第24回東京フィルメックス 授賞式レポート

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2023年11月26日(日)17:10~
於 有楽町朝日ホール


11月19日に開幕した第24回東京フィルメックス。最終日の11月26日に各賞の授賞式が行われました。
コンペティション部門の8作品の受賞作のほか、同時開催のタレンツ・トーキョーの各賞も発表されました。


★第24回東京フィルメックス 受賞結果★
最優秀作品賞
ファム・ティエン・アン『黄色い繭の殻の中』

審査員特別賞
アリ・アフマザデ『クリティカル・ゾーン』
ゾルジャルガル・プレブダシ『冬眠さえできれば』

観客賞
ゾルジャルガル・プレブダシ『冬眠さえできれば』

学生審査員賞
キム・テヤン『ミマン』


タレンツ・トーキョー
タレンツ・トーキョー・アワード2023
サイ・ナー・カム『Mangoes are Tasty There』

スペシャル・メンション
アンジェリーナ・マリリン・ボク『Free Admission』
オーツ・インチャオ『Water Has Another Dream』



◎授賞式
発表順にお届けします。

タレンツ・トーキョー
スペシャル・メンション
『Free Admission』(アンジェリーナ・マリリン・ボク(Angelina Marilyn BOK)/シンガポール)
『Water Has Another Dream』(オーツ・インチャオ(OATES Yinchao)/中国)

タレンツ・トーキョー・アワード2023
『Mangoes are Tasty There』
(サイ・ナー・カム(Sai Naw Kham)/ミャンマー)
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授賞理由:
物語を読んで、聞いて、感じたここ数日間、美しさや、恐怖、希望や悲しみを織り交ぜた詩のような彼の視点から見る故郷の景色に私たちをこの受賞者は連れて行ってくれました。彼がこの東南アジアらしい物語を語る時、彼の個性や即興性、自信を見ることができ、私たちは、また少し彼の物語を知り、彼の物語を好きになります。この才能を発見できたことが喜ばしく、完成するのが楽しみな作品です。

<タレンツ・トーキョー2023 エキスパーツ(講師)>
モーリー・スリヤ(映画監督)、ビアンカ・バルブエナ(プロデューサー)、ポーリーン・ブーシェニー(ワールド・セールス)、フロリアン・ウェグホルン(ベルリン映画祭)


◆学生審査員賞
『ミマン』 Mimang
監督:キム・テヤン(KIM Taeyang)
韓国 / 2023 / 92分

授賞理由:
目の前で生きているかのような彼らの自然な会話から、物語が立ち上がっていく。
巧みな脚本と映像設計に魅了された。人々と共に描かれる街の変化と、その中でも変わらないもの。バスに揺られていくラストの余韻が心地好い。
開発が進み変わっていく街の中で、記憶を紡ぎ、覚えていることが、世の中に対する希望なのではないか。

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学生審査員
中山響一( NAKAYAMA Kyoichi / 武蔵野美術大学 )、大権早耶佳(DAIGON Sayaka / ENBUゼミナール)、藤﨑諄(FUJISAKI Itaru / 明治大学)

キム・テヤン監督
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「観客の皆さんにお会いするといつもわくわくします。知らない方ばかりなのになぜか親しみを覚えます。光栄な場所に立たせていただきましたので、私の映画仲間を皆様に紹介させて下さい」
客席にいた大勢のスタッフと出演者が立ち上がりました。大きな拍手が贈られました。
「映画学校時代に恩師に言われた言葉があります。映画はたくさんの人が関わって作り、公開されれば観客もその一員になる。それは本当にロマンチックで大切なこと。申し訳ない気持ちでなく、感謝の気持ちで撮りなさいと。これからも映画を撮り続けられるよう頑張ります。カムサムニダ」


◆観客賞
『冬眠さえできれば』
監督:ゾルジャルガル・プレブダシ
モンゴル、フランス、スイス、カタール

上映された全作品の中から来場者の投票で選ぶ観客賞は、コンペティション部門の『冬眠さえできれば』が受賞しました。

ゾルジャルガル・プレブダシ監督は、1週間前にご出産されたばかりで来日できず、モンゴルからビデオメッセージで喜びを語りました。
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「たくさんの人の愛と支援の気持ち、たくさんの努力で出来た映画です。恵まれない環境で生活する子どもたちの声を映画で叫びたい、彼らにいい機会を与え笑顔にしたい、モンゴルや同じような環境のもとにいる子供たちに良い社会を与えることができるようにしたいという心から作った映画が、皆さんに届いて本当に嬉しいです」と日本語で語りました。
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共同プロデューサーのバトヒシク・セデアユシジャブさんと、母親を演じたガンチメグ・サンダグドルさんが登壇し、観客賞の賞状を受け取りました。


◎コンペティション部門
ここで、コンペティション部門 8作品の紹介。
いよいよ各賞の発表です。

第24回東京フィルメックス コンペティション審査員の3人が登壇。

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審査員長 ワン・ビン ( WANG Bing / 中国 / 映画監督 )写真:左端


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アノーチャ・スウィーチャーゴーンポン ( Anocha SUWICHAKORNPONG / タイ / 映画監督・プロデューサー )


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クオ・ミンジュン ( KUO Ming Jung / 台湾 / 映画プログラマー・プロデューサー )



審査員特別賞 2作品に贈られました。
『冬眠さえできれば』(If Only I Could Hibernate)
監督:ゾルジャルガル・プレブダシ
モンゴル、フランス、スイス、カタール /2023 / 98分

授賞理由:
現代モンゴル社会の苦難を描いた珠玉の作品。的確な映画的表現と嘘のない観察で、苦闘する若者たちの姿に寄り添っている。

観客賞とダブル受賞となり、再びゾルジャルガル・プレブダシ監督がビデオメッセージで喜びを語りました。
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「東京フィルメックスはとってもスペシャルなところです。2017年にタレンツ・トーキョーに参加してアワードをいただいたことが大きな励みになって、この作品を作りあげることができました。一緒に作ったフランス人プロデューサーのフレデリック・コルヴェさんともタレンツ・トーキョーで知り合いました。ですので、今回の授賞は何よりも嬉しいです」
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共同プロデューサーのバトヒシク・セデアユシジャブさんと、母親を演じたガンチメグ・サンダグドルさんが再び登壇し、トロフィーと賞状を受け取りました。

ガンチメグ・サンダグドルさん:女優を志しましたが、この20年間はナレーションの仕事をしていました。この映画は初めての出演作です。監督から声をかけていただき、カンヌまで行き、世界を回って東京フィルメックスにまで来られたことを嬉しく思っています。
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バトヒシク・セデアユシジャブさん:初めてプロデューサーを務めました。今までドキュメンタリーに関わってきましたが、モンゴルの教育がよくなり、子どもたちが平等な教育が受けられるようにというメッセージを込めた映画ですので、すぐに参加を決めました。


『クリティカル・ゾーン』Critical Zone 
監督:アリ・アフマザデ、イラン・独 

授賞理由:
この映画では、抑圧的な社会に生きる若者たちの生活を覗き見ることができる。制約の中で、この映画作家はユニークで説得力のある方法で、攻撃的な体制に立ち向かう力強い映画芸術作品を作り上げた。審査員特別賞は『クリティカル・ゾーン』に贈る。

アリ・アフマザデ監督は、イラン政府から出国許可が出ず、ビデオメッセージを寄せられました。
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「インディペンデント映画やアンダーグラウンド映画に注目して下さったこと、そして、『クリティカル・ゾーン』のような作品を認めて下さったことに感謝します。ほんとに嬉しいです。いつかフィルメックスに参加できることを楽しみにしています


最優秀作品賞
『黄色い繭の殻の中』 Inside the Yellow Cocoon Shell
監督:ファム・ティエン・アン(PHAM Thien An)
ベトナム、シンガポール、フランス、スペイン / 2023 / 178分

授賞理由:
突然の死が訪れた後、映画は生きることの意味を考えさせ、主人公を取り巻く人々の喪失、過去、欲望、決断を振り返る時間を与えている。映画における永遠の探求を、野心的かつ愛おしげに描いている。

ファム・ティエン・アン監督
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光栄です。上映の機会をくださった神谷さんにまずお礼申し上げます。賞をくださった審査員の皆さまにお礼申し上げます。そして、観客の皆さまにお礼申し上げます。インディペンデント映画を支持していただき感謝します。
この映画は、多くの人の支援がなければ作ることができませんでした。製作チームにも感謝します。プロではない役者さんたちにもすごく頑張っていただきました。受賞をたいへん誇りに思うとともに、この賞を彼らに捧げたいと思います。ほんとうにありがとうございました。
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最後に、審査員長のワン・ビン監督より講評
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今回フィルメックスに集まった映画は、アジアの若い力のある監督たちの素晴らしい作品の数々でした。アジアの状況がよくわかりました。残念ながら賞は3つしかあげられなかったのですが、皆、良い作品でした。アジアの国々の作品は、ほんとうにだんだんと良くなっていると思います。以前は限られた国や地域で作られた作品しか見られませんでしたが、今では、長年作品がなかった国でも映画が作られて、アジアの異なる地域、異なる言語の素晴らしい作品が各地から出てきました。これが最近の大きな特徴だと思います。
実は、私自身、東京フィルメックスの場に初めて参加しました。審査員全員が審査を非常に楽しみました。謝謝。

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受賞者、審査員 全員で写真を撮ったあと、クロージング作品『命は安く、トイレットペーパーは安い』のウェイン・ワン監督が、上映前に挨拶に立ちました。
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撮影:宮崎暁美  報告・一部撮影:景山咲子




インディアンムービーウィーク2023パート2

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インディアンムービーウィーク2023パート2
2023年12月15日(金)~2024年1月11日(木)
会場:キネカ大森
https://ttcg.jp/cineka_omori/topics/2023/11221800_25092.html
主催:映画配給会社SPACEBOX
公式サイト:https://imwjapan.com/

この度のインディアンムービーウィークでは、特別上映2作品、初上映2作品、タミル語映画界で「タミル民の宝」と呼ばれ注目される俳優ヴィジャイ・セードゥパティの出演作品特集に加え、アンコール上映作品も含め、計14本が上映されます。

◆特別上映
1.『PS1 黄金の河』 原題:Ponniyin Selvan: Part One
2.『ストリートダンサー』原題:Street Dancer 3D 

◆初上映
3.『後継者』原題:Varisu
4.『2つの愛が進行中』原題:Kaathuvaakula Rendu Kaadhal

◆ヴィジャイ・セードゥパティ特集
5. 『ピザ 死霊館へのデリバリー』原題: Pizza
6. 『途中のページが抜けている』原題: Naduvula Konjam Pakkatha Kaanom
7. 『キケンな誘拐』原題: Soodhu Kavvum
8. 『俺だって極道さ』原題:Naanum Rowdy Dhaan
9. 『’96』原題: ’96
10. 『マスター 先生が来る!』原題: Master

◆アンコール上映
11. 『お気楽探偵アトレヤ』原題: Agent Sai Srinivasa Athreya
12. 『狼と子羊の夜』原題: Onaayum Aattukkuttiyum
13. 『マジック』原題: Mersal
14. 『火の道』原題: Agneepath


◆特別上映
『PS1 黄金の河』 原題:Ponniyin Selvan: Part One
監督:マニラトナム
出演:ヴィクラム、アイシュワリヤー・ラーイ、カールティ、トリシャー、ジェヤム・ラヴィ
2022年/タミル語/167分
10世紀末のタミル地方中部、チョーラ朝は最盛期を目前にしていたが、宮廷では王位簒奪の陰謀が進行していた。マルチスターの歴史絵巻。

『ストリートダンサー』原題:Street Dancer 3D 
監督:レモ・デソウザ
出演:ヴァルン・ダワン、シュラッダー・カプール、プラブデーヴァー
2020年/ヒンディー語/142分
舞台はロンドン。インド系移民とパキスタン系移民の2つのダンスグループは、常にライバル同士として争っていた。彼らはそれぞれのチームでダンスコンペティションに挑む。

◆初上映
『後継者』原題:Varisu
監督:ヴァムシー・パイディパッリ
出演:ヴィジャイ、ラシュミカー・マンダンナ、サラトクマール
ジャンル:ファミリードラマ、アクション
2023年/タミル語/169分
大企業オーナー一族が住む屋敷に、当主と衝突して家を出ていた三男ヴィジャイが戻ってくる。彼は事業を引き継ぎバラバラの家族を結びつけようとする。ヴィジャイ(マスター 先生が来る!)主演、2023年1月公開のヒット作。

『2つの愛が進行中』原題:Kaathuvaakula Rendu Kaadhal
監督:ヴィグネーシュ・シヴァン
出演:ヴィジャイ・セードゥパティ、ナヤンターラ、サマンタほか
2022年/タミル語/157分
昼はタクシー運転手、夜はクラブの黒服として働くランボー。それぞれのシーンでカンマニ、カティージャという女性と知り合い、奇妙な三角関係に陥る。『俺だって極道さ』のヴィグネーシュ・シヴァンが監督し、ヴィジャイ・セードゥパティ、ナヤンターラ、サマンタ共演のシュールなロマンス。

◆ヴィジャイ・セードゥパティ特集
『ピザ 死霊館へのデリバリー』原題: Pizza
監督:カールティク・スッバラージ
出演:ヴィジャイ・セードゥパティ、ラミャ・ナンビーサン、カルナーカラン
2012年/ タミル語/120分
ピザ配達員のマイケルは幼馴染のアヌと同棲中。ある夜マイケルがピザを届けにとある豪邸に赴くと、受取人の女性が途中で消え、不可思議な出来事が立て続けに起こり、彼はそこから逃れられなくなってしまう。2000年代後半のタミル語映画界に興こった「タミル・ニューウェーブ」の潮流から生まれた作品の中で、本作はホラー作品としては突出した高評価を得た。他の言語にもリメイクされたカルト的な1作。IMW2022上映作品。

『途中のページが抜けている』原題: Naduvula Konjam Pakkatha Kaanom
監督:バーラージ・ダラニダラン
出演:ヴィジャイ・セードゥパティ、ガーヤトリ、バガヴァティ・ペルマール、ラージクマール、ヴィグネーシュワラン・パラニサーミ
2012年/タミル語 /161分
プレーム、バグス、サラス、バッジは仲のいい4人組。プレームの結婚式の前日に、暇つぶしに草クリケットで遊んでいたところ、プレームは転倒して頭を打ち、一時的な記憶喪失になってしまう。プレームと恋人のダナは、懐疑的な親族を粘り強く説得して縁組を認めさせ、苦労の末にやっと式を挙げるところまで来ていたのだが、彼はダナのことすら覚えていない。プレームの症状を明かせば結婚自体がお流れになってしまうかもしれない危機に、3人の友人たちは知恵を絞って式を挙行しようとする。低予算作品ながら、驚異のヒットとなった作品。IMW2022上映作品。

『キケンな誘拐』原題: Soodhu Kavvum
監督・脚本:ナラン・クマラサーミ
出演:ヴィジャイ・セードゥパティ、アショーク・セルヴァン、ラメーシュ・ティラク、ボビー・シンハー
2013年/タミル語/133分
失業中のセーカル、ケーサヴァン、パガラヴァンは、酒場で出会った誘拐犯ダースから仲間に誘われる。3人は迷いながらも参加することになり、チームは次々と身代金目当ての誘拐を成功させてゆく。しかしある日舞い込んだ一発大逆転の儲け話からトラブルに巻き込まれてしまう。人物のキャラの濃さと予測不能のストーリー展開、全編に漂うシュールでシニカルな香りがあまりにも斬新な、タミルニューウェーブの傑作。IMWの前身、インディアン・シネマ・ウィーク2017上映作品。

『俺だって極道さ』原題:Naanum Rowdy Dhaan
監督:ヴィグネーシュ・シヴァン
出演:ヴィジャイ・セードゥパティ、ナヤンターラ、パールティバン
2015年/タミル語/139分
ポンディシェリに住む青年パーンディは、警官の母親を持ちながら極道になることに憧れており、友達のドーシと一緒に「極道ごっこ」で小遣いを稼いでいた。ある夜彼は聴覚障がいがある女性カーダンバリに出会い、一目惚れする。何とか彼女の心を開こうとするパーンディに対してカーダンバリが求めたのは、幼少時に起こって以来彼女のトラウマとなっている襲撃事件の首謀者である大物極道への仇討ちだった。へっぴり腰で始まった仇討ち作戦は、想定外の勢力が脇から加わり、思わぬ方向に転がり出す。人気のヴィジャイ・セードゥパティ(キケンな誘拐)とナヤンターラ(ビギル 勝利のホイッスル)を配し、旧フランス領ポンディシェリのお洒落な街並みを舞台にした、ちょっぴりシュールで、ふんわりと軽い、異色の新感覚リベンジ・コメディ。IMW2021上映作品。

『’96』原題: ’96
監督:C.プレームクマール
出演:ヴィジャイ・セードゥパティ、トリシャー・クリシュナン、アーディティヤ・バースカル、ガウリG.キシャン、ジャナガラージ
2018年/タミル語/158分
1996年に高校を卒業したクラスメートが20年ぶりに集う同窓会。旅行写真家のラームは、初恋の女性ジャーナキに再会して心が揺れる。宵の口から夜明けまでのチェンナイの街を舞台にした2人の対話。タミル映画の賑やかなイメージを覆すノスタルジックな純愛もの。ヴィジャイ・セードゥパティの不器用な男ぶり、トリシャーの涙目、主演2人の演技が圧倒的。夜のチェンナイの街路の詩情溢れる描写。IMW2019上映作品。

『マスター 先生が来る!』原題: Master
監督:ローケーシュ・カナガラージ
出演:ヴィジャイ、ヴィジャイ・セードゥパティ、マーラヴィカ・モーハナン、アルジュン・ダースほか
2021年 / タミル語 / 179分
名門大学で心理学を教えるJDはアル中気味の名物教授。彼が実施を強く主張した学生会長選挙で暴動が起きたため、責任をとり休職し、地方の少年院に赴く。そこではギャングのバワーニの支配の下、少年たちが薬物漬けにされて犯罪行為に従事させられていた。バワーニは、運送業という表向きの商売の裏であらゆる犯罪に手を染め、敵を粛清し、支配を固めるため政治家になろうとしていた。JDはアルコールを断ち、バワーニの支配を終わらせ少年たちを更生させようと立ち上がる。人気俳優ヴィジャイとヴィジャイ・セードゥパティが共演。『囚人ディリ』のローケーシュ・カナガラージ監督によるマルチスター・ノワール作品。2022年劇場公開作品。
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/493461537.html

◆アンコール上映
『お気楽探偵アトレヤ』原題: Agent Sai Srinivasa Athreya
監督:スワループ R. S. J.
出演:ナヴィーン・ポリシェッティ、シュルティ・シャルマー
2019年/テルグ語/148分
アーンドラ・プラデーシュ州の小都市ネッルールで探偵業を始めた若いアトレヤ。レイプ殺人事件を調査するうちに、線路脇で身元不明死体が多数見つかるという別の怪事件に絡めとられていき、彼自身が容疑者となってしまう。『きっと、またあえる』で重要な脇役を演じたナヴィーン・ポリシェッティが主演のユーモア・クライム映画。笑わせるだけではなく、インド特有の事情に根差した犯罪の恐るべき実態についても鋭く切り込む、考え抜かれた脚本が見事。IMW2020上映作品。

『狼と子羊の夜』原題: Onaayum Aattukkuttiyum
監督:ミシュキン
出演:シュリー、ミシュキン、アーディティヤ・メーノーン
2013年/タミル語/ 143分
医学生のチャンドルは、ある夜街路で銃創を負って倒れている男を助け、自宅に運んで手術をする。しかし翌朝男の姿は消えていた。男はウルフという名の殺し屋で、チャンドルは犯罪者を匿ったとして警察の尋問を受け、協力させられる。その後ウルフがチャンドルに接触してきたのを知った警察は、彼に銃を渡し、ウルフを殺すよう命じる。ほぼ全編が夜の街で展開する異色のクライム・スリラー。IMW2023パート1上映作品。

『マジック』原題: Mersal
監督:アトリ
出演:ヴィジャイ、サマンタ、カージャル・アグルワール、ニティヤ・メーノーン、S・J・スーリヤー、サティヤラージ
2017年 /タミル語 /169分
チェンナイの低所得者層地域で開業するマーラン医師は、低額で患者を診る人徳者で、国際会議でも表彰される。しかしその周りで医療関係者の不審死が起こり、警察は彼を拘束して尋問する。そこで浮かび上がったのは、ヴェトリという名の彼と瓜二つの奇術師だった。V・ヴィジャエーンドラ・プラサード(『バジュランギおじさんと、小さな迷子』)が脚本に加わり、娯楽性がある社会派スリラーに仕上がっている。インディアン・シネマ・ウィーク2018上映の人気作品。

『火の道』原題: Agneepath
監督:カラン・マルホートラー
出演:リティク・ローシャン、リシ・カプール、サンジャイ・ダット、プリヤンカー・チョープラー
ジャンル ドラマ、アクション
2012年/ヒンディー語/174分
ムンバイ沖の小島に暮らす少年ヴィジャイは、教師の父から人生訓として、「火の道」という詩を教わりながら育つ。ヴィジャイの父は人々の尊敬を集めていたが、麻薬ビジネスを興そうとした地主の息子カーンチャーに反対したことで、彼に殺害されてしまう。母と共にムンバイに逃れたヴィジャイは、父の仇を討つために麻薬マフィア・ラーラーの手下となり、アンダーワールドでのし上がっていく。

東京フィルメックス 『クリティカル・ゾーン』 テヘランの夜をナビに導かれる売人の車 (咲)

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コンペティション ★審査員特別賞受賞★
『クリティカル・ゾーン』 原題:Mantagheye bohrani  英題:Critical Zone
監督:アリ・アフマザデ ( Ali AHMADZADEH )
2023 /イラン・ドイツ / 99 分

小型のAmbulance(救急車)がトンネルの中の道を行く。(トレイラーは、この冒頭の場面https://youtu.be/V-ZkPDLQfiM) 無機質な音が時折鳴る。
男たちが十数人待ち構えたところで車は止まり、後ろのドアが上げられ、男二人が袋をどんどん降ろしていく。どうやらヤクらしい。
荷を受け取った男の一人、アミールを犬のMr.フレッドが迎える。大きな鞄から、いろいろな種類のヤクを取り出すアミール。草を小袋に入れたり、紙で何かを巻いたり、さらには焼き菓子を作る。
焼き菓子を大きな箱に詰めたのを二箱持って、車で出かける。 (お菓子を長方形の大きな箱に入れるのは、イランの定番)
ナビの女性の声に従って運転するアミール。お菓子を届けた先は、老人施設。看護師と一緒に、老人たちに焼き菓子を食べさせる。テレビには外国のドラマなのか、髪の毛を出した女性が映っている。一方で、女性詩人フォルーグの詩を吟じる者も。
看護師とテヘランの夜景を眺めるアミール。 看護師が詩を吟じる。
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また、車を走らせる。バス停で待っていた女性を乗せる。「ハシシ(大麻)より草が好き」という女性。「ハシシは糞でふかしてるから嫌」という彼女に「日本では糞でエネルギーを作ってる」とアミール。女性は、トルコでビザを取ってアメリカに行きたいという。
「外国に出たことない」というアミールに、「脳みそがおかしくならない?」と彼女。
「もう慣れた」とアミール。

彼女を降ろし、車を走らせる。
ラジオから女性の声で詩が流れている。響きは美しいが、険しい内容。

空港に着く。
別れを惜しむ人たちが大勢。
アミールは女性を出迎える。キャビンアテンダントらしい。
「ガス欠なのに、どこの空港も受け入れてくれなくて、やっとロシアが受け入れてくれた。二度と来るなと言われた」
車に乗り、帽子を脱ぐCA。町はずれに行く。
ケルマーン産の阿片を渡すアミール。彼女からは、アムステルダムの種がお土産。
受け取った札束をかぞえるアミール。

ホメイニー廟のそばを通って、北上し、高速道路の下で待ち受けていた人たち(LGBTの人たちか?)に何か(ドラッグ?)を配る。どうやら施しらしくお礼を言われている。

また、別の女性を車に乗せる。20歳の息子のことで相談を受ける。廃人のようになったのは「安物の麻薬を売りつけられたからよ」という。
車を駐車場に止め、部屋にあがる。本棚には専門書が並ぶ。
そこを後にし、また女性の声のナビに従い車を走らせる。
「目的地に着きました」


冒頭の救急車がトンネルの中を行く場面で、車酔いになったような気分に。この映画、どこに行くのか・・・と思ったところで、主役アミールを犬のMr.フレッドが迎えて、ほっとすると共に、あ~犬!と。かつて、某大統領が出した飼い犬禁止法案は可決されなかったものの、犬はイスラーム政権にとって望ましくないペット。それでも、今、イランでは飼い犬ブームだとか。そんなところでも、国民はささやかな抵抗をしていると感じているので、おそらく監督の愛犬を出演させたのも、大いに意味があると思う次第。

イスラームのシーア派の分派イスマーイール派が、大麻(ハシシ)を吸わせて暗殺させたという逸話から、暗殺教団 (Hassasin)が、英語やフランス語の「暗殺者」(assassin)の語源となったという説があって、イランでは陰で麻薬を常用していた歴史があります。
今は、うっぷん晴らしに使われているということでしょうか。

車に乗ってくる女性たちは、スカーフを脱ぎ捨てますが、車の中=家の中という考え方もあるらしいです。今、テヘランの北の方(山の手に当たる)では、女性たちがスカーフを被らないで歩いている率が高いとか。昨年の事件後に頻発した抗議デモも、今は行わない代わりに、ヘジャーブについて注意させないという暗黙の了解のような空気もあるそうです。
それでも、この映画に出演した女性たちは、今はイランにいないのではと推察します。

本作は、イラン当局によって監督の海外への渡航が禁止される中、ロカルノ映画祭で金豹賞(最高賞)を受賞。ヨーロッパの映画祭が得てして「政治的」配慮をすることを感じます。

さて、この映画、好きかどうかと聞かれると、「う~ん・・・」としか言いようがないです。
ナビの女性の声が、妙に印象に残った映画でした。
淡々と、前方を左へ、右へという中で、「前方に危険」「数百メートル先に警察」という声。そんなナビがあれば嬉しい人も多いのでは?(咲)

難民映画祭『私は歌う ~アフガン女性たちの闘い~』(咲)

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11月6日から始まった今年の難民映画祭も、オンライン開催はいよいよ11月30日まで。
やっと1本、観ることができました。

『私は歌う ~アフガン女性たちの闘い~』 
原題:va hanuz ham mikhanam 英題:And Still I Sing
監督:Fazila Amiri
2022年 / 90分 / ダリ語 /ドキュメンタリー

歌いながらおしゃべりするゼフラ・エルハムとサディカ・マダドガル。二人は、アフガニスタンの大ヒット番組「アフガン・スター」で勝ち抜き、トップ7に残った女性歌手。これまでの13シーズンで、女性の優勝者が出たことはなかった。アフガニスタンの国民的歌手でアフガン・スターの審査員も務めるアリアナ・サイードが、ゼフラとサディカを指導し、初の女性の優勝を目指して後押ししている。ゼフラとサディカは難民として暮らしていたパキスタンの学校で知り合い、アフガン・スターで再会した。どちらも家族は今もパキスタンにいる。サディカは、残念ながらトップ2に残れなかったが、ゼフラは男性歌手ワシームを抜いて、初めての女性優勝者となる。ワシームの父親が、「いかさまだ、爆破してやる」と脅す。

アリアナ・サイードは、女性の権利を求める活動もしているが、2017年、パリのコンサートでは、肌色の衣装がヌードに見えるとタリバンなどあちこちから脅迫された。アフガニスタンには、児童婚、女性の耳と鼻を切る習慣、性暴力など多くの問題があると語る。アリアナには、かつて婚約者がいたが、歌か結婚かと婚約者の家族に迫られ、歌を選んだ。今は、アリアナのマネージャーであるハシブが婚約者でもある。ハシブは、アフガニスタン独立百周年の行事を任される。メインは、アリアナのコンサートだ。単なる娯楽でなく、文化的にも歴史的にも意義のある催しのすべてを宮殿の周りで行うことを決め、テロ対策もきめ細かく考える。死と隣り合わせの行事だ。
2019年8月、100周年の独立を祝う3日前、ハザラ人が多数を占める結婚式で自爆テロが起こり、63名が亡くなる。アリアナは歌うのを禁じられる。祝典は延期される。

2021年、アメリカ大統領がバイデンに代わり、アフガニスタンからの米軍撤退を決める。
そして、ついに2021年8月15日、タリバンがカーブルを制圧し政権を取り戻す。ガニ大統領はいち早く出国していた。アリアナは空港を目指す。途中の道でタリバンが発砲していたが、空港にはタリバンはいなかった。米軍の兵士と目が合い助けを求める。ヘジャーブで顔を隠していたが、アリアナと気づいた男性が、「彼女は有名な歌手。助けてやってくれ」と言ってくれて、無事飛行機に乗れる。
イスタンブルで、婚約者ハシブと動画を見るアリアナ。アフガニスタンで、音楽を聴いていたというだけで、引きずられている男性の姿に声も出ない。「タリバンは女性の存在を認めない。彼らに政権を持たせてはいけない」と語る・・・
陸路でパキスタンになんとか逃れたゼフラは、クエッタの町で家族といる。
「タリバンの復権は、芸術や文化の終わり。祖国を離れても、命ある限り歌い、女性の代弁者になりたい」

2001年にタリバンが実権を失って以来、少しずつ築いてきた女性の権利も、タリバンの復権ですべて失ってしまいました。 彼女たちが生き生きと歌いながらも、「タリバンが復権したら・・・」と不安を口にしていたのが、現実になってしまいました。
自分の利益にならないとなると、後のことを考えずに撤退してしまったアメリカも恨めしく思います。それはアフタにスタンだけのことではないけれど!
今、アリアナやゼフラは、どんな思いでいるでしょう・・・ いつかまた、彼女たちが晴れやかに歌える日が来ることを願ってやみません。
景山咲子



第18回難民映画祭2023
オンライン開催:11月6日(月)10:00~11月30日(木)23:59
劇場開催(東京):
11月6日(月)TOHOシネマズ六本木ヒルズ
11月23日(木・祝)カナダ大使館・オスカー・ピーターソン シアター
11月25日(土)シダックスカルチャーホール
https://www.japanforunhcr.org/how-to-help/rff


ヤンヨンヒ&モーリー・スリヤ(黒澤明賞受賞)対談

●ヤンヨンヒ、モーリー・スリヤ_R.JPG
左からヤンヨンヒ監督、モーリー・スリヤ監督


ヤンヨンヒ監督&モーリー・スリヤ監督対談

国際交流基金と東京国際映画祭の共催企画「交流ラウンジ」で10月31日、『ディア・ピョンヤン』(2005)、『かぞくのくに』(2012)、『スープとイデオロギー』(2022)などで知られる梁 英姫(ヤン ヨンヒ)監督と、2017年『マルリナの明日』が世界的に高い評価を受け、2017年の第18回東京フィルメックスでは最優秀作品賞『殺人者マルリナ』(フィルメックスでの題名)を受賞し、今回、グー・シャオガン監督と共に黒澤明賞を受賞したインドネシアのモーリー・スリヤ監督の対談が行われた。
『マルリナの明日』http://www.pan-dora.co.jp/marlina-film/

2人は20年の東京国際映画祭でリモートでの対談をしているが、3年後の今年、念願の初対面を果たした。ヤン監督は、昨日『マルリナの明日』を観て興奮した状態で来ましたと語っていた。

3年ぶりの対談 コロナ禍を振り返った

ヤンヨンヒ監督:前回の対談時、『スープとイデオロギー』の編集を始めた頃で韓国に滞在していました。母の介護もあったので時々帰国していたけど、2年くらい韓国にいました。その間に母は亡くなりました。国籍は韓国なのに暮らしたことがなかったので、この滞在では、韓国の映画業界や社会を深く、いいところも悪いところも見ることができました。

モーリー・スリヤ監督:2000年に撮る予定だったけど、コロナ禍のインドネシアではスタッフを集めることが困難で、新作「This City Is a Battlefield」の撮影を延期。その後『マルリナの明日』に関連したプロジェクトをアメリカで製作できることになり、翌年に渡米して別の作品を撮影しました。アメリカの映画産業はシステマティック。組合もしっかりしているし、腕のあるスタッフをすぐにみつけることができた。みんながチャンスを狙っていて、それが映画業界のアメリカンドリームと言えるのかもしれません。その後インドネシアに戻ったけど、コロナ前と同じ状況には戻っていませんでした。

インドネシアの映画事情ですが、1998年まではスハルノ独裁下で、死に体と言っていいくらい衰退していました。検閲も厳しく公開も難しい状況。今は盛り上がっているけど、まだまだ赤ちゃんのような業界。組合もあるけど、機能していなくて模索状態。

ヤン監督が日本も韓国も大規模予算の商業映画に女性監督が登用されることはほとんどない現状を語ると

スリヤ監督:インドネシアにはスタジオシステムも配給会社もないので、全てがインディペンデント。全国公開になっても、島が7000もあるのでプロモーションが難しい。そして、ホラー映画が多く、全体の半分くらい。女性監督の視点からのホラー映画はひとつのジャンルになっていて商業的にも当たるんです。

映画と配信の両立の難しさなどについて意見交換をした上で、後進へのアドバイスを求められたヤン監督は、「自分を信じるド厚かましさも才能。それが揺らぐと絶対に止まる。撮影が終わっても完成させられない、公開が決まっていても流れるなどいろいろな理由があって着手するのが恐ろしくなる作業だが、自分を信じ、信じられるスタッフとどう出会えるか。そのための精神力、体力も必要」と持論を展開。続けて、「小さな発信でも地球の裏側まで届くという意識を持って、踏ん張るしかない」とエールを送った。

スリヤ監督は、これまでの3作品の作風が全て違うという質問を受けたが「2度同じことはしたくないという思いはあるが、自分としてはそんなに変わっていない。映画学校時代はスタンリー・キューブリック監督にあこがれ、スタイルを踏襲しているところはある。彼の作品のジャンルも多岐にわたっているが、一つの同じ声があると思う」と解説。一つの同じ声の真意も聞かれたが、「言葉にできるなら映画にする必要はないわよね」と煙に巻いた。そして、“パート3”の開催を約束し、二人で固い握手を交わした。