東京フィルメックス 『迂闊(うかつ)な犯罪』 リモートQ&A

★12月6日(日)までオンライン配信中!
  詳細は、こちらで

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『迂闊(うかつ)な犯罪』Careless Crim
イラン / 2020 / 139分
監督:シャーラム・モクリ(Shahram MOKRI)

1979年イスラム革命前夜、西欧文化を否定する暴徒によって多くの映画館が焼き討ちにされた。それから40年後、4人の男たちが映画館の焼き討ちを計画する……。奇抜な発想を知的な構成で映画化したモクリの監督第4作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。
(公式サイトより)

*物語*
映画館で、座席の列を増やす算段をする男たち。
500席を700席にした。さらに1000席にしたいとボス。
税金があがったらしく、詰めれるだけ詰めないとやっていけないとぼやく。

1979年2月のイラン革命成就の6か月前のこと。
アバダンの映画館レックス座が火事で焼け、400名以上が犠牲になる。
レックス座では、マスウード・キミヤーイー監督の『鹿』(1974年)を上映中だった。
客席が多かった
放火の疑いがある
発火したとき映写室に従業員がいなかった
鍵が閉まっていた・・・等々、取沙汰される。
革命家の仕業とされたが、王命だったという説も発表された。

一転して、現在のテヘラン。
映画博物館に薬を持っているという男を訪ねていく。
大きな被り物を被っていて、男の顔は見えない。

砂漠の泉のそばで『鹿』の上映会を開こうとしている女の子たち。
兵士たちが、このそばでミサイルが見つかったという。

新作映画『迂闊な犯罪』が上映される映画館での放火を企てている4人の男たちの姿が、時折、織り込まれながら映画は進む・・・

*****
10月30日夜の上映を観た友人たちが口を揃えて「疲れた」と言っていた作品。確かに、40年前と現在が複雑に入り込んでいるので疲れるのも、さもありなんと思いました。私は、11月2日(月)10時10分からの上映で拝見。くらくらしましたが、興味深い作品でした。上映後に、アメリカに滞在しているシャーラム・モクリ監督とリモートでQ&Aが行われ、いろいろな謎が解けました。
(それにしても、フィルメックスで上映される映画は、謎が多いです)
ちなみに、シャーラム・モクリ監督の作品『予兆の森で』を2014年のアジア・フォーカス福岡国際映画祭で観ましたが、ワンカットで撮りながら、複雑に入り込んだ作品でした。


◆『迂闊な犯罪』リモートQ&A
TOHOシネマズ シャンテ

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*登壇*
監督:シャーラム・モクリ監督
司会:市山尚三さん(東京フィルメックス ディレクター)
通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん(ペルシア語)

動画URL https://youtu.be/grlbdFqRBBk
★印:動画にはない部分

市山:アメリカにいらっしゃる監督にQ&Aにご参加いただいております。

監督:劇場まで足を運んでいただきありがとうございます。劇場で映画を観ることが夢のようなことになっていますが、いつか皆さんと一緒に劇場に座って映画を観られるようになることを願っています

市山:映画の中に映画が出てくる複雑な構成で面白い映画でした。どのように思いつかれたのでしょうか?

監督:シネマ・イン・シネマのやり方が好きです。アッバス・キアロスタミ監督の『クローズ・アップ』や『オリーブの林をぬけて』も、そのような作りです。いつか試したいと思っていました。レックス劇場の放火は歴史的に有名な事件で、映画にしたいと思っていました。自分の世代はよく知っていますが、若い世代はあまり知りませんので、シネマ・イン・シネマの形で撮ってみようと思いました。
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市山:時間が螺旋のように繰り返すのは?

監督:レックス劇場の事件は、40年前。現在とどう語ればいいか考え、当時のキャラクターをどう今のテヘランに入れればいいか考えて、パズルのように現在と過去を繋ぎました。将来、こういうことが起きないようにと・・・

市山:感想で、異なる時代と場所が繋がっていく斬新な作品でしたといただいています。その方の質問です。
ミサイルが出てきましたが、これは実際の話でしょうか?

監督:イランイラク戦争の時に使われたミサイルや爆弾が爆発しないものがあちこちに残っていると聞いています。
最後のシーンで人形が空を見上げたらミサイルが飛んでいます。イランの周辺は、ミサイルが飛ぶかもしれない危険な地域です。話のルーツにはリアリティがあります。

Q:『迂闊な犯罪(Careless Crim)』というタイトルに込められた意味は?

監督:シネマレックスのことはとても重要です。事件について3つの説明がなされています。革命前の体制が政治的に見ていて、お互いのせいにしています。その日、ほんとは何が起きたのかをリサーチしました。政治的な意図でなく、ケアレスな犯罪だったという説が出てきました。映画の最初の方で、モノクロの無声映画を挿入しましたが、ケアレスな男が煙草をぽいっと捨てたために火事になる内容です。ケアレスな犯罪だったという調査結果を映画のタイトルにすればいいなと思いました。

Q:その挿入された映画は、元々ある無声映画なのでしょうか?

監督:もともとあるものです。ハロルド・ショーンがハリウッドで作ったものです。レックス劇場放火事件は、4人がレストランに行ったことなど、ほんとの話を入れました。

Q:「レックス劇場で上映されていたキミヤーイー監督の『鹿』は、今はイランでは観れないのでしょうか?

監督:革命後、公開許可が出てないのですが、アンダーグランドでは観れます。DVDも手に入ります。

市山:公開できない理由は内容の問題でしょうか? それとも手続き上の問題でしょうか?

監督:革命後、革命前の映画の公開が出来なくなったのは、内容よりも、女性の髪の毛が出ているとか、肌が出ているといったことが問題にされるからです。スーパースターが出ていて、革命後は活動していないという理由もあります。『鹿』は革命後数日だけ公開されましたが、その後、検閲で上映できなくなりました。

Q:光について教えてください。時々画面が白くなるのは、どんな効果を狙ったものですか?

監督:光について、撮影監督と相談して、3つのアイディアが出ました。
・劇場の中で感じる映写機の光
・炎を感じる明るさ
・さらに、キャラクターが混乱している時のライティングをどうしようと考えました。

Q:カメラは何台使ったのでしょうか?

監督:1台だけです。テクニックを変えたので、何台も使っているように見えたのだと思います。放火犯はカメラを手持ちで追っています。劇場の中は三脚を使いました。
泉のシーンは、クラシックな撮り方をしました。
素晴らしい質問をありがとうございました。

******

1978年8月9日のアバダンの映画館放火事件は、当時から反政府組織がやったという説と王政側がやったという説があって、いまだに不明。上映後のリモートQAで、監督が調べたところ、実は政治的なものでなく、色々な悪条件が重なって、ケアレスに火がついたという説もあって、それをモチ―フにしたとの説明がありました。
このレックス劇場の火事が、じわじわとくすぶっていた反政府運動に火がついて革命成就に至ったので、ほんとにケアレスなものだったとしたら、すごいことだなと思いました。

イランのイスラーム革命成就直後に作られたドキュメンタリー映画『自由のために』(原題:Barâ-ye âzâdi)について、下記スタッフ日記で紹介した中に、アバダンの映画館放火事件の真相が不明であることに言及しています。ご参考まで!
http://cinemajournal.seesaa.net/article/463646371.html

景山咲子




東京フィルメックス 最優秀作品賞『死ぬ間際』 リモートQ&A

★12月6日(日)までオンライン配信中!
  詳細は、こちらで
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『死ぬ間際』 In Between Dying
監督:ヒラル・バイダロフHilal BAYDAROV
アゼルバイジャン・メキシコ・アメリカ / 2020 / 88分

タル・ベーラの薫陶を受けたアゼルバイジャンの新鋭ヒラル・バイダロフの長編劇映画第2作。行く先々で死の影に追われる主人公の一日の旅を荒涼たる中央アジアの風景を背景に描き、見る者に様々な謎を投げかける。ヴェネチア映画祭コンペティションで上映。
(公式サイトより)

霧の中に立つ男。幻想的な幕開け。
青年ダヴドは麻薬密売の元締めの手下を殺してしまい、町を出てひたすら逃げる。そこで出会う女性たち。最初に逃げ込んだ家畜小屋では、父親に5年間も鎖に繋がれていた少女に助けられる。次には、アル中の暴力夫に悩む女性。夫に襲われたダヴドを助ける名目で夫を殺す。白いウェディングドレス姿で走ってきた女性をバイクに乗せる。兄に望まぬ結婚を強いられて逃げてきたが、結局兄に射殺されてしまう。そして、母親を埋葬しようとする盲目の少女・・・
行く先々で死に出会うダヴド。美しい自然の中で、台詞の代わりに詩が語られることが多く、なんとも不思議な独特の世界でした。


10月30日(金)15:50からの上映後、エジプト映画祭に参加中のヒラル・バイダロフ監督とリモートQ&Aが行われ、不思議世界の謎が少し解けました。

◆『死ぬ間際』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ

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登壇:
ヒラル・バイダロフ監督
司会:市山尚三さん(東京フィルメックス ディレクター)
通訳:松下由美さん

動画URL https://youtu.be/5404YA2zsZs
★印:動画にはない部分

市山:この映画を作ったきっかけをお伺いします。何かもとになったストーリーなどはあるのでしょうか?

監督:15年前、高校生の時に仏陀の人生のことを読みました。王族で父親が過保護で貧困や悪いものを見せませんでした。ある時、王宮を出た彼は病に侵された貧しい人々の現実を見てショックを受けて、二度と王宮に帰らないと決意します。その話はすっかり忘れていました。この映画を作ろうと思った時には、1日で偶然人生が変わる話を描きたいと考えました。青年は死と出会って、自分の闇の部分を自己発見します。家を出る決心もしないので、仏陀とは違うけれど、出発点は仏陀の話です。

Q 白馬は何を表しているのでしょうか?

監督:脚本には1行も書かれていません。美しい白い馬が偶然湖のそばにいたので、オーナーにお願いして撮らせてもらいました。
故郷のコーカサスの村で、白い馬を飼っていた子供時代のことが蘇りました。死んだ時にとても悲しくて泣き続けました。愛する父と母がいて自然があって馬がいるという子供時代のことを思い出して、この場面を入れました。
家族3人のシーンが出てきますが、主人公が求めている聖なるほんとの家族を象徴しています。

Q 男女の差別ついて、この作品の中でどう考えられたでしょうか?

監督:編集前に何を見せようと考えました。若い主人公ダウドの経験することを見せたかったのですが、編集前のものを母に見せたら、これはよくない、このまま見せちゃいけないといわれました。ちなみに母は最後の場面に出ています。自分でその後編集を重ねて、最終的にチャプターに分けました。盲目の女性、狂犬病の女性、湖の白い馬など。何を見せたかったかというと、男女間の差別より、愛を描きたかったのです。同じ人の別の側面を描いていることをご覧になって気づかれたかと思います。差別というより、違いがないことを描きたかったのです。愛の様々な側面を描いたといえます。

 イスラーム神秘主義スーフィズムにインスパイアされた作品と感じました。どれくらい意識をされたのでしょうか?

監督:スーフィズムに関するものは読みましたが、私の人生はほど遠いものです。教養として知っているのと、母の影響を強く受けて、母が引用してくれたものを取りいれています。小さな存在の私が語るにはスーフィズムは大きすぎます。映画でそれを見せようとは思っていません。でも、読みすぎたので、要素は表れているということはあると思います。
あと、ロシア文学のチェーホフや、イランの詩人などの影響も反映されていると思います。こういったものが私の魂を形作っています。

Q 霧や雨、降りしきる紅葉など自然物の演出が圧倒的だったのですが、どれくらい人為的に作ったのでしょうか? 自然の撮影にはどのような苦労があったのでしょうか?   

監督:アリガトー。良い質問! 数学、情報学を学んできて、科学的なものを信じてきましたが、映画は違う。直観に従って撮っています。詩的でなければ映画じゃない。雨、霧が出てきてくれて、自然に支えられて出来た映画です。出会ったものに触発されて撮りました。霧が出てきたら、詩を書いてダウドに渡して詠んでもらいました。湖があった時にも自分の直観に従いました。

Q アゼルバイジャンの映画事情は? また、タルベーラから薫陶を受けたそうですが、経緯を教えてください。

監督:小さな国で、周辺国も映画の歴史はありますが、ソ連から独立したあと、映画業界が崩壊して作れない時代がありました。今また若手も育って映画が作られるようになりました。次世代が育っています。
タルベーラ監督の『サタンタンゴ』『ニーチェの馬』などを観てショックを受けました。サラエボ・フィルムアカデミーをタルベーラ監督が主催すると知って、参加しなくてはと行きました。実はタルベーラと映画の話を直接できたことはあまりありません。サラエボで生活費を稼ぐためにあちこちでチェスをしていて、学校にあまり行かなくて、チェスを通して映画を学びんだと言っています。

Q ロケーションや土地の特徴に物語的意味がありましたら教えてください。

監督:映像にメッセージを込めることは信じていません。ロケ地から読み取れるものはありません。ダヴドが逃亡する場所ですが、私の住む近くだけでなく、アゼルバイジャンのあちこちで撮影しました。車で走ってここはいいなと思うと車を止めてカメラを出して撮りました。基準としては、私のインスピレーションを引き出してくれるところです。
落ち葉のシーンは、葉っぱを落とすようなテクノロジーは持っていません。直観に従って求めたところ、イメージtに合ういいところに出会えました。

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市山:日本映画がとても好きで、ほんとは来日したかったとのことでした。また凄い作品を作られることと思いますので、次の機会にお呼びしたいと思います。

監督:ほんとにご覧くださってありがとうございます。日本の映画や巨匠に大いなる敬意を表しています。溝口監督や新藤兼人監督など巨匠の国にぜひ行きたい。次回は直接皆さんにお会いできればと思います。

授賞式でのヒラル・バイダロフ監督のメッセージは、こちらでご覧ください。
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478502965.html

景山咲子


★オンライン配信で、12月6日まで視聴できます。
https://filmex.jp/2020/online2020




東京国際映画祭『皮膚を売った男』  TIFFトークサロン 監督Q&A

TOKYOプレミア2020
『皮膚を売った男』 英題:The Man Who Sold His Skin 原題:L'Homme Qui Avait Vendu Sa Peau
監督:カウテール・ベン・ハニア
出演:モニカ・ベルッチ、ヤヒヤ・マへイニ、ディア・リアン
2020年/チュニジア・フランス・ベルギー・スウェーデン・ドイツ・カタール・サウジアラビア/104分/カラー/アラビア語・英語・フランス語
上映日:11月1日(日)13:00~ 11月7日(土)21:10~
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP21

*物語*
2011年、シリア。電車の中でサムは恋人アビールに結婚したいと宣言。同乗していた皆に祝って貰うが、その時、「自由がほしい」と叫んだことでお咎めを受け逮捕される。軍の係官が遠縁らしく、彼を知っていて「国外に逃げろ」と解放してくれて、車でレバノンに逃れる。
1年後、ベイルートでサムは、恋人アビールが外交官の男と結婚しベルギーにいることを知る。食べ物を求めて潜り込んだベイルートの美術展の会場で、サムはベルギーの芸術家ジェフリー・ゴデフロイと出会い、「背中を売ってくれ」と提案される。背中にシェンゲンビザのタトゥーを入れられたサムは、巨額の報酬を手にし、アート作品として、まずベルギーの王立美術館に展示されることになる。難民を利用した搾取だとして抗議する団体が現れ、アラビア語通訳としてやってきたアビールとサムは再会を果たす・・・

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チュニジア出身の女性監督による作品。
映画祭の後半、プレス登録している方たちと話した時に評判の高かった作品です。
コンペティションがあったなら、きっと何かの賞をもらったことと思います。公開されることを期待して、再会した二人のその後はここでは触れないでおきます。
サムが国外に逃れたあと、シリアの状況は悪化の一途をたどります。ベルギーにいるサムが、シリアにいる母親とスカイプで話す場面で、お母さんは「難民が海で死んでいる」と心配するのですが、そのお母さんの両足がないことに気づきます。爆発で壁の下敷きになって両足を失ったのですが、「大丈夫 明日はいい日になる」という言葉に胸が締め付けられる思いでした。

TIFFトークサロンで、カウテール・ベン・ハニア監督の本作への思いを伺うことができました。


TIFFトークサロン
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2020年11月8日(日)18:15~
登壇者:カウテール・ベン・ハニア監督:
司会:矢田部さん
通訳:今井さん
アーカイブ動画:https://youtu.be/UzNIO4wTau0

矢田部:お会いできて光栄です。

監督:TIFFで上映していただきありがとうございます。日本の観客に見ていただけること、この上なく嬉しいです。

矢田部:今はパリですか? 朝の10時半くらい?

監督:はい、まさにそうです。

矢田部:抜群に面白い物語をありがとうございます。現代的に重要な主題を盛り込んだ素晴らしい映画をこの東京国際映画祭で紹介できるのがとても光栄で、改めてお礼申しあげます。

監督:こちらこそ光栄です。映画をご覧になった皆さんがSNSなどで発信されている感想をお読みして、日本の観客に受け入れられていることをとても驚き、嬉しく思っています。

矢田部:監督はチュニジアご出身。パリの有名な映画学校ラ・フェミスやソルボンヌ大学で学ばれています。これまでドキュメンタリーとフィクション、両方手掛けてきました。今後も両方作っていかれる思いでいらっしゃるのでしょうか?

監督:今後も両方作っていくつもりです。現在、ドキュメンタリーを手掛けています。ジャンルをまたいでやっていると相乗効果があります。それぞれの良さがあると思っています。フィクションの世界では頭の中で想像したものを具現化できる楽しみがありますし、ドキュメンタリー作家として映像を作っていくのは、調べた混沌とした世界が衝突する作業なのですが、そこから秩序立ててつくるという訓練がフィクション作品をより良いものにしてくれます。今は、手掛けているドキュメンタリーと、次に考えているフィクション作品の資金集めをしているところです。

矢田部:『皮膚を売った男』は、ドキュメンタリーに対する姿勢がフィクションにうまく反映されていると思いました。映画の成り立ちは? どこから着想を得られたのでしょうか? デルボアさんの『TIM』に影響を受けたそうですが、それはどのような作品でしょうか?

監督:コンテンポラリーアーティストのヴィム・デルボアの「TIM」から着想を得ました。豚に入れ墨をした作品です。それが人間にも入れ墨を入れて美術品にしていくというものです。豚の頃から是非についていろんな議論がありましたが、それを人間にもということで議論がさらに膨らみました。アートという市場で、現代美術がどこまで限界ぎりぎりに挑戦していくかに興味を持ちました。また、背中にタトゥーを美術品として入れた男は何者なのか、どういう思いでタトゥーを入れたのかという疑問が沸き上がりました。彼の背景とラブストーリーを描くことで、彼に人間性を与えたつもりです。シリア難民が主人公になっていますが、今、難民が語られる時、数字や統計として顔のない存在になっているのでストーリーを描くことで存在感を与えました。

矢田部:Q「デルボアさんが保険販売員として出演されています。なぜ彼に保険屋を演じさせたのでしょうか?」

監督:彼にぜひ出演してほしいと思いました。どの役をと、すべての役を考えて、保険屋にしました。現代アーティストが四角四面に作品をみていくのが皮肉で面白いと思いました。美術作品が爆発の中で死んだらおじゃん。保険会社としては大災難。もし癌で亡くなれば、背中の皮を剥いで美術品として使えるという発想が面白いと思いました。デルボアさんも乗り気で、人を挑発するのが好きなので、喜んでやってくれました。

矢田部:Q「自分が作品になるのが難民として生きる決断だったというのが痛いほど伝わってきました。それが美術品として購入されることに衝撃を受けました。実際に、人がアートとして売買されるケースはないと思っていいのでしょうか?」

監督:いろんな人の人生を見て、特に難民の方たちはなんとかして生き延びなければいけない。選択肢のないメタファーとして自ら美術品になることを描きました。そのことにより自らの尊厳を失うのも難民の現実。国境を越えるのも、渡航文書を入手するのも苦い選択を迫られます。その比喩として描きました。

矢田部:Q「難民のサバイブの話でありながら、行動の動機が恋人に会いたいという愛の物語であることに魅せられました。」

監督:意図的に描きました。難民は、なんとか生き延びないといけない状況にあります。孤独で脆弱な立場に置かれています。家族や誰かへの愛が支えで力の源泉になります。難民の方たちを見ていると、ずっとスマホを握りしめています。家族や親せきと話したいという思いだと思います。私自身ラブストーリーが大好きなので、映画で語りたいと思いました。主人公には一途に愛する人がいてほしいという思いがありました。もう一つ意識して語りたかったのが、二つの世界のコントラスト。冷たく希望に満ちた現代アートの世界と、女性を愛する男という熱情の世界を対比させたいと思いました。

矢田部:監督は現代アートの価値や表現の自由について、もともと懐疑的だったのでしょうか? それとも、この映画のために、あえてそのような視点を取り入れたのでしょうか?

監督:現代アートの世界をどう思うかはひと言では片づけられません。とても複雑で豊かな世界です。この映画の中ではストーリーを語るツールとして入れた視点と思ってください。私が語りたかったのは、自由とは?ということ。難民の置かれている苦境、一方で、現代アートの世界での表現の自由、人を挑発する自由、売り買いする自由。難民には基本的な自由もありません。難民の世界と、現代アートの世界からやってきた二人が出会うのですが、お互い自由だと思っているけれど、どこの国のパスポートを持っているのか、どういう社会背景があるのか、どういった階級に属しているのかで自由の度合いが違います。様々なトピックを描いて皆さんに考えてもらいたいと思いました。

矢田部:感想をいただいています。「見終わった直後は、芸術と資本主義の関係をめぐる痛烈なアイロニーに感じました。時間が経つにつれ、社会の中で一人の人間の自由意志がどこまで可能かを、様々な視点で考えることのできる作品でした」もう一つ、質問をいただいてます。「入れ墨を入れるアーティストのジェフリーは人間性を失った人間とも思える場面がありました。彼のキャラクターにどのようにアプローチをしたのか知りたいです。」

監督:そういうことを考えながらキャラクターを想像しました。ジェフリーは、芸術家であり、皆より高みに立っている天才作家として描きました。西洋美術史をみると、かつては教会、今は資本主義に支えられています。芸術家たちはお金になるのであれば挑発もOKという世界に生きています。権力を持っていて、インテリだけどどこか冷酷なところがあて感情から離れている。一方で深く思考できる矛盾に満ちたキャラクターで、書いていて楽しかったです。

矢田部:Q「主演の方は映画初出演。どのように見つけたのでしょうか? 背中のオーディションも当然されたのでしょうか?」 

監督:短編の経験はある人です。オーディションには時間をかけました。シリア人で才能溢れた人を探しました。ヤヒヤさんの映像を見て、才能に魅せられました。皆に背中は見せてとお願いしました。重要な要素ですが、演技力がなにより重要です。ベネチアでも主演賞を受賞。素晴らしい才能です。

矢田部:背中にメークを施すのにどれくらい時間がかかりましたか?

監督:最初は3時間。毎日撮影が終わると消します。入れ墨の美術の方も慣れてきて2時間くらいになり、最終日には1時間で描きあげていました。

矢田部:Q「モニカ・ベルッチさんを起用した経緯は?」

監督:彼女が演じた女性は地中海地域から来た設定。熾烈な現代アートの世界でやっていくために素性を隠して、ブロンドにして、冷徹な雰囲気にしているというキャラクターです。ほんとのモニカ・ベルッチさんは逆の方。面白いコラボレーションになりました。

矢田部:Q「シリアで危険な状況の中で、主人公が拘束されたときに、担当の兵士が従兄弟だと言って逃がします。自分の立場も危うくなると思うのですが、現実にあり得ることでしょうか?」

監督:このシーンを書いた時、2011年を想定しました。いろんな思想がシリアにあった時点。革命の発端になった時期です。あの兵士はサムがあそこにいては将来がないと咄嗟に判断したのです。あえて上に従わない行動をした兵士もいたことを描きました。

矢田部:Q:「シリア、レバノン、ベルギー、美術館と様々な場所で撮られていますが、どこでの撮影が大変でしたか? どこのシーンが一番気に入ってますか?」

監督:すべてが大変でした。中でも、美術館での撮影は難しかったです。ロイヤルベルギーファインミュージアムでは、物を触ったり、動かしたりできませんでした。お気に入りのシーンは一つには絞れません。家を建てるようなもの。どのシーンにも機能があって大事。それを集めて一つの映画にしていますので。

矢田部:Q「音楽がよかった。映画のために作ったものですか?」

監督:映画のために、とても才能のあるアミン・ブハファに作ってもらいました。近日中にサントラが発売されます。

矢田部:監督にサプライズです。(漫画で描いた映画のシーン)

監督:インスタグラムで見て、とても嬉しかったです。幼少の頃はアラビア語に訳された日本の漫画を見てました。ほんとうに感動しました。

矢田部:葉書サイズのもので、映画を一回見ただけで描いてくださいました。監督にお届けします。それではスクリーンショットタイムです。

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手を振る監督

矢田部:最後にひと言お願いします。

監督:日本で劇場公開にこぎつけることが出来たら嬉しいです。コロナ禍で劇場の運営も不安定だと思いますが。なにより地球の反対側にいる日本の皆さんに受け入れていただけたことを嬉しく思っています。

矢田部:直接お会いできる日が来ることを楽しみにしています。今日はありがとうございました。

景山咲子

TIFFトークサロン『荒れ地』(イラン)

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『荒れ地』  英題:The Wasteland 原題:Dashte Khamoush
監督:アーマド・バーラミ
2020年/イラン/102分/モノクロ/ペルシャ語
上映:11月5日(木)20:45~  11月9日(月)10:35~
◆ワールド・フォーカス国際交流基金アジアセンター共催上映
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC13

*物語*
レンガ工場に家族で住み込んで働いている労働者たち。工場主が突然工場の閉鎖を告げる。解雇を言い渡され、個別に工場主に嘆願する。ここで40年勤め、工場主と労働者の間を取り持つロトフォッラーのことを、皆それぞれ告げ口する・・・

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TIFFトークサロン
11月9日 18:00~
登壇:アーマド・バーラミ監督
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)
ペルシア語通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん
英語通訳: 野村よしこさん 
アーカイブ動画:https://youtu.be/_VCjTklG1s0

◆撮影は、廃墟になったレンガ工場で
石坂:監督、どうぞ画面にお入りください。

監督:皆さんこんにちは。私の映画をTIFFで紹介できて、とても光栄です。

石坂:こちらこそ素晴らしい作品を東京に出していただいて感謝申し上げます。
皆さんのご質問も交えて進めていきたいと思います。Q「映画のスクリーンサイズについて、スタンダードサイズの構図、横移動のカメラワークが素晴らしく、目を見張りました。実際のレンガ工場で撮影したのでしょうか? それともセットを組んで撮影したのでしょうか?


監督:実際のレンガ工場で撮影しています。5年前から稼働してなかったのですが、映画のために手を入れて、稼働させました。全部、現実にあるものですが、ディテールは手をかけています。

◆原題は『静かな地』社会が沈黙している意も
石坂:Q「ペルシア語のタイトル『Dashte Khamoush』は、沈黙の地というニュアンスだと思います。タイトルに込めた監督の思いをお聞かせください」(景山の質問)

監督:英語では、『Wasteland』になっていますが、ペルシア語では、静かなというニュアンスです。実際、映像を見ても、レンガ工場が閉鎖されて静かになってしまいます。Khamoush には、静かなとか沈黙という意味のほかに、消えたという意味もあります。今のイラン社会は皆、沈黙していると思いましたので、このタイトルは両方を含めています。

石坂:Q「工場には、いろいろな人たち、男女、若い人、年を取った人、クルド人やトルコ系のアゼリーの人たちなどの様々な民族の人が働いていて、イランの縮図、ひいては世界の縮図のようでした。様々な人を登場させた意図をお聞かせください」(景山の質問)

監督:労働者の映画を撮りたかったのです。そして、イランのいろんな民族のことも撮りたかったのです。実際、レンガ工場には、西のクルドや東のホラーサンなどいろんなところから働きに来ています。イランではいろんな民族が一緒に暮らしていますので、レンガ工場は舞台にぴったりだと思いました、

石坂:Q「[時代設定は現在でしょうか? モノクロのせいもあって遠い昔の神話のようにも思えました]

監督:20年前位から使われているものを使って撮影しています。いつの時代と限定したくなかったのです。モノクロにしたのは、レンガ工場の労働者の世界にはあまり色がないので、モノクロで描きました。

石坂:こちらは感想です。「工場の閉鎖は世界の終りのようにも思えました」

監督:同感です。一つの仕事が終わると、まるで人生が終わったような感じです。

石坂:次の質問は皆さん一番気になっていることだと思います。Q「映画の語り口がとてもユニークです。同じ時間が反復するアイディアはどこから生まれたのでしょうか? 着想のヒントになったものは? 『羅生門』の語り口を思い起こしました」

監督:まずは日本の黄金時代の映画を何度も何度も観ていることをお伝えしておきたいと思います。偉大な黒沢監督や小津監督から多くのことを学びました。この映画のフォームはハンガリーのタルベーラ監督をイメージしたものです。工場では同じサイズのレンガが毎日毎日リピートして作られています。ですので、この映画もリピートした作りにしたいと思いました。
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石坂:Q「労働者だったお父様に捧げた映画とのことですが。お父様には映画をご覧いただくことはできたのでしょうか? どんな感想を?」(景山の質問)

監督:父は30年産業の工場で働いていました。この作品はまだ観ていませんが、前の作品は観て、励ましてくれています。保険のことを父はいつも心配していて、映画界には保険はあるのかと気にしているので、映画の中にも保険の話を入れました。

石坂:複数の方からいただいている質問です。Q「話を終えて白いシーツにくるまって寝る場面は、何を意味しているのでしょうか?

監督:映画を観る方に自分の解釈してもらいたいので、あまり説明したくないのですが、あえて説明しますと、一つ一つの家族の話が終わると、その中の一人が頭から白い布をかぶって寝てしまいます。人生が終わる、夢も終わる、つまり死をイメージしています。

石坂:まるで遺体のように思えましたとのコメントもいただいていますので、腑に落ちましたね。

監督:もう一つ、工場で働いている人たちは、長年働いていて、白い布を被った時には、もう仕事は終わりという意味もあります。自由な解釈をしていただいていいのですが。

石坂:Q「ロケ地は辺鄙な場所かと思います。撮影で一番大変だったことは?」

監督:とても大変なロケ地でした。沙漠で、夏の初めでしたので、40度を超えてました。朝の5時から夜の8時まで撮っていました。低予算なので、一日に長時間使わないと終わらないと思いました。とても暑くて、自分もスタッフも30本くらいの水や、レモン水を飲んで乗り越えました。

石坂:ドラマの中で「暑い暑い」と言ってましたが、俳優さんたちもほんとに暑くて大変だったのですね。

監督:もう一つ、撮影していた時、レンガの焼き窯は稼働してなかったのですが、ほんとに稼働していて熱いということが伝わればいいなと思いました。キアロスタミ監督が、映画は嘘の塊と言っていたのを思い出します。レンガ工場の労働者たちが熱い中で働いていることが、少しでも感じていただければいいなと思いました。

石坂:キアロスタミ監督の名が出ましたが、一緒に仕事をされたことはありますか?
ショーレさんは長年一緒に仕事されていますが・・・


監督:心からキアロスタミ監督を尊敬し、彼の映画が好きです。キアロスタミ監督の映画を観て、監督になりたいと思いました。大学で映画は学んだのですが、10年前に1年間のキアロスタミ監督のワークショップに参加して、キアロスタミの映画作りを学んでから映画を作り始めました。キアロスタミ監督の大ファンだったので、ショーレさんのこともキアロスタミ監督を通じて知ってました。この映画もキアロスタミ監督の影響を受けて作ったといえます。

石坂:「映画は嘘の塊」というキアロスタミの名言がありますが、そうはいっても彼の映画はリアリティにあふれています。キアロスタミ監督から一番影響を受けたのは、どんなことですか?

監督:現実に基づいて作ることを、自分も一番やりたいと思いました。キアロスタミ監督は素人をよく使っていますので、私も素人を使おうと思いました。自分の人生に近いものを描くということもキアロスタミ監督から学びました。

石坂:長編2作目ですが、次の作品の計画は?

監督:映画は2本目ですが、テレビドラマやドキュメンタリーをたくさん作ってきました。
この作品を筆頭に3部作を作りたいと思っています。あと2本同じテーマで作ります。
2本目は脚本を書き終わって、プレ製作に入っています。刑務所から釈放される女性の話です。

石坂:『荒れ地』はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門のグランプリでしたが、同じ部門の監督賞を受賞したラブ・ディアス監督の『チンパンジー族』を今回のTIFFで上映しています。これも労働に関する話ですが、ご覧になりましたか?

監督:残念ながらコロナのせいでヴェネチアでは時間がなくて観られませんでした。3日間しかいられなくて、自分の映画の取材でつぶれてしまいました。ぜひ観てくださいとは言われました。

石坂:時間がきてしまいました。最後にご覧になっている皆さんに一言お願いします。

監督:映画をご覧いただき、トークサロンにも参加してくださいましてありがとうございました。イランでは日本の文化をとても尊敬しています。豊かな文化に口づけすると例えています。何年か後に、作品をもって日本に行くチャンスがあれば嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。

石坂:ぜひその日が来ることを願っております。

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スクリーンショットタイム

景山咲子

TIFFトークサロン『悪は存在せず』(ドイツ・チェコ・イラン)

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『悪は存在せず』英題:There Is No Evil 原題:Sheytan vojud nadarad
監督:モハマッド・ラスロフ
2020年/ドイツ・チェコ・イラン/152分/カラー/ペルシャ語
上映:11月2日(月)19:45~ 11月4日(水)13:30~
◆ワールド・フォーカス国際交流基金アジアセンター共催上映
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC12

*物語*
イランの死刑制度にまつわる4つのエピソード。
エピソード① 仕事帰りに高校生の娘を迎えにいき、家では妻の髪を染めてあげる夫。ごく普通の日常だが、刑務所に勤める彼は死刑執行人だった・・・
エピソード② 兵役で任地の刑務所で死刑執行を命じられるが、耐え切れずに脱走する若い兵士。
エピソード③ 恋人の誕生日に指輪を持って列車に乗り、山奥の故郷を目指す兵士。実は、彼は脱走してきたのだった・・・
エピソード④ 留学先からイランに帰ってきた医学を学ぶ女性。辺鄙な山奥に、父の親友の男性を訪ねていく。彼は死刑執行を拒んだために、娘を親友に託し身を潜めたのだった・・・

★2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金熊賞受賞。
イラン政府より出国を禁止されている監督に代わり、娘で映画にも出演しているバーラン・ラスロフが授賞式に出席しました。

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TIFFトークサロン
11月9日 21:45~
登壇者:モハマッド・ラスロフ(監督/脚本/プロデューサー)
司会:矢田部さん
ペルシア語通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん、
英語通訳:王みどりさん
アーカイブ動画:https://youtu.be/V0IRSKsUL4Y

監督:サラーム!

矢田部:初めまして。ベルリンで拝見して、素晴らしい作品でした。ベルリンでご挨拶できなくて残念でした。こうしてオンラインで繋がって、お会いできて光栄です。
ラスロフ監督は、イラン、シーラーズ生まれ。カンヌ映画祭など数々の映画賞を受賞されています。『悪は存在せず』は2020年のベルリン金熊賞に輝いています。ベルリンで観て、これこそグランプリにふさわしい作品と観た直後に思いました。
まず、死刑制度という世界でも問題になっているヘビーな主題で撮ろうと思われたきっかけをお聞かせください。


監督:まずは、コロナの中で、皆さんとお話しできる機会を作ってくださってありがとうございます。メインテーマは市民一人ひとりの責任についてです。強制的に政府からさせられることに対して、どう対応するかです。

矢田部:どのエピソードも面白い。全体の構成が素晴らしくて感動します。前半は戦慄するのですが、後半は人の命の重みに厳粛な気持ちになっていきました。執筆には苦労されましたか? それとも次々と浮かんできたのでしょうか?

監督:私には制限があるので、一つのフィーチャーフィルムを作るのは体制的に許されないかなと思いました。そこで、4つのショートフィルムを作ろうと思ました。どのテーマにしようか考えて、一つのサブジェクトをいろんな角度から見て書こうと思いました。2年位かけて、4つの短編を考え、一つの長編としてどう繋いでいくかをまとめたところで撮影に入りました。

矢田部:Q「エピソードごとに処刑の現場からどんどん離れていきます。反面、処刑にかかわった経験が人生にどんどん重くかかわっていく構成が素晴らしかった。それぞれのエピソードとエピソードの関係には気を使われたのでしょうか?

監督:すべてのストーリーが出来上がった時、4つ目のエピソードで観る側にわかりやすくするために説明がいると思いました。イランでは徴兵を終わらせないと、自動車免許も取れないし、社会の中でいろいろなことができません。2番目のエピソードでこの情報を入れるといいなと思いました。それぞれのキャラクターは違うけど、何かコネクションを作るのがいいと思い、3のキャラクターを2で説明しています。
エピソード1は、全然違う話。主人公は決して悪い人ではないけれど、システムの中に身を任せている人物。何が良くて、何が悪いか決められない設定です。

矢田部:1が強いインパクトありました。仕事として、マシーンに徹しようとするけれど、睡眠薬がないと眠れないし、青信号でぼ~っとしてしまいます。マシーンに徹しきれなくて歪が出てしまう。どういうところで無理が来るかと相当悩まれてキャラクターを書かれたと思います。

監督:1話目のキャラクターで、一つ大事なのは、彼はモンスターでも機械でもないことです。猫が駐車場で捕まった時には、解放してあげています。人間的なところが残っています。アイシュマンはユダヤ人が目の前で殺された時、一度泣いたことがあると書いています。私たちにどれくらい責任があるか?が大切だと思います。強制されたとき、人間としてモラルをなくすことをしてはいけない。どうやって責任を果たしながら、モラルを保てるのかを考えたいと思いました。

矢田部:アイシュマンはホロコーストの執行者の一人ですね。Q「4つ目のエピソードのタイトルにもなっている「マラーベブース」(私にキスを)の歌は、1950年代に政治犯として死刑になる前に、娘への遺言として作られた詩とされていますが、革命前の1970年代にイランに駐在していた日本人の間でも有名な曲です。今のイランの若い人たちにもよく知られているのでしょうか? 監督にとって、この歌にどんな思いがありますか?」(景山の質問)

監督:この歌の誕生秘話について、1950年代のは作り話ともいわれています。今でも私たちにはノスタルジーのある曲なので、エピソード4にふさわしい曲だと思って入れました。

矢田部:Q「すべてのエピソードに、顔を思いきり洗う場面がありましたが、どんなことを意図したのでしょうか?」

監督:面白い質問! 私は精神科に行ったほうがいいかな(笑いながら)

矢田部:Q「後半のロケ地はキアロスタミ監督の映画を彷彿させられました。キアロスタミ監督へのオマージュを込められたのでしょうか?」
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監督:イラン人で映画人ですから、もちろんキアロスタミ監督の映画には興味があって、すべて観ています。ご覧になったのは、イランの風景です。3と4に景色を選んだのは、最初の1と2はクローズされたシーン。圧迫感を感じさせると思います。2は、兵士がノーと言って出ていって、町からどんどん離れます。町のど真ん中に居られない。遠くに行かないと生きていけない。1と2は暗い環境で撮られているけど、3と4では、問題は問題だけど、ロケ地は自由さを感じさせてくれる中で撮っています。

矢田部:Q「死刑制度について、執行人として徴兵された若い兵士にやらせることが多いのでしょうか? 兵士たちへの心のケアはあるのでしょうか?」

監督:普通の兵士でも、小さな刑務所などで担当させられることがあります。リサーチしてわかったのですが、徴兵中に死刑執行をやった人に聞いたら、長年精神的に落ち着かなかったけれどケアはされていないそうです。強制的にやらされるので、逃げ道がありません。

矢田部:Q「役者について伺います。ヘビーな内容なので、出演交渉して断れたこともありますか? 受けてくれた俳優さんたちと、映画についてどのような話をしましたか?
イランにはユニークな演出をする監督が多いですが、監督は細かく指示するのか、自由に役者に任せるのか、どちらのタイプでしょうか?」


監督:映画は自分一人ではなくチームで撮りますので、皆、心を込めて一緒に撮ってくれました。私はラッキーなので、後ろに座っていることができました。カメラの前もカメラの後ろも一人一人が協力的だったので映画が完成しました。人間的に大切なプロジェクトであることを理解してくれました。一番最初に、どうやって役者が自分のやる役を信じてくれるかが大事。役者さんを選ぶ時、役に合っていると信じてお願いします。テストしながら、役に近づけていきます。現場で、よく話しもします。俳優から提案があって、面白いものであれば採用します。役者と監督がお互いに理解すれば、うまくいくと思います。
エピソード4の奥さん役は、ちゃんと書かれてなかったですが、優しくて独立しているキャラクターです。ディテールを書いていませんでした。女優さんが現場で足して演じてくれて、いい感じになりました。
エピソード1はディテールは書いていたのですが、夫婦と子供がほんとの家族を味わうために、買い物に行ったり食事に行ったりしていました。執行人として、クーポンをもらったりしているのも入れてみました。
エピソード2は、兵士たちが会話している場面は計算して書き込んでました。何度も何度も練習したのですが、その時の彼らの言葉から脚本を書き換えたりもしました。兵士たちは、こういう会話をするだろうなと思い描きました。

矢田部:最後の質問です。Q「20代のなおさんから。これから映画製作を目指すのですが、若い人に勇気を与えてくれる言葉をぜひ!」

監督:決まったことはないのですが、今までのメソッドを繰り返さないで、新しいメソッドを怖がらないで使ってみることを自分に言い聞かせています。

矢田部:新しい試みを恐れるなというのは、若い人だけでなく全員に対するメッセージだと思います。
今年の東京国際映画祭を締めるのに、これほどふさわしい言葉はないのではないかと思います。
最後にスクリーンショットを撮りたいので、5秒位、笑顔で手を振っていただければと思います。そういうキャラでないのはわかっているのですが。


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思いきりの笑顔で手を振る監督。

矢田部:貴重なショットだと思います!

監督:こちらこそ、嬉しかったです。素晴らしい質問をありがとうございました。今後、新しい作品を持って、ぜひ日本に伺いたいと思います。

矢田部:ほんとうにありがとうございました。またお会いしましょう! さようなら。
監督と直接お話できるのは、ほんとうに貴重なことです。
視聴者の皆様もありがとうございました。


景山咲子