼夢~天運良縁~』
最優秀新人男優賞
沈浩(シェン・ハオ)『黙殺~沈黙が始まったあの日~』
芸術貢献賞
『京劇映画 捉放曹』滕俊傑 (テン・ジュンジエ)監督
詳細はこちらで
https://cjiff.net/
第37回東京国際映画祭特別上映部門『不思議の国のシドニ』Q&A (咲)
不思議の国のシドニ 原題:Sidonie au Japon 英題:Sidonie in Japan
監督:エリーズ・ジラール
出演:イザベル・ユペール 伊原剛志 アウグスト・ディール
フランスの女性作家シドニは、自身のデビュー小説「影」が日本で再販されることになり、出版社に招かれて訪日する。見知らぬ土地への不安を感じながらも日本に到着した彼女は、寡黙な編集者・溝口健三に出迎えられる。シドニは記者会見で、自分が家族を亡くし天涯孤独であること、喪失の闇から救い出してくれた夫のおかげで「影」を執筆できたことなどを語る。溝口に案内され、日本の読者と対話しながら各地を巡るシドニの前に、亡き夫アントワーヌの幽霊が姿を現す……。
シネジャ作品紹介
2023年/フランス・ドイツ・スイス・日本/96分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/sidonie/
★2024年12月13日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
◎Q&A
2024年11月3日(日)19:10からの上映後
丸の内TOEIにて
丸の内TOEIにて
登壇ゲスト:イザベル・ユペール、伊原剛志、エリーズ・ジラール(監督/脚本)
通訳:人見 有羽子
司会:市山尚三
監督: 初めまして。お招きいただき、ありがとうございます。
市山:監督は、なぜ、日本で撮影しようと
思われたのですか? また、京都、奈良、直島、東京を選ばれたのは?
監督: 2013年、長編デビュー作『ベルヴィル・トーキョー』のプロモーションで来日したのがきっかけです。1週間滞在することができました。配給の方があちこちの町に案内してくださって、その時の体験が、この映画の出発点でした。
日本とアーティスティックな出会いをしました。衣装も建築も素晴らしい。日本の持っている伝統とモダン、その二面性に恋をしましたので、京都の伝統と直島の現代アートをこの映画に取り込みました。
市山:ユベールさんはオファーを受けてどのように思いましたか? 日本の撮影はいかがでしたか?
ユペール:脚本を最初に読んだ時、シンプルにいいなと思いました。文章、セリフ、いずれも素晴らしかった。監督の前作『静かなふたり』に私の娘ロリータ・シャマが出演していますが、音楽もしっくりして素晴らしかったので、これはやるべきと。監督の1作目の『ベルヴィル・トーキョー』も素晴らしかったので、即決しました。『不思議の国のシドニ』は、あちこち巡るだけでなく、見失っていた自分を再発見するという深い物語です。
市山:井原さんは全編フランス語で話されています。
井原:日本語で話します。フランス語は全くしゃべれませんでした。4か月の準備期間があったのですが、最初、ゆっくりしたスピードのフランス語のセリフを聴いても、さっぱりわかりませんでした。英語にも訳してもらって、日本語で意味を解釈して、フランス語のセリフを覚えました。先生がよかったのですが、私の耳もよかったようです。コロナで一度撮影が中止になって、さらに4ヵ月の準備期間ができました。スカイプで監督とセリフについて充分打ち合わせもできました。でも、フランス語はセリフしか言えません。
市山:通訳の人見有羽子さんも出演しています。(写真:右)
監督:司会者の市山さんも共同プロデューサー。映画には、市山さんの疲れた姿も映っています。
市山:まさか、あの場面が映画に残ると思わなかったので・・・(照れる市山さん!)
◆会場から
―(男性) 亡くなった旦那さんの姿が出てきますが、旦那の方が明るくて、ユペールさんは暗い。普通は逆かと思いますが・・・
監督:最初から思っていたのですが、シドニは立ち直れないでいるところに、夫が幽霊として出てきて励ますのです。アメリカのジョセフ・L・マンキウィッツ監督の『幽霊と未亡人』も、幽霊がとても愉快な人。あえてシドニより快活なヨーロッパ的な幽霊として描きました。
ユペール:このアイディアを聞いて、とてもいいなと思いました。映画を観て、腑に落ちました。幽霊が快活で生き生きとしていて、生に執着しています。シドニと、もう少し一緒にいたい。シドニも苦しみから解放されます。
―(フランス女性)シドニと同じような体験をしました。留学で4か月日本にいます。日本で札零されて学んだことや、発見されたことは?
ユペール:学んだというより、エキサイティングな体験をしました。アーティスティックな喜び、新しいものを発見するのは、シドニがあちこち行くことによって変わっていきます。何回も来日している私でも知らないところがあります。直島で撮れたのはラッキーでした。特別な意味のある体験でした。異国で撮るのは、ミステリアスな発見があります。
監督:この作品を撮るのに、5年の歳月がかかりました。監督人生の中でもユニークな体験でした。もう一度戻ってきて撮影したいなと思います。たくさんの日本人と出会いました。これって映画だなと。エモーショルなものが凝縮された経験でした。日本で撮影できて、幸せです。公開を嬉しく思っています。
市山:最後にひと言ずつお願いします。
井原:2019年にオファーを受けて、3年前に撮影しました。役者人生の中で最高の忘れられない経験です。
ユペール:剛志さんは、フランス語について謙虚過ぎます。唯一無二の仕事をされました。
私が、全て日本語で演じなさいと言われたら、おそらくできません。フランス語をしゃべれない彼がフランス語を学ぶことによって、距離が縮まることを、みごとに体現してくれました。彼の努力がなかったら、この映画は成り立たなかったでしょう。剛志さん、ありがとう。
監督:観てくださった方の口コミで、多くの方に見ていただけますよう願っています。
◆フォトセッション
東京フィルメックス 学生審査員賞&審査員特別賞『サントーシュ』 Q&A報告(咲)
『サントーシュ』 原題:SANTOSH
監督:サンディヤ・スリ( Sandhya SURI )
2024 年/インド・イギリス・ドイツ・フランス/ 127分
字幕: 松岡環
サントーシュは結婚して2年。警察官をしていた夫が勤務中に亡くなるが、恋愛結婚で子供もまだいないことから、夫の家族からは疎まれ、追い出される。夫の勤務先に手続きに行くと、未亡人の救済措置として夫の職を継承できる政府の制度があると言われる。
サントーシュは警察官となり、ベテランでカリスマ性のある女性警察官、シャルマ警部のもとで仕事を覚えていく。賄賂が横行し、女性は差別される職場であることを知る。
© Oxfam
ある日、ダリット(不可触民)の男性が、15歳の娘が行方不明で探してほしいと警察にやってくる。男性警官たちは相手にしない。やがて、レイプされ、殺害されて、井戸に捨てられた若い女性が見つかる。サントーシュは男性警官から遺体を安置所に運ぶよう命じられる。遺体は、ダリットの父親が探していたデヴィカ(女神という意味)という娘だった。サントーシュは、町はずれのダリットの村へ父親に会いにいく。
デヴィカは、サリームというムスリムの青年と市場で知り合って、チャットのやりとりをしていたことが判明し、サリームが犯人として浮かび上がる。だが、死亡推定日時に、サリームはムンバイに行っていたという。チャットにも、「ムンバイで、君に似合う素敵な服を買ってあげる」と残されていた・・・
サントーシュの夫が、ムスリムの多い地区での暴動の鎮圧に行って、どうやらムスリムに殴り殺されたらしいということもあって、ムスリムのサリームに対して、サントーシュは複雑な思いがあります。でも、会ってみるとサリームは、市場で出会ったデヴィカに好意を抱く普通の青年。それでも、サリームは犯人と決めつけられ、警察でひどい拷問を受けます。
デヴィカの遺体が捨てられた井戸には、それ以前にも猫の死骸が捨てられた事件があって、そのために井戸水が使えなくなって、人々は遠くの井戸まで水を汲みにいかなければならなかったという事情も、実は真犯人に繋がるものでした。(公開されるかもしれないので、これ以上は明かさないでおきます。)
サントーシュは、警察が身分の低い者を犯人に仕立ててしまう実態も見てしまい、警官をやめて実家に帰ることにするのですが、実家のある町までの切符を買ったあとに、思い直してムンバイ行の切符に変更します。晴れやかな表情でムンバイに向かうサントーシュ。明るい未来がありそうなラストでした。
◆11月24日(日)12:50からの上映後Q&A
神谷:女性を主人公にした物語。作られた経緯を。
監督:当初、ドキュメンタリーで作ろうと、女性への暴力についてリサーチしていたのですが、暴力をドキュメンタリーで撮るのは非常に難しくて、劇映画で描くことにしました。2012年、デリーでバスに乗っていた女性がレイブされ殺された事件がありました。それに対して抗議する女性たちが激しい顔をしていて、それを見守る女性警官たちもなんとも複雑な表情をしていました。印象深い光景でした。主人公を女性警官にする物語が思い浮かびました。
神谷:警官組織の汚職、女性差別、ムスリムとの宗教間の問題などを、一人の女性の視点から描かれたのは?
監督:インド北部のヒンドゥーが多いエリアが舞台。いろいろな問題がタペストリーのように起こります。宗教、性差別、暴力、カーストなど。こういう社会構造の中で女性警官を描くとしたらどうなるのかを考えました。サントーシュも、そういう日常的に暴力の起こる中にいるという女性です。
© Oxfam
会場から
ー 公務員の夫が亡くなった時に未亡人がその職を継げるという救済処置は、インドで全国的にあるものですか?
監督:夫だけでなく、父親を亡くした娘が引き継ぐこともあります。
ー ロンドンを拠点に活動されているとのこと。長編第一作にこのテーマを選ばれた思いは? 素晴らしい作品で、アカデミー賞の外国語映画賞のイギリス代表にも選ばれています。
監督:これまでの短編もすべてインドを舞台に撮っています。カメラを通してインドを考え、理解したいという思いです。アカデミー賞の外国語映画賞は、イギリスの英語作品は該当しないのでチャンスがあります。インド代表のチャンスもあります。
ー サントーシュの上司の婦人警官の印象が強いです。あのようなキャラクターの方は実際にリサーチされた中でいらしたのですか?
監督: 実際に会った方ですが、婦人警官ではなく、NGOの方をモデルにしています。
人を育てるタイプで、母系社会的な方。演じてくれた女優が、人間性を出してくれました。
ー サントーシュのそばで犬が糞をした時に、カメラがほかの方向に行った意図は?
監督:いい質問。あのシーンは、カットすべきという意見もありました。インドと、それ以外の国の方では、感じ方が違います。インド人ならわかるシーンです。ほかに、インド人向けボーナスシーンとして、サントーシュが上司の飼っている犬を散歩させるシーンで、カバーが被された像を映し出している場面があるのですが、ダリットの為に運動した英雄をかたどったもので、インドの人には必ずわかるものです。上位カーストの人々にとっては、好ましくない人物です。サントーシュは、あの像を観て、ダリットの抑圧の現状を知っているのでわかります。
最後に、監督が観客を背景に写真を撮りました。
監督:サンディヤ・スリ( Sandhya SURI )
ロンドンを拠点に活動するイギリス系インド人の監督・脚本家。2024年のカンヌ映画祭ある視点部門にて劇映画としての長編第一作となる『サントーシュ』が上映され、高く評価された。同作はサンダンス・インスティテュート・スクリーンライターズとディレクターズ・ラボの両方に選出され、BBC Films、BFI、Arteの出資により完成。
初の短編劇映画「THE FIELD」はトロント映画祭の最優秀国際短編映画賞を2018年に受賞し、2019年にBAFTA 最優秀短編映画賞にノミネートされた。長編ドキュメンタリー作品「I FOR INDIA」はサンダンス映画祭の国際コンペティションで上映。
また、スクリーンインターナショナル誌のStar of Tomorrow 2023にも選出された。
◆学生審査員賞
サンディヤ・スリ監督はすでに帰国され、ビデオメッセージを寄せられました。
「この受賞は私にとってとても意味があります。26年前、1年間日本に住んで英語教師をしていました。その時に山形国際ドキュメンタリー映画祭に観客として参加して、感銘を受ける映画に出会い、カメラを買って映画を撮り始めました。
26年経ち、日本に戻って、この賞をいただきました。ありがとうございました。京都の秋を満喫して帰国しました。会場で受賞できればよかったのですが・・・。ほんとうにありがとうございました。」
◆審査員特別賞
サンディヤ・スリ監督、再び、ビデオでメッセージを寄せられました。
「ほんとうにありがとうございます。審査員の皆様に感謝申し上げます。インドに関する多くの問題について語るのと同時に、 サントーシュにとっては個人的で、そしてまた非常に普遍的な映画を作りたかったのです」
サントーシュは結婚して2年。警察官をしていた夫が勤務中に亡くなるが、恋愛結婚で子供もまだいないことから、夫の家族からは疎まれ、追い出される。夫の勤務先に手続きに行くと、未亡人の救済措置として夫の職を継承できる政府の制度があると言われる。
サントーシュは警察官となり、ベテランでカリスマ性のある女性警察官、シャルマ警部のもとで仕事を覚えていく。賄賂が横行し、女性は差別される職場であることを知る。
© Oxfam
ある日、ダリット(不可触民)の男性が、15歳の娘が行方不明で探してほしいと警察にやってくる。男性警官たちは相手にしない。やがて、レイプされ、殺害されて、井戸に捨てられた若い女性が見つかる。サントーシュは男性警官から遺体を安置所に運ぶよう命じられる。遺体は、ダリットの父親が探していたデヴィカ(女神という意味)という娘だった。サントーシュは、町はずれのダリットの村へ父親に会いにいく。
デヴィカは、サリームというムスリムの青年と市場で知り合って、チャットのやりとりをしていたことが判明し、サリームが犯人として浮かび上がる。だが、死亡推定日時に、サリームはムンバイに行っていたという。チャットにも、「ムンバイで、君に似合う素敵な服を買ってあげる」と残されていた・・・
サントーシュの夫が、ムスリムの多い地区での暴動の鎮圧に行って、どうやらムスリムに殴り殺されたらしいということもあって、ムスリムのサリームに対して、サントーシュは複雑な思いがあります。でも、会ってみるとサリームは、市場で出会ったデヴィカに好意を抱く普通の青年。それでも、サリームは犯人と決めつけられ、警察でひどい拷問を受けます。
デヴィカの遺体が捨てられた井戸には、それ以前にも猫の死骸が捨てられた事件があって、そのために井戸水が使えなくなって、人々は遠くの井戸まで水を汲みにいかなければならなかったという事情も、実は真犯人に繋がるものでした。(公開されるかもしれないので、これ以上は明かさないでおきます。)
サントーシュは、警察が身分の低い者を犯人に仕立ててしまう実態も見てしまい、警官をやめて実家に帰ることにするのですが、実家のある町までの切符を買ったあとに、思い直してムンバイ行の切符に変更します。晴れやかな表情でムンバイに向かうサントーシュ。明るい未来がありそうなラストでした。
◆11月24日(日)12:50からの上映後Q&A
神谷:女性を主人公にした物語。作られた経緯を。
監督:当初、ドキュメンタリーで作ろうと、女性への暴力についてリサーチしていたのですが、暴力をドキュメンタリーで撮るのは非常に難しくて、劇映画で描くことにしました。2012年、デリーでバスに乗っていた女性がレイブされ殺された事件がありました。それに対して抗議する女性たちが激しい顔をしていて、それを見守る女性警官たちもなんとも複雑な表情をしていました。印象深い光景でした。主人公を女性警官にする物語が思い浮かびました。
神谷:警官組織の汚職、女性差別、ムスリムとの宗教間の問題などを、一人の女性の視点から描かれたのは?
監督:インド北部のヒンドゥーが多いエリアが舞台。いろいろな問題がタペストリーのように起こります。宗教、性差別、暴力、カーストなど。こういう社会構造の中で女性警官を描くとしたらどうなるのかを考えました。サントーシュも、そういう日常的に暴力の起こる中にいるという女性です。
© Oxfam
会場から
ー 公務員の夫が亡くなった時に未亡人がその職を継げるという救済処置は、インドで全国的にあるものですか?
監督:夫だけでなく、父親を亡くした娘が引き継ぐこともあります。
ー ロンドンを拠点に活動されているとのこと。長編第一作にこのテーマを選ばれた思いは? 素晴らしい作品で、アカデミー賞の外国語映画賞のイギリス代表にも選ばれています。
監督:これまでの短編もすべてインドを舞台に撮っています。カメラを通してインドを考え、理解したいという思いです。アカデミー賞の外国語映画賞は、イギリスの英語作品は該当しないのでチャンスがあります。インド代表のチャンスもあります。
ー サントーシュの上司の婦人警官の印象が強いです。あのようなキャラクターの方は実際にリサーチされた中でいらしたのですか?
監督: 実際に会った方ですが、婦人警官ではなく、NGOの方をモデルにしています。
人を育てるタイプで、母系社会的な方。演じてくれた女優が、人間性を出してくれました。
ー サントーシュのそばで犬が糞をした時に、カメラがほかの方向に行った意図は?
監督:いい質問。あのシーンは、カットすべきという意見もありました。インドと、それ以外の国の方では、感じ方が違います。インド人ならわかるシーンです。ほかに、インド人向けボーナスシーンとして、サントーシュが上司の飼っている犬を散歩させるシーンで、カバーが被された像を映し出している場面があるのですが、ダリットの為に運動した英雄をかたどったもので、インドの人には必ずわかるものです。上位カーストの人々にとっては、好ましくない人物です。サントーシュは、あの像を観て、ダリットの抑圧の現状を知っているのでわかります。
最後に、監督が観客を背景に写真を撮りました。
監督:サンディヤ・スリ( Sandhya SURI )
ロンドンを拠点に活動するイギリス系インド人の監督・脚本家。2024年のカンヌ映画祭ある視点部門にて劇映画としての長編第一作となる『サントーシュ』が上映され、高く評価された。同作はサンダンス・インスティテュート・スクリーンライターズとディレクターズ・ラボの両方に選出され、BBC Films、BFI、Arteの出資により完成。
初の短編劇映画「THE FIELD」はトロント映画祭の最優秀国際短編映画賞を2018年に受賞し、2019年にBAFTA 最優秀短編映画賞にノミネートされた。長編ドキュメンタリー作品「I FOR INDIA」はサンダンス映画祭の国際コンペティションで上映。
また、スクリーンインターナショナル誌のStar of Tomorrow 2023にも選出された。
◆学生審査員賞
サンディヤ・スリ監督はすでに帰国され、ビデオメッセージを寄せられました。
「この受賞は私にとってとても意味があります。26年前、1年間日本に住んで英語教師をしていました。その時に山形国際ドキュメンタリー映画祭に観客として参加して、感銘を受ける映画に出会い、カメラを買って映画を撮り始めました。
26年経ち、日本に戻って、この賞をいただきました。ありがとうございました。京都の秋を満喫して帰国しました。会場で受賞できればよかったのですが・・・。ほんとうにありがとうございました。」
◆審査員特別賞
サンディヤ・スリ監督、再び、ビデオでメッセージを寄せられました。
「ほんとうにありがとうございます。審査員の皆様に感謝申し上げます。インドに関する多くの問題について語るのと同時に、 サントーシュにとっては個人的で、そしてまた非常に普遍的な映画を作りたかったのです」
第25回東京フィルメックス受賞結果 最優秀作品賞 はジョージアの『四月』に!
★後列左から:川島佑喜(武蔵野美術大学)、火宮遼哉(明治学院大学)、眞島淳之介(東京造形大学)、カトリーヌ・デュサール(映画プロデューサー)、ラ・フランシス・ホイ(キュレーター)、ロウ・イエ(映画監督)
★前列左から:イン・ヨウチャオ(『白衣蒼狗』共同監督)、チャン・ウェイリャン(『白衣蒼狗』監督)、マー・インリー(『未完成の映画』脚本・プロデューサー)、アレックス・ロー(『未完成の映画』共同プロデューサー)、マイ・フエン・チー(タレンツ・トーキョー・アワード2024受賞者)
2024年11月30日(土)18時20分から丸の内TOEI スクリーン1 で授賞式が開かれ、各賞の受賞結果が発表されました。
最優秀作品賞 デア・クルムベガスヴィリ監督『四月』(フランス、イタリア、ジョージア)
審査員特別賞 サンディヤ・スリ監督『サントーシュ』(インド、イギリス、ドイツ、フランス)
スペシャル・メンション チャン・ウェイリャン監督&イン・ヨウチャオ共同監督『白衣蒼狗』(台湾、シンガポール、フランス)
学生審査員賞 サンディヤ・スリ監督『サントーシュ』(インド、イギリス、ドイツ、フランス)
観客賞 ロウ・イエ監督『未完成の映画』
タレンツ・トーキョー・アワード2024:『The Rivers Know Our Names』
以下、発表順にご紹介します。
◆タレンツ・トーキョー・アワード2024
『The Rivers Know Our Names』
【授賞理由】急速に発展している国の中で、社会から疎外されたコミュニティをつぶさに観察したプロジェクトにタレンツ・トーキョー賞を授与できることを審査員一同光栄に思います。この作品は、特に若い女性と年老いた女性の2人に焦点を当て、力強いイメージを通して丁寧に人物を描写し、コミュニティにおける個人の強さと癒しの可能性を描き出しています。タレンツ・トーキョー・アワードをマイ・フエン・チー監督の「The River Knows Our Names」に贈ります。
監督:マイ・フエン・チー、ベトナム
■スペシャル・メンション
「The Vision of Lonely Mountains」(ハグヴドラム・プレヴオチル(Lkhagvadulam PUREV-OCHIR)/モンゴル)
「Dollyamory」(畠山佳奈(HATAKEYAMA Kana)/日本)
「Naked in Glendale」(ヤン・ハオハオ(YAN Haoaho)/中国)
◆観客賞 Audience Award
『未完成の映画』原題:An Unfinished Film(一部未完成的電影)
特別招待作品
監督:ロウ・イエ
本作のプロデューサーで、ロウ・イエとともに脚本も執筆した奥様であるマー・インリーさんが代表して喜びの言葉を述べられました。「たくさんの方に観てくださったことに感謝します。観客賞はロウ・イエにとって初めてです。心からありがとうと申し上げたいです」
共同プロデューサーのアレックス・ローも登壇し、感謝の言葉を述べられましたが、ロウ・イエ監督は笑顔でそばにいらしただけで発言はありませんでした。(この後、大役が待っていますので・・・)
続いて、コンペティション部門の各賞発表。
まず、ラインナップされた10作品が紹介されました。
◆学生審査員賞 Student Jury Prize
『サント―シュ』原題:SANTOSH
監督:サンディヤ・スリ( Sandhya SURI )
インド・イギリス・ドイツ・フランス / 2024 年/ 127分
学生審査員 川島佑喜(武蔵野美術大学)眞島淳之介(東京造形大学)火宮遼哉(明治学院大学)の3名が登壇し、発表。
【授賞理由】サスペンスフルなドラマの面白さとそこから浮かび上がる社会構造の描き方に驚かされました。人物の魅力を引き出すカメラワークからは、映画の持つ繊細で挑戦的な力強さを感じました。
終盤、通り過ぎる電車越しでコマ送りのようになるふたりのショットが、息を飲むほど素晴らしかったです。
サンディヤ・スリ監督はすでに帰国され、ビデオメッセージを寄せられました。
「この受賞は私にとってとても意味があります。26年前、1年間日本に住んで英語教師をしていました。その時に山形国際ドキュメンタリー映画祭に観客として参加して、感銘を受ける映画に出会い、カメラを買って映画を撮り始めました。
26年経ち、日本に戻って、この賞をいただきました。ありがとうございました。京都の秋を満喫して帰国しました。会場で受賞できればよかったのですが・・・。ほんとうにありがとうございました。」
コンペティション部門 審査員
◆スペシャル・メンション Special Mention
『白衣蒼狗』原題:Mongrel 中国語題:白衣蒼狗
台湾・シンガポール・フランス/ 2024年 / 128分
【授賞理由】 この映画は、その説得力のある映画言語によって、闇、汚辱、残酷な現実を力強く描き出し、人間の本性の深さに立ち向かう勇気を示している。
監督:チャン・ウェイリャン 共同監督:イン・ヨウチャオ(左・女性)
「東京フィルメックスにご招待してくださり、賞までいただきまして、ありがとうございました。私たちのことをこのように温かく受け入れてくださって有難うございます。容易な映画ではなかったですが、この映画に付き合ってくださったお客さん、ずっと見てくださった方、その時間にも感謝したいです」
◆審査員特別賞 Special Jury Prize
『サント―シュ』原題:SANTOSH
監督:サンディヤ・スリ( Sandhya SURI )
インド・イギリス・ドイツ・フランス / 2024 年/ 127分
【授賞理由】 容赦ないストーリー展開のダークスリラーで見事に演じられた女性キャラクターを通じて、社会の硬直性と不平等を痛烈に描き出している。舞台は現在のインドではあるが、世界中に蔓延している妥協と呼応している。
サンディヤ・スリ監督、再び、ビデオでメッセージを寄せられました。
「ほんとうにありがとうございます。審査員の皆様に感謝申し上げます。インドに関する多くの問題について語るのと同時に、 サントーシュにとっては個人的で、そしてまた非常に普遍的な映画を作りたかったのです。そして、東京でこのような素晴らしい上映会を開催し、素晴らしい観客がたくさんの興味深い質問に熱心に応えてくれたことは、本当に素晴らしい経験でした」
◆最優秀作品賞 Grand Prize
『四月』原題:April(აპრილი)
フランス・イタリア・ジョージア / 2024年 / 134分
監督:デア・クルムベガスヴィリ( Dea KULUMBEGASHVILI )
【授賞理由】 この大胆で冷徹な長編映画は、保守的な農村地帯で女性が直面する厳しい現実を突きつけている。彼女たちの自由は、それが身体に関わるものであろうと欲望の表現に関わるものであろうと、絶え間ない闘いである。監督は、骨太なリアリズムとシュールレアリズム的なホラーを融合させ、吸い込まれるような挑発的な体験を生み出している。緻密で丹念に作り込まれた撮影は、観客の視線を捉え、私たちの視点や関わりを積極的に考えさせる。この作品は、形式的な勝利であるとともに計り知れない関連性と共鳴性をもつ作品である。
デア・クルムベガスヴィリ監督よりビデオメッセージ。
「授賞式に出られなくて残念です。上映に感謝します。この受賞は、私にとっても、スタッフ全員にとっても大きな意味がある。この映画は制作に参加した全員の努力と献身の結晶だからです。 映画を作ることは決して容易な道のりではありませんし、特にこの映画に関しては多くの制約があり、ジョージアでこの映画の制作を手伝ってくれた人々は非常に勇敢でした。この受賞は私にとって大切です。なぜなら、この映画に寄与してくれて、この映画の存在を可能にしてくれた全ての人と分かち合えるからです」
授賞式の最後には、国際審査員を代表して、ロウ・イエが今年の映画祭を講評しました。
「今回はこのお2方と一緒に審査を担当させていただき、本当に光栄で、とても楽しい時間だった。そして作品を届けてくれた監督の皆さんに心から感謝したいと思う。この監督たちの視線でもって、世界を色々と見ることができた。我々の世界を、夢を、広げてくれた。ありがとうございます」
取材:宮崎暁美、景山咲子
祝!第25回 東京フィルメックス 開会式 +『新世紀ロマンティクス』(ジャ・ジャンクー)(咲)
2000年12月、作家主義を掲げ、アジアの新たな才能の発掘を目指して、第1回の東京フィルメックスが開催されました。メイン会場は、今は無き、銀座1丁目のル・テアトル銀座でした。2回目よりメイン会場を有楽町朝日ホールに移し、昨年の24回まで、フィルメックスといえば、朝日ホールでした。今年から、メイン会場が映画館である丸の内TOEIに変わりました。
11月23日(土)18:10~ 開会式
プログラム・ディレクター神谷直希さんが、まず、「サポーター会員や観客の皆さん、そしてスポンサーの方の支えがなければ開催することができませんでした」と感謝を伝えました。「ぜひ1作品でも多くご覧いただき、今年の映画祭を楽しんでいただきたいと思います」と述べられました。
続いて、コンペティション部門の審査員紹介。
ロウ・イエ監督とラ・フランシス・ホイさん(アメリカ/キュレーター)のお二人が登壇。
もう一人の審査員カトリーヌ・デュサールさん(フランス/映画プロデューサー)は、まだご到着されていないとのこと。
ロウ・イエ監督:またフィルメックスに戻ってくることができました。皆さんにお会いできて嬉しいです。
ラ・フランシス・ホイ:ご招待いただき、光栄に思っています。とてもいい映画が観られますから、皆さんはラッキーです。
25周年の節目を迎えた東京フィルメックスですが、そのことについては特に触れず、あっさり10分ほどで開会式は終わり、引き続き、オープニング作品 ジャ・ジャンクー監督の『新世紀ロマンティクス』が始まりました。
『新世紀ロマンティクス』
原題:Caught by the Tides(風流一代)
★特別招待作品
監督:ジャ・ジャンクー(JIA Zhang-Ke)
中国 / 2024 / 111分
配給:ビターズ・エンド
ジャ・ジャンクー監督の長年のミューズであるチャオ・タオ演じる一人の女性の人生の約20年間を、彼女の元を去った一人の男性との関係を軸に描いた作品。
2001年、大同。国際女性デー。女性たちが交代しながら歌う。5年後、そして、16年後へと時代が移ろい、場所も長江の三峡、南端の珠海、中国の東北部や南西部へとチャオ・タオたちを追って移動する。2022年、再び大同に戻る。コロナによるロックダウン中の町。ロボットと向き合うチャオ・タオ。すっかり近未来風に変わった大同の町で、人々は踊る・・・
上映後Q&A
登壇:ジャ・ジャンクー監督
ジャ・ジャンクー:こんばんは。ジャ・ジャンクーです。(ここまで日本語で)
神谷:第1章、第2章、第3章という作りにしたのは?
ジャ・ジャンクー:タイトルは、最初、2001年に撮った時には、『デジタルカメラを持つ人』でした。新しい世紀を迎えたときに、人々が可能性を感じていて、皆が歌って踊って元気な時期でした。オリンピックの開催が決まったり、エネルギーを感じた時代です。色っぽい時代だなと思いました。当初は、2~3年撮ったら終わると思っていたら、終わらなくて、ほかの作品を撮って、思い出したら撮ってました。2015~16年頃には忘れてました。そこへコロナがやってきました。一つの時代が終わるような気がしました。フライトもなくなるし、国境も閉ざされる。北京にいて思ったのは、閉じこもっていた時にも、AIや生体に関する進化が早かった。コロナが終わったら、新しい時代が来ると思って、この映画を完成させなければいけないと思いました。20年が過ぎて、今の状態があるのだろうかと。2022年に脚本を書きました。コロナで撮影は出来なかったのですが。
神谷:音楽がふんだんに使われていました。
ジャ・ジャンクー:19曲使ってます。本来の中国の人はシャイなのに、あの時代は陽気に歌ってました。2000年を迎えた時代は狂乱状態でした。
全体的に考えて撮ったのではなく、その時、その時に歌っていたものを撮っていた中から選んでいます。その他は、監督として自分の意に合うもの、好きな曲を選びました。
セリフは、編集して繋いでみたら面白くないなと気づいて、男女の愛情を描くのに20年も必要かなと。はたと気づいたのは、前の作品は再現したもの。今回は、そこで起こったもの、偶然出会ったものを撮ってきたということでした。その時代の様子をヒロインと一緒に見ていく感じです。
編集しているときに、男女の話をいれたあとに抜いてみたら、ヒロインがあまりしゃべらない方が、敏感にその時代を感じることができると気が付きました。
結果として仕上がりがセリフを取ったことによって、世界が広がりました。彼女が沈黙したことで、いろいろなことに出会える。ひとことでは言えないものが感じられます。
★会場から
― チャン・タオさんがロボットと向き合っている図を見て、2022年の中国は監督にとって近未来的に思われているのでしょうか?
ジャ・ジャンクー:今の中国は、AIやロボットなどが発展しているけれど、近未来というより「今」を撮っています。
時間が来てしまって、会場から拍手を贈ったのですが、最後に一言とジャ・ジャンクー。
話されている最中に大きな笑いが起こって、会場の半分くらいは中国語のわかる方だったようでした。通訳の方が、「サングラスをかけていますが、目を悪くしているためで、ウォン・カーウァイじゃないです」と訳され、やっと笑えました。
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東京フィルメックス 25周年! 井上正幸さんを偲ぶ会の前に、チケット予約の顛末。(咲)に書きましたが、開会式のチケット予約に失敗! スマホで字が小さかったために、前から4列目のD席を取ったつもりが、後ろのほうの、O席でした。 2階席の最前列がまだ空いていたので、あわててO席をキャンセルし、2階席を取り直しました。
見晴らしがよくて、映画の画面は少し遠いながら、邪魔なく、観ることができました。
でも、舞台に登壇した人たちは、ほんとに小さくしか見えなくて、スマホのカメラでは、これが精一杯でした。しかもボケてるし。
今年からメイン会場となった丸の内TOEI スクリーン1については、ロビーが狭い、入場前は寒い通りで待たなければいけない、1階におトイレがなく、地下もしくは2階に行かなければならない、しかも和式が3割ほど! と、いろいろ気にいらないことはありますが、スクリーンは大きくて、見上げる形なので、比較的どの席からも観やすいという利点もあります。席数が800席弱から500席ほどに減少しましたが、朝日ホール時代、開会式と授賞式や、夜の人気作品は満席近くの集客ができても、平日の昼間は空席が目立ったので、ちょうどいいのではないかと思います。
ただ、丸の内TOEIも老朽化で近々閉館との噂も聞きます。来年以降の東京フィルメックスの会場はどうなるのでしょう・・・
報告:景山咲子